目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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65話

 

 

『あの悪魔が傍に居る以上、3人の奪還は殆ど不可能だ』

 

 戻って来たジークは早口にそうピークに言った。

 ジークは戦士長。彼らの中で一番腕がたち、その実力は―――本部(・・)も計り知れないでいる。底が知れない男だと。

 

 時折おどけたりするが、基本的には冷静に物事を判断し、導いてくれる存在だ。

 そんな彼が、ここまで言う以上……間違いないのだろうと判断した。

 だが、だからと言って何にもしない訳ではない。

 

 ここで失敗する、出来ない、という事は、――巨人の力が失われると言う事なのだから。

 

『6つの内の4つが既に赤信号……、寧ろ捕られたと言っていい状態。このままおめおめとマーレに帰る、と?』

『いいや。それも駄目だ』

 

 ジークはピークの言葉を聞いて、直ぐに首を振った。圧倒的な力の差を見せつけられた形にはなったが、どうやら心まではまだ折れてないらしい。……元々、ピーク自身もここでこのまま逃げる等と言う選択肢は無かったので、一先ず安堵する。

 

 

『近々……あの壁の上で何かあるらしいな?』

『……名目では壁の調査。壊れてないのに巨人が壁中に現れた事に対する再調査。………その実体は恐らく、あの2人(・・・・)に関する事だと思う』

 

 その2人――ライナーとベルトルト。

 鎧と超大型の巨人の事。十中八九、バレていると考えた方が良い。

 

『流石。……その情報が無ければ、本当に絶望的だった。今回の件も、正直な所、我々は誘き寄せられてる可能性の方が高い、……が。まともに正面から壁超えて、向かうよりは遥かにマシだ。……ピークの存在をまだ知られてないのも僥倖』

 

 巨人の力を操る存在がまだ他にもいる、と言う想定は間違いなくしていると思う。警戒はするだろうが、それが一体誰なのか、それがわかってるわけではないだろう。どんな探知機を使ったとしても、現代の科学では解明できない巨人の道がある。外見はただの女と男。それが巨人である、と判明するには 巨人化する所を見るしかない。

 

 

 巨人の力を使えば、真っ向で攻め込み―――血塗られた歴史(・・・・・・・)に終止符が打てると思ってきた。

 

 だが、この悪魔の島―――パラディ島に来て、全てが一変した。

 

 壁中人類にとっても、一変したと言っていいが、それはジーク達にとっても等しく、想定を遥かに超えた事が起きてしまったのだ。

 

『ピークちゃん。かなり危険な任務だが、任せられるか?』

『勿論。……正直、女である事を今日ほど良かったって思う時は無かった』

 

 情報その1。

 島の悪魔はハーレムを築き上げているらしい。

 周囲には常に女の影があるとのこと。既に何人もの妾が存在するとかしないとか。

 

『その彼に抱かれたら私も惚れちゃうかもね』

『……そのまま、こっちに一緒に連れてきてもらえたら嬉しんだけど』

『流石にそれは無理でしょ。アニが戻ってきて、一緒に2人がかりで、だったら可能性ありかな』

『そっちの方が想像できないって。――それに、俺が次にアイツを傍で見たら、身が竦むしか想像できないってのもあるかなぁ』

 

 情報その2。

 対人及び巨人、……対全人類、この世界の頂点に立つ力を保有。

 超大型の巨人をも退けた力を鑑みると、少なくとも現時点で有効だと断言できる武力は思いつかない。

 

 

『……作戦では、この辺りに掘ってる、って事で良かった?』

『ああ。……ここに手頃な岩を配置した。目印だって思ってくれれば良い。期間を考えたら見つかってないと断言できるし、仮に見つかっても直ぐに埋めれるような規模じゃない』

『……悪魔の男が相手でも?』

『………それは想定してない。見つかってしまえば速攻で潰されるかもしれないな。そうなったら、危険だが……、あの男と共に壁上に登って隙を窺う手段をとる他ない』

 

 

 即席で、正直穴だらけだと言っていい策だが、今出来うることは それ以上は無いと言っていい。仕入れた情報をもとに、3人を奪還するにはこれしかない。……その危険性を本国へと伝える為にも。

