今年もどうかよろしくお願いします
「んじゃ、マスター。いつもの」
「OK」
いつも通りだ。
いつも、壁の中へ中へ―――最も安全とされる場所に来たら、いつもここで飲む様にしている。
お洒落なバー……ではなく酒場、いかつい男、むさくるしい男、そんな中で酒を提供するマスター……お爺さん。
息の詰まるあの場所が近くにあると言うのに、ここは一番落ち着く。
「…………」
そんな場所に、新たな来訪者が現れた。
長身で、羽織ったコートと大きめのハットでその風貌をすっぽりと覆い隠してる男が。
その男は、音もなく酒場内を歩くと、カウンター席について漸く酒場のマスターがその存在に気付いた。
まるで幽霊の様だ。デカい癖に気配の殺し方は達人の域。触れる者、近づく者、全てを殺しそうな雰囲気がそこには醸し出されていて――――。
「ったくよぉ。お前さんくらいだぜ。酒場にきて態々ミルク頼むヤツなんてよぉ」
そんな雰囲気は一気に四散した。
どか、っとカウンター席に座り込むと、その下髭、ひげ面を全面に出し、ぼりぼりと頭を掻きむしる。
正直言えば不潔。
本当に
「おやおや。憲兵団の殺し専門、その隊長がやってくるなんてな。今日は厄日か?」
「うるせぇよ。地上最強の生物が。お前っつー存在を知ったその日から、殺し屋稼業引退したもどうぜんなんだ。
「随分とまぁ、牙が抜けたもんだ。最初に合った時とは大違い、ってな」
そういうと、ぐいっ、とグラスの中のミルクを全て飲み干した。
カッ、と音を立てながらそのグラスをカウンターに置き、軽く口元を拭うと、男は―――アキラはつづける。
「
「だろうな」
「一応、お前さんらの意向も聞いておこうと思ってな? どっちに付くのか、今日ここでハッキリさせておこうじゃねぇの。………全面戦争でも、こちとら問題ない」
物騒な物言いに、酒場の空気が一気に殺伐としたものへと変わる。
まるで空気が凍ったかの様な錯覚に見舞われ、同じ空間にいる者たちは皆等しく冷や汗が止まらない様だ。
猛獣の檻の中に突然連れてこられた―――。この感覚が一番近しいだろうか。
「だーかーら。言ってんだろ? 誰が好き好んでバケモンの口の中に入っていくかよ。巨人とデートする方が万倍もマシってなもんだ」
そういうと、いつの間に頼んだのか、手元にあるタンブラーに注がれていた酒を呷る。
「く~……やっぱそうだよ。何かに酔ってねぇとやってられねぇ。こんなバカな話1つすんのも同じだ。――――あの日、お前にぼこぼこにされた日から、オレはお前さんに対して酔ってる。……夢破れても、お前さんの作ろうとしてる世界の方が興味が出てきている。……ハッ。お前じゃねーが、以前のオレじゃ考えられない事だろうな」
キツイ酒なのだろう。
あまり表情に出ない性質なのかもしれないが、いつも以上に顔が赤い様に思えた。
「外の殺気むき出し連中も同じ気持ち―――それで良いか?」
「ん? ああ。前の一戦を見ててそれでもお前さんに向かっていこうって自殺願望持ちは取り合えずいねぇよ。つか、殺気なんざ向けてるか? 寧ろお前さんを知る前よりも面が良くなった気がすんだが?」
「なるほど。つまりは随分と愛されてるって事なんだろうな。……ケニー。お前が殺られてしまわないか、心配でいてもたってもいられない、って感じか」
「――――それは、全力で否定させていただきたい」
更に1名、来店。
つかつか、と歩み寄ってきてケニーとは反対側、アキラの左側の席へと座った。
「私はあなたが嫌いだ。だから、無意識に殺意が漏れてしまっただけです」
「……こうもまぁ、はっきりと本人の前でそれ言っちまうのがスゲーしヤベーなオイ。いたよ、自殺願望者」
「いいえ。彼は私を殺したりしませんよ。無抵抗の弱者を一方的に蹂躙する趣味は持ち合わせていない。そういう人物だと言う事は十分知っているつもりです。――――
アキラの話は、その人類最強の話は当然真ん中にも轟いている。
何よりも彼が嫌う事、その逆鱗が一体なんなのか……当然伝わってきている。
「聞くまでもないが、トラウテ。お前は、お前たちは
「ええ。それをする事こそが自殺志願であり、願望でしょう? 私はそうではありませんから。盤上をひっくり返すケニーの夢破れても、世界を創造しうる者が現れたのなら、その先を見てみたい、と今は思ってます」
