――とりあえず、色々と整理してみようか。
◇ オレ、つまり アキラは一度女の子庇って死ぬ。(あ、ついでにペットも)
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◇ 死んだと思ったら、よく判らない所に立っていた。とりあえず、歩いてみた。
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◇ 妙な声が頭に響いてきて、更にもっともっと妙な、奇妙な巨人と出会った。
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◇ 巨人だけじゃなく、女の人もいて、襲われてたので、何の因果か 生涯(厳密には二度目?)で2度目の人助けをした。
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◇ 女の人、事 イルゼを助ける事が出来て、とりあえず安全地帯っぽい木の上で共同サバイバル生活開始。(約1年にも及んだ)
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◇ 約1年後に初めて巨人ではない来訪者が2名現れた。
とりあえず、大雑把に纏めると、……こうなるだろうか。
イルゼも見知った相手、だという事はアキラも判ったから一先ず安心出来たのは言うまでもない。1年は長かったのか短かったのか、よく判らないけど、とりあえず無事でいられた事を喜ぶとしよう。
――……って、考えていたんだけど。
「……ほんと、なんだろなー? この状況」
今、アキラがいる場所は……、地下独房である。
無情にも、ついつい先日までは 凶悪な巨人たちが蔓延った場所とはいえ、緑あふれる自然の中だった。……だというのに、人工物な鉄格子が目の前にある。壁の中の方が……、何だか地獄を感じてしまったのは言うまでもない。
あくまで比喩だけど。
それに、見張りもいないから、出ようと思えば出られると思うんだが……、何が正解なのかよく判らないし、イルゼも
『大丈夫』
『ごめんなさい』
『少しだけ、本当に少しだけ』
と頻りに何度も言っていたから。涙まで流しながら。
当然アキラはそこまで気にしてる訳でもなかったから、落ち着かせて……、とりあえずイルゼの為に、大人しくしてる事にしていた。
とはいえ流れが……展開が遅かったのに、突然また早くなった気もする。
「やぁ、ごめんごめん。一応、規則だからね。兵団としても示しとかないといけないんだ。君の事はイルゼから色々と聞いたよ。アキラ君」
手をぶんぶんと、振りながら、何処か嬉しそうに近づいてくるのは眼鏡かけた中性的な人。男? 女? って、訊く……様な事はしなかった。
名前は……、そう ハンジ、と言う名だった。
「あー、だな。壁の中に入ってから、イルゼとは一応裏合わせ的な事、考えてたんだけど、ものの見事にアンタたちと出会ったからなぁ……、壁の外で。なら、口裏合わせも何もないってもんだ。オレ、イルゼと同じ部隊? じゃないし」
「ははは、そりゃそうだね。君が調査兵団じゃないっていうのは誰の目から見ても一目瞭然だし」
笑うハンジを見た後、はぁぁ、とため息を吐きながら、アキラは独房に備え付けられたベッドに座り込んだ。
そんなアキラを見て、ハンジは改めて思った。
「でも、結構君余裕があるよね? こんな風に、閉じ込められたりしたらもっと暴れたりしても良いって思うんだけど。聞く限りじゃ 君はイルゼを救ってくれた彼女の恩人だし。こんな罪人扱いされたら、さ?」
「んー。まぁ……罪人ってのは、別に間違ってないし。それに後こっちは、いきなりな展開には、正直慣れがあって、っていうのが一番だ。――それに、イルゼに色々と聞いたんだろ? 今更、これくらいで驚けるかよ。……って、言ってみたけど、まぁ ちょっとは驚くわ。
「あはは。否定できないね。君からしたらやっぱりさ。……それに、うん。君の事はイルゼから訊いてる」
ハンジは、取り出したメモ帳をぱらぱらと捲り目を通した。
そこに書かれているのは、イルゼの証言。そしてイルゼが記し続けた彼女自身の戦果だ。
「正直、眉唾ものばかりだよ。彼女の報告。……ってか絵空事って感じだ。イルゼって、妄想癖あった?」
「そりゃそーだろーよ。……だってオレ自身でも、十分戸惑ってたもん。昨日今日で理解した~なんて思えないし。つもりもない。 後、イルゼに関しては、別に妄想癖のよーなのは……。あー、たまに勝手に1人で盛り上がった事が何度かあったくらいだ。結構一緒にいたけど、それだけはよく判らん」
