「―――また此処か」
これまでにも何度か見た事のある光景―――別の世界。
何処までも続いている地平線、その先には大きな大きな光の木が聳え立っている。見るたびに思うが、この木何の木? と聞かれ、命名権を貰えると言うのなら……こう名付けようと思う。
「世界樹……ってか?」
馴染みのある神々しい木の名と言えば……真っ先にその名が浮かんで口に出す。
すると―――突然何かが現れた気配を感じた。
「アレは
そして、気づけばその気配は隣にまでやってきた。
気付けば隣り合わせで座っていた。まるで最初からいたかの様に。
普通ならば一気に警戒しそうなものだが、不思議とそう言う気はさらさら起きない。
……誰に話しかけられたか、解っていたから。
「――この世界にきて、話しかけられたのなんて初めてだ。なぁ? ●●●」
そして、言うようにこの世界で誰かに話しかけられる事は無かった。
例外的に言えば、この世界に連れてきた張本人……例の神様的な存在には話しかけられた事があるが、それ以外では初めてだった。
「やはり、貴方は………異端だ。同じ血が通ってない筈なのに、●●●●●人にしか繋がらないこの【道】に―――【世界樹の場】に足を踏み入れている。貴方がこの世のものではない、と改めて認識します」
地平線の先を眺めながら、砂のような物をかき集めて1つの山を作った。
「――ああ。そりゃそうだ。この世のモノじゃ無ぇよオレは。言わばこの世界にとっちゃ異物みたいなモンだ」
そういうと、この世界の空を見上げながら……つづけた。
昔話を聞かせる様に。
「むかしむかし、天涯孤独と開き直って色々とイキって、手の付けられない札付きの悪ガキになってたヤツがいた。そいつは周囲に迷惑ばっかりかけて暴れて、当然周囲からも腫物扱いだった。……そんなどうしようもないヤツが、ある日何を思ったのかガラにもなく小さな子供を助ける為に無茶をした。……その結果、死んでしまった。……んで、魂だか何だかで彷徨ってたら、妙なヤツに捕まって連れてこられた」
そして初めて巨人に相対し、この世界での人間とも出会い……色々と積み重ねてきて今がある。
「―――そいつの気まぐれなのかはたまた呼ばれたのかは知らん。……んで、成り行きでここでも人助けをする事になった。気付いたらオレの手には力が握られてたから、出来た。なんてことない。スゲー力をやるから、後は自分が好き勝手に生きろって言われた結果だ。……ったく、ほんっと無責任なもんだよなぁ」
声に応じてなのか、大きな大きな木が、一際強い輝きを放つ。
すると、大きな一本の木だった筈なのに、まるでピントがズレた様にブレ、軈て二つに分かれた。
「貴方の言うその無責任な行いのおかげで……、オレたちの住む世界が救われる。だからこそ、オレは心より貴方に感謝をしたい」
「ははっ。なるほど感謝か。そればっかりは何度言われても嬉しいね。……こんな場所じゃなけりゃ、一緒に一杯やりたい気分になってくる。……これ絶対ケニーの馬鹿の影響だろ。そんな飲むようなキャラじゃなかったんだが」
「貴方のおかげなんだ……」
●●●は、砂を一掴みすると……勢いに任せて地面に叩きつけた。
すると、まるで全ての大地が壊れた、抉れたような光景が広がった。
巨大なナニカに踏みつぶされたような跡。
それは大地だけに限らない。人も街も動物も森も……何もかもが潰れ、そして赤く染まっていった。
「これがオレが齎した景色」
「…………」
血濡れの大地。それは一体何人分のモノだろうか……最早数える事なんて敵わないだろう。何もかもが潰れてしまっているのだから。
「理解なんか、出来ないでしょうね」
「そりゃ、オレは
「仮に、知ったとしても……貴方はきっと理解しがたい。仮に、貴方が
殺戮の大地を見つめながら……続ける。
「……ただ、オレは全てを平らにしたかった。どうしようもなく、ただこの世の全てを平らにしたかったんです。でも、今は違う。……
死肉で肥え太った蛆虫が大地を埋め尽くす。まるで大地そのものが蠢いているかのよう。
世界の真の支配者は虫である、と言えるような光景である。地獄があるならここの事を言うのだろう、そんな世界。
でも、こうはならない、とも言っている。
「生理的に無理だ。なんだこの蛆大陸」
巨人は散々拳で屠ってきたが……虫の大群が相手……となったら寒気が凄まじい。別に苦手だった訳じゃないんだが……、この光景を見て苦手になった。
苦手だからこそ……絶対にさせたくない、と強く想った。
それを感じ取ったのだろう、笑みを浮かべながら更に続ける。
「……貴方なら単独でオレのやりたかった事、平らにする事くらいやってしまえそうな気がしますね。ただ、やらないだけでその気になれば人類を滅ぼす事だって出来るって」
「人を核兵器みたいに言わないでくれ。誰も残らない大地作れたとして、なんでそんな事せにゃならん。……今のオレぁ孤独が一番嫌いだ。………もう、一番嫌いになっちまったんだからよ」
同じ様に、砂を一掴みして叩きつけるのではなく振りまくように投げた。
すると―――虫たちの世界はあっという間に終焉を迎え、元通りの大地が生まれる。
その世界には酒場があり、食堂があり、バカ騒ぎも聞こえてくるかのようだ。
