目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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原作に到着。
今後オリ分が不足すると思われる。


9話

 

 

 破滅は突如起こった。

 

 

 

――ウォール・マリアの壁が……壊された?

 

 

 

 100年平和が続いた壁の街。

 

 その凶報は誰もが考えていなかった事だと言えるだろう。

 だが何処か、頭の片隅では恐れていた事でもあった。近年の技術的発展、戦術的発展もあって犠牲者が少なくなっていったとはいえ 何度も何度も巨人たちに殺され 時には重傷を負った調査兵団たちを見てきている。

 確かに民衆は平和ボケをしていたかもしれないし、何よりも街を覆う壁そのものよりも巨大な巨人が現れるなどと誰が予想出来るものだろうか。

 

「……おい、リヴァイ」

 

 街への帰還途中 調査兵団はその事実を知った。

 門を中心に高い壁全体に異常な蒸気の様なものが立ち上っている、様子がおかしいのは一目瞭然。何よりも自分達が潜る壁門が無残にも破壊されているのだから。

 

「ちっ……、アレを壊せる巨人(ヤツ)がいるとは誤算だった」

 

 流石のリヴァイも予想もしてなかった出来事が突如起こった事に、歯ぎしりをしていた。

 この時 疑問が浮かぶ。あの門を破壊するだけの強力な巨人がいるのであれば、間違いなく壁外調査の時に遭遇していてもおかしくない。比較的広範囲に展開して調査を進めてきていた。犠牲者を少数出しながらも、着実に進めていけた。

 

 なのにも関わらず、巨人はまるで調査兵団を素通りしたかの様に 街へと近づいて門を破壊してのけたのだ。

 

「(一体どうやって? だが、今は考えている暇はない。街中はパニックになってる筈。巨人相手に白兵戦は分が悪すぎる。……陣形を保ったまま街中に入るのは無理だ。時間は惜しいけど一度作戦を組み直さないと下手したら私達まで全滅する危険がある)」

 

 大小様々な大きさを持つ巨人たち。

 そして 街中は死角が多い。建物を上回る大きさの巨人であれば十分すぎる程目立っているからわかりやすいが、3~4m級の巨人であれば見逃す可能性が非常に高い。死角から襲われたら? 一撃でも受ければ人間は致命傷になる。そうなれば、死は免れない。

 

 ハンジはこれからの事を。作戦を必死に頭の中で描いていたその時だ。

 

「……先に行くぞ!」

 

 馬を降り、駆け出す者がいた。

 

「っっ!? ま、待て! アキラっ!!」

 

 ハンジの言葉を振り切る様に アキラは駆け出した。

 

 短い距離であれば、アキラの脚は馬の脚力をも上回る。それは 異常な力を脚に集中させることで、爆発的な脚力を生み出している為だ。一度大地を蹴ると地面が抉れ 砂埃が立ち上がる。

 

 その走法をアキラが編み出したのは イルゼとの1年間の生活の中でだった。

 短い時間とは言え、負傷しているイルゼを残して下に降りたのだから、なるべくすぐに帰る必要があった。……だからこそ編み出せた走法。異常な力を全て脚に集中させてただ走る、それだけだ。

 

 だが、それは調査兵団達と行動を共にする間には使用を禁じていた。アキラ自身だけでなく、リヴァイやエルヴィン団長も同じだった。大地が抉れれば 馬が走る時に支障が出る。砂埃が舞えば視界不良となり 事故につながる。更に言えば爆音が巨人を呼び寄せる事だってある。 だからこそ 緊急時以外使用しない、と制限をしたのだ。

 そして 今がまさに――緊急時だ。

 

「あ、アキラっっ!?」

 

 アキラを追おうとしたイルゼを止めるのはリヴァイ。

 

「止めろ。今アイツを追うのは無理だ。……判ってるだろ。こう言う時のアイツは周りが見えてる様で見えてねぇ。オレらの事は目に入らねぇよ。……何も捨てられねぇヤツだから 全部を守ろうとしちまうバカだからな」

 

 リヴァイの冷静な判断が イルゼの孤立。そして同じくイルゼと共に思わず飛び出そうとしてしまっていたぺトラの行動も止める事が出来た。

 

