それに逸早く気がついたのは、他でもない明敏本人だった。
無理もない、自分の体に起こった出来事なのだから。
湧き上がる浮遊感。溢れ出る高揚感。しかし同時に積もっていく喪失感。それが一体何を意味するのかは分からない。だが、それが自分の内側に存在し、自分の力となり、敵を討ち滅ぼすのだと理解したとき明敏は自然と口元が緩んだ。
「・・・・・・・・ふっ・・・・」
悪魔の囁きにもとれる彼の微笑みは、誰の心をも恐怖にさせなかった。何故なら、宮村明敏という存在が白く、薄くなっているからだ。それは文字通り、彼の体が白い炎に包まれ、存在が消えかかっているのだ。
宮村明敏の中に存在する黒い、否、『白い』部分。人に対する殺意。憎悪。嫌悪。それらすべてが具現化し、体現化し、彼が望むモノへと変化した。
「・・・・・・・消してやるよ」
周りに群がる群衆は、目の前で起こった状況に手出しできなかった。得体が知れず、見たこともない白い炎に包まれた人間。いや、最早人間という領域を超えた『モノ』に恐怖を抱いたのだ。
しかしそれでも『モノ好き』と言うものは居るもので、その炎に包まれた明敏に向かって、雷の槍を飛ばす。
閃光、と呼ぶべき速度で移動し、閃光、と呼ぶべき破壊力で明敏の頭を吹き飛ばした。それは呆気なく、飴細工のように簡単に爆ぜた。
誰もが彼の死を疑わなかった。どこでもない頭が爆ぜたのだ、疑う余地もない。
しかし、それはあくまでも明敏を取り巻く群衆が抱く常識だ。現実は既に変わり始めている。
救世主の登場から――――――。
「お、おい・・・・・」
雷が当たった衝撃で仰け反った上体を起こし、無い頭で相手を見据える明敏。異様に見える光景。しかし次の瞬間、彼の体に纏っている白い炎が、爆ぜた頭を修正していた。まるで元から爆ぜていなかったかのように―――。
「・・・・・いい加減」
後ろに大きく振りかぶり、狙いを定める明敏。人間の、生物の領域を超えた彼がする行動は、すべてが常識と繋がらなかった。
「・・・・・・・・・消えろよ」
大ぶりに腕を振るう。彼の放つものは白い炎、ではなく雷の槍だった。
「・・・あ・・・・・あれは・・・・!!」
そう声を発した男へ、雷の槍が直撃する。黒く焼け焦げる人体。悪臭が立ち込める中、明敏は構うことなく目の前の敵を見据える。餌を目の前にした猛獣、ではなく、石ころを蹴飛ばしたような無の心境だ。
埃を払うように無造作に横薙ぎに腕を払う。明敏の纏っている炎が彼の動きに呼応するように敵へ襲いかかる。誰も身動きが取れなかった。何故なら迫り来る危機感が感じられなかったからだ。正確には、視覚では危機を感じるが、体や脳がそれを否定した。理性と直感が交差すると人は停止する。矛盾が起こるとそれを究明しようとする。その誤差が命取りになるにもかかわらず。
「うわぁ!!!」
明敏の払った炎に一人の男が巻き込まれる。先程のように焼き焦げ、悪臭を放つと思われた。しかし―――――――――
「・・・・・し、死体が・・・・消えた・・・・!?」
黒く焼き焦げず、白く透明に消えた。まるで初めからそこに居なかったかのように。
「これが・・・・俺の中にあった・・・・・・・もの」
この情景に、明敏は驚きを見せなかった。心中穏やかなのは、一度死にかけたせいだろうか。彼の目には光はなく、透き通るように白く、何色にも染まらず、何色にも染めるような真っ白い瞳だった。
『融解・結合《メルト・フィーリング》』へと能力を変化させた明敏には、最早人間の常識、世界は通用しないだろう。群衆は巣を襲われたアリのように散り散りと退散していく。それを追うことはせず、只一方向へ足を運んでいった。
この戦いの首謀者。シュトロームのもとへ。
