救世主になりたい男の顛末   作:愛・茶

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 兄、ハルと偶然にも出くわした明敏たちはミケの故郷である村へと向かった。

 突然の再会に兄弟は、喜びを隠せないでいた。

 そして、一つの民家へと招かれた明敏たち。

 急かす自分を落ち着かせながら、ミケは自己紹介を始めた。


弐章~感情~

 

 

「アキト、こちらはアタシの兄のハル」

 

「どうも初めまして、気軽にハルと呼んでくれていいよ」

 

 

 赤を基調とした服に身をまとった、赤い髪を後ろで一つ結びにしたポニーテールの少女、呪術師ミケは、ハルと言うこれまた赤い髪の男を紹介していた。

 

 ハルはその紹介に応えるように明敏と挨拶を交わした。

 

 

「よろしく、俺は宮村明敏。で、こっちは妻の如月葵」

 

「どうも。」

 

 

 瘴気のない目のせいか、無愛想になってしまう。本人としては初対面の相手に好印象を与えたいのだろう。

 

 

「・・・葵、何か近くない?」

 

「そう?。」

 

 

 それとも、もしくはそうではないのかもしれない。

 

 

「で、ハル兄ィ!今までどこで何してたの?」

 

「ミケ、お客様の居る前だよ?」

 

 

 ハルは失礼だろ、と言った。

 確かに訪問者の前で私欲を優先するのは、あまり喜ばしいものではない。しかし明敏は特に気にしてはいなかった。

 

 

「大丈夫だ、兄妹の再会なんだしゆっくりしていいぜ?」

 

 

 俺たちは席を外す、そう明敏が立ち上がって隣の部屋へと足を運んだ。

 勿論葵も一緒だった。

 

 

「・・・・・ありがとう」

 

 

 お礼の言葉を背に別室に腰を下ろす。

 

 特にすることもないと思った明敏は、そろそろかと自分の携帯を取り出した。別室に移動したのには理由があった。

 

 というのも、最近高見沢からの連絡が途絶えている。この世界で事件なんて山程ありそうなものなのに、一向に携帯が鳴り響くことはなかった。故に葵と明敏だけしかいない空間になれば、恐らくは連絡が来るだろうと予測した。

 それと、ミケもハルとの時間が欲しいだろうとも思ったのだ。

 

 

―――――――プルルルルル

 

 

 案の定、携帯が鳴り響いた。

 明敏はすぐさま携帯を耳に当て通話を開始する。

 

 

『どうも、お久しぶりです。覚えていますか、僕のことを?』

 

 

 相も変わらず嘘か本当かわからない口調で高見沢陽一はそう告げた。

 

 

「忘れるわけねぇだろ、葵は無事だぜ?」

 

 

 明敏は携帯越しに彼女を見やった。白を基調としたこの世界の服に衣装チェンジした葵は、会話の内容がわからず小首をかしげていた。

 

 

『そう・・・・みたいですね。貴方には感謝をしなければいけません』

 

 

 電話越しに頭を下げられているような錯覚を覚える。それ程までに葵は高見沢にとって掛け替えのないものだったのだろう。

 

 気にすんなよ、そう告げた明敏の顔にはどこか清々しさがあった。

 

 

『お詫びというわけではないですが、情報提供をさせていただきたいのですが?』

 

「情報?この世界で戦争が起こってるってのは知ってるぜ?」

 

 

『いいえ、そのことではなく、貴方の身近にいる「ミケ」という少女。

 その少女の持っている「呪術」についてですよ』

 

 

 呪術、ミケの言うには恨みの強さが技の強さだといっていた。それ以外に何かあるのだろうか。

 何か意味深なものを感じた明敏は、頭を切り替えて話を聞くことにした。

 

 

『貴方も知ってのとおり、呪術とは「呪う術」のことです。当人が誰かを呪うことで初めて使うことを許される力のことです。

 

 ですから呪術師は、常に誰かを呪わなければ力を発揮できないのです』

 

 

 ミケは『黒い球体を使う人間』を恨んでいた。家族の仇だといっていた。あんな幼い少女が誰かを呪いながら生きているのかと思うと胸が苦しい感覚が明敏を襲う。

 しかし、同時にそれが仕方の無いことなのかも知れないとも思っていた。

 

 

『そんな呪術にも「禁術」という、犯してはならない掟があるんですよ』

 

「掟・・・・・?」

 

 

 その言葉に妙な悪寒が走った。

 嘘のような口調であったが、それ故に嫌な予感が脳裏を駆け巡る。

 

 

『ええ、呪術師は誰かを呪わねばいけません。つまり「呪いを背負う」んです。

 もしそれをせず、「呪いを受け入れる」ことは禁止されているんですよ』

 

「背負うと受け入れるってどう違うんだ?」

 

 

 高見沢自身言葉を選んでいるのかもしれない、もしかすると敢えて難しく言っているのかもしれないが、どちらにせよ意味が分からなければどうしようもない。

 

 

『そうですね、貴方に置き換えて説明しましょう』

 

 

 ひと呼吸おいた高見沢は話し始める。

 

 

『貴方の異能力「融解《フィーリング》」を最初、毛嫌っていましたよね?

