救世主になりたい男の顛末   作:愛・茶

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『―――――――――消えろ』


 俺は不可思議な感覚に苛まれた。
 突然の浮遊感。湧き上がる喪失感。薄れゆく自我。しかし、それはどれも矛盾している。
 俺の足は地に着いているし、俺は何も失っちゃいないし、自分が何者かは理解しているつもりだ。
 だが、時間が経つにつれて『それ』は強くなるばかりだった。
 俺がどんな人間かわかっているのに、何者なのかが分からなくなってゆく。
 葵は安全な場所で待機させているのに、何かが消えていく感覚が俺の脳裏をかすめていく。
 足の裏では地を踏みしめ、蹴り上げる感触がするのに、まるで空気を踏んで、蹴り上げているような感覚が俺を襲う。
 俺はここにいるのに、ここにいない感覚がする。


――――――不可思議だ。


 俺は一体何者なんだ。

 俺は一体何なんだ。

 俺は、一体――――――誰なんだ。


 いかんいかん。
 一瞬そんな葛藤が俺を支配した。
 もしそれに侵食されれば後戻りが効かない気がした。俺の持つ『結合《フィーリング》』では一度融合しても、解除することができた。しかし今回はそれが通用しない気がする。根拠はない。だが、その侵食が危ないことだということは理解できる。


――――――自我が失われてゆくのだから。


 これも俺が望んだことなのだろうか。俺が思い込んだことなのだろうか。所謂、代償というやつなのだろうか。
 しかし、今はそんなことを考えても仕方がない。
 やるしかないのだから。
 
 俺は頭の中に浮かんだ言葉をそのまま発する。
 それは以前に出会った、ミケの元仇、『黒い球体を使う者』、俺と同じ『異能力』を持った女性。
 羅美亜。
 その女性が俺に対して言ったものを流用させてもらうとしよう。



『初めましてだねぇ、―――――――――』





「融解・結合《メルト・フィーリング》!!!」

 



 今まで感じたものが溢れ出す感覚を覚える。
 二倍、三倍にも膨れ上がり、体の外側へ放出されていく感覚。



「・・・・これが、俺の内側にあったもの・・・・・」



 俺は自分の手を見つめて実感する。



―――――――――炎だ。


 真っ白い炎。真っ白く、純粋なまでに白い炎。
 綺麗なまでに燃え上がる炎は正にすべてを包み込まんとするほどだった。


―――――――――恐怖。


 何色にも染まらず、何色にも染め上げるだろうそれは、恐怖以外の何物でもなかった。
 しかし、俺はその炎を纏った手を敵に対して振りかざす。

 殺すためじゃない。

 倒すためじゃない。

 焼き尽くすためじゃない。

 恐怖を与えるためでもない。

 俺は救世主《ヒーロー》だ。自分の善行を押し付け、認めさせるのが本物のヒーローだ。
 だから、振りかざすんだ。だから、戦うんだ。


 世界を変えるために――――――。


 自分の正義を押し付け、認めさせ――――――



――――――俺色に染め上げるために。


参章~融解《メルト》~

 

「あれ、改革者も連れてきたんだ?」

 

 

 刀身は長く、大きいクレイモア。しかし、その実、使い方は刺剣と同じという実用性が感じられない大剣を肩に担いで、シュトロームは訪ねた。

 

 

「ああ、そう言う約束をしていたからな」

 

 

 こちらも同様に、刀身の長い大剣を肩に担いだゲンゾウはそう答えた。そして彼の後ろには、既にライオンへと融合を済ませた明敏がいた。

 

 

「ずるいなあぁ、こっちは一人だっていうのに二対一かい?」

 

「では、今貴様の後ろに居る連中は何だ」

 

 

 シュトロームは後ろに振り返りもせずに、わざとらしくため息をつき肩を落とした。

 確かに彼の後ろには、先程明敏を襲った群生があった。目で数えるのも億劫になるほどの数だ。

 

 

「心外だなぁ、僕の仲間だとでも?」

 

 

 呆れるような口ぶりで言った後、含みのあるような目つきで明敏たちを見据えた。

 

 

「知らないよ、彼らは勝手についてきたんだからさァ・・・・」 

 

「要するに、一人じゃ戦えねぇってことかよ」

 

「あぁ?」

 

 

 誰かが横槍を入れる。挑発にも取れるその言葉は、明敏の口から発せられたものだった。

 

