目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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72話 あの日の真実

あの日の事は……今でも鮮明に覚えている。

 

 

シガンシナ区を全力でかけ回った。仲間の制止を振り切って街をかけた。

巨人を潰して回った。目に映る人は全部助けると言う気概を持って。最短で最速に走り続ける。地獄と化したこの街の住人を救う為に。

 

でも現実はあまりにも残酷だった。

 

 

知性の無い巨人の筈なのに、まるで穴をあける事が解っていたかのように見計らったかのように集まっている無数の巨人。普段壁の上から見れば精々数匹程度しかいない筈なのにだ。

加えて、壁を壊した時の破片が散弾の様に飛び散り、家々を破壊していた事もそう。巨人に喰われて絶命するよりは或いは幸せだったと言えるのかもしれないが。

 

 

助ける事と、巨人を全滅させる事の同時進行は不可能だと突きつけられた。

これまではいくらかかってきても全て殺せると思っていたのに、対処できると思っていたのに。

でも嘆く暇はない。ただ人を助ける事だけに集中した。

 

 

巨人の襲撃から助ける事が出来た生存者は殆どが重傷者でまともに動ける者はおらず、重症に加えて精神的に錯乱している者も居て二次被害を被っていた。巨人に殺されるかパニックになって死ぬか。全てを救いたいと願う気持ちは、強欲で傲慢である事だと突きつけられた。

 

 

軈て力の奔流に呑まれる。遠征から帰ってきて直ぐに更に動いたから、直ぐに戦ったから……この内に住まう黒いナニカがまるで暴れ出した。

 

 

――――制限時間が、本当の意味での活動制限が過ぎるのはもうあと少し。

 

 

自分の身体なのに、未だ乗りこなせていない事にイラつく。

以前の訓練でリヴァイやハンジに色々と奇異な目で視られたり、実験したいとか言われたりして、拒絶する様に喚いていたが……そんな事をする位なら、もっともっと回数を熟して扱えるようになり、効率よく動けるようにすべきだった、と今になって後悔してしまう。

 

視界の中で1人、また1人と人が喰われて殺されていく場面を見る度に思う。

 

1人助けている間に、違う場所で10人が殺される。

1人運ぼうとする間に、違う場所で20人は喰われる。

 

 

何故、纏めてかかってきてくれないのか、吼える。何故弱い人間を襲うのか。

かかってきてくれたらどれだけ助かるか。

全員が15m級ならどれだけ楽に巨人を発見できるか。中途半端に小さく名前矛盾している巨人がどうしてこうも厄介なのか。

 

 

ここに強い人間が居る。喰いたくても喰えない、勝てない人間が居る。

喰ってみろよ。そのデカい口で、デカい腕で殺しに来てみろよ。

 

もう、助けるよりも巨人を殺す方を意識した方が良いのではないか、と思い始める。

 

 

そんな時、視界の中で子供2人が、食い殺されたのを見た。

姉、だろうか……。懸命に助けようとしていた所を、無慈悲に握りつぶしたところを見た。

 

 

ブチンッ……。

 

 

ナニカが切れた音を聞いた。

 

 

―――もう、いい。

 

 

呑まれても良い。

全てを、全ての巨人を……怒りのままに。

 

 

―――……駆逐、してやる。

 

 

死者の数をもう数えなくなった頃。

悲鳴が少なくなってきた感じがした頃。

力の奔流に身を任せて全てを壊してやる、とナニカを身にまとうイメージをさせたその時だった。

 

 

 

カルラ・イェーガーを発見したのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あ、ああ、あ」

 

 

 

何処から何処までが現実なのかが、解らない。

ただ、エレンの中に今までにない感情が沸々と湧き上がってくるのを感じた。

 

幼きあの日に誓った。

巨人をこの世から駆逐すると。

 

その怒りの源泉は、あの日――――母が食い殺された日。

 

だった筈、なんだ。

 

 

でも、まさか……。

 

 

―――かあさん、は……生きてる?

