「────で、どこまで話したんでしたっけ。」
「ロキの話をしようとしたところ。まだほとんど聞いてない。」
そうでしたね。と返す涼ねぇもといフェンリル。ライラに見せるために僕の格好はこすぷれのままだが、さっきまでの慌て具合は見られない。
「彼の性格と来歴についてお話ししましょう。一言で言うなれば、ロキは狡猾なトリックスター。しかし、他の神に悪戯をすることもあれば、利益になるような働きもする。そんな気分屋のような行動の根元にあるのは、"傷つけられたくない"という弱い心だったのです。」
「自分を守るための行動ってわけか。」
「はい。ですが、そんな彼を他の神々は快く思わなかったのか、次第に冷たくあしらわれていきます。終にロキの箍が外れ、バルドルという神を殺してしまいます。勿論これにはオーディンたちも激昂。彼を地下に捕らえ、幽閉しました。」
「子供の戯れに罰を与えるようなものだね。」
「まさにその通り。これによって神々たちに束の間の平和が訪れます。しかし、来る終末『ラグナロク』。彼は地下から解き放たれ、巨人族を率いて神々と戦争を繰り広げました。多くの神が死に、ロキもヘイムダルという光の神と相討ちになって死にました。やがて戦争が終わり、生き残った僅かな神たちは大地を再生し、その地を納めました。」
「え、そんなにあっけないの?」
「ええ。ですが、その記憶や意識は消えることなく人間に寄生する形で執念深く現代まで存在しています。」
「なぜ、そこまでして生き残ろうとするんだろう……?」
「逆です。死ねないのです。」
「え?」
「メモリーを抹消するのはロキにしか出来ないのです。」
聞けば、ロキの持つ武器が鍵を握っているらしく、扱えるのは彼のみらしい。
「そんなもの、悪用されたら終わりじゃないか。特にオーディンに。」
「はい。なので彼はラグナロクですらそれを使わず、その存在を秘したままにしているのです。こればかりは私たちですらも知りません。更に転生を繰り返した後も彼は口を開かず、あの島へと身を潜め続けました。」
リンガートとの利害の一致のために長い間隔離されていたのはいいことなのか悪いことなのか……
そして、そんな自分の身すら滅ぼしかねない最強の道具を知り、秘さなくてはならない僕はどうすればいいのか……
「知っておくことは大切です。しかし、そればかりになってしまっては自分の精神まで阻害しかねません。なので、心の片隅に置いておく程度でかまいません」
「……そうするよ」
返事こそしたが、提案に沿うことはできなかった。
────心の中の蠢く何かの為に。