 

「人ってのは一人じゃ生きていけねぇけど、戦いは一人でも――――――」

 

 

 そう言いかけた時、明敏の頬を何かが掠め、傷が付き血が流れた。シュトロームの仕業だった。

 

 

「お喋りが過ぎるなぁ・・・・・、黙ってなよ」

 

 

 彼は肩に担いでいた大剣を明敏に対して向けていた。シュトロームは風を使う魔術師だ。たとえ遠距離であっても、攻撃することに何のハンデもない。只風を操り、武器にすればいいのだから。

 

 

「シュトローム、返してもらうぞ。

 

 ワシの――――――」

 

 

 ゲンゾウは大剣を左手で強く握り、臨戦態勢を取る。

 

 

「大切な――――――作品を!!!!」

 

 

 一歩。大きく跳躍し、シュトロームとの距離を詰める。同時に大剣を振り、攻撃をする。しかし、シュトロームはそれを大剣で防ぐ。

 

 

「いきなり仕掛けるなんて、強引だなぁ。

 改革者が暇になっちゃうだろ?」

 

 

 まるで余裕だと言わんばかりに、明敏の方を向いていた。ゲンゾウはそれに苛立ちを覚え、力任せに大剣を弾く。

 シュトロームの持つ大剣は、見た目と重量はクレイモアのそれと同じ。だが、使い方は刺剣のそれと同じなのだ。つまり相手は突く以外の攻撃では人を殺せない。ましてや、片手で振ることさえ困難なほどの重量だ、相手に大きく隙を作れば勝ち目が見えてくるというものだ。

 しかし相手は風使い。重量などどうとでもなってしまう。故に、ゲンゾウは弾いたあと追撃をすることなく、少し距離をとった。

 

 

「さすが製作者。よくわかってるんだね」

 

 

 シュトロームは薄ら笑を浮かべて、ゲンゾウを見据えた。同時に手で何かの合図をすると、後ろにいた群生が一斉にゲンゾウに向かっていった。

 しかし、それは彼を中心に避けていき、後ろに居る明敏へと向かっていった。

 

 

「これで、誰も退屈しないでしょ」

 

「貴様の目的は何だ?そのクレイモアを盗んでどうする気だ?」

 

 

 ゲンゾウは相手を睨みつけながら質問をした。

 確かに、『突く』事でしか殺せない武器を持って殺しを楽しむのは些か愚かな考えだろう。盗むのならもっと効率のいい武器があっただろうに。

 しかし、シュトロームはその思いを覆すように口を開く。

 

 

「製作者のくせに馬鹿だなぁ」

 

「・・・・・何?」

 

 

「この武器の利点が何なのか忘れたの?」

 

「利点・・・・・・?

 魔法伝導率か・・・・・・?」

 

 

 一体それが何だというのか。

 ゲンゾウはシュトロームの考えが読めなかった。魔法伝導率は、謂わば只の武器が魔法を受け付ける率のことだ。武器に魔力を込めることができる値。

 彼の場合、あの武器に風の魔法を纏わせているのだろう。そのおかげで軽々と扱うことができているのだが、それがどうしたというのだろう。

 

 

「この大剣は魔力を受け付けてくれる。

 どんな魔法だろうと、どんな魔力だろうとね」

 

「そんなことを今更説明されんでも分かっている」

 

「つまり、この剣を――――――」

 

 

 シュトロームは不敵に微笑みながら大剣を振りかざす。ゲンゾウは嫌な予感を抱えながら警戒を怠らない。

 

 

「――――――魔剣にすることができるんだよ」

 

「・・・・・魔剣・・・・・だと・・・!?」

 

 

「知らないの?

 世界には触れるだけですべてを消し去る人間がいるってことを」

 

 

 シュトロームは大剣の刃を摩りながら言った。

 ゲンゾウは驚きはしなかった。魔法伝導率の高い武器を持っているということは、少なからずそういう思考に至るのが人間の欲というものだからだ。

 しかし、すべてを消し去る人間ということには素直に疑問符を浮かべた。

 

 

「そして、そんな人間の能力《チカラ》を盗むことができる魔法があるってことを」

 

「――――――っ!!」

 

 

「もっと世界を知ったほうがいいね。

 自分が思ってる以上にこの世の中は広いんだよ?」

 

「貴様は、その魔法を使って、その能力を使って――――――」

 