 

 

頭を抱えて蹲るエレン。

 

 

「お、おい。エレン大丈夫か!? おうコラ、ロッド! これ副作用とかあるんじゃねぇのか!? 大丈夫なんだろうな!?」

「すまない……。私にも理解が追いついていないんだ。何せ巨人の力に関しては全て知っていると言う訳じゃなく。……全てを知ったのは継承した弟のウーリ、そしてフリーダだったから」

「この役立たずの糞ジジイ!」

「ぐぇッッ」

 

 

取り合えずアキラはロッドに前蹴りを1つ入れる。

蹴っ飛ばされたロッドだが……、それも仕方ないと受け入れている様だった。

 

 

「クリスタ……じゃなくてヒストリア。悪いがこれまでだ。流石にこれ以上無茶やってエレンがやばい。……っつーか、これが切っ掛けで巨人化でもすりゃ、危ない」

 

 

ひょい、とエレンを担ぎ上げる。

 

 

「……で、でも。姉さんが………」

「…………正直、エレンの口から聞かせるのが正解なのか? って迷ってた。ロッドのヤツに血縁者であるエレンにもある種の責任がある、って言われたが、親は子の責任を持つべきだとしても、親の責任が子にある訳なんか無いんだ。……エレンが解らないのなら、もう自分の親父に聞いてくれ。エレンに聞くまでもない。あいつが全部知ってる」

 

 

くい、っと親指を立てる。

そこには倒れて起き上がろうとしているロッドの姿があった。

口で言うよりも、エレンが触る事によって記憶の扉が開く……、つまり実際に惨劇の舞台を巨人の力を媒体にしてみる事が出来るから、これ以上ない、と言っていたがエレンがこの調子じゃ無理だろう。何より気を失う前に、レイス家を皆殺しにした事実は言ってなかった筈だから。

 

 

「アキラ教官も? 知っていたんですか? 私には姉がいて………、その姉を探してるって」

「……聞いたよ全部。悪い。先に聞かせてもらった。正直、良い話じゃない。嫌な話だったから、最後の最後までヒストリアに聞かせるか悩んだ。そんで最終的に……」

 

 

アキラは自身の服に備わっている調査兵団である証、エンブレムを見た。

 

 

 

「知るべきだろう、って思った。エンブレム(こいつ)に後押しされた。だってオレたちは調査兵団だからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あきら、教官」

 

 

エレンの声が聞こえてくる。

どうやら、気が付いた様だ。

 

 

「わりぃ。こんな副作用があるなんて知らんかった。ロッドに言われたとはいえ、オレにも責任が……」

 

 

そこまで言うと同時にエレンが肩を強くつかむ。

弱弱しいとさえ思っていたあの時とは全く違った。

 

 

「お、しえて…… くだ、さい。かあさんは、オレの、かあさん……は?」

「あん? なんの話だ? かあさん?」

「ッ………。こ、こは?」

「ああ。シーナ内の拠点の1つでイルゼの班の連中がいる宿舎だ。取り合えず巨人化したらヤベーか? と思ったが、一応オレが傍にいるし、仲間の皆が居る方が安心だと思ってここに連れてきた」

 

 

扉を開けて、部屋の1つに到着。

イルゼの班所属のメンバーは誰もここには戻ってきていない様だ。王政の崩壊以降調査兵団としての仕事じゃないだろ? って思う様な仕事が兎に角多くなってきて、治安維持と言う意味でも皆に白羽の矢が回ってきているから現在も仕事中なのだろう。

 

ロッド・レイスが降伏した以上、憲兵団。つまり国の中枢の連中が暴動を起こす事は無いだろうと思うが、それでもある程度は起きても仕方ないので落ち着くまでもう少し時間はかかるだろう。

 

内部の憂いを絶って……ここから外の巨人らと対峙する。後方を気にしたり、後ろから刺されるような真似が起きたりするのは面白くない。

 

 

「さて」

 