 まだまだ短い付き合いではあるが、こう言う時(・・・・・)彼がどういう行動をとるのか、はっきりと判りきっていた。

 

 それはハンジであっても、エルヴィン団長であっても、……直属の上司でもあるリヴァイであっても御しきれるものではない。初期行動は特に物理的にも止めるのは不可能だ。

 

『気付いたら消えてる。震天動地を起こしながら』

 

 比喩ぬきでそうだから。

 

 「リヴァイ。一度集まれ。体勢を整えてからアキラに続く。闇雲に突っ込んでは無駄な犠牲を出す」

「……ああ。無駄死にや犬死は嫌いだ。するのも、させるのもな。……勿論 アキラ(あのバカ)にもな」

 

 全員の話を聞いても まだアキラを心配するイルゼ。

 

「……大丈夫。アキラだから。下手につっこんだら 私達が足手まといになる。その結果……アキラに危害が及ぶかもしれない。だから 万全の体勢で助けに行こう」

「……うん」

 

 イルゼはぺトラに説得された。

 だけど――不安は尽きない。

 

 アキラの強さは誰よりも知っている。ハンジ分隊長やエルヴィン団長、そしてリヴァイ兵長よりも一番イルゼが知っている。

 

 初めてこの世界に降り立って最初に出会ったのがイルゼ。そして そこから1年もの時を共にしてきた。だからこそ 知っているのだ。

 

――圧倒的な力を持つ彼の……弱点(・・)も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アキラは走り続ける。

 

 無残にも破壊された門へ巨人どもが次々と向かっている。全員を相手にしてられる訳は無かった。

 

――目の前に映る人は 助けて見せる。

 

 それだけを考えていた。

 

 何よりあの街には世話になった人達が多い。色々と根回しをしてくれて受け入れて貰えた。沢山の人達が暮らしている街だ。

 

 多くの繋がりが出来た始まりの街でもあったから。

 

 

 

 

 そして、それは遡る事数秒前。……アキラが駆け出す数秒前の事。

 

 街には激震が走っていた。

 突如 蒸気と共にウォール・マリアの巨大な壁をも上回る大きさの超大型の巨人が現れたのだ。

 

 その巨人は街を大きな目で一瞥すると ゆっくりと、ゆっくりとした動作で右足を持ち上げ――そのまま蹴り抜いた。たった一撃で壁の門は粉々になり街中にその門の残骸である大きな壁の破片が吹き飛び 人々が暮らす街に降り注いだ。

 

 まるで天より降り注ぐ天災の様に。

 

「か……壁に…… 穴を空けられた………!?」

 

 誰かがそう呟いたと同時に、悲鳴が沸き起こった。

 今まで守っていた壁が今は無くなり人食いの巨人が群になって街に押し寄せてくる事が安易に連想出来たからだ。

 

 

「わあああああああ!!」

「きゃああああああ!!」

 

 

 我さきにと駆け出す住人達。

 もう、あの超大型の巨人を見る者は誰もいなかった。

 誰もが街の中心へ内地へと逃げる為に駆け出していた。

 

 その中でただ1人逆方向へと走る子供がいた。

 

「「エレン!??」」

 

 エレンと呼ばれる子供は 人波に逆らいながら走り続ける。それには理由があった。

 

「壁の……壁の破片が飛んでった先に家が!! 母さんが!!」

「!!」

 

 エレンが走る理由が判ったもう1人の子供も同じく走り出した。

 残されたのは更にもう1人の子供。その名はアルミン。

 

「ミカサっ……!! う、うう……」

 

 アルミンは エレンやミカサの様に走る事は出来なかった。 

 ただただ震える手を必死に抑える事しかできなかった。

 

「もう……駄目なんだ……、この街は……もう…… 無数の巨人に占領される!!」

 

 

 

 

 

 

 エレンとミカサの2人は走り続けた。

 大きな破片が 人々の身体を押しつぶしている場面。家を破壊している所。ついさっきまで平和だった筈の街が一瞬にして地獄に変わった所を見て 不安に掻き立てられていた。

 

 だが、それでも絶対に諦めなかった。

 

 

――家に当たってる訳がない……っ!

 

――とっくに、逃げたに決まってる……!!

