目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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7話

 50mはあるであろう巨大な壁。町を囲う様に続いている壁。

 

 その上から見える景色は絶景と言う言葉が似合う。見渡す限りの大草原だった。

 

 西の方向を見れば森が広がり、東の方向を見ればそのまま平原が広がっていた。

 それだけだったら、本当に良い景色。大自然なのだが周囲の所々に存在する巨大なモノがそれを台無しにしている。

 

 その巨人たちは、人以外にはまるで興味が無いらしい。他の動物たちには襲い掛かる様子は全くない。襲うのは、……喰うのは人間だけだ。そして、この壁は人々が平和に暮らす為の壁。この世界にとってなくてはならない壁。

 

 そんな壁の天辺にアキラは座っていた。

 

「…………」

 

 その日アキラは痛感していたのだ。

 

 少し……いや大分この世界の事判ってなかったと痛感していた。

 

 壁の外での作戦行動は大成功だったとの事、リヴァイとハンジに紹介されたエルヴィンと言う2人の上司に当たる調査兵団の団長がそう言っていた。

 

 だけど――もうその時はアキラの耳にはその言葉は殆ど入ってこなかった。

 

 そして暫くして、この壁の上に新たな来訪者が現れた。

 

「……もぉ、こんな所にいたの? ハンジ分隊長にアキラがいそうな場所、聞いてなかったら絶対見つけられなかったよ」

 

 立体機動装置を利用して昇ってきたのはイルゼだった。

 彼女は作戦終了して帰還した後から、アキラの姿が見えないから探していた様だ。

 

「……アキラは普通に登れるのかもしれないけど、ここに昇るの結構きついんだからね。判ってる?」

 

 アキラの隣に腰掛けて同じ方向を見た。壁の上から見える広がる大自然。だがそこは降り立ったら死が待っているこの世の地獄。そう考えれば、広がる自然は死に逝く者への餞別の様にも思えてしまう。

 調査兵団に入って、この外の光景は決して珍しいものじゃないのだが、それでもアキラと一緒だったら何だか全てが新鮮に思えてくるからイルゼにとって更に不思議だった。何より、心が軽くなり踊る様な気持ちになれるから。

 だけど。

 

「アキラ……?」

 

 アキラは、全く反応しなかった。自分がこの場に来た事も判っていないのではないか? とも思えた。

 いつものアキラじゃなく不自然に感じたイルゼが、そっとその顔を覗き込んだ。

 

 一言で言うならアキラのその表情は『無』だった。感情の全てが失われてしまっている様にも思える素顔。……初めて見る顔だった。

 

 暫く沈黙した後アキラの視線が僅かに揺らいだ。

 

「……イルゼ。オレは何も判ってなかったみたいだったよ」

「え?」

 

 アキラの言葉の意味。それはこの壁のに上るのが大変な事が? と思ったイルゼだったが、それが間違いである事には勿論直ぐに気付く事が出来た。

 

「巨人が人を食う世界……か。それに人の死。全部安易に考えすぎだったんだな。……オレは」

 

 そのアキラの言葉を訊いたから。

 

 イルゼとアキラがあの森の木の上で過ごした期間は1年にも及んだ。その間に何度か巨人と接触をしたが、問題なく切り抜ける事が出来た。

 

 全部全部アキラのおかげだ。いくら感謝してもし足りない程に。

 

 でも、この広大な世界を探索する調査兵団の全員がイルゼの様に、壁の外でも無事でいられるか? と言われれば、首を横に振る。

 

 当然だが巨人の一歩は人間の一歩とは比べ物にならない。

 懸命に走った所で、その歩幅の違い。速度の違い。大きさの違いであっという間に追いつかれてしまう。そして人間の身体と殆ど変わらない大きさの手に捕まれば……終わりだ。

 如何に最新式の装備を携え、馬に跨り、細心の注意を払いながら調査をしたとしても……それは無理だ。だからこそイルゼ以外の仲間達は全滅してしまったのだから。

 

 確かにアキラはイルゼの時は救う事が出来た。だがそれは本当にアキラ自身が言う様に運が良かっただけだ。死なない、なんて事は絶対に有り得ないから。

 

「……そう、だったね。アキラ……この世界とは違う所から来たんだった」

 

 全部悟ったイルゼは、表情を同じく沈めた。

 

 

