目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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61話

□□ 調査兵団 本部 □□

 

 

 

「この世界には まだまだ判らん事が多そうだ。……実に、な」

「気のせいか? いつもの面が崩れてるぞ、エルヴィン。似合ってねぇよ。まるで、正真正銘のガキみてぇだ」

「ふ……… かもしれんな」

 

 エルヴィンとリヴァイの2人が何度か会話を重ね、そのたびにエルヴィンからは笑みがこぼれる。何度目になるか判らなくなった所で、リヴァイ自身も笑った。苦笑い、と言うヤツだ。

 

「そう言うリヴァイもだ。……ふふ、数年前のお前を思えば、考えられん程に」

「あぁ。否定はしねぇ。エルヴィン。それに お前はいつも間違わねぇ。……まだまだこの世界には判らねぇ事が多すぎる。いや―――今は 別の(・・)、と言った方が正しいかもしれねぇがな」

 

 リヴァイは紙の束を手に持ち、1P目から再度読み直した。

 

 そこに書かれているのは、アキラに関する重要機密。

 

 アキラが此処に来てから今日までの報告書に加えて、アキラ自身の身体能力、凡その巨人の討伐数、ハンジ主催の実践経験(人体実験)、様々な内容が記録されていた。

 可能な範囲ではあるが、これは調査兵団内のみに留めている極秘事項も含まれている。秘密にする理由はいくつかあるが、アキラが中央憲兵団を毛嫌いしている面があり、エルヴィン自身の考えもあって、信用のおける人物にしか発信していない。

 そして何よりも。

 

「別の世界か。確かにな。アキラの話、それは色々と証明のしようがないものが多い。故に何処から手を回せば良いのか、これも悩みの種だ」

「悩んでるヤツの面には到底見えねぇが」

 

 アキラのとんでもない力に関しては立証出来る。目の前で繰り広げられてる現実を目の当たりにすれば、どんな馬鹿でもはっきり理解するだろう。

 

 だが、証明できない事もある。それはアキラが辿ってきた道。

 証明するには自分達で調査する。つまりその道を自分達で見る事。それが出来るか? と問われれば話は別だろう。

 

 イルゼの調査報告書から始まったアキラの出生。別の異なる世界からやってきた者。

 

 だからこそ、アキラ自身から聞く話は裏が取れないものばかりだ。

 

 

「……だが、今更だが我々にとって有益極まりない事だらけだ。アキラを利用しきっている様で良い気はしないが」

「それこそが今更だ。いったい何度目だ? アイツ自身も判ってる事だろ。アイツの言う事を考えてみりゃ利害は一致している」

「解っている。我々の、そしてアキラ自身の安寧、心の平穏か」

 

 ふん、とリヴァイは軽く鼻で笑った。らしくない事を口にしている、考えていると思ったからだ。想像を絶する力を持ちながらも欲にかられない所もそうだ。

 

 

 

――中央の豚どもと似た思想を持ってりゃ、今頃壁ん中はアイツ一色になってただろうな。有り得ねぇ事だが。

 

 

 

 そう思うと、リヴァイは再び笑った。笑えた。どう考えても想像できない自分がいるコトがこの上なくおかしく思えたからだ。

 

「アイツの言うナニカ。それも今後検証が必要か? どうやってやりゃあいい? 中央から豚どもを引っ張ってくるか?」

「うむ。私も色々と考えてはいる、が それも難しそうだ。中央では アキラの事を人類最強……ではなく神か悪魔か、と言う声が強く響いている。アキラが言う条件(・・)に当てはまらない可能性が高い」

「チ、根性のねぇ豚どもだ」

 

 リヴァイはそう毒づいた。

 エルヴィンはそれを見届け後に次ぎのページを開いた。

 

 

 

 それは、『アキラ襲撃事件』と書かれているページ。2年前の報告書だ。

 

 

 

「そもそも 王政も現在全く手の打ちどころがないと言われる状況で、言われるがままと言っていい。……アキラが私の父の様な事にならないのも証明されているからな」

「ふん。……前も言ったが、裏を何とか取れねぇか? 憲兵だけじゃなく、王政側の陰謀だと」

「知らぬ存ぜぬを通されて仕舞いだ。証拠は一切上がらんし、認めようとはしない。内心穏便な男で良かったと安堵している事だろう。もしも、報復を強行する男であれば、シーナ内、城が瓦礫の山になりかねないのだからな」

 

 ニヤリと笑みを零すエルヴィン。そしてリヴァイも笑った。

 

「色々と面倒な事だらけだ。あの馬鹿じゃねぇが、全部潰して終いにしたいもんだぜ。……外では別の世界に加えて、巨人の皮をかぶったヤツがいる。内側には キナ臭ぇもんだらけに加えて、まさかの再会(・・)もあった。訂正する。外だけじゃねぇ。内にも まだまだ判らん事が多い」

「同感だ。……いや、内側はもう時期に明らかにする。決して姿勢を崩さなかった王政たちに綻びが生まれている今がまさに好機だ。今回の件、ケリがつき次第にな。ピクシス司令にも了解済みだ」

「……そりゃ期待して良さそうだな」

 

 

 

 

 

「うーっす」

 

 

 そんな時だ。扉が開かれたと同時に声が聞こえてきた。

 

「お邪魔するよ」

「「失礼します」」

 

 1人目に続き、3人。

 

 

「戻ったか。早速だが、報告を聞こうか」

「ああ。手短に言うぜ。限りなく黒(・・・・・)