その実態を知らないシュトロームはゲンゾウの執拗な力押しによる攻撃に、成す術なく劣勢を強いられていた。しかし、彼の目の先で立ち上った真っ白い炎に、お互い注目せざるを得なかった。何故ならその場所が『改革者』こと宮村明敏が激戦を繰り広げているであろう場所だからだ。
もしかして、あの炎は改革者だったりして・・・・。そう思うシュトロームの勘はあながち間違ってはいなかった。だが、同時に不安がよぎる。それは、こちらに向かってきているのではないか、と言うものだ。
幾ら風を使うとは言え、それで自らの速度を変えられるからとは言え、二人相手に勝てるはずがない。
シュトロームはクレイモアの見た目をした刺剣を構え、一歩前へ踏み出し薄ら笑みを浮かべる。
「余所見なんて、随分余裕だね!!」
突き出された矛先は、ゲンゾウの心臓を的確に狙っていた。それに加え、魔法によって軽量化され、速度を倍増された突きだ。至近距離ならば外れるはずはない。しかも相手は突然立ち上った真っ白い炎に気を取られているのだ。外す方が難しい。
だが、そんな外す可能性は皆無に近い状況で、突き出された矛先は身動き一つ取れなくなったように止まる。
「――――――勿論だ」
ゲンゾウは無表情で口を開く。顔は逸らしているが、目はシュトロームを睨みつけていた。
「己の力で戦わない者に」
突き出された刀身を、右手で防いでいた。矛先以外に触れれば怪我をすることはない。それは製作者だからこそよく理解している。
シュトロームは大剣を引き抜こうとするが微動だにしない。完全に固定されているかのように。
「ワシは負けんよ」
ゲンゾウは掴んだ刀身を引き寄せ、釣られてきたシュトロームに一撃を食らわせる。
圧倒的な力の差。それは誰よりもシュトローム自身が理解していた。自分が弱いとは思っていない。寧ろ場数は踏んでいる。本気で戦えば改革者がどんなに化物じみた強さだろうと勝てる自信がある。しかし、何故かゲンゾウには敵わない。
力量は勿論勝るとは思わない。故に大剣の重量を魔法で軽量化しているのだから。だが力量は譲っても、経験値は勝っているはずだ。にもかかわらず、この圧倒的に差が生じる理由はなんなのか。
本気を出していない。そんなのは理由にならない。何せ相手も同じなのだから。では一体なにが原因なのか。
シュトロームはゲンゾウを殺意の篭った目つきで睨みつける。
「くそっ・・・・・くそっ、くそくそくそっ!!!」
地団駄を踏むように言葉を漏らし、一歩踏み込んで大剣を突き上げる。勿論ゲンゾウは余裕の表情でそれを躱す。そして流れるようにシュトロームへ一撃を浴びせる。
「シュトローム、貴様は順序を間違ったな」
「な・・・なにっ!?」
ゲンゾウは左手に持った大剣を肩に担ぎながら、シュトロームの前に仁王立ちをし見据えた。
「先に魔剣とやらを造っておくべきだったな」
「・・・・・・くっ・・・・!!」
苦虫を噛み潰したようにシュトロームは表情を歪ませる。無理もない、彼の発言が正論だったのだから。
「だけどさぁ・・・・この順序が正解だったとしたら・・・・?」
「――――――っ!!」
意味深な発言に警戒したゲンゾウは、後ろに大きく飛ぶ。しかし距離をとったのは間違いだった。
シュトロームの足元に魔法陣が現れ、彼の体に風が纏った。それは攻撃ではなく移動だった。
「じゃぁね、僕は少しだけ
――――――強くなってくるよ!!」
そう言い残したシュトロームは正に風の如く去っていった。目的地はもちろん、宮村明敏の居た場所だった。
「しまった・・・・小童!!」
ゲンゾウも後を追うように走り出す。間に合うとは思っていない。何しろ相手は風使い、人の足で追いつくわけがない。しかし、だからと言って見捨てるわけにも行かない。出来うる限りの全速力で明敏の元へ向かうのだった。
