救世主になりたい男の顛末   作:愛・茶

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参章~改革者~

 

 『改革者』こと、宮村明敏は悩んでいた。

 

 というのも、自分の異能力のことについてだった。

 

 

――――――思い込みの激しさ。

 

 

 高見沢から言い渡された言葉。それは自分の力の可能性のことだ。思い込むことで明敏は『触れ合える』ようになった。

 彼自身、別段修行をしたわけではない。ただ『思い込んだ』だけ。それ一つで能力が変化した。

 

 『融解《フィーリング》』は触れる事で能力が発動し、生き物と融合する。

 

 しかし、『触れる』という事柄を勘違いして、自ら『触れてはいけない』と自己解釈したことで、勝手にハンデをつけていた。

 

 今度はそれを思い込みで打ち消し、『触れなくていい』と解釈することで明敏の異能力は『染色体X《クロス・フィーリング》』へと変化した。触れることなく生き物と融合することができた。

 

 そして先程、もっと別の利用法があるはずだ、と思い込むことで部分的に能力を発動させることができた。

 これを突き詰めていくと、明敏の葵に対する執着心からなる『真っ白く純粋な殺意』が、何か作用するのではないだろうか。

 

 

 それが一種の恐怖でもあった。

 

 

「小童、悩むなら行動してはどうだ?」

 

 

 俯く明敏を見てゲンゾウが唐突に話しかける。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 ゲンゾウの言葉に耳を傾けるが、納得はできない。自分の心の内に秘めているものを具現化したならば、人さえも簡単に殺してしまうだろう。

 もし、そうなれば救世主とは言えないだろう。それは只の人殺しだ。怪物だ。

 

 

「どうしたの、アキ?。」

 

 

 葵が小首を傾げつつ心配そうに覗き込んだ。

 

 愛する者のために自ら悪になる、それ自体はいいかもしれない。美しいまでの愛だ。だが明便の場合、その悪は漆黒よりも黒く、言うならば同じ異能力者だった『黒い球体を使う者』である羅美亜と同格なほどに黒い。

 彼女は人を殺した後は何気ない顔をしていた。下手をすれば明敏も同じことをしかねない。そんな危うさがある。

 

 

「・・・・・何でもない」

 

「あまり悩まなくてもいいんじゃない?」

 

 

 ミケがそうフォローを入れる。

 

 彼女は知っている。明敏の中にある真っ白なまでに白い、何かを――――――。

 

 それは自分の恨んでいた『黒い球体を使う者』とは違う、純粋な物。殺意とも違う、もっと別のもの。

 詳しくはわからない。しかし、最近その『白』が浮き彫りになっていくのが分かる。ミケは常時占いをしているようなものなのだから。

 

 

「アンタは、救世主でしょ?

 人を殺すのに躊躇う人間なんでしょ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さぁな・・・・」

 

 

 答えられるはずもなかった。

 何故なら、先ほどの心境が正にそれだったからだ。

 

――――――殺す。

 

 その言葉だけが頭の中を支配していた。別段、仇討ちというわけではない。恨みがあるわけでもない。ただ、葵に『触れた』という理由で明敏は人を殺すのだ。

 もしこれが悪い方向に向いたのなら、明敏の能力で世界さえも滅ぼしかねないだろう。彼は、それが怖かった。

 

 

「大丈夫、貴方はそういう人じゃない。」

 

 

 葵は彼の手を握りながら、そう言った。

 

 

「貴方は何時だって、誰かを救うヒーローでしょ?。」

 

「・・・・・・・・・葵」

 

「例え今はそうじゃなかったとしても。

 

 世界がそう認めなくても、貴方はそれを――――――変えるんでしょ?。」

 

 

―――励まし。

 しかし、彼女はまるで当たり前だというような口ぶりでそう言った。明敏がそうであるかのように。

 葵自身、自分のために悪に染まろうとする明敏は嫌いじゃない。自分のために犯す犯罪は、それほどまでに愛してくれている証拠なのだから。

 

 だが、それでは彼は救世主《ヒーロー》ではなくなってしまう。それは只の『悪』だ。そうなってほしくはないが、明敏はそれさえも平気でしてしまう。

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 だが同時にそれを制する気持ちがあることを知っている。

 

 

「ああ・・・・・・そう・・・・・・そうだな・・・・」

 

 

 葵と明敏の付き合いは長いのだから。

 

 

「そうだ、俺は救世主《ヒーロー》だもんな。

 

 変えるさ。

 

 