 そう――この作戦時にアキラは初めて、本当に『人が喰われる』所を見てしまったのだ。

 

 

 その歪な顔で無慈悲に人間を喰う巨人。次の瞬間には一瞬にして四肢が食いちぎられていた。そして気付かなかったのだろうか、或いは狙ったのか 判らないが足元にいる人間も虫けらの様に踏みつぶされた。……本当に無残な死に方だった。

 

 アキラは人の死に慣れてる訳ない。見て、訊く事と 実際に体感する事とでは訳が違った。少ししか付き合いが無かったとはいえ、ついさっき話した男が死んだのだ。その後は男も女も関係なく……、巨人たちは食い殺していったのだ。

 

「はぁ……。恰好付けて条件とか言ったりしてたのに、なんだか恰好悪ぃわオレ。もうここで過ごして、結構長くなったとも思ってたんだけどな」

 

 イルゼが来た事で、多少は気が紛れた様子だがそれでも気分がはれるものではなかった様だ。

 ごろり、と寝転んで空を見るアキラ。澄み切った晴天の空の色は自分がかつて見ていたものと何ら変わらない。気が滅入りそうなくらいの、痛いくらいの……蒼色の空だった。

 

「―――そんな事ないよ」

 

 そんなアキラの顔を覗き込み、そっとアキラの胸に手を置いてそう言うのはイルゼ。

 

「アキラは、私の事を助けてくれた。……とても、格好良かった」

 

 イルゼは、初めて出会った一年前の時の事を思い返しながら伝える。

 

「容姿に自信ない、とか言ってたけど アキラ格好いいって思うよ! あー……、でも服はちょっとアレだったけどなぁー……」

 

 イルゼはアキラの当時の姿を思い返しながらそういう。

 短パン半袖。凡そ外で活動する様な服装じゃない。家の中で寛ぐ時の、就寝時の時の恰好? と言えば一番しっくりとくるから。

 

 それを訊いたアキラは、思わず笑っていた。

 

「……ははっ、それだけは勘弁してくれよイルゼ。……ありゃオレが選んだんじゃない。あの恰好でここに放り出されたんだからな」

 

 目元を手で覆い、そして口元だけが見える。ゆっくりと手を放して見せた目は僅かに潤んでいたが、それでも笑っていた。

 

「良かった。……笑ってくれた」

「え?」

 

 イルゼは初めてアキラと会って、警戒心が強く出ていた自分自身を落ち着かせてくれた時の事を思い出していた。気持ちが沈んだ時はこうやって笑顔になれる方が良いという事を、身をもって教えてくれたんだ。

 それはアキラ自身も感じ取ったのだろう。自分がイルゼに対してしてあげられた事を、思い出していた

 

「ぁー……ははは。ありがとなイルゼ」

「……ふふ。笑顔の大切さ、アキラに教わったんだから。こんな世界ででも。こんな残酷な世界ででも、笑顔があれば 笑顔でいられれば 前に進めるって。……生きられるって。最後の瞬間まで、きっと生きられるって」

 

 イルゼの姿をじっと見た後――、アキラは1段階増した笑顔を見せたのだった。

 

 そして一頻り笑った後はアキラはゆっくりと立ち上がった。

 

「よし、もうウジウジとするのは、もう止める事にするか。 かれこれ、終わってからずっとだったし。それに……あの2人が条件をのんでくれたんだしな。いつまでも消えてたんじゃ流石に悪い」

「ぅ……、ほんとは私がソレを約束してた筈なのに……ごめん」

「いやいや、仕様がないって。先に2人に見つかったんだから。イルゼと2人で戻ってくれてたら、いけたかもだけどな」

 

 

 そう、条件を付けたのは『手伝う代わりに身分を作って』と言うものだ。

 

 

――自分が何故この世界に落とされたのか? そして その理由次第ででは戻れるのか?