『世界は平和だ』
どこかの誰かがそういった。
そんなものは間違っている。世界が平和なわけがない。もし平和だというなら、どうして人は争うのか。もし平和だというなら、どうして人は憎みあうのか。
どうせどこかの平和ボケした人間が言ったに違いない。
皆が幸せで、笑顔で生きることが『平和』なら、俺のいる世界は間違っている。
俺は笑顔になれない人を見たことがある。自信を不幸だいう人間を見たことがある。だったら所詮その言葉は偽りに過ぎない。戯言に過ぎない。
だから俺は『平和』だと豪語する人間は信用ならない。
だから俺は世界を『平和』にするんじゃない。
―――――世界を『変える』んだ。
昔の俺だったらできなかったかもしれない。生き物と同化するだけの力では、俺は何もできない。それは『触れる』『触れない』なんて関係ない。変えると誓ったくせに、それを自分に向けても意味がないんだ。
『融解・結合《メルト・フィーリング》』が俺の必然された運命なら、それを全部受け止めて俺は『救世主《ヒーロー》』になってやる。
どこからか命知らずな奴が俺に攻撃を仕掛けてきた。無駄だと知らずに立ち向かってくる。馬鹿馬鹿しい。
これが高見沢の言う俺の選んだ道なら、やるしかないんだろう。
手を敵にかざし、自分の中にある溢れ出る高揚感を滲み出すように、真っ白い炎を立ち上らせる。
「・・・・・・融解《メルト》」
一人の男は存在感が薄れながら、そんなことなど気にも止めないような足取りで歩を進める。
体からは真っ白な炎を纏わせ、虚ろな目付きでただ一つの目的地へと歩いていた。
「見つけたァ!!改革者!!」
今日何度目かの台詞。しかし彼は眼中に無いかのように無視をした。だが、それができない事態へと陥いる。
明敏の頭上に人影がある。それはシュトロームだ。風の魔法を使って空中に浮いていた。
そこから方向転換するようにシュトロームは身を屈ませて方向を定める。勿論目標は一つだった。
「無視なんて水臭いなぁ・・・・・・、
世界を変える救世主の癖にさぁ!!?」
急降下するように明敏に向かって飛んでいく。手に持った大剣を構え、彼に突きを浴びせる。
一撃必殺、とまではいかないが、確実に手出しできないように肩を狙った。シュトロームの目的は、あくまで宮村明敏の力であろう真っ白い炎を利用すること。下手に傷つけ能力の発動ができなくなってしまっては意味がない。
シュトロームは急降下した勢いを殺すように地面をこすりながら標的を確認する。
明敏の肩がない。シュトロームは歓喜するように口元を綻ばせ、勝機を確信した。だが彼は妙な感覚を目撃した。それは――――――
「腕が・・・・・・・再生・・・した・・・・・?」
「正確には、存在を『曖昧』にしたんだ」
シュトロームの問いに答えるように明敏が口を開く。
「あ・・・・・曖昧・・・だって?」
「融解・結合《メルト・フィーリング》ってのは、俺の存在を曖昧にする能力。
俺がここに居るかどうかを曖昧にすりゃあ・・・・・
攻撃が当たったかどうかもわかんねぇよな?」
理解不能な状況に、シュトロームはもう一度攻撃を仕掛ける。今度は彼の頭に向かって突きを繰り出す。無論、それは暖簾に腕押し。意味がなかった。
「ば・・・・・・化物・・・・・」
「んなもんは・・・・わかってんだよ」
生き物の領域を超えた明敏。誰もが彼を人としては見ないだろう。
化物。怪物。他にどんな言葉を浴びるだろう。そんなことを考えながら明敏はシュトロームへ手を伸ばす。
恐怖心からかその場で尻餅をつくシュトローム。みっともない事この上ない。しかし明敏は我関せずといった様子で伸ばす手を止めなかった。
「や・・・・やめて・・・・・こ・・・殺すのだけは・・・・・・」
