目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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70話 ロッド・レイス

 

 

 

 

この世に――オレより強ぇヤツがいるなんて思いもしてなかった。

だが、違った。狭い世界で吠えているだけに過ぎなかった。

壁の中が狭すぎたんだ。きっと強いヤツなんて多分五万といるんだろう。

 

 

その栄えある第1号が、ウーリと言う名の……友だった。

見た事の無かった巨人の力を操り、文字通り見た通りオレ自身を握りつぶそうとしやがった。

つまり、圧倒的な力を持つ者の前に、オレは屈した……と言う事だろう。あまりにも脆く、命乞いとは程遠い糞見てぇな台詞を口から喚き散らして、命が終わるその瞬間を恐れた。

 

暴力が己の全てだった。それを覆す巨大な力……巨人を前に。

 

 

だが、命が終わる事は無かったんだ。

 

 

巨人を操る力を持つ男ウーリ・レイス。

そいつは、この壁の中の真の王。

それ程までの力を持ちながら、下賤な男であるオレを、襲撃に来たオレを前にして、こうべを垂れやがったんだ。

 

 

全ては、オレ自身の性が、アッカーマンが原因だった。

アッカーマンと言う名の一族は、何故だか中央から、王政から、王から迫害を受け続けてきた。壁の中において、お天道様の下で歩く事なんてままならない事を運命づけられた腐った人生。

そんな世界で、暴力が全てだと血に飢え、力に飢え、本能の赴くままに暴れに暴れた。

その結果、巨人の力を前に成す術なく敗北し、結果レイス家の犬となった。

 

随分と格好悪い結果ではあるが、実際な所満足はしていた。

 

それもこれも、ウーリと言う名の友人が出来たからだ。

 

 

「ケニー。この世界は遠からず、……そう遠くない未来必ず滅びるだろう」

 

 

絶対的な力を持つ壁の王。

いう事に大体間違いはないのだろう。

 

だが、オレの中ではもうそれは否定されている。

この世界が、この壁の中に滅びが来るなんて事はもう考えられなくなっている。

 

 

そう、想うようになったのはオレより強いヤツ第2号の存在。

 

 

「巨人を遥かに上回る絶対的な暴力を持つ野郎が、現れたんだよ。似たような思想、地平に立ってる。平和にしやがれ。ぶっ飛ばされたくなけりゃな、なんてほざき回ってやがる」

 

 

アキラ・オーガミと言うガキ。

いつも通りだ。レイス家の犬らしく、指示通りただこのガキを消すだけだった筈なのに、笑える程あっさり叩きのめされた。

 

ウーリと言う絶対的な力を目の当たりにしてからは、もう二度と驚く事なんざ、動揺する事なんざ無い、死を覚悟する事も無いって思っていたのに。まるで玩具のようにボンボンすっ飛ばされる。

 

でも、殺す気は一切ないのも解った。

 

立体起動装置を装備しているのが解っているから、宙にすっ飛ばすやり方を続けたんだろう。何度も投げられて、防がれて、襲った全員がもう立つ事も出来ない様になった時、オレは確かに視た。

 

アキラは、ウーリをも超える力を内包している、と。

巨人に比べりゃ、鼻糞みてぇに小さな体なのに、その身に内包する力は、その狂気は……ウーリの比じゃない、と。

 

きっと、こいつは死なねぇんだろう。

 

老いや病気とは無縁の存在だ。老いや病気と言うなら寧ろ、オレの方が先に死ぬ。

 

ウーリのように、別の誰かに受け継がせたりなんて事も無い。

 

 

 

 

「オレの連れぁ、この先もずっとずっとバケモンのまま、飯食って糞まき散らして生き続けんだろうなぁ」

「さっきから何わけわからん事ばっか喚いてんだよコラ。喧嘩売ってんのか? 売ってんなら買うぞ? おぉん??」

「かっはっは! オレぁてめぇに酔っちまってんだよ。今までも、これからもなぁ。だからもっと気分よくだべらせろや。……色々と思い出してんだしよ。それも肴に、やってんだからよぉ。最高の気分だ」

「おーおーそうか。こんクソ忙しい時にここきたってのに。んじゃオレいる必要ないな。ロッド・レイスを呼ぶからっつってたからここに来たんだが?」

 

 

 

場所はいつもの酒場。

少々違うのはいつもの喧騒が、あわただしさが嘘の様に静かだ、と言う事だろう。

だからこそ、ケニーの呟きが一言一句横でミルクを飲んでるアキラに届いた。だからこそ、色々と暴言を交えてくるので、少々苛立ったのだ。

アキラにとって、ケニーとはハンジに似た属性持ちだと言う事。少々方向性は違うかもしれないが、他人を息をするように煽ってくる人種だと言う事。リヴァイもある意味ではそうかもしれないが、一方的に毒を吐いてくる訳じゃないから、大分マシだろう。

 