「そ、魔剣を創るんだ」

 

 

 今度こそゲンゾウは驚きを隠せなかった。

 すべてを消し去る能力。それを盗む魔法。そして魔法伝導率の高い大剣。それらすべてが揃った時、一体どうなるというのだろう。否、尚更彼の目論みを止めずにはいられなくなった。

 ゲンゾウの瞳には強い意志が宿る。左手に握った大剣を構え、接近する。

 

 

「貴様がそれをどうしたいのかはよくわかった。

 しかし――――――」

 

 

 大剣を大きく振りかぶり、見た目とは裏腹なスピードで振り下ろされる。

 だが、シュトロームはそんなことはお構いなしと簡単に防いでしまう。

 

 

「ワシはその行為を男らしいとは思わんなっ!!」

 

「君にそう思われなくても――――――っ!!?」

 

 

 シュトロームの表情が険しくなる。ゲンゾウは只力任せに防がれた剣筋を押している。両手持ちが基本の大剣を彼は、何の譲歩無しで片手で振り回しているのだ。筋力は常人のとは比べ物にならないだろう。

 

 

「最近の者は鼻垂れ小僧過ぎて適わんわ」

 

 

 力負けしたシュトロームは強引に距離を置き、改めて身構える。しかしゲンゾウは逃がさん、とばかりに更に一歩距離を詰め大剣を振るう。

 

 

「――――――っ!!!」

 

 

 不意をつかれたシュトロームは間一髪といったところでそれを防いだ。だが、力量では勝てないようだ。苦痛の表情で大剣を両手で支えながらゲンゾウの攻撃を防ぐ。

 

 

「男なら何の力なしで戦ってみろ。

 何、心配するな――――――」

 

 

 ゲンゾウは相手を睨みつけ、言葉を続けた。

 

 

「ワシがその手本を見せてやろう」  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、明敏はというと。

 指で数えるには足りないほどの群生の中心で防戦一方、ではなく、敵を一人ずつだが確実に倒していた。

 

 

「はぁぁぁあああっ!!」

 

 

 そう声を荒げるたびに一人、また一人と敵の数が減ってゆく。これは楽勝だ、と言う気持ちが高ぶるが、同時に油断は禁物だ、と彼の頭がそれを抑制する。

 

 

「てりゃぁぁぁああ!!!」

 

 

 しかし、誰がどう見ても明敏が優勢なのは言うまでもなかった。右へ一撃。左へ一撃。敵の攻撃を避け、その勢いを利用しての一撃。百獣の王へと姿を変えている彼には、『野生の勘』が備わっている。故に四方からくる殺気に反応することができる。

 

 

「ったくテメェら情けねぇなァ!んなやつァこうやって――――――」

 

 

 一人の男が前へ一歩踏み出し、手の平から雷を出して明敏に攻撃を仕掛ける。不意打ち、とはいかないが後ろからの奇襲にでた。

 

 

「サンダーショッ――――――ッ!!!」

 

 

 しかしそれは、明敏の突き上げるような回し蹴りによって虚しく失敗に終わる。だがその男の行動が他の連中にどう作用したのか、敵の攻撃が激しさを増した。

 正確には、魔法の利用によって近接攻撃から、遠距離攻撃へと変わったのだ。

 

 

「そんなことにも気づかなかったのか・・・・・・?」

 

 

 呆れたように吐いた言葉は、そのまま誰に届くことなく空中へと消えていった。しかし形勢逆転したのか、明敏は迫り来る魔法による遠距離攻撃に回避行動を強いられた。

 

 

「っつっても・・・・・当たらねぇけどな・・・・・・」

 

 

 そう、彼には動物の本能である『野生の勘』がある。それは例え殺気でなくとも感じ取れる。体を捻り、身を捩り、時に弾き、時に受け流し、明敏は軽やかに、鮮やかに攻撃を避けていく。

 

――――――これは長丁場になる。

 

 明敏はそう思った。

 故に、なのか、それとも他の理由があるのか、彼は一度攻撃を避けた後、腕をクロスするように左手を掴む。この状況で能力を発動させるつもりなのだ。

 

 

「クロス―――――――――」

 

 

 イメージは掴んでいた。動作は完璧だった。無駄のない、余裕すら見えるほどの手際。明敏は一瞬、攻撃が来ないほんの一瞬を狙って力を発動させる。しかし、それは叶わなかった。

 

 

「くっ――――――」

 

