目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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遅くなってすみません……。m(__)m

短めの文になってますが、何とか頑張ります。


63話

 

「――こうやって顔と顔を合わせて喋るってのは久しぶりだな。お前ら。いっつも誰かしらはいたからなぁ」

 

 

 アキラは2人に視線を向けず壁の外側をただただ眺めていた。

 

 ウォール・ローゼの壁の上から、外の世界を眺める。この先は、つい数年前までは人が暮らせていた。だが、今ではまるで別世界。人ではなく巨人が支配する世界。……巨人に支配された世界。

 

 

 壁の外と壁の内。巨人と人間。

 

 

 巨人が人間を見境なく襲うのは最早知らぬ者など1人もいないであろう事実。そこに交渉の余地も情けをかける余地も全くない。

 巨人は食欲以外の何もない。故に恐怖もなく、止まる事を知らない。圧倒的な力にさらされても、その命が尽きるまで止まる事が無い。

 

 人を滅ぼそうとする理由こそは判らないが、人類の敵である事は疑うまでもない。

 

 なら、今ここにいる男達はどうだろうか?

 

 人の身でありながら……なぜ?

 

 

 色々と考える事は出来る。想定する事は出来る。

 

 

「面談……ですか?」

「っ、っっ……!!」

「……ベルトルトっ!」

 

 

 今にも暴れそうなベルトルトの腕をがっちりと掴むのはライナーだ。

 ベルトルトは自傷行為をしようと恐らくは 指に針か何かを仕込んでいるのだろう。強く握りしめ、それを使用しようとした所 ライナーに止められた。

 

 

「………懸命な判断。流石ライナー。それに、判っている筈だろ(・・・・・・・・)? ベルトルト。オレは口酸っぱく教えてきた筈だ。『……お前らの命なんぞ要らん。心臓なんぞ捧げられても嬉しくもなんともない。戦うなとは言わん。だが、生き抜く事を重要視しろ』ってな」

 

 一触即発の空気。

 ただ、その緊迫感はベルトルトが纏っているものであり、アキラはいつも通りの雰囲気。ただの世間話の延長。そんなノリだった。だが、それは視線を向けられていない為なのだ。

 

 

「オレにお得意の爆発は効かねぇ。オレの事 甘ちゃんとか力は異様だけどただのお人よしって思ってるんなら、そりゃ間違いだ。……前兆を見逃す(・・・・・・)程お人よしじゃねぇよ」

 

「あ、あのアキラさん。……一体何を言ってるのか」

 

 ライナーはただただ平静を保とうと努力し続けていた。

 

 ただ、自分は兵士。そう言い続け、言い聞かせ。

 

 そして、ライナーにとってある意味不運だったのは 前日にベルトルトと話をしてしまった、と言う所だ。常に兵士を演じている(・・・・・・・・)ライナーだが、今は兵士ではなく戦士(・・・・・・・・)の顔を出してしまっているから。

 

 

「ま、普通だったら荒唐無稽って感じだよ。だが、エレンやアニの件を考えてみりゃ現実味を帯びてくる。……だろ? 更に巨人の不可思議な侵攻。壁が壊れてないってのにこうもズカズカと家ん中に土足で踏み荒らされたともなれば。……考えるなって方が無理がある。あぁ、後―――」

 

 アキラはこの時初めて ライナーとベルトルトを見た。

 

 その瞬間、身体に雷でも落ちてきたのかと錯覚した。雷で身体を貫かれ、内側から身を焼かれるそんな感覚。

 

 先ほどまで はっきりと身体の輪郭が見えていた筈なのに どす黒いナニカに覆われ、表情が全く見えない。黒い化け物に成り代わったのだ。

 

 それは、人が巨人になる変化よりも遥かに驚愕するもので、……禍々しささえ思えた。

 巨人ではない。この男は悪魔そのものである、と改めてそう思えた。

 

 

 

オレ(・・)が見えてる以上、惚けられると思わない方が賢いぜ? お2人さん」

 

 

 

 

 

 悪魔に隠し事は不可能。

 そして、悪魔から逃げる事も不可能。

 ライナーは震える身体を止める事が出来なくなってしまっていた。

 

 ライナーに止められていたベルトルトだったが、その仕込み針で自分に傷をつける事が出来たが、それさえ忘れてしまい、完全に身体が固まってしまった。

 

 

 

「アニと同郷だって事。それと もう1つ見つかったよ。お前らが話してた村の事だ。……もう自殺してこの世にいないが、ベルトルト。お前の身の上話をする全く同じ男がいたという報告だ。お前たちが言う出身の村の生存者もいた。どうやら全滅を免れた者。話した相手がいたって事だ。……捏造だって思ってみるか? 俺らのでっち上げだぞって」

 

 

 これもただ口からそう報告があったと言っているだけ。

 アキラが言う様に 捏造の可能性だって大いにありうる。まだまだ証拠としては弱い。だが、それでも 何も言えなくなってしまっていた。肯定と取られてしまう可能性だってあるのに。

 