 

「嘘は言ってねぇ。もうそこに居る」

 

 

ケニーは、指をさした。すると、それが合図だったかのように1人の男がバーの奥から現れ……アキラの隣に座った。

 

 

「はじめまして」

 

 

その男がロッド・レイスだと言う事はケニーが証言してくれるだろう。

そして、ロッド・レイスで間違いないのだと場の雰囲気で察したアキラは、会って開口一番、何をするかを最初から決めていた。

 

 

「うぐっっ!!!??」

 

 

まず速攻で片手で胸倉をつかみ上げる。

全速力で。知覚する暇も与えない。

文字通り持ち上げる。巨人をすっ飛ばす力だ。小太り気味の中年男を持ち上げる事なんか造作もないだろう。。

 

そのまま暫く窒息を与えた後、バーに顔面から叩きつけた。

ドカンっ、がしゃんっ、と盛大に壊してしまった。後で店主に詫びを入れておこう。

 

 

「がぁぁっ!!??」

 

 

その後は勿論、殺さない様に徹した。

巨人を殺すのは得意だが、人を殺したりは極力したく無い。

だから、限界ギリギリを見極めるのは、当初のアキラの目標でもあったんだ。

幾ら中央の連中が自分を殺そうとしているからと言って、自分もその輪の中に入るつもりは毛頭ない。

でも、人間の練習台が十分以上に向かってくるから、経験は積めた、と言うのは不幸中の幸い、とでも言っておこう。

ニンゲンの敵、と言うのは思いのほか少ないから。

仲間相手に、この練習は流石に無理だから。例え相手がハンジみたいなヤツだったとしても。

 

 

「ぐ……、き、キミの怒りも、もっとも、だ。ぎかい、がきめた……とはいえ、わたしは、レイス王一族の、現在の、とうしゅ、なのだから」

 

 

ロッドは、この場に来る事が何を意味しているか、ある意味覚悟をしてきている。

ケニーがこのアキラと言う男を、ウーリ以上であると称するのなら、それはきっと正しい。

暴力の中で暴力だけを生き甲斐とし、生き残ってきた男の1人なのだから。

 

ロッドにとって、ウーリとは神。

厳密にはウーリが神なのではなく、その力を継承した者は等しく神となる。

巨人の力を意のままに操り、その頂点に立つ存在こそが神だと疑う余地もない。

 

 

 

だが、その神をも上回ると言われたら……、神をも滅ぼす悪魔が現れたと言うのなら……、最早何も出来ない。抗う事さえ、全てが無意味だろう。

 

 

「おい、おっさん。オレが、狂犬どもを差し向けてきたからキレてる、とでも思ってんのか?」

 

 

そんなアキラは、ロッドを一瞥すると、心外そうに顔を歪めながら……再び持ち上げた。

今度は、互いの目線が合う高さに。

 

 

「決めたのは、ぎかいである、が……これいじょう、いいわけは、しない」

「あ? オレが言った意味わかってんの? ケニー含めた、中央の人殺し集団を差し向けてきた事にキレてるとでも思ってんのか? っつってんだが」

「………違う、とでもいうのか?」

 

 

額が切れて血を流し、打撲跡が顔面の至る所から出ている。それなりに苦痛を感じているだろうが、それに意に介す事なく、本当に純粋な疑問を浮かべる形で、ロッドは聞き返した。

 

アキラは、軽く息を吐くと―――もう一度目を見て言った。

 

 

「クリスタの生い立ちを聞いた。その件に関してだボケ。悲惨極まる最悪の生き方。オレぁ感情移入しやすい性質でな。単純に。それを聞いて、聞いた瞬間元凶がムカついて仕方が無かった。だから会えるっつーなら取り合えず、アイツの分も含めて一発殴ってやろう、って思ってただけだ。……まぁ、殴ったら死んじまうから、殺さねぇ程度に殺すって決めてた。―――アイツは、オレの可愛い、大事な教え子だ。だから親だろうが何だろうが、知るか」

 

 

 

今度は強引に席に座らせる。

ひょっとしたら尾てい骨の1つや2つ、折れたかもしれないがお構いなく。

 

 

 

「因みに、クリスタから許可ぁ貰ってる。ここのケニーが、デリカシーなく全部ペラペラしゃべってくれたからな。モンスターティーチャー爆誕だよここに。あ、後償う気があるなら無条件で協力して貰うぞ。今まで中央で踏ん反りかえってたヤツ、全員クビな。洗脳しちまってる連中も、徐々に解けつつあるが、なんとかしろ。黙秘権も拒否権も無ぇ。何なら、仕事終わるまで日照権も無ぇ」

「………したがおう」

「黙秘も拒否も無ぇなら、償う気とやらも必要無ぇな。今日まで、しっかり日光浴びてたか? 暫くお預けになりそうだぜロッド」

 

 