 

 正確には阻まれた。

 明敏の左側。腕をクロスさせ死角になった左後ろを見事に狙われた。風や炎ならば衝撃を我慢すればなんてことのない攻撃だ。

 だが、それは雷だった。

 背中の筋肉が一瞬、硬直した。否、痺れたのだ。それは一秒にも満たない時間だったが、今の状況ではそれは命取りだ。

 

 

「今だっ!!!」

「喰らえっ!!!!」

 

 

 痺れて動けない明敏に向かって一斉に攻撃を仕掛ける。迫り来る魔法、勝利を確信した敵の表情。まるでスローモーションのようにゆっくりと流れる時間。

 

 

 これじゃまるで、俺が最悪な敵みたいじゃねぇか・・・・・・。

 

 

 危機的状況にも関わらず冷静な明敏の頭は、そんなどうでもいいことを考えていた。

 無理もない。自分の中には『真っ白い殺意』が存在するのだから、どちらが悪かは一目瞭然だろう。そんな悪の塊である明敏を、数人、数十人でないと相手取れない連中にこのような形で殺されてしまうのか。そう思うだけで自分の在り方を考え直すべきかもしれない、と冷静になる。

 

 

 

「消えろ――――――」

 

 

 

 思いとは裏腹に明敏の口がそう動いた。だが同時――――――。

 

 

 

 

 

―――――――――ゴォォォォォオオオ!!!!!

 

 

 

 

 

 そう地響きを鳴らしながら群生の中心で爆発が起こる。無論、一斉攻撃が命中したのだ。火、水、風、雷、全ての技がぶつかり土煙を大いに上げる。

 

 

 

「はっ・・・・・・・ははっ」

 

「やった・・・・・のか・・・・?」

 

 

 

 恐る恐る、といった具合に一人の男が中心へと近づく。土煙のせいでどうなったのかは窺い知れない。しかし、直撃したのであれば無事では済まないだろう。

 そう自分に言い聞かせるように近づいていく。勿論、生きていた時のために魔法の準備は怠らない。

 

 

「・・・・・・っ・・・・・・・」

 

 

 生唾を飲み込む音が頭に響いている。緊張しているのだろう。無理もない、改革者は化物だ、といわれている。暴力団ジェラードを潰し、自らの体を七変化させるのだ。それが魔法なのかは定かではない、『未知』の存在だ。

 だが、幾ら化物だといってもあれほどの群生から放たれた攻撃を受けて生きているはずもないだろう。

 

 

「・・・・・そうだ・・・・・そうに違いない!」

 

 

 自分を奮い立たせるように握りこぶしを作り、土煙へと近寄る。

 目を凝らし、煙の中を確認する。

 気配は無い。人影はない。

 そう確信した男は振り返り、ほかの連中へ勝利した旨を報告しようとした時―――――――――

 

 

 

「救世主《ヒーロー》・・・・・・が・・・・・」

 

 

 

「―――――――――っ!!!?」

 

 

 

 声は後ろからだった。

 土煙の中、四方八方からの魔法攻撃が一点にぶつかった場所。数十人の群生の中心。それは弱々しく、しかし、力強く立っていた。

 

 

「こんな・・・・とこで・・・・」

 

 

 誰もが驚きを隠せなかった。誰もがその存在を認識するのに数秒の時間がかかったが、しかし認識すると、誰もが言葉を詰まらせた。

 だが、明敏は構わず言葉を続ける。

 

 

「負け・・・・・られねぇ・・・・よなぁ!!」

 

 

 明敏の姿かたちは百獣の王そのものだった。しかし身体はボロボロだった。口は切れ、息は乱れ、体中埃で汚れていた。確実に弱っている。そう確信するのにそれ程時間はかからなかった。

 正に勝利を確信した群生は、先程よりも攻撃の頻度と勢いを強めた。

 もうすぐ改革者は破れる。もうすぐあの化物を殺せる。

 その思いは人を強気にさせる。強気にさせるということは大胆になる。大胆にさせるということは、それが無謀であってもやり遂げようとする。

 

 

「・・・・・・・っく・・・・・っ!!!」

 

 

 防戦一方の明敏。

 もはや避けることで精一杯だった。

 右へ左へ、重々しく体を捻り、弱々しく身をよじる。しかし、冷静な明敏はそれを漏らすことなく確実に躱していく。まさに見事というべき動き。

 