 

――ほ、ほら、あの角を曲がれば……っ もうちょっと行けば……!!

 

――いつもの、いつもの……いつもの家が……!

 

 息が切れても、足が痛くても、巨人が怖くても走り続けた。

 家が 母親が無事であると信じて。

 

 だが 現実は…… この世界は残酷だった。

 

 いつもの角を、見慣れた街角を曲がればいつもの家がそこに在る筈だと思っていたのに。いつもの家は……無残にも破壊されていたのだ。巨大な破片が家そのものを押し潰していた。

 

 

「母さん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして 再び時は元に戻る。

 

――最短で最速。走り続けろ。

 

 地獄と化した街中には既に巨人が入り込んでいた。1体や2体ではない。無数と言える数の巨人が侵入していたのだ。それは 偶然にしては出来過ぎている。まるで壁を壊すのが判っていて その合図と共に一斉に街に侵入したかの様な印象だった。

 

「(普段は壁の外、壁の周辺に何体かうろうろしているだけなのに……何でこんなにっ!?)」

 

 走り抜けざまに 4m級の巨人の脚を蹴り抜いた。移動の速度 その勢いのままに放った蹴りは巨人の踝当たりを完全に抉り取り転倒させる。俯せに倒れた巨人の上に飛び乗って うなじを踏み抜いて 終わりだ。

 

 これがアキラの最短の巨人の殺し方。

 だけど当然だが巨人のサイズが大きければ大きい程時間が掛かるのだ。うなじが見えなければトドメを刺す事が出来ない。トドメをさす事が出来なければ、連中は延々と再生を繰り返すだけだ。

 

「全滅させるのは、無理だ……!」

 

 まだ巨人が多く存在する。とてもじゃないが全てを直ぐに殺すのは無理だった。 

 だからこそ……。

 

「(助けられるヤツを、助ける! それだけを集中しろ……!)」

 

 目を思いっきり見開いた。悲鳴が広がるこの街中で、様々な声が入り乱れる街中で 懸命に耳を澄ませた。必要な情報を得る為に。

 

 

『どうしていつも母さんの言う事を聞かないの! 最後くらい言う事聞いてよ!!』

 

 

 その声がアキラの耳に届いた。

 

 

『私は もう瓦礫に脚を潰されて、走れないの…… ミカサ! エレンを連れて逃げなさい!! お願いっっ!!』

『ヤダ……っ イヤダ……っっ!』

 

 

 距離がまだ多少あるからか 微かにではあるが はっきりと聞こえた。

 訊いただけで その姿を見た訳ではない。子供を守る為に 子供の命だけでも救う為に叫んでいる母親のものだという事は その声だけで分かった。

 

「っ……!!」

 

 力を再び脚に集中させる。

 爆発的な脚力を生む為に。

 その声の方向へと向かって。

 

 

 声の主は エレンの母親 カルラ。

 瓦礫が家に直撃し 崩壊。そして脚が挟まれて身動きが取れない状態だった。そのままの状態では間違いなく巨人に喰われてしまうだろう。

 

 だけど、それをどうしてもさせたくなかったのが2人の子供。エレンとミカサだった。

 

 子供では決して持ち上がる事のない柱を懸命に持ち上げようとする。びくともしなくても 最後まであきらめなかった。

 

 そして……残酷な現実が迫ってきた。

 

 崩落した家に目を付けたのか、エレンやミカサ、カルラの声に反応したのかはわからない。わからないが 1体の巨人が目を付けたのだ。

 

 ズシン、ズシン、と地鳴りを鳴らしながら着実に近づいてくる死の足音。

 

「2人とも! 逃げて!!」

 

 喉が潰れて口から血がでても 叫び続けるカルラだが。

 

「ミカサ! 急げ!! 急いで持ち上げろ!!」

「うんっ……!!」

 

 エレンとミカサには聞こえてなかった。

 聞き入れなかった。……カルラを 母親を助ける事しか 頭に無かったから。

 

 

――このままじゃ 3人とも……!!