強い懇願。生への執着。それがより一層惨めさを際立たせる。明敏にはこの上なく関係のないことで、どうでもいい程の光景だった。
早く終わらせたい。もう終わらせたい。自分が悪役になっているようなこの状況を終わりにしたい。その気持ちでいっぱいだった。
「――――――っ!!」
シュトロームが強く目を瞑り、死の恐怖から逃れようとしたその時――――――
「よせ、小童!!」
不意に声が響く。低く野太い声。明敏が振り向くとそこには、息を切らせて立っているゲンゾウがいた。
「そいつはワシの相手だ。手を出すな」
ゲンゾウがシュトロームのもとへと歩いていくと、明敏はあっさりと身を引いた。それもそうだ、彼にはシュトロームを殺す気はないのだから。
「さぁ立て、シュトローム。
――――――再戦だ」
真剣な面持ち。有無を言わさぬ風格に怪訝な顔をするシュトローム。先ほどの戦闘で既に力の差を見せつけられた相手に、再度戦いを挑まれれば誰でも彼のような表情になるだろう。ましてや「強くなってくる」と言っておきながらのこのザマだ。無理もない。
「て・・・・手厳しいなぁ・・・・」
口元は笑っていたが目はそうではなかった。絶望と後悔。その両方が入り交じったかのような目をしていた。
渋々といった様子で立ち上がり大剣を構えるシュトローム。それに呼応するようにゲンゾウも構える。お互い臨戦態勢だ。
「こんな弱い僕なのに戦うのかい?」
「無論だ」
「実力はさっきので充分知ってるよね・・・・・それでも?」
「無論だ、その剣を取り返すまではな」
「・・・・・剣・・・か」
今思えば笑える話だ。ゲンゾウの固執する理由が只の大剣を取り返したいということだけ。たったそれだけで自分は負けていたのだろうか。別段怒らせるような行動はとっていない。大切な人間を殺したわけでもないのに、彼の強さの理由が只「奪われた物を取り返したい」という理由だったのだ。
「そっか・・・・・それじゃ――――――」
シュトロームは構えるのを辞め、俯いた。何か仕掛けてくると思ったゲンゾウはさらに警戒を強める。しかし、足を広げ攻撃をする動作をしたがゲンゾウのは来なかった。だが、その代わりに近くにいた真っ白い炎に向かって大剣を突き刺した。
「なっ!?」
「すべてを無に換える魔剣を今できなくても――――――」
それは――――――明敏だった。
「存在を消す魔剣だったら!!!」
シュトロームは明敏の体に深く大剣を突き刺す。まるで熱したナイフをバターに押し付けるように、肉に串を刺すようにねじ込んでいく。
明敏は油断していたのか、生身の部分に大剣が突き刺さる。肉が抉られるような気色の悪い音が耳に響くと同時それは消える。
彼の表情は無のままだった。何故なら、肉を抉った大剣に真っ白い炎が包みこむ。存在を曖昧にしたのだ。
シュトロームは待ってました、と言わんばかりに突き刺した大剣を抜き取る。
「さぁ始めようか?」
魔剣を得たシュトロームは虎の威を借る狐のように、強気な笑みを浮かべゲンゾウを見据えた。一方、ゲンゾウはまるで呆れたように溜息を一つ付き、口を開く。
「ワシは言ったな?」
「ん?何のことかな?」
「男なら何の力なしに戦ってみろ――――――と」
「だから?」
「貴様のように己の力で戦わねば
ワシには勝てん」
「それは・・・・・・・どうかな!!?」
シュトロームは一歩大きく踏み込む。正に目にも止まらぬ速さだ。横凪に払うように、縦に切り裂くように、真っ直ぐ突き刺すように、斜めに切り払うように。
ゲンゾウは溜息とも、深呼吸とも取れる息を吐きながら敵を見据えた。覚悟の篭った瞳には敗北の色は見られなかった。