 

 ―――こんな力はいらない、と』

 

 

 確かに、少し前の明敏は自分の生まれ持った力に嫌悪感を抱いていた。

 

―――――いらないものだ、と。

 

―――――――必要ない、と。

 

 

『つまり、それは貴方が融解《フィーリング》を「背負っている」から邪魔だと感じたんです。

 

 しかし、受け入れた時はどうでしたか?』

 

 

「―――――っ」

 

 

 自らの掌を見て言葉を失った。

 

 

 ―――――受け入れる。

 

 それは自分自身がこの力に向き合った時、大きく変わった。

 

 

 ―――――――思い込む。

 

 

 それが自分の異能力の特性だった。

 

 

 ―――――――触らずに力が発動する。

 

 

 それは同時に、誰にでも力の発動なしで触れることができるということだった。

 

 不意な気持ちの激動に、近くにいた葵の頬を撫でた。確認の意味もあったが、しかしそれはただの『触りたい』という欲求だったのかもしれない。

 

 

「・・・ああ、そうだな・・・・・変わったよ・・・・何もかも」

 

 

 高見沢に答えるように。葵に語りかけるように。自分に言い聞かせるように、呟いた。

 

 

『貴方の力は『思い込みの激しさ』。

 

 呪術は『想いの重さ』。

 

 魔術は『願いの強さ』。

 

 錬金術は『創造力の良さ』。

 

 どれもこれも、複雑でありながら至極簡単なことなんですよ』

 

 

「ああ、そうか・・・・・

 

 

 ―――――――って待て待て!最後の方に意味深なもんがあるぞ!?」

 

 

 魔術自体は明敏もその目で確かめているため、問題はなかった。

 

 

「錬金術ってなんだよ!」

 

『その名の通り、卑金属を貴金属に変成させる化学技術ですが?』

 

 

「それは分かってんだよっ、何で先に言わなかったんだ?」

 

 

 明敏の居た世界では錬金術は夢物語でしかない。ただ、現代科学の基礎にはなったようだが。

 

 

『知っているものと思っていましたので、それに銃や剣が存在する世界ですよ?

 錬金術がなくてどうやって生成するんですか?』

 

「そうれもそうだな・・・・だとすると一番の脅威は錬金術なんじゃねぇのか?」

 

 

 確かに、錬金術が卑金属を貴金属にする力ならば、いつでも武器を造ることができるという意味だ。

 それにこの世界では戦争が休戦状態にある、だとすれば魔術や呪術より錬金術が何よりも貴重で、重要なものだという事が伺える。

 

 

『それはないですね』

 

 

 しかし高見沢は否定をした。まるで全てお見通しと言わんばかりに、いや、実際彼の能力であれば何もかも見えているのだろうが。

 

 

「は?錬金術だろ?武器を造れるんだぜ?」

 

『確かに、武器を生成するというのは良いものかもしれませんが、

 

 習得するのに十年掛かるんですよ?』

 

 

 十年。それは途方も無い時間だ。例えば殺し屋が身に付けようものならば、時間など惜しまないだろうが、ジェラードのような暴力団が欲したならば、悠長に待っていられないだろう。

 

 

『それに、習得しても上手く使いこなすのに更に十年掛かるんです。

 なので、主に鍛冶屋以外は持っていません』

 

 

 明敏は高見沢の言葉に決心がついた。合計で二十年掛かる技など誰も欲しはしないだろう。

 かく言う明敏も、例え自分に有利に働くものでもそれほどまでに時間を有するならば諦めるだろうと思っていた。

 

 

「・・・・なるほどな、じゃあ気にする必用はねぇってことか」

 

『二十年掛けて私欲を満たすのと、二十年掛けてお金を稼ぐ。

 どちらがいいかは馬鹿でもわかりますよ。今の時代武器の方が売れるんですから』

 

 

 休戦状態に入っているとはいえ、半ば強引な休戦だ。いつそれが崩壊するかなど目に見えている。

 だからこそ今のうちに体制を整えておこうということだろう。ならば武器の売上も上がるというものだ。

 

 

「・・・だな、・・・・・・『思い込みの激しさ』か・・・」

 

『ええ、貴方はその言葉を忘れてはいけませんよ。いずれ役に立つんですから』

 

 

 その言葉を皮切りに通話を終了しようとしたが、通話口からちょっと待ってください、と慌てる声がしたため、ボタンを押す指を止め再び耳に充てがう。

 

 

『今、近くに葵君が居ますよね?』

 

 

 明敏はその台詞に、彼の思惑がすべて把握できた。今から何がしたいのか、何を話すのか、それはおそらく明敏にも話した事柄なのだろう。

 

 瞬時に頭が回転することにこの時ばかりは感謝しながら、口を開く。

 

 

「―――――代わろうか?」

 

 

 すべてを察するような口調で言葉を発する。高見沢はありがとうございます、と感謝していた。

 

―――――――嘘っぽくなく。

―――――――真実かどうか分からなくもなく。

 

 ただ誘拐犯に娘の声を聞かせる許可を得たような、そんな優しげな口調だった。

 