 

 目の前の過去最大の任務を全うするしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、アキラがピーク消失に気付くほんの数分前の事。

 

 ピークは、ジークが放った投石……投岩で発生した衝撃波を利用して、不自然に見えない様に、器用に目印の岩の方へと飛んだ。

 

 それに気づいた様子も無かった為、手早くその3つの岩を少し超えた先にある大きな縦穴に滑り込んだ。

 

 

「………ほっ、とりあえず埋められてなくて命拾いした、かな」

 

 

 ピークはそう呟くと、素早く奥へ奥へと入っていく。

 巨人の力――ジークの獣の巨人の力、その異常なまでに長い手を利用し、長く掘られた穴の出口は、ウォール・ローゼの壁にまで伸びていた。

 

 素早く地上へと駆け上ると、目の前にあの壁が立ちふさがる。

 

「後は、コレを登る……だけ!」

 

 ちらっ、と背後を確認。

 相変わらずだ。集まった巨人達は、等しく粉砕され、凄まじいまでの蒸気が立ち込めている。その蒸気は自らの身体を周囲から覆い隠す役目も果たしてくれている為丁度良かった。そしてこの即興の煙幕も作戦の内。 アキラの力を利用したものだ。

 

 そして、アキラの姿もまだ確認できた……が、想定外の事もあった。

 

「……っ、他に誰かいる」

 

 アキラだけでなく、もう1人いつの間にか来ていたのだ。

 もしも、タイミングを見誤っていたら、いつの間にかやって来たもう1人に捕まってしまったかもしれない、と肝を冷やしつつ、ピークは、そのまま壁に手をかける。

 

「練習したけど、これ難しいんだよね……」

 

 ぼそっ、と愚痴をひとつしたが、今は時間との勝負だ。躊躇している暇はない。

 それは、ジークが奪ってきた立体起動装置。巨人を殺す為だけに壁中人類が作り上げた装置だ。ピークは、それを使い アンカーを狙った箇所に射出。そのままワイヤーを巻き戻すボタンを強く推して、物凄い速さで上空へと引っ張られる。

 

 

「っ……っっっ!!」

 

 

 どんっっ!! と壁に両足を強打したが、何とか大きな怪我はなく、そして50mはある壁の3分の1ほどまで到達出来た。

 

「今!!」

 

 その瞬間、手に仕込んでいた小刀で身体に傷を入れ、巨人に変身。

 

 

《車力の巨人》と呼ばれる姿になった。

 

 

 

 その巨人は四足歩行で活動する。

 凄まじい速さで、壁を登り切ると、直ぐに上にまで到達した。

 

 

「なっっ!!?」

「巨人!! 総員、戦闘配備!!」

 

 

 突然の巨人の襲来。驚きを隠せない兵団メンバー。エルヴィンも、あの獣の巨人の投石による遠距離の攻撃、そして何もない所から現れる巨人の秘密、等の事を考えていたので一瞬反応が遅れたが、直ぐに声を張り上げて指示をした。

 

 それでも、圧倒的にピークの動きの方が早い。

 

 統率が乱れ、混乱に乗じた所で、手早くピークは壁上から兵士をなぎ倒していき、上から強引に下へ落としながら、この上に来ているであろう3人を探した。

 

 

「っ!! イルゼ班長! 下がって!! 俺が止める!」

 

 

 そして 壁上の異常事態を察知したエレン。

 仲間達の傍で巨人に成ると、その衝撃で皆に被害が及ぶので、下がる事を示唆しつつ、駆け出した。

 

「エレン!!」

「っ! ミカサ! 下がって!!」

 

 エレンを追いかけようとしたミカサだったが、それを止めたのはイルゼだった。

 戦力をこれ以上分散するのは危険と判断した為だ。

 少なくとも、同じ巨人であるエレンであれば、あの巨人は止めれるだろう。……だが、背後にいる2人―――……3人(・・)の巨人までここで攻勢に出られたら、もう絶望的だ。

 アキラやリヴァイのいない調査兵団の無力さを改めて痛感させられた場面でもあったが、その考えを頭から一蹴する。

 