「あんな感じで、いつまでも馬鹿やって騒いで、怒られて怒って、時には喧嘩して……そうやって馬鹿しあっていきたい、ってなもんだ。これ以上、誰も欠ける事なく……な。こんなささやかな願いなのに、それがまたメチャクチャ難しい。あまりにも残酷で、ひでぇ世界だよ全く」
その答えを聞いて軽く笑う。
そして立ち上がった。
再び形成された世界を見ながら告げた。
「―――もう、オレは平らにしたいとは思わないし、思えない。……
この時初めて男の身体を見た。
その身体は半透明になっていて、徐々にゆっくりと下半身から消えていっている様に見える。
「………ここのお前は、お前たちはこの先どうなる?」
その問いに対しての返答は、清々しい笑みだった。
「さぁ? ハッキリとは解りません。それこそ神のみぞ知る、と言う所かと。……ただ、他の皆はオレの様に自我が残ってない分幸せだと思ってる。……消えたいなんて思うヤツいない筈だから。……だから消えてしまうと言う恐怖を背負うのはオレだけで良い。それだけの事を、オレはしたんだから。……
二つに分かれた木が――――再び一つになった瞬間、強烈な光が周囲を照らす。
影すら残さず白く染め上げていく。
「――――ああ、最後に……最後に1つだけ……いわせてください……」
●●●の姿も完全に掻き消えた所で……微かに聞こえてきた。
「母さんを救ってくれて―――――――――ありがとう」
□□ 酒場 □□
アキラがロッドを死なない程度にぶっ飛ばした数日後。
「「ッッ!!!?」」
同じ酒場にエレンとヒストリアは、アキラとロッド、ついでにケニー立会の元記憶の確認をしていた。
やり方は単純明快。
ロッドが説明をした通り、エレンがヒストリアの身体に触れるだけで扉は開かれる。どう言う理屈なのかは誰にも説明が出来ないが、エレンの中に宿っている巨人の力が、王家の血筋に反応してなんたらかんたら……らしい。
「見たかい? エレン・イェーガー。……君の父親、グリシャ・イェーガーが
悲痛な面持ちのロッド。
エレンの見た記憶は、ロッドが経験してきた事でもあるからだ。
あの日の光景を、はっきりと覚えている。
そして、その記憶の全てを―――覚えている全てをもう話をしてしまっている。
敗北を認めた相手。……直ぐ隣にいる人類の超越者へ。
「何か、何か解らない単語ばかりで……、一体なんなんですか、えるでぃあじん? 壁の外からきた……? 誰かと話をして……、え? 親父は一体何を……!? ッッ!!」
エレンはロッドの問に対し、何も答えない。
ただただ混乱している様に頭を掻きむしる。あまりの情報量に完全に身体が、精神がついていかないのだろうか。
だが、ヒストリアにはそういった副作用のような物はない。彼女はただ触られるだけだから異性に触られて不快!! と思うかもしれないが、それ以上は何もないのだから。
ただ、今回の件はヒストリアにとっても極めて重要な事。
「エレン。早く私にも説明をして。……お父さんが、ロッド・レイスが言ってた。エレンが、フリーダ姉さんが何処に行ったのか……エレンが教えてくれるって。私に触れれば記憶が開くって。ねぇ? 姉さんは何処にいったの? エレン」
「ッ……」
ヒストリアはエレンの身体を揺さぶる。
行方不明の姉について……エレンが教えてくれるとロッドから聞いていたから。
だが、当のエレンはただただ頭を掻きむしるだけだった。
「まってくれクリスタ。わ、解らないんだ。断片的過ぎて、なんだかノイズのようなのが頭の中に走って……、全てが消えてしまって……、と、兎に角解らないんだ。あ――――!」
エレンは目を見開き、大量の汗を流しながらもアキラの方を見て言った。
「きょ、教官! これ、これは一体……、な、なんなんですか……!? ッッ、お、オレの記憶じゃない。他のだれかの―――――ッッ!!?」
“ズキンッッ!!”
エレンは強烈な痛みに襲われ、思わず頭を打ち付けた。
次に見たのは……悪夢の光景。
何故だろうか、自分の視点で……人間を襲おうとしている光景。
嘗て、巨人化をした結果、暴走をしてしまった事は何度かあるのだが、あの時の記憶ではない、と直ぐに解った。
見覚えのある風景。忘れる訳もない。
この家々……、そして何より壊れ逝く街の姿。それは嘗ての自分の故郷……ウォール・マリアのシガンシナ区。
自身の視点の中に握られているのは……最愛の母の姿。
そして、視界の端では嘗ての自分の姿が視える。ミカサの姿も。
ハンネスに抱えられて、何も出来ず抗う事も出来ず、ただただ手を伸ばして母を呼び続けている。
自分の原点。
巨人を駆逐する。この世から全て、一匹残らず駆逐すると強く決意した自分の原点がここに合った。
ただ、絶対的に違うのは今の自分自身の姿。
憎き仇の姿をしているのだ。
このまま、母を殺すのか?
自分が、母親を食い殺すと言うのか?
気が狂いそうになる寸前に―――それは起った。
強烈な衝撃と轟音。
そこにあるべき肉が爆発したかの様に抉れ、腕は捥がれ、身体は吹き飛ばされた。
母は食われずに済んだ。
巨人は腕を消し飛ばされ、その手に握られていた母は、解放された。
そして薄れゆく視界の中で確かに視た。
自由を求める象徴、あの翼を背負った男の姿を………。