 

 

 絶望を見た。

 自分自身が死ぬだけなら まだ良い。でも 目の前で子供を 自分の家族を食い殺されてしまうのだけは 耐えられる事が出来なかった。母親であれば 当然だ。

 

 その時だった。

 

 もう全員が逃げたと思っていたのに 引き返してくる人がいたのだ。それは見知った男――。

 

「!! ハンネスさん!!」

 

 駐屯兵団に所属しているハンネスだ。

 エレンの家族には 大恩があるから 助けに戻ってきたのだ。だから すぐさま剣を構えた。

 3人を助ける為に。

 

 だが――。

 

「待って! 戦っては駄目!! お願い、子供達を連れて逃げて!!」

「……!?」

 

 生まれて初めて見る巨人。人非ざる者、化物。

 あの巨人に人間が勝てる訳がない。このまま戦えば 4人とも全員が死んでしまう。ハンネス諸共。

 

 カルラは そう思えたのだ。

 

 それだけを連想させるのには十分すぎる程眼前に迫る巨人は悪夢だった。

 

 だが、エレン達の様に ハンネスも首を縦には振らない。

 

「見くびってもらっちゃ困るぜ! カルラ! 調査兵団の奴らの様にまではいかなくとも、コイツ1匹くらいは ぶっ殺してみせる! オレは、全員を 3人とも助ける! きっちりとな! 恩人の家族を守ってようやく恩返しを――「ハンネスさん!!!」っ……!」

 

 ハンネスに最後まで言わせない。巨人と戦ってはいけない。

 子供達を、助けて。全て子供達を優先させて。

 

 全ての想いを込めて―― カルラは再び叫んだ。

 

「お願い!!」

 

 

 その思いが ハンネスの脳裏に突き刺さる。

 だが、それでもカルラだけを見捨てる様な事は選べなかった。

 

――確実に、確実に 助けられる2人を取るか……、巨人と戦って全員助ける賭けに出るか……。

――カルラの願いに応えるか……、オレの恩返しを通すか……!!

 

 自分自身の思いは決まっている。返しても返しきれない程の恩が あるからだ。だからこそ全員を助ける道を選ぶ。巨人を殺し 全員を助ける可能性に賭ける。

 

 それがハンネスの強い決意だった。

 

 だが―― その決意は アレを目にした途端に霧散し 吹き飛んでしまった。

 

 

 剥き出しの歯 まるで笑っているかの様に 嘲笑っているかの様に 笑う顔。

 一体どれだけの大きさか判らない程の巨体。左右に揺れながら不気味に近づく巨人。

 

 100年も前から 人を喰い尽してきた悪魔。

 

 

――オレは………。

 

 

 ハンネスは 剣を納めたと同時に、エレンとミカサを抱えて駆け出した。

 

「……ありがとう」

 

 安堵するカルラの声は聞こえるが、もう振り返る事は無かった。ハンネスは見てしまったから。

 

 ……絶対的な死を見てしまったから。

 

「ハンネスさんっ!? ま、待てよ! まだ母さんが!! 戻れっっ!! 何やってんだよっっ!!!」

 

 エレンはまだ諦めず暴れるが ハンネスの力には敵わない。……ハンネスが巨人には力では敵わないのと同じ事だった。

 

「エレン、ミカサ……! 生き延びるのよ……!!」

 

 

――これで良い。

 

 カルラは親としての責務を果たす事が出来た。

 愛すべき子供達を死なせる訳にはいかなかった。だから ハンネスには恩しかない。……ハンネス自身の恩も返してもらえたと思っている。

 

 だけど、その安堵感も……背後に迫る絶望に 陰りが生まれてしまう。

 

 カルラは……必死に手を伸ばす。

 それは 何に対して手を伸ばしているのだろうか。あの平和だった日に戻りたかったからなのだろうか。

 或いは 戻ってきて貰いたい……、と思ってしまっているのだろうか。

 

「い、い―――」

 

 

――いかないで。

 

 

 最後の言葉は、懸命にカルラは飲み込んだ。

 恐怖を押し殺す事が出来た。だがそれでも死は近付いている。

 

 

 ミシリッ…… と鈍い音が響く。

 

 

 あれだけ エレンやミカサが頑張って持ち上げようとした瓦礫がいとも容易く持ち上がったのだ。

 

 

 

 死が すぐそばにまで迫ってきた。

 

 

 

 

 

 


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