 アキラは、ふっ と一息はいた後 改めてライナーたちを見た。

 その時 黒いナニカは薄れていく。

 

 

「疑わしきは罰せよ、って意見も多かったよ。あまりにも脅威だってな。街中であんな巨人爆弾でもやらかされた日には、多大な犠牲が出るって。んでも、オレは止めろって言ったよ。……オレからまず話させろって。そんでもって 期限は今日までだってさ。………やっぱ 甘いんだろうな、オレ。判っててもこれが中々難しい。さっきライナーがベルトルトを止めてたが、……寧ろ攻撃でもしてくれりゃ 割り切ってやり易かったのに」

 

 

 アキラはゆっくりと立ち上がった。

 

 

「避けられないんならもう仕様がない。……が、殺り合う前に 話せるっていうのならまず、話してみねぇか?」

 

 完全にナニカが見えなくなった所で漸く アキラの顔が見えた。

 怒りや憎しみの類もあるが、それでいて何処となく寂しそうな顔。……まだ、信じたいって気持ちがその顔に見えて取れる程のものだった。

 

 

 

「お前らは何を望む? ……オレらの死か? ならその理由はなんだ? 教えといて損は無いだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライナーもベルトルトも、アキラが言っている内容の殆どが頭の中に入っていないのだろう。ただ、目の前の脅威をどう対処すれば良いのか? 巨人をもたやすく凌駕する圧倒的武力を前に、太刀打ちなど出来るのか?

 

 この窮地をどう逃れたら良いのか。ただただそれだけだった。

 

 助かる手段はある。この悪魔に下れば……少なくとも直ぐに命を取られる心配はないだろう。……だが、その道を選ぶ事は 彼らには出来なかった。

 

 

 

 そんな1秒とも1時間ともとれる時の矛盾を感じていたその時だ。

 

「ぬっ!?」

 

 アキラは視線を再び壁の外へと戻した。

 その先では、突如粉塵が巻き上がっていた。今の今まで、巨人の影等は殆ど無かった筈なのに、突如――目算で1㎞程先に、地平を隠す勢いで立ち上っていた。

 

 

 

「アキラさん!!」

 

 

 暫くして 壁の上に1人の兵士が登ってきた。

 

「突如!! 前方より無数の巨人が出現致しました!!」

「……あぁ。見えてたよ。本当にいきなりだな。巨人ってのは 出たり消えたりと手品でも出来るのか?」

 

 ちらっと2人を見るが、起きた事を理解してないのが、直立不動のまま固まっていた。

 その所作だけで、今回の件はとりあえず無関係であるという事が判った。少なくとも、そんなことが出来るのであれば、この状況であっても切り抜ける事が出来るだろう。バレた以上留まる意味は無いし、混乱に乗じて逃げる事も出来るからだ。

 

 

 

「さて、どうするか……。目を離すなって言われてるし」

「……私が見てるよ」

「っと」

 

 

 肩を叩かれて、少し驚いて振り向くアキラ。

 

「そうだった。……アニがいる事忘れてた」

「随分な言い方ですね。……まぁ、アキラさんが私の事を信じるに値するなら、ではありますが。3人なら、逃げる事も、この混乱に乗じて襲う事も出来ると考えるのなら、無理にとは言いませんが」

「おいおい。ほんとにするんなら最初からんな事言わないだろうに」

「甘い人なんで。別に言ってもおかしくないかな、と」

「……言う様になったな。このやろっ」

 

 ぽんっ、とアニの頭を一撫でする。

 無表情だったアニの顔が少し緩むのが判る。

 

 

「っ、っっ………」

 

 ただ、それだけでベルトルトは判った。―――アニの今の心境がどうなのかを。

 

 

「でも、直ぐにはいかないよ。ちょい離れてるが、リヴァイやハンジ、ミケ達もいるオールスターだ。あの猿がいないのなら、あの規模程度なら十分」

 

 

 冷静に戦況を見極めていたその時だ。 

 新たな別の兵士が急ぎ登って来た。

 

 

「アキラさん! 巨人の群れの前に人が!」

「は?」

 

 その言葉に一瞬驚いた。

 そして、同時にあらゆる想定をした。巨人を率いているのか、若しくは考えにくいが本当に襲われ追われているか、だ。

 

 

 考えていた時、視界にはっきりと見て取れる事が出来た。

 巨人の群れの先頭にいるのは馬に乗った人間。必死に走らせてきてる様にも見える。ただ、頭はフードで覆い隠されており、男なのか女なのかさえ判らない。

 

 

「ちっ、考えてる暇はない、か。アニ。ここを任せる」

「……はい」

 

 それ以上は言わず、飛び出した。立体起動装置もつけず…… いつもの光景と言えばそうだが、ライナーやベルトルトにとっては、改めて見せつけられた形になった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、馬を走らせてる者は、ちらりちらりと背後の巨人を確認。巨人との距離を確認していた。

 

 

 

「……ほんと 大博打だね。巨人を4人失うか、それとも3人取り戻すか……」

 

 

 


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