 

 

 考えなかったと言えばウソになる。だが戻れるのか? と言う疑問だけは自分の中で結論は出ていた。以前の世界では……死んだのだ。

 

『死んだ世界に戻る』

 

 そんな事になれば、この世界以上に面倒な事になりかねない。色々と生前ではあったのだが、これと言った悔いは無かった。面倒を見てくれていた警察の柏崎には少々あるのだがそれ以上のものはなかった。だから、戻る必要は無いとアキラは思っている。

 そもそも自分で今後を決められるのかどうかは甚だ疑問だ。超常的な現象だから。

 

 

「んー違和感は多少はあると思うけど……出身とか身分とかテキトウに繕ってくれるのはやっぱ有り難い。色々こき使われそうだが……、まぁ それは生前の行いの悪さ、って事にしとく」

「……アキラの事は信じてるし、信頼してるけど、やっぱり納得できない。アキラは優しいし、と、とても良い人だよ!」

「あー…… んーと、それも仕方ないのかなぁ。意識してる訳じゃないんだけど。良い人ってヤツ。それにまぁ 何だか知らんが前の記憶がそのまま持ってるのに、客観的に()の自分自身を視れるんだよなぁ。どんなヤツなのかって。……どー繕っても良い奴には見えん」

 

 暴力沙汰、盗みや窃盗。

 数なんか数えられない程警察には世話になっている。未成年だったからまだ多少は良かったのかもしれない。それでも以前の世界で生きていれば一生 刑務所と付き合っていく事になるのは目に見えていた。

 

 頭をぽりぽりと掻いていたその時、イルゼはアキラの両頬を手で挟み込んだ。

 

「じゃ、じゃあ! 今のアキラは新生アキラ! 前の事全部チャラだって事にしようっ! 今のアキラと前のアキラは別人っ! よって私は今のアキラしか知らないから。良いアキラしか知らないから。それで!」

 

 二つのアキラ? を纏めて見て受け入れる……と言うのが一番の理想だとイルゼは思っていたんだが、以前のアキラの事はどうしても知りようがない。この世界の記録など残っている訳ないし、憲兵(この世界で言う警察?)達に世話になった。捕まった。と言う記録も当然ない。

 以前の出来事は全てアキラの口頭だけだから信憑性も薄い(嘘を言っている様には見えないが)。

 

 だから今 目の前のアキラしか見ない事に決めたのだ。

 

「んっ……」

 

 アキラは、イルゼの手を右手でそっと撫でた。

 

「っ……!」

 

 その仕草に また、ドキッ! として離そうとしかけたイルゼだったが何とか堪えた。

 

「……だな。身分も貰うんだし。そうしようか。新生ね。 よくよく考えたら死んだ時結構痛かったかもしれんから。罰と言うならそれで十分か」

 

 アキラはそのまま、イルゼの方を向いた。

 

「ありがとな」

「こちらこそだよ。アキラは命の恩人なんだから。笑顔に戻ってくれて嬉しい」

「そっか。よし 詫びと言っちゃなんだが、速攻で下に戻してやるよ。昇ってくるの結構しんどい、って言ってたし」

「……へ?」

 

 それ以上はアキラは何も言わず イルゼの身体をお姫様だっこ。

 

 その事事態には、顔が紅潮してしまう思いだったがすぐに顔が真っ青になってしまったりする。

 

 あろう事かアキラさんは、この50m程はあろう巨大な壁からダイブしたのだ。

 

 

 

『いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

 

 

 と響き渡るイルゼの絶叫が町の空に響いていた。それだけでも大騒ぎをしそうだったのだが……、何処となくギャグっぽい叫びだったからなのだろうか 町は平穏。騒ぎにはならなかった。

 

 アキラは時折壁に手を付けて落下速度を減速させては離し、速度が増したらまた手を付けて、を繰り返して無事下へ到着。

 

 立体機動装置も確かに速い。アンカーの初速も鉄砲の弾丸か? と思える程早く収縮速度も速いから空を飛んでるんではないか? と思えるのだが やっぱり操作してアンカーを出して、とそれらの間でタイムラグが発生するからアキラの取った方法がやっぱり一番早かった。

 

 早く下に戻れたのは確かだが、勿論イルゼは暫く足が震えまくり 動けず真っ青。アキラが『気持ちよかったろ?』と笑顔をみせたら、今度は笑顔を返さずに、その顔面にパンチをくらわすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな2人を影から見ている者がいた。

 ずっと、壁の上にいる時からずっと見ていたのだ。……いや 監視をしていたというのが正しい。

 

 

「―――アイツ(・・・)を、どう見る?」

「一言で言えば 化け物だ」

 

 アキラの取った行動もそうだし、巨人を捕獲する作戦に対してもそうだった。

 