 

「もらったァァ!!!」

 

 

「・・・・・・はぁ・・・はぁ・・・・・っ!!」

 

 

 休む暇のない遠距離攻撃に、近接攻撃が加わる。明敏は間一髪避けることができたが、体力の消耗が激しかった。

 これでは持たないと思った明敏は、左からくる攻撃をかわし、右からくる攻撃を前に飛んで躱し、もう一度能力を発動する。

 

 

「・・・・・染色体X《クロス・フィーリング》」

 

 

 呟くように放つ言葉。それは彼が弱っている証拠だった。

 今回は抜かりはない。死角である左後ろに注意を払いながら明敏は光に包まれ姿を変えていく。

 

 

「後ろがガラ空きだぜ!!?」

 

「――――――っ!!?」

 

 

 その声は左後ろ、ではなく真後ろからだった。

 明敏は振り返るも、背中に掛かる衝撃に邪魔され意識が飛びかけた。しかし、足を踏ん張ってなんとか耐える。

 体を包んでいた光が消え、彼の体はいつもの宮村明敏の姿へと戻る。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「いったい・・・・・・何・・・・を・・・・?」

 

 

 明敏は訳も分からず元に戻った自分の腕を見る。別段何も変化のないいつもの腕。不意の衝撃で集中力が切れたのかもしれない、そう思い再度能力を発動させようとした瞬間、体に走る激痛に気づく。

 

 

「・・・・・・は・・・・?」

 

 

 それは胸の左側から突きでた氷柱の根元からだった。

 

 

 

――――――貫通していた。

 

 

 

 先程の敵の強襲は、明敏の胸を貫いていたのだ。つまり、背中にかかった衝撃は氷柱だったのだ。

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 胸から走る激痛は次第に薄れていった。それは同時に意識が薄れていくことを意味していた。

 明敏は自分の胸を貫く氷柱から滴る鮮血を確認しながら、膝からゆっくりと崩れ落ちる。勝利を確信した群生の雄叫びは耳を通るわけもなく、視界が暗くなり、この状況に疑問を抱きながら、口元を僅かに動かしながら。

 

 

 

 救世主は――――――消えた。













消えろ・・・・・・・・・



・・・・消えろ、消えろ・・・・消えろ消えろ。

消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ。




 俺は死んだのか?
 生きてんのか?
 意識が朦朧としすぎてわけわかんねぇ・・・・。
 けど、死ぬなら楽な方がいいもんな。だとすると痛みがないってのはある意味いい死に方なんだろうな。



 ・・・・・・・・死ぬ・・・・・・か・・・・・。


 俺はこんな奴に殺されんのか。こんな死に方なのか。こんな不意打ちでしか殺せねぇやつにやられんのか・・・・。


 なんか腑に落ちねぇなぁ・・・・。


――――――消えてくれねぇかな。





 ・・・・・・・・・・・消すか。



 俺には、俺の腕には能力《チカラ》があるんだ。だったらこいつらを消すくらいできるだろ。

 一人一人触れなくても消す方法が――――――。



 そうか、思い出した。


 俺には――――――『思い込み』ってのがあんだったな。


 全部消すチカラ。

 何もかも消すチカラ。


 消えろ・・・・・・・。






・・・・・・・・キエロ。












「・・・・・・・・融解・結合《メルト・フィーリング》」


 聞こえるかどうかわからないほどの小ささで、胸を氷柱で貫かれた男は言葉を紡いだ。
 傷口から流れる鮮血は、一滴一滴、氷の溶けた水と混じりながら薄まって流れ落ちる。足元に水溜まりを作るほど流れてはいないが、確実に死んでいることを認識せざるを得ない。何故なら、その氷柱は位置的に心臓のある部分を通っているからだ。
 そんな死んでいるであろう男は、泣けなしの力を振り絞り胸を貫いている氷柱に触れる。一体何をしようというのだろう。心臓を貫かれ、息もしていない体で、氷柱を引き抜き立ち上がろうというのだろうか。

 それは只の死に急ぎだというに。

 しかし、男はゆっくりと立ち上がり、虚ろな目で何かを見据えていた。いや、寧ろ何も見えていないのかもしれない。


――――――瞬間。


 男の体を何かが包む。
 それは認識できず、捉えられない。しかし、何故かそれは確かにそこにあると確信できる。


 矛盾。





それは、――――――真っ白い炎だった。
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