「ハッ。世界創造ね。それもお前さんの超能力? の1つか。そういや前の未来見れる力ってヤツじゃ、オレらはお前のお仲間を何人もやっちまってるって話だったな。そういう意味じゃ、その誓いも意味成さねぇんじゃねぇか?」
ケニーの言葉を聞いて、アキラは再びミルクをおかわり。
そして一気に飲み干すと続けていった。
「いや。信じるよ。……お前らを信じる。いい加減、敵は外。内は味方って解りやすい構図にしたいんでね。考えるだけで頭が痛くなってくる。酔いたくもなってくる」
「……ミルクじゃ酔えねぇよガキ」
「生憎。オレは
「んじゃ、手伝って貰おうか?」
「は?」
「は? じゃねーし。前酒奢ってやった時言ったろ? 手伝ってやるって」
「覚えてねぇな。酔っ払い相手に約束とか無意味だろ」
「だから、」
以前―――。
中央の連中が調査兵団を疎ましく想っているのは十分わかっていた。
でも、それが殺意までに繋がるとは思わなかったのだが………、ケニーの言うアキラの超能力? でハッキリと見たのが切っ掛けだった。
そしてそれを確認するためにリヴァイやエルヴィンの許可を取って単独行動。
街中をくまなく、堂々と闊歩し続けるつもりだったが、あっさりと釣れた。
それがこのケニーが率いる【対人制圧部隊】に取り囲まれたのは。
ケニーを中心に、立体的に取り囲まれている。
ちょっとした巨人の気分になってきた。
『おーおー……、マジでそのまんまだったな』
それがアキラの第一声だった。
なんの超常現象か、自分が居ない未来を、自分が居ない本来この世界が進む世界を神様の様な存在が垣間見せてた時に、確かにいた部隊。
巨人を殺す装備ではなく、その名の通り、対人。ニンゲンを殺す事に特化した部隊。
連中が何故殺そうとするのか、中央連中が何を考えているのか。
細かな理由までは知らない。音声なし不親切な映像、断片的な映像だけを多く見せられただけだったから。
でも解る事はある。
この向けられている
自分がいる世界線でその未来を来させるつもりは毛頭ない。
『撃てぇぇっ!!』
ケニーではなく、頭上を陣取っていた女の号令の元、一清掃射。
実際に見た事はなくとも、人類最強と呼ばれる男を暗殺するのだ。躊躇の類は一切見せず、初手から必殺の布陣と大量の武器を以て殺しに来たが全ては無意味。
巨人を屠るその拳が振るわれた瞬間、散弾の全てが逸れて周囲に散らばったからだ。
『自己紹介はいらねぇようだな、お前ら。……んでもって、いきなり撃たれてオレ切れた。もう許してやんない。洗いざらいぶちまけてもらうぞ』
何が起こったのか、当然理解できる者なんている訳がない。
それはケニーとて例外ではない。
その後は――――誰も死ななかったが、誰もその時の事を話をしたく無い。
ゲラゲラ笑いながら話す様な男はケニーくらいだろう。
男として、……雄として、圧倒的な力の前に敗北を喫した。ただただそれだけなのだから。
圧倒的な力を前に敗北するのは初めてではないが、それでもこれ以上は存在しえない、とただただ笑う。笑うだけだったから。
「いい加減、中央で踏ん反りかえってる連中を地に落とす。手伝い枠余ってるけど、どうする? 乗るか?」
「ほぉ………」
「偉そうに踏ん反りかえってる連中が慌てふたむいて、これまでの報いを受けさせる事が出来る。結構スカッとすると思うがね」
「
王政の連中。
それに忠誠を誓ってる者などいない。
食いに食い、肥え太った豚どもが玉座に座している事を良しとしている者はいない。
内情を知っているケニーもそれは同じだ。
「具体的には何を?」
「お? オレの事嫌いでも手伝ってくれるんだ?」
「ええ。どんな策かは知りませんが、想像してみたら、随分と楽しいだろう、と解ってますので」
「良い性格してんよ、お前さんも」
その後、今後起こる事を説明。
それをバラされたら結構危ない事になるが、その辺りは完全に2人を信じている。
少なくとも、自分たちか、中央の連中か―――。どちらに付いた方が利点があるのか。なによりどちらに付いた方が面白いのか。
そう考えたら、もう考えるまでもない事だから。
「明日。ウォール・シーナは巨人によって破られる。壁中人類史上、最も大きな祭りの始まりだ」