ここまでやって漸くロッドを開放する。

ケニーはただただ、笑っていた。

 

 

「それにしてもてめぇみてぇな()がもっといりゃ、壁ん中に楽園っつぅウーリの願いも、とっとと叶ってたかも知れねぇな。いや、甘ちゃん優柔不断童貞野郎で群がっちまったら、壁ん中のかじ取りなんざ無理か? いやいや、ガキ拵えてんだから、童貞は無理あるか?」

「喧しいわ酔っ払い」

 

 

くっくっく、と愉快そうに笑うのをやめない。

 

 

 

――どうやら、オレぁ……お前が見てた景色を見る事は出来ねぇらしい。……でもな。

 

 

 

もう一度、酒を呷る。

 

 

 

――お前が見たがってた景色(・・・・・・・・)ってヤツを……見る事は出来そうだ。お前の代わりに、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

革命を成功させた後の事。

エルヴィンやピクシス、ナイル、ザックレーらが中心となって奮闘してくれた。

王亡きあとの民衆をどう導いていくか。頭数は揃っているから、良い方向に流れてくれる事だろう。……多分。

 

 

それにしても、レイス家の現当主であるロッドが完全陥落したことを知った時の、連中の顔は、まさに爽快の一言。アキラの事を悪魔と連呼し、堂々と殺すべきだと喚いていたと言うのに、あっさりと陥落して最後は命乞いをした。

ある程度留飲下がったアキラは、正直面倒くさい。何ならもう顔も見たくない、と色々放棄。

そこで嬉々と名乗りを上げたザックレーがある程度の罰は必要だ、皆に色々と建前を進言し、……そして密室で何やら行われた様だがそこはザックレー以外は関与しない事となった。何だか、しわしわな顔が、その肌艶が輝いていた様に見えたのは……きっと気のせいだろう。

 

 

巨人の秘密を知る者たちは、等しく知っていた。

超大型、獣、鎧、女型……、そしてその他大勢の巨人の中でも頂点に位置する存在。

 

《始祖の巨人》の事に関しても。

 

 

聞き出せたから全てを解明できた、と言うには早計だろう。

始祖の力を持つ者が説明をしてくれた訳じゃないから。

 

それでもエルヴィンは、確証とそれに見合う証拠を掴み、軈てケニーと言う最大の情報元を得て、漸く辿り着いたと言うのに、生まれの違いだけで、簡単に答えを知っている連中は、自分が生まれた瞬間から偉いと思っている連中は、ここまで醜いモノなのか、と唾棄する思いでいっぱいだ。

 

 

 

 

でも、その一端を……この日知る事になる。

それは恐らく知りたくなかった新たな事実。

 

 

 

 

 

「ロッド。間違いないんだな? この期に及んで、デマ吹きたい、って訳じゃないんだな?」

「………間違いは、無い。嘘をつく理由も、もう私には無い。レイス家は一晩で滅ぼされた。エレン・イェーガーの父親、グリシャ・イェーガーに」

 

 

 

長らく行方不明とされてきたエレンの父親について。

エレンの巨人化の謎を解き明かす事になった時点で、もうこの事実からは逃れられなかった。

 

 

「エレンや、ヒストリアには……秘密にしておくかい?」

「………アイツらは、調査兵団だ」

 

 

重すぎるその事実を、アキラの身の内だけに留める……訳にはいかない。

調査兵団の性とでも言うべきか、未知を求めて、真実を求めて壁の外へと飛びたつ者が、求めない訳がない。

 

そして、それは知るべきものだと、アキラ自身も思ってしまったから。

 

 

 

「口で言っても、簡単には信じないだろ? 殺す理由だって解らん。……まぁ、オレが知らんだけだが」

「……口で、言う必要もない。恐らく、私が触れるだけで良い。……彼に、触れるだけで、ヒストリアと私が触れるだけで、その記憶の扉は開かれる。試した訳じゃないから、確実とは言い難いが」

 

 

 

エレンならば、恐らく記憶が伝わる。

ロッドからそれを告げられると、アキラは動き始める。

 

 

エルヴィンやリヴァイ、ハンジらにも報連相は大事、と情報共有はするが……恐らく答えは皆一緒。時間をかけても、きっと無意味だろう。

 

 

 

「……ったく、心置きなく、後顧の憂いを立って外の巨人(・・・・)と決戦。……になるもんだとばかり思ってたんだがな」

 

 

 

世の中簡単でも、単純でもないな、とアキラは苦虫をかみつぶした様に笑った。

 

その後は、アキラの表情が変わった事など、簡単に見破られた。主に女性陣は非常に敏感だ。

イルゼやペトラは勿論、あのアニでさえも。

 

 

非情で残酷な現実を、教え子らに教えなければならないなんて、どんな拷問だ? と思わず笑う。

 

この世界は最初から残酷だという事くらい……とっくの昔から知っていた筈だろ、と言い聞かせながら。

 

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