 捕獲と駆除とでは難易度が違う。捕らえた後に運び出す作業も加わるから更にだ。

 

 そして、その間 他の巨人が黙ってみている事もない。

 

 捕獲対象の巨人が1~2体くらいで その周辺には殆どおらず、更に立体機動装置が使える雑木林などが一番理想だが、そんなに都合の良い事などなかなか起こりえないだろう。

 

 だが、今回の作戦で本当に上手くいったのは、紛れもなくあの男がいたからだ。

 

「リヴァイ。お前がアイツの世話をしてくれたおかげもあるがな」

「……あれは、骨が折れる作業だった。誰かを抱えて飛ぶ事は別に珍しくも無いが、長時間になるとな。……巨人を殺る方が余程楽だ」

 

 アキラはリヴァイに運ばれる形となった。

 馬に乗った事も無ければ立体機動装置も使った事がない。異常なまでの身体能力に任せて今の今まで暮らしてきただけだったから。 馬よりも早く走ったりは出来ないと言っていたから。

 

「だが 対巨人においては、化け物で無敵だ。巨人を素手でバラすなんざ 初めて見た。戦いで楽出来る何てことも初めてだったな」

 

 リヴァイは人類最強と呼ばれている兵士だ。その駆除した巨人の数は最早正確に判らない程。 リヴァイ自身は大してそこまで自画自賛をしている訳ではないが、自分の力量は、自分自身の強さには信頼していた。歴然たる結果と共に。だが、それ以上を本人が見た気がした。

 だからこそ、話をしたのだ。……もう1人絶大な信頼を寄せる男。団長エルヴィンに。

 

「今作戦での死者は……10人に満たない。部隊総数20、総勢100を超える規模で初の試みであるにも関わらずだ。奇跡 調査兵団始まって以来の前代未聞の成果だ。……勿論 運もあっただろう。遭遇率が低かった事もある。だが、アイツが切り開いた。……アキラの力は異常だが人類にとっては最早宝だ。一見すれば誰でもそう思う」

「そりゃオレらは、だろうが。あんな力持ったヤツを目の当たりにすりゃ 大抵の民衆はビビる。畏れ恐怖して 最悪吊るし上げられる、何てことにもなりかねぇだろ」

「……それも判っている。だが……もしも 巨人どもが壁を突破する様な日が。そんな悪夢が来たとするなら、彼の力を頼らざるを得ないだろう。それはリヴァイ。お前も同じだが」

 

 エルヴィンは、リヴァイの肩を叩く。

 

「人類の双璧はお前たちだ。……より自覚しろ」

「命令ならな」

 

 リヴァイは、アキラの方を見た。

 まだ イルゼに叩かれている。

 

「……オレはアイツみたいにはなれそうにないがな」

「ならなくて良い。……リヴァイには持ってない物をアキラは持っている。それだけだ。逆にアキラの持たない物をリヴァイ、お前は持っている。補っていけば敵無しだ」

 

 エルヴィンは、当然アキラの心境の変化は見逃さなかった。

 

 嘘か誠か、アキラの事の真偽に対して調査する時間もなく、ハンジとリヴァイの進言で参加をさせ、そして結果を残した。

 

 あれが全て本当なのであれば、アキラの心情は理解できる。人の死に初めて対面すれば、それも巨人に喰い殺される所を見てしまえば、心が壊れてもおかしくないから。それも平和な世界から、ここへと来たのであれば尚更だ。

 

「……1年後に会えた事が僥倖だったのかもしれんな」

 

 イルゼと共に過ごした期間が1年。もっと早かったのなら……、もっと早くに見ていたとすれば、もっともっと時間がかかっていた可能性が高い。1年と言う期間で多少なりとも順応をする事が出来たのだろう。 巨人を何体も見たという事も。

 

「アキラの条件だが、願ったりかなったりだ。……調査兵団に抱き込む。異論はないな?」

「オレとハンジがアイツの条件を呑んだんだ。ある訳ない」

 

 そして、2人がこの場から移動をしたと殆ど同時に、リヴァイとエルヴィンも姿を消していたのだった。

 

 




センチメンタルなアキラだった。

そして 間違ってしまったのですが、この時点で 壁はまだ壊されてないのでエルヴィンではなく団長はキースでした……が、このまま進行しようか。。

予定より早く引退したという事に。(無理矢理)
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