「あはは。後半部分は温かい目で見守ってあげてよ」
ハンジは笑いながらそういうけれど、正直な所 心底笑えない。
『巨人を人間が素手で圧倒した!』
そんな事が有り得るというのだろうか。
この世界では、巨人が人類を襲い、そして食らい尽した。
そんな中でも生き残った人類は大きな壁を築いて、その中で栄えた。
そして、今日までの歴史の中でも、幾ら文献を漁っても……そんな事実は、知る限り存在しない。王族や、それに近しい博士等であれば、知るかもしれないが、恐らくそんなの知る訳がない、と断言したい。
……人類史上初の快挙を成せる男が、別の世界から現れた。
「夢物語だね」
「まぁ、この世界の人間たちにとってみればそうかもしれないな。この世の成り立ち。聞ける範囲で、だけどある程度は聞いたよオレも」
独房の壁に背を預けながら、ゆっくりとアキラは続けた。
「外に出るだけで、何十人も巨人に殺される。……100人が出て、その2~3割は巨人の腹の中への片道切符、か」
アキラはもう、片手間で何人の巨人を片付けたかわからなかった。
でも、その一体だけでも、普通は脅威なんだ。そして、その一体が何人の人間を喰らったのか、判らない。
「……ここにきて約1年。ずっと森ん中で過ごしてきたけどな。……正直、まだ夢を見てるんじゃないか、って思った時があるよ。比較的、多く」
「……ふーん」
自分がいた世界が如何に平和だったか。何でも無いありふれた毎日。退屈だけど、平穏な世界。……それが如何に幸運なのかが、よく判るというものだ。
もしも、この世界で自分自身に力が無かったとしたら……。そう考えたら 全く笑えないから。ちょっと違った方向性の自暴自棄になりそうだ、と思えるから。
そして、ハンジはそんなアキラをじっと見た。
「(嘘をついてる……様な感じじゃないな)」
そもそも、こんな突拍子もない嘘を、子供レベルか? と思われる様な嘘をつく理由が何処にあるだろうか。
『巨人をやっつけれる! パンチで!』
なんて、如何にも子供だ。色々と夢想する子供。
……だが、目を瞑っているアキラをよくよく見てみると、……幼さが残る容姿だから、子供……?とも思ってしまうけれど、とりあえず それはそれ、である。
「それで、何時までおしゃべりを続けるつもりだ? ハンジ。コイツを作戦に組み込むのか? いい加減決めろ」
そんな時、この独房にもう一人来訪者が現れた。
「はぁ、アンタがそろそろ来る頃だと思ってたよ。……ってか、作戦って何?」
目を開けたアキラの視界に入ってきたのは、小柄な男。
鋭い眼光は、今にも噛みつきそうな野犬を思わせる。……けれど、佇まいが凄まじく、犬と言うよりは、狼だ。
ハンジと一緒に、アキラとイルゼを見つけたもう一人の男。リヴァイである。
「イルゼ・ラングナーの戦果。……巨人との意思疎通の実験だ。その為には何匹か捕獲しないといけないだろ。そこで、お前の力を借りたい」
「力借りたい。って相手を独房にぶち込むって。良い性格してるな? アンタも。しかも、相手の目の前で」
「褒め言葉と受け取っとく。だが、オレの意向じゃない。ここの眼鏡だ」
「いやぁ、でも 一応体裁は保ってないといけないじゃん? 外出たら罰って法律もあるんだし。……一応」
「まぁ、今までそんな奇抜なヤツはいなかったからな」
軽い談笑を進める3人。色々皮肉めいた事を言うアキラだが、彼なりのジョークなのだろう。イルゼ曰く、冗談の類を結構好み、場を和ませたり、と考えたりしている、らしい。
随分と出来た人だ。ほんとに。
「でも、裁判、とかしないで良いっぽいのは有り難いな。マンツーマンで言うんならまだ良いけど、傍聴人やら裁判官やらに囲まれた中で、色々と言うのは……流石になぁ」
「あー、その気持ちは判らなくもないよ。こーんな話を公衆の面前で、なんて 抵抗あるよね」
「嘘は言ってないってのが、辛いとこだなぁー。別にてきとうに誤魔化すのも有りだと思うけど、オレ、やっぱ知識不足だから。この世界の。いつどこで襤褸が出るか……」
やれやれ、と首を振った。
それと同時にゆっくりと立ち上がると。
「色々と言いたい事はやっぱあるけど。アンタたちの事はイルゼはスゲェ信頼してるっぽい。後、この世界で一番信じてるの、オレん中ではイルゼなんだわ。だから、アンタたちの事は信じられる……、って単純な事じゃないけど」
「違うのかよ」
「ははは……、リヴァイがツッコミ入れるとはね」
そして、アキラはにやりと笑いながら言った。
「オレ、一応罪人だけど、手伝う為の条件。つけていいか?」
アキラ君は、グレた子? だったのに、凄い変わりよな気がする今日この頃。