――あぁ、判ったよ。もう いい加減判ってきたって。
目の前に広がる空間を前に、アキラは ため息を吐いていた。
今いるこの場所、この空間……なんといえば良いのだろうか。アキラは少し考えた後に決めた。
――随分と綺麗な星空の下、かな。それとこのでっかい……そう、光の柱か? いや 樹? 光る大樹って言えば良いか。これ。あの森の木よりでけぇな。
透き通る様な空。星々の光が時には流れ、瞬き、世界を照らしている。
そんな世界でただ1人、立っていた。そして、目の前に広がるのは巨大な光の柱。所々枝分かれていてこの空に広がっている。
――
聳える光の柱は1つでは無かった。
2つ並んでいるのだ。何処までも伸びる光、そして無数に枝分かれをしていて、果てしない空に広がっている。
『もう、理解したのか。早いな』
そんな世界に。先ほどまでこの世界には1人しかいない、と確信めいていた物まであったというのに、そこにいて当然だと簡単に自分で覆す様な奇妙な感覚に見舞わていた。無論、それも初めての経験ではない。
この数年の間……幾度もあったから。
――もう、じゃねぇだろうが。何回見せられたと思ってんだ? この胸糞悪い所を。
『綺麗な所、と先ほど言っていた様だが?』
――風景はな。あの光の本質? 中身? よく判らんが、あんなもんみたらだれでも思うわ。
『む。……だろうな』
ふわりと隣に降りてきた。
口調こそは男のもの。だが、成り立ちは何処か女の様な気もする。中性的と言えば良いのだろうか。そして、何よりも違うのは、この人物? も光を放っているという事。
――お前の事も大体判ってきたぞ。
『…………』
□□ 調査兵団・宿舎 □□
日も暮れ夜の時間がやってきた。
ユミルは部屋を抜け出し、一人外へと出ていた。
あの時――ほぼ、完全非武装な状態で巨人の群れに囲まれたというのにも関わらず、生きている事に現実味に欠けると何度か思った。だが、こうして自分は、自分達は生きている。どうやら、この世界には明るい未来が待っている様だと、柄にもなく確信に満ちていた。
「(こんな事考えてて、また、アイツらが襲ってきたりしたら笑えるな。まぁゼロじゃないと思うが、今は夜だし、余計に可能性は低いか)」
未だ巨人襲撃の謎が全く解明できない状況なのだが、少なくとも昼間よりは幾分かマシな時間ともいえる。
巨人は主に昼に活動するからだ。夜行性もいるが、奇行種の類に分類される、と判断されている為、個体数が少ない。そして、唯一判明している情報にある猿の巨人の存在。あの巨人が指揮をとれば夜でも動く事が可能だというらしいが、その警戒は最大限に行っているから今の所は安全だと言えるだろう。
「ふん。いや何考えてんだ、私は。……安全に決まってんだろ? あの人がいる場所だ。追いそれと襲撃なんかするわけ無いか。……あのひとは、何が相手でもやっちまうんだろうな、自慢の腕力? で。それの相手が例え――――――」
最後まで言い切る前に、夜景でも眺めながら、くすねた缶詰を開くと中身を口の中に放り込むと数度咀嚼する。
そして、表情を少しゆがめた。
「……やっぱ、鰊は好みじゃないな」
「ユミル?」
「っと、クリスタか。これから夜這いにでも行こうと思ってたんだが、手間が省けた」
そんな夜景と細やかな夜食を楽しんでいる所に来訪者が来た。同室のクリスタである。
「ユミルがそう言う話し方する時、って大体何かをはぐらかそうとしたり、誤魔化そうとしたりする時だけ、だよね?」
「……はぁ?」
「流石にいい加減判ってきたの。それと、まさかこんなに……その、安全な環境に身を置いて話す事なんか出来る訳無い、ってあの時から思ってたんだ。アキラ教官が来てくれたから吹っ飛んじゃったけどね、そんな感覚」
ニコリと笑うクリスタの表情は、今まででも見た事が無いものだった。少しだけユミルは見惚れた後に、頭をがりがりと掻きむしった。
「それで? 私が何を誤魔化してるって? 結婚してくれっつー話なら誤魔化すつもりはないけどな」
「もう。そういうのじゃないよ。何か難しい顔してる時とか、絶対に他の事考えてそうな顔の時に、私が話しかけたらそんな感じになるの。……それにいい機会だからさ、聞いてみたいって思う事があるんだ」
クリスタは少し笑った後に表情を引き締めなおした。