 力が及ばないのなら、頭をフル回転させ、最善を尽くす。

 それを常に思ってきたのだから。

 

「ジャン、コニー、サシャ、ミカサ! ライナーとベルトルト、アニを警戒しろ! 無理と判断したらここから離脱!」

『はっ!!』

 

 

 そう長くはないが、今は時間を稼ぐ他ない。

 下にいるアキラが、異常を察しここに戻ってくるまで。

 

 

 

「はっ!! 調査兵団は、アキラやリヴァイ兵長だけじゃないんだよ!!」

「オルオ! 出過ぎるな! 壁上(ここ)で巨人を相手にするのは分が悪すぎる!」

「相手は四足歩行……、うなじは狙いやすい! 壁を利用して、背後に回れ! 挟み撃ちにしろ!」

 

 リヴァイ班のベテラン組であっても、正直に言えば 立体起動装置を活用できない場面で巨人と戦うのは自殺行為に等しい。

 これまで、例外を長く見続けてきたせいもあってか、麻痺しかけていた感覚が修復されていく。

 

 1人、また1人と、下に叩きだされていくのを目の当たりにしてしまえば仕方のない事だ。如何に人間が無力であるかをより痛感させられた瞬間でもあった。それでも、出来るコトは全てする。……それでいて、決して心臓をささげたりはしない。 

 

 それを誰よりも嫌う男がいるから。

 

 幸いな事に、上から落とされている面々は、視界に入る者に限っては、何とか壁にしがみつく事が出来ており、転落死する者はいなかった。

 寧ろ、この巨人の狙いは ここを襲撃する事―――人間を殺す事ではない、と直ぐに判った。

 

「狙いは、あの3人ね。ほぼ、間違いなく」

 

 ペトラは、素早く信号弾、灰の信号弾を2発取り出した。

 一発目を直ぐに頭上に、そしてもう一発は、壁の下へと向かって撃った。 

 巨人の残骸のせいで、蒸気がかなり出ていて視界が悪い。それでも、アキラに届く様に。

 

 

 

 

 

 

 

「っ!! ピーク……!!」

「ライナー!! 今しかない!!」

 

 ピークが此処に来て暴れているのは勿論、ライナーやベルトルトにもわかった。

 自分達を回収するのが目的だという事も直ぐに理解。

 

「アニ!!」

 

 そして、ベルトルトはアニの両肩を掴んだ。

 いつもアニ相手では特に恥ずかしくて、そんな真似は死んでも出来ない、と思っていたベルトルトだったが、迷う事なく両手で掴み、そのアニの身体を揺さぶった。

 

「今しかない! 直ぐに逃げよう! ピークさんの脚力と持続力を考えたら、間違いなくここから離脱出来る! オレ達がアイツ(・・・)が戻ってくる前に、ここで暴れるから!」

「………………」

 

 ベルトルトは必至だった。

 だが、実に対照的にアニの目は冷たく、冷ややかだった。

 

 そして、ベルトルトに続き、ライナーも続く。

 

「壁上なのが良かった。ここじゃ立体起動も使えん。幾らミカサでも巨人4体を相手にするのは無理だ! ピークまでの道をオレ達で作り、アキラ教官(・・・・・)が戻る前に離脱するぞ!」

 

 2人を抱きしめる勢いで、迫ってくるライナー。

 

 だが、アニはそれに一瞥するだけだった。

 

 時間は無いと言っていい。この狭い場所で圧倒的に巨人の方が有利な戦場だったとしても、たった1人の加入で全てが覆ってしまうのだから、当然だ。

 そして、これが千載一遇のチャンスであることも考えられる。この場所の脅威を、本物の悪魔がいるコトを()に伝える為に。

 

 だから、再三アニに詰め寄ろうとしたが、アニは ベルトルトを回し蹴りで強引に振り解いた。

 信じられないものを見る様なベルトルト。そしてライナー。

 

 そんな2人を見て、希望を見出していた2人を見て、アニは冷徹に言い放った。

 

 

 

「行きたければ勝手に行きな! ……私は、いかない」

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