Три тайны
惨状を目の当たりにしても、僕は取り乱したり泣き崩れたりはしなかった。すでにこうなることを知っていたからであろう。あれは単なる夢ではなく、予知夢だったのだ。しかしなぜ、そんなことが起きたのか。疑問点が多くのこるが、それを解決したところで、突きつけられた現状を打破するのには不十分過ぎる。
ただひとつ希望があるとすれば、先ほど対岸に辿り着けた要因である謎の生物だ。あれは僕たちを助けてくれた。なにか理由がなければ、なつきもしていない人間を助けはしないだろう。今一度出てきてくれるのを待ってみよう。
◇
それは推測通り僕たちの前に現れてくれた。……ずいぶんと小さくなり、形も変わっていたが。
「やっと見つけた。」
それが人語を操りそんな一言を発したかと思うと、突如ライラの手にあった小箱を奪った。
「ちょっと、何するんだ!」
「そっちこそ、パパの物を何で持ってるんだ!これは私達のだ!」
「はぁ?何言ってんだよ、これは僕たちの先祖の物で……」
「絶対違うね!これはパパが」
「やめよ、ヨルムンガンド。」
ヨルムンガンドと呼ばれた目の前のそれは、声を聴くなり背を真っ直ぐにして小箱からも手を離した。その隙に僕は取り返すことができた。
その声の主は続けざまに言う。
「おまえはバカか?勝手にケンカ吹っ掛けおって。」
「そりゃあだって、人の物を赤の他人が持ってたら誰だってああするじゃないか。」
「阿呆。ものにはやり方というものがあろう。もっと頭を使え。」
「うるさい、怠慢管理職!」
「ただなにも考えずに泳いでるだけの無職に言われたかないわ。」
僕たちは完全に蚊帳の外(意味は分からないがこういうときに使う言葉だとばばさまに教えてもらった)だった。
「ごめんなさい、彼女たちはいつもあんな感じなんです。それと、申し遅れました、私はフェンリル。こっちの脳筋がヨルムンガンドで、あっちの年増がヘルともうします。二人はおそらくあの感じが続いてしまうので、私が説明させてもらいます。」
フェンリルは続ける。
「あなたがお持ちの小箱に入っているもの。先程から聞かれていると思いますが、それは私たちの父親、ロキの残したものである可能性が高いのです。」
「でも僕たちはそのロキって人に関わりはないはずだよ。昔からついさっきまで結界で隔離されてたあの島にいたんだから。」
「ええ。なので説明を続けさせていてだきたいのですが、大丈夫でしょうか?」
「僕は大丈夫。…だけどライラが…」
短時間にいろんな事があったからか、ライラは疲れて眠たそうにしていた。幼さゆえ僕以上に悲しさを感じ、涙を流した跡が落ちそうな目蓋から覗く目の充血として現れている。
「では、場所を変えましょう。ヘル、いつまでも喧嘩していないでゲートを開いてください。」
「どいつもこいつも人使いが荒いのう……これでも女王なんじゃが。」
「文句を言わない。」
「はいはい、開きましたよ~」
ヘルが自分の前に手を翳すと、背景が歪み、扉が現れた。フェンリルがそれを開くと、そこには狭い謎の空間があった。
「なに……これ?」
「私らのこの世界での家よ。関係者以外立ち入り禁止だけどね。というかあんたらも本当は入れたくないんだけど!」
「ヨルムンガンド
、黙ってください。」
眠気からかふらつくライラを背負い、その空間に足を踏み入れると途端に周りが静寂に包まれる。
「驚くのも無理はなかろう、初めて見る景色じゃろうからな。客間にでも…とその前にやることがありそうじゃな。」
ヘルは足元を見ながらそう言った。
「砂だらけじゃな。鋭いもの踏んで怪我してなくて良かった。ほれ、背中を貸してやろう。乗るがいい。」
「ライラ様は私が運びますのでご安心を。」
おぶってもらい運ばれた先にはやはり見たことのない物がある部屋。
「ここは風呂といってな、汚れた体を洗ったり一日の疲れを癒やしたりするんじゃ。」
円形のものを捻ると水が、それも煙が出ているものが管のついた杖からでてきた。
「これはお湯と言うものです。水を熱することでできるものです。」
お湯が自分の足にあたると、みるみる砂が流れていく。
「凄いね。お兄ちゃん。」
「……そうだね。」
言葉を失う。外界の文明の高さに。そして、自分たちがいかに遅れていたも思い知らされる。
ただ、疑問も生じた。リンガートは、ただ能力というものに固執して、外界との交わりを絶ち、進化を止めたのだろうか。
心の中のもやもやした感情は水流ごときでは流せそうになかった。
新キャラ沢山です。これからもいっぱいでます。
5/27更新
ミズガルズは場所の名前で、正しくはヨルムンガンドでした。訂正してお詫び申し上げます。