 特に何も断る理由もないため、そのまま葵に携帯を手渡した。彼女の表情は疑問符でいっぱいだった。何故自分に代わるのか、というような顔で明敏を見つめていた。

 

 

「葵に話があるんだと」

 

「・・・・・・・・」

 

 

 その一言に葵は納得していた。

 以前、高見沢に言われていたからだ。

 

―――――また時間がある時にでも、ゆっくりお話をしましょう。

 

 意味深だった言葉。一体自分に何の話があるというのだろう、と思っていた。彼女には一切思い当たる節がなかった。

 

 明敏は気を利かせてか、葵を部屋に一人きりにさせた。恐らくその方が話しやすいと思ったのだろう。

 

 

 

 家を出た明敏は外の暗さに驚いていた。辺りには街灯がなく足元が見えないほど暗かった。

 だが空には綺麗なほどに星空が輝いていたため、あながち真っ暗とは言えなかった。

 

 

「・・・・綺麗なもんだな」

 

 

 つい口をついて出てきた言葉。

 今まで見たこともない程に鮮やかで綺麗な星空。そして月。プラネタリウムでもこれほど鮮明ではないだろう。

 

 今の瞬間だけは、この世界に来てよかったと思えただろう。

 

 

「あれ、君は確か・・・・アキトさんだったね?」

 

 

 声のした方に振り向くと、そこには赤い髪をした男が立っていた。

 

 

「ハル・・・だっけか?」

 

「うん。ところでこんなところで何をやっているんだい?」

 

 

「まぁ、散歩ってやつかな」

 

「そっか、僕はミケとカクレンボをしてるんだ」

 

 

「見つからねぇのか?」

 

 

 この際、今の時間帯で?という疑問は無しにした。普通はもっと明るい時間にやるべきなのだが、ミケ自身兄との時間を楽しみたかったのだろう。

 

 

「うん、ミケは隠れるのがうまいなぁ・・・・。

 やっぱり僕なんかより才能があるみたいだ」

 

 

(かくれんぼに才能もクソもねぇだろ・・・)

 

 

 という思いは胸に押し込めている時に、ハルが更に話を続けた。

 

 

「そう言えばアキトさんって・・・もしかして・・・『改革者』?」

 

 

「まぁ・・・・そう言われてんなぁ」

 

 

 ジェラードの団員たちが明敏のことをそう言っていたことを思い出した。

 きっと世界を変える者、と言った明敏の言葉を置き換えてそんな呼び方に変えたのだろう。

 

 明敏自身、悪くはないと感じていた。

 それは自分の存在を、世の中に知れ渡っているという証拠でもあるからだ。

 

 

「そっか・・・君も―――――――才能があるのか」

 

「・・・・・?」

 

 

 

「・・・・・・・・僕は嫌いだよ・・・・・・・」

 

 

 

 ハルの口調が恐ろしいものに変わっていく。まるで目の前に恨んでいる者がいるような、憎むべき人物が現れたような、そんな気迫だった。

 

 

 

「・・・・・才能のある人間がね!!!」

 

 

 その瞬間、ハルの体が一気に燃え上がった。赤というには明るすぎて、青というには鮮やかすぎる。紫というには安易すぎる色。

 恨み色といえば伝わるであろう色の炎が全身を焼き焦がしていた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「類は友を呼ぶっていうのかなぁ?

 

 やっぱり天才の周りには天才しか集まらないんだろ??

 ミケといい、君といい。世の中は全く凡人には不便な世界だよ」

 

 

「お、おい・・・・何言って―――」

 

 

「天才には凡人の考えなんて手に取るように分かるんでしょ??

 

 

 だったら答えなよ、凡人は天才を上回れないってさぁ??」

 

 

 

 

 輝く星空の下。

 恨み色の炎が明敏を襲った。




『どうも・・・・・葵君・・・・ですか?』

「そうだけど。」

『覚えていますか?あの時、話があるといった事』

「ええ、覚えているわ。」

『そうですか、それは嬉しいです』

「・・・・・・・・。」

『早速本題ですが、今から私の言うことは嘘偽りのない真実です』

「そう。」

『貴方の正式名称は、「AOI223933」。
 つまりは、私の造ったアンドロイドです』

「そう。」

『人間ではないのです』

「そう。」

『・・・・・驚かないのですか?
 私としては何かリアクションしてほしんですけど・・・』

「だって、ありえないもの。」

『ありえない?』

「ええ、だって人間じゃないのなら私はあの人に

 これ程までに好意を抱いていないもの。」

『・・・・・』

「もし私が機械だと言うなら、
 あの人の為にこんなにも胸が締め付けられないもの。」

『・・・・・・くくくっ』

「だから、私は貴方の造ったアンドロイドではないわ。」


「私は如月葵。普通に恋をする人間よ。」

『・・・・・・・くくくっ』

「何がおかしいの?。」

『・・・・いいえ、ただ私の研究は・・・・・・間違っていなかった』

「・・・・・・・・・。」

『そうですね、・・・貴方は・・・・人間ですよ』


『完成することのない―――――――立派な人間です』


『葵君』

「何。」

『明敏君とお幸せに』

「勿論っ。」
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