 そう――――――決めたんだからな」

 

 俯いた顔を上げるように明敏は元気を取り戻す。単純だと思うかもしれないが、彼は危ういのだ。

 闇にも染まり、光にも染まれる彼は――――――。

 

 

 

 

 

 

 一時的な気の迷いはあれど、明敏たちは西の街へ歩を進めていた。

 貴族の街とも呼ばれる、彼が『改革者』と呼ばれるようになった場所へ。

 

 

「小童、一つ聞きたいのだが、良いか?」

 

「ん?何だよいきなり」

 

 

 ゲンゾウは腕組みをしながら、一瞥するように見据える。

 

 

「貴様はどれ程戦える?」

 

「どれ程と聞かれてもなぁ・・・・・・

 

 ジェラードって暴力団を潰せるくらいか?」

 

 

 確かに、彼は以前、葵を救出する際にジェラードのボスを倒している。謂わば潰したと言っても過言ではない。

 

 

「でも、一人でやったわけじゃねぇぜ?

 ミケにも手伝ってもらったんだ」

 

 

 明敏はミケに視線を送る。

 しかし、当の本人は近くにいる想い人に夢中のようだった。

 

 

「十分だ」

 

 

 そう言ってゲンゾウは、明敏を見据え口を開く。

 

 

「小童、手伝って欲しい事があるんだが、構わないか?」

 

「別にいいけど?」

 

「そうか、ではワシの願いを叶えてくれ」

 

「願い・・・・・?」

 

「ああ、何、簡単な話だ。

 

 ただ奪われたものを取り返して欲しいだけだ」

 

 

 ゲンゾウは表情を一切変えずに話を進める。

 彼は、元鍛冶屋というだけあって武器の精製をしていた。一般的な短剣や直剣を造っていたが、気まぐれに歪な物を造る事もあったそうだ。彼の使っている大剣もその一つらしい。

 

 そして、奪われた物というのが彼の造った刺剣だという。

 

 ただの刺剣ではなく、大剣のように大きく、重い。そして剣の先端以外で殺すことが不可能、というもの。

 

 

「それを奪い返す手伝いをして欲しい」

 

「けど、それって武器として意味を成してないんじゃ?」

 

 

 そんな明敏の最もな質問に、ゲンゾウは変わらぬ表情で答える。

 

 

「貴様はクレイモアという武器を知っているか?」

 

「クレイモア・・・・って、あの刀身が長いやつだっけ?」

 

「ああ、それ程までに長い刀身の刺剣だ。

 勿論見た目も中身もクレイモアと同じく重くて長い。

 それに加え、魔法伝導率が高い。意味はわかるな?」

 

 

 クレイモアと同じ刀身に重量。だが、使い方は刺剣と同じ。そして魔法伝導率が高い。

 それを踏まえて出た明敏の答えは

 

 

 

「やっぱり、武器として意味ねぇだろ」

 

「確かにな。クレイモアは両手で扱う武器で、刺剣は片手で扱う武器。

 

 この時点で矛盾が生まれている。だがその矛盾を魔法で打ち消す為の伝導率だ」

 

 

「つまり、風の魔法とかで重量を消せば・・・・・ってことか」

 

「使い手によっては、究極の中距離武器になる」

 

 

 明敏は思案した。

 自らの知識を総動員して考える。

 

 

「究極ではねぇな」

 

「そうかな?」

 

 

 瞬間、明敏の横顔を何かが掠める。

 

 

「相手に近づかずに殺せるっていうのに?」

 

「貴様は・・・・・・・・・・!!!」

 

 

 ゲンゾウが怒りに似た表情をする。明敏も同じ方に視線を合わせると、そこには一人の男が立っていた。肩に刀身の長い剣を担いでいる。

 

――――――クレイモアだった。

 

 

「あの距離から・・・・・?」

 

 

 その男と明敏の位置は、五メートルは離れている。

 

 

「言ったろう、使い手によっては究極の中距離武器になる、と」

 

「やっぱり製作者はわかってるんだね」

 

「当たり前だ、そういう方に造ったんだからな」

 

 

 ゲンゾウの表情は変わらなかった。睨むように男を見る。自分の持ち物を奪った者に対しての表情。

 明敏は彼の気持ちが分からなくもなかった。

 

 

「あれがお前の言ってた『奪われた物』ってやつか?」

 

「そうだ」

 

 

 短く返事をして臨戦態勢に入るゲンゾウ。空中に手をかざし、大剣を出現させる。最早、今にも飛び込んでいきそうな程に。

 

 

「君は確か、『改革者』だったっけ?