 

エレンをソファに座らせて、アキラは対面する形で椅子に腰かける。

 

 

「聞きたい事あるなら何でも聞け。オレに解る事なら答える。誤魔化したり隠したりはせん。エレンみたいにトンデモ経験(・・・・・・)ならオレもしてきてるから、答えられる事があるかもしれん」

「………ミカサ、は?」

「ミカサ? ああ。アイツは多分イルゼと一緒だろ。町の治安維持にあたってると思う。……まぁ、アイツらがひと睨みすりゃ、大体大人しくなるだろ」

 

 

純粋な体術、身体能力を鑑みればミカサが最強だが、イルゼも決して劣っているとは言えない。彼女もまた隣に立つ(・・・・)為に己を鍛え上げ続け、班を任されてからも模範になろうとすると同時に、兎に角鍛えている。

調査兵団所属の女性陣はあまりにも強い。中央で踏ん反りかえってた連中や裏で人殺しを生業としてきた連中らだとしても遅れはとらないだろう。その辺りは、生業の元長ケニーが保証していた。

 

 

「ミカサが帰ってきたら………、アイツと一緒に、聞きたいです。良い、ですか?」

「??? それは構わないが、今じゃなくて良いのか?」

「良いんです。………アキラ、教官」

 

 

アキラは、次のエレンの言葉を聞いて目を見開く事になる。

聞き覚えのある、台詞だったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「母さんを救ってくれて、ありがとうございました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エレンもミカサも眠ったみたい」

「そっか。……大変なのはこれからだし、何ならアイツら戦線離脱させても―――」

「いや、それは断られたよ。私も散々言ったんだけどね? ……あの人、カルラさんって言ったっけ? ……あの時、巨人に殺される直前だったから、記憶障害が残ってて、エレンやミカサみたらもしかして……って思ってたけど、まだまだアキラくらいにしか心開いて無いから」

 

 

エレンの母親は以前シガンシナでアキラが助けた内の1人にいた事が判明した。

だが、本人からの自己申告で身分が解るような状態だった為、記憶障害を抱えた彼女を《カルラ・イェーガー》である、と言う証明が一切できなかったのだ。

そういう人は無数にいて、全員身体的なケアは出来ても、そっち方面にはまだ手が足りてない。

 

住民一覧表みたいなのは全くなくて今も放棄されたシガンシナに残っているとの事だし、正直あまり重要視もされてなかったからそういう任務も無かった。外を自由に行き来出来る調査兵団とはいえ、やる事に優先順位をつける。

故郷に戻りたい、と言う願いを持つ者も居たが……やはり早々聞き入れられる物ではないのだ。

 

もう忘れがちになるが、巨人の方が人類より圧倒的に強い。一部例外が蹴散らしてるだけなのだから。

 

 

「心開くっつーか、拝まれてたっつーか。オレ、あの人に神様扱いされてて大変だった記憶しかないなぁ……。まぁ、大分良くなったとはいっても、エレンらに会っても記憶は戻らないのか。……ったく、シガンシナ仕切ってた駐屯兵ら、マジで仕事してなかったんだな。名前と顔の一致全然できてなくて、あの人がエレンの親だって全くわからんかったぞ。もっと早くに会わせてやれれば……」

「ただでさえ、犠牲者が多かったからね……。仕方なかったと思うよ」

「……まぁ、解ってる」

 

 

その日の夜。

宿舎近くの酒場にて酒を一杯煽ってる2人が居た。

 

子供の頃……エレンは、ミカサは目の前で母親を失ったと思っていた。

それが強烈なトラウマとなり、強烈な憎しみに変り、今日にまで至っていた。……ミカサはエレンを守る為、母の願いを最後まで聞く為、と言う意味ではある程度受け入れていたのかもしれないが、エレンの方は違うだろう。その後の人生の全てを決めたと言っても良い。幼子にはあまりにも残酷な話だ。

 