「私はね。ずっと思ってた。今期の、104期のメンバーの中で私が10番内に見合う筈がない、って。仮にユミルと私ならどっち? って皆に聞いたとしたら、10番目は貴女だって答える筈。……あなたは、ユミルは私に憲兵団を目指すように促してたし、その権利まで私に渡そうとしてた。その真意が知りたい」
「…………」
「それともう1つだけ、先に言っておくね。……私、きっと変われる。……変われると信じてる。――
そして、――クリスタのここから先の言葉が、ユミルの中にくすぶり続けていた選択肢を決定づける事になった。
「私は―――――って生きるよ」
翌日。
調査兵団の本部にて。
「成る程な。漸く洗い出せたって訳、か。随分とまぁ時間がかかったもんだ」
「うん。……やっぱりさ、ひどく杜撰な管理だから時間がかかったみたいなの。でも、どうにかなって良かった……、のかな」
「良かったに決まってるだろ? 一歩前進、どころじゃないかもしれねぇぞ」
兼ねてより調査し続けていた結果が調査兵団に届いた。非常に重要な情報で、そして……アキラにとってはかなり複雑なもの。
「……だが まぁ、アニが喋ってくれるよりも早かったな。オレの予想では どっちかと言えば、アイツの口からきく方が早いと思ってたから」
はぁ、とため息を吐くアキラ。
その姿を見たペトラは、そっとアキラの頬に手を触れた。
「無理だと思うけどさ。……あまり、抱えないで。重たかったら、私にも背負わせて。少しで良いから。……お願い」
ペトラの言葉にきょとん、としていたアキラだったが、直ぐに表情を元に戻した。
また、心配をかける様な顔をしているんだろ? と自分自身を戒めながら。
「悪いな。頼りにしてるぜ、ペトラ」
「……うん。勿論、私以外にも沢山いるからね? アキラの事支えたいって思ってるのは」
「おう。幸せモンだ。……いや、マジで思ってるよ」
手を上げて笑顔を見せるアキラをみて、ペトラは満足した様に同じく笑い返す。
アキラはペトラが手を離したのを確認すると、今度は自分自身が両手で挟み込む様にして、バチンッ、と叩いた。
「んじゃ、気合も入れなおしたし、……行ってくる。今回の件、アイツにも確認とらねぇと。その上で しっかりと話を聞かねぇとだからな。久しぶりに面談の時間も必要ってヤツか。……
「うん。お願い。……兵長やハンジさんには伝えておくから」
「おう。頼むわ」
ペトラとの話の後 アキラはアニの元へと向かっていった。
□□ ??????????? □□
街が賑わうのには訳がある。
巨人に踏みにじられ、蹂躙されてきた壁の中の人類が、歓喜し喜び、お祭り騒ぎになるのには訳がある。
それは勿論、英雄たちの帰還だ。
「私! また、あの2人に会ってみたい! 兵長やアキラっ!」
「人類最強の2人にだよね! いっつもパレードみたいになっちゃって、遠巻きにしかみられないから……」
大人から子供まで――老若男女関係なく広がるその英雄伝。生きながら伝説を間近に出来る興奮は大人だろうが子供だろうが関係ない。……そして、子供なら尚更だ。
そんな興奮して止まない子供達の後ろに、一人の女性が立っていた。
「あのさ、ちょっと良いかな? 2人とも」
「「うん?」」
振り返ると、その女性はニコリと笑っていた。
「私ね、ちょっと前まで、外の村に住んでて……、その すっごい英雄さん? 達の事あんまり知らないんだ。ちょっとでも良いから教えてくれたら嬉しいんだけど……。楽しい輪の中に入れないのは何だか寂しいし」
「えぇぇ~ おねえちゃん遅れてる~! ってもんじゃないよー? 英雄アキラとリヴァイの話を知らないなんて!」
「ちょっと リヴァイ兵長の部下なんだから、英雄リヴァイとアキラ、でしょうが!」
「どっちでも良いじゃん。私はアキラが好きー! だって、前に話した事があって頭撫でてくれたもん!」
「ぅぅ…… それは羨ましい! ズルいっ!」
「あははは。ほんと人気なんだねぇ~」
言い合いを続ける子供達を見て仄かに笑みを見せる。
そして、何やら今度は奇妙な行動をしだした。
「アレ? おねえちゃん?」
「何で四つん這い? あ、判った!お馬さんゴッコだね!」
「んっん~。違うかなぁ。私さ、村ではず~~っとこんな感じで動いてたから、その癖が残っちゃって」
四つん這い、四足歩行を繰り出した! 傍から見れば変な人、なのだが 子供の前では楽しそうに遊ぶお姉さん。器用に手足を使って動き回るお姉さんに喜びながら追っかけて行った。
そして、笑うお姉さんは、一瞬だけ目を細めて、そしてついてきた子供達に改めて聞いた。
「それで聞いてみたいんだ。……その