 

 ・・・・・・・・面白そう」

 

 

 そう呟いた男は、剣を明敏に向け、敵意を示す。

 

 

「我が名は、シュトローム。

 

 

 改革者、手合わせ願おうか」

 

 

 不意の指名に驚きはしたが、断る理由もない。臨戦態勢に入る明敏は手をクロスするように左手をつかみ叫ぶ。

 

 

 

「染色体X《クロス・フィーリング》!!」

 

 

 

 彼の体が光に包まれる。そして形状が変化していく。

 

 鋭い爪、鋭い牙、茶色い毛並みに長い髭。

 ここまでだと、百獣の王に思えるが違った。

 それは口から伸びる鋭いまでの牙だ。

 

 

―――――――――サーベルタイガー。

 

 

 誰しもが彼の姿を見てそう思うだろう。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「俺は、宮村明敏。

 

 この世界を変える――――――救世主《ヒーロー》だ!!」

 

 

 明敏は名乗るように相手を見据えた。これから相手取る敵を観察するように。

 

 

「待て、ワシの用事が先だ―――――――――」

 

 

 

「カイカクシャ!!!??」

 

 

 

 ゲンゾウの言葉を遮るように誰かがそう叫んだ。まるで待ち望んでいたかのような口調だった。

 明敏は声のした方を向くと、そこには数人、否、それ以上の団体が囲むように群がっていた。

 

 

「な、何だ!!?」

 

「これは貴様の仲間か?」

 

「心外だなぁ、幾らなんでもこんなに仲間はいないって」

 

 

 シュトロームの表情を見る限りその言葉は嘘ではないようだ。

 

 ゲンゾウは大剣を構え、警戒を怠らない。

 そして明敏だが、執拗に辺りを気にしていた、いや、探しているようだった。その理由は言わずもがな、葵だ。

 

 

「葵・・・・・?葵!!?」

 

 

「改革者だぜ!?」

「へへへっ、アイツを殺るのはオレだからな?」

「バカ言えっ、テメェなんかに務まるかよ!」

 

 

 群生は騒がしかった。何を言っているのかわからないほどに騒々しかった。

 だが明敏はそんなことはお構いなしと、葵を捜索し続ける。

 

 

「おい、小童!!他所見をしている場合では――――――」

 

 

「―――――――――居た!!!」

 

 

 ゲンゾウの言葉を遮るように明敏は叫ぶ。これほどまでの群衆の中、たったひとりの少女を見つけるなど、彼以外にできないだろう。

 明敏は一目散に跳び上がり、彼女の元へと向かっていった。群衆から少し離れた出店へと。

 

 

 

 

「行っちゃったけど、どうする、元鍛冶屋さん?」

 

「どうするとは?」

 

「知ってる?今の改革者の状況」

 

「世界を変えるということか?」

 

 

 意味深な言葉にゲンゾウは眉をひそめる。言っている意味がわからなかった。

 

 宮村明敏の異名は凄まじい程に世界へ広まっている。それは貴族を助けたと言うことに限らず、彼の言う『世界を変える者』ということまでも広まっている。

 

 

「それを聞いた人たちはどう思うんだろうね?」

 

「ワシも馬鹿馬鹿しいと思ったが、相対してわかったのだが。

 

 あの小童は侮れんぞ?」

 

「そういうことじゃなくてね・・・・・」

 

 

 シュトロームは一転して怪訝な表情をしたあと、目を見開き、狂った様な表情をしてゲンゾウを見据えた。

 

 

 

 

 

「『改革者』って今、狙われてるんだよねェ」

 

 

 




「葵!ここにいたのかよ!?」

「アキ、もう終わったの?。」

「無事か!?どこも怪我してねぇか!?」

「大丈夫だって。
 ただ、彼女が店を見たいっていうからアタシもついて行っただけ」

「・・・・・そっか、安心した」

「大丈夫よ。心配はいらないから。」

「出来れば一言言ってくれよ・・・・」

「だってアンタら勝手に話進めて戦おうとしてんだもん」

「いやまぁ、今の状況で何もなかっただけマシかぁ・・・・」

「どういうこと。」

「囲まれててさ」

「カイカクシャさ~~ん!!!」


「「あーそびーましょー!!!」」


「だから、俺から離れんなよ?」

「うん。」

「大丈夫、アタシも居るから」

「うしっ!!信じてんぜっ!!?」
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