もしも、直ぐに再会を果たす事が出来たなら……、また違った形の未来があったのかもしれない、と考えたらいたたまれない。

 

 

「エレンの巨人の力だって判明出来なかったかもしれないし、変な所で巨人化しちゃって大惨事。それこそ危険だって処分されちゃったかもしれない。……だって、シガンシナのあの後にアキラは疲労困憊で暫く眠っちゃったからね。……王政側からしたらやりたい放題の期間だった。………だから、私はこれで良いって思ってる。これからゆっくりと頑張っていけば良いんだよ。……生きていたら、なんだって出来るんだから」

「………そう、だな。そうだよな」

「うんそうそう。……アキラはまた救ってくれたの。何人も何人も救っちゃって……。変なのもたーーーくさんくっついてきて!!」

 

 

イルゼはぐいっっっ! と何故か語尾を強くするのと同時に酒を呷った。

 

 

「鈍感なのもいい加減にしてほしいけどね!!」

「ぐえっ!」

 

 

そして、アキラの首に腕を回す。

 

今日はペトラが、アニが居ないから……とこれでもか! とイルゼはアキラにべったり引っ付いた。

 

でも、そんな時間は長くは続かなかった。

 

 

「あん? なんだお前。今日はミルクじゃないのか?」

 

 

いつもの飲んだくれが入ってきたから。丁度3人になってしまったから。

 

 

「――――気分が良い時くらいは酒飲むのも悪くない」

「ほお」

「ああ、後ケニーに会ったら聞きたい事があったんだ。―――デコピンくらわして良いか?」

「はぁ?」

 

 

アキラは、空になった酒瓶の1つに軽くデコピンをした。

バギョンッッ!!

凡そ、軽くはじく~みたいな効果音とは思えない音が響き、そして粉々に破壊、粉砕された酒瓶が店の床に散らばる。

 

目を丸くさせるケニー。

そしてその後、イルゼが店主に平謝りして、アキラにゲンコツした。

 

 

「いてて……。それで? 返答は?」

「嫌に決まってんだろうが。死ぬわ!」

「そうか。残念だ。……まぁ、アニからの密告(告げ口)だけだから。ケニーの方からもちゃぁんと聞かねぇと、か」

「はぁ?」

 

 

アキラは事情を説明。

王都の街中歩いてたら急に背後取られて襲われそうになった――――らしい。

 

 

「教え子の背後取って何がしたかったんだ?」

「わけわからねぇよ。オレの歳考えろ。誰が好き好んでガキなんざ相手にするか」

「何とか父親譲りの蹴りで撃退したって」

「だーかーら……うん? 蹴り??」

 

 

ケニーは思い当たる事があるのか少しだけ考えるそぶりをして……、盛大なため息と共にドカッ、と座り込んだ。

 

 

「思い出した。アレはアニっつー名前……つーかメチャクチャ事実をじ曲げてるじゃねぇか。尾行(ストーキング)されたのはオレの方だ。こんなジジイ尾け回して何がしたかったのかまでは知らねぇがな」

 

 

ケニーは呆れつつ、酒を注いで当時の事を語った。

自分を誰かが尾行している事は技術がまだまだ拙かったから直ぐに気付いた。袋小路にでも追い込んで、裏を吐かせようとしたが……ご存じ、見事な回し蹴りで反撃されて、逃げられた。

 

 

「寧ろ蹴り殺されそうになったのはこっちだ、と言いたいがね。あん時のガキがまさかの女型の巨人、アニ・レオンハートかよ。粉みじんになる所だったじゃねぇか」

「日頃の行いってヤツじゃねぇの? お前だってオレ殺しに来てたろ。その気になってたら粉みじんにしてた」

「かっかっかっか。ちげぇねぇ。……ふぃ~~~それよりも、だ」

 

 

ケニーは一杯ひっかけるとアキラの方を見て言った。

 

 

 

アイツ(・・・)から聞いた。……そろそろ戦争おっぱじめるらしいな?」

 

 

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