「ホント短いねー、アキラ」

「そう言うしかねーし。アイツが、いや あいつ等か。……アレ(・・)を、いや オレ(・・)を視えてるのが明らかだったしな。《限りなく》が退くとすりゃ 正体を現した時だ」

 

 入ってきたのは、アキラ、ハンジ、そして イルゼとペトラだ。軽い口調に軽口ではあるが、その表情は険しい。

 

「あの報告書見た時点で、大体判ってた事だが。面倒な事にアイツら(・・・・)が、鎧とデカブツって事だろうよ」

「そうか」

 

 エルヴィンも表情を険しくさせた。

 

 

「……あの規模の破壊力を考えると、この街の中にいる時点で、住人を我々を、全てを人質に取られてるも同然か」

「いや、そりゃ弱気過ぎんだろうが。互いに牽制し合ってるっつー状況って言えよエルヴィン」

 

 アキラは首を振った。そして、一瞬だが表情が消える。まるで顔を黒く塗りつぶされたかの様に。

 

「……それ(・・)をすりゃ 街より まず あいつら自身がどうなるのか、判ってる筈だ。アニみたいに死にたがりなら、やらんって保障は無いが、現時点でやってない所を見ると、どうやらそうじゃないらしい」

 

 ハンジもそれに続いた。

 

「確かにね。私達を殺るのは造作もない事だろうけど、その結果は自分達も消し飛んじゃう可能性が大だ。だって、アキラの事を見てる筈だからね。だけど私としては、今後いろいろと仲良くしていきたいつもりなんだけど、何とかならないかな。ほら、私達みたいに仲良しに?」

「誰が仲良しだコラ。殺意Maxまで上がるわ! 一緒にすんじゃねーっての」

 

 ぐいっ、とアキラの肩に腕を回すハンジ、それを軽く払うアキラ。

 

「ふむ。が、直ぐにでも強硬手段に出ないとも限らないだろう?」

「あぁ。確かにな。だから提案だ」

「お前がガキどもの世話をしろ」

「ほい。っつー訳でオレの配置決定。ま、殆ど戻ってたも同然っぽいが 上司命令教官時代に出戻り、改めての話し合いってヤツをしてみる」

 

 アキラが手をひらひらさせた所で、イルゼとペトラが前に出た。

 

「団長。私を含めた班員全てとペトラの全員で、アキラのフォローに回らせて下さい。くしくも私以外の全員が同じ104期のメンバーです。適任かと」

「向こうが暴走しない理由、それがアキラがストッパーになってると言う事は明白でしょう。ですからこちら側には、アキラ自身のストッパーが必要である、と考えてます」

「誰が暴走するか! って何べんか言ったんだけどなぁ……」

 

 信用されているのか、されてないのか。ある意味微妙な所だが、イルゼとペトラの要望は勿論通ったのだった。信用されてない訳ではないが熱くなり過ぎる面があるのは言うまでもない事なのだ。

 

「その話し合いとやらだが、明日 調査兵団総出で壁の再調査を行う。……その時にケリを付けろ。壁の上が絶好の場所だろ? それに奴らが壊そうと躍起になっている場所でもある。おあつらえ向きじゃねぇか」

「そのつもりだ。町から大分離れてるし、それに巨人の爆発? 爆弾? みたいなんでは壁は壊れたりしないだろうし」

 

 今から数年前。

 ウォール・マリアの壁が突破された。だが、壁が破壊されたとは言ってもそれは あくまで門の部分を破られた事だ。壁の強度は十分あの爆発には耐えられるだろうという推察は誰もが同じだった。

 

 

 そして、明日――決断の、決別の時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□ ??????????? □□

 

 

 

 

 夜の闇の中、人知れず動き回る影があった。

 

「明日……、壁上にて調査………。アキラ、オーガミ」

 

 手にした情報を何度も口づさむ。

 忘れまいとする様に、そしてその顔には強い決意が見えて取れた。……見方を変えれば悲痛なモノともとれる。

 

「明日が私の命日か……」

 

 ぐっ、と拳を握りしめる。

 手にした情報は眉唾ものばかりだ。

 

 だが、自身の知る情報と照らし合わせても、決して全て嘘であると到底思えない。

 自分自身が信頼し、絶対的とも常々思ってきた《力》が全て圧倒されたのだから。

 

 全て――覆されてしまったのだから。

 

 故に、勝機は限りなく低いと言えるだろう。だが、それでも前に歩を進める。進める事を止めはしなかった。

 

 

「―――いや、ここで終わる訳にはいかないね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□ 調査兵団 牢屋 □□

 

 

 

 アニは、鉄格子の隙間から見える夜空を眺めながら思いふける。

 以前までいた薄暗い地下に設置された牢屋に比べたら、この場所の快適さは牢屋であることを忘れてしまいそうだ。

 

 前の場所に戻る、と自分から言う程に 扱いが軽くなり過ぎていると嘲笑する。

 この場所に留まる様にしたのは、他の誰でもない、アキラなのだから。

 

 傍に彼がいるとは言え、此処までして良いのか? と自分で思ってしまうが、それも一笑する。此処を襲撃するつもりなど毛頭ないと言えるから。

 それは自分の命が惜しいからでも無ければ、戦士としての務めを果たそうとする義務でもない。アニは視線を空からもとに戻す。

 

 

 

 

「……楽しみ、と言った方が良いかもしれないね。貴方が()で何をするのか、見てみたい気持ちが強い。アイツら(・・・・)が どう行動するのかは判らないけど。それに―――、戦士長たちも どう出るか」

 

 

 

 

 


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