シュトロームの敗因は只一つ。それは相手が大剣の製作者だったということ。それは武器の特性と、使い方、動きを把握していたことを意味し、攻撃をすべて見抜かれていたことを意味していた。つまり、幾らクレイモアの見た目をした刺剣を『魔剣』に変えたところで、相手がゲンゾウである時点で勝ち目はないのだ。
シュトロームは意気揚々と攻撃を次々と繰り出す。しかし――――――
それがゲンゾウを捉え、傷をつけることはなかった。
「本当に・・・・これで良かったのか?」
「ああ、無論だ」
静けさ漂う空間。そこに二人は佇んでいた。
「けど・・・」
「どう事態が変わったところで、こうなることは決まっているんだ。
・・・・・気にするな」
彼らの前には、大量の出血で死んだシュトロームの遺体。その横にはクレイモアの見た目をした刺剣があった。
ゲンゾウは勝利したのだ。
「さぁ小童、ひと思いにやれ」
「・・・・・・・」
明敏は躊躇した。
当たり前だ。ゲンゾウは目の前にあるものを消せと言っている。無論、明敏の能力、融解・結合《メルト・フィーリング》でだ。
存在を消す力を所持する彼にとって、そう難しい問題ではない。しかし、一度敵を消してしまったからといって、いざそれをしろと言われると抵抗があった。否、最早それは悪役となんら変わらない。
「・・・・・・できねぇよ」
「男には潔さも必要だ」
「けど・・・・やる必要があんのかよ?」
当然の疑問だろう。目の前のシュトロームはすでに死んでいる。これ以上手を下す必要はないはずだ。
「貴様は知らんだろううが、この世には相手の魔法を盗む魔法があるらしい。
そしてこいつはその魔法を使って、この世界にある『すべてを無に換える』力を使って魔剣を造ろうとしたんだ」
「―――っ!!」
明敏は彼の言葉にある人物を思い出す。
同じ異能力者の羅美亜を――――――。
「もしそんなものが存在するのなら、誰かを生き返らせる力があってもおかしくはないだろ」
ゲンゾウの言い分は理解できる。蘇生術が存在したならば、また同じ出来事が繰り返されてしまう。
歯噛みする思いで手をかざす。湧き上がる浮遊感と、滲み出る高揚感。悔しいかな、喪失感はなく絶望感もなく、悲壮感もない。
ただ溢れ出る虚無感で心が埋まっていた。
巣を襲われたアリのように霧散する人々の間を掻き分け、歩き続けた後、不意に無機質な機械音が俺の鼓膜を揺らした。
――――――着信だった。
勿論、相手は『非通知』。通話相手が誰なのか理解しているせいか、警戒することなく携帯を耳に当てる。
「もしもし」
『おめでとうございます、明敏君。
これであなたも遂に救世主《ヒーロー》への道をたどることができましたね』
「・・・・どういう意味だ?」
『貴方の持つ異能力は世界を変えるには必要不可欠だということです』
「この力が・・・・・か?」
『ええ、そうです。
僕は能力が開化するのを待ち望んでいました』
「待ち望むって・・・・知ってたのか?」
『あれ?
僕が未来を見る能力者だって言いませんでした?』
「いや、違う」
『おや、何が違うんでしょうか?』
「こんな世界を滅ぼしかねない力があると知ってて、何で忠告しねぇんだ?
未来が変わるから・・・ってわけじゃねぇよな?」
『何が言いたいので?』
「お前が待ち望む理由ってのは何だ?
何企んでんだ?」
『・・・・・・・・・・』
『叶いませんね・・・・。
流石、明敏君です』
『教えましょう、特別サービスですよ。
貴方の持つ異能力『融解・結合《メルト・フィーリング》』は必然的に取得する力なんですよ』
「必然・・・・?」
『ええ、明敏君が今いる世界へ来て貴族に肩入れした時点で決定された出来事。
どう足掻こうとも、どう世界を歪めても、貴方がその能力に目覚めることは決まっているんです』
「じゃあ、俺がこの世界に行かなかったら?
お前の出したゲートってのに入らなかったら・・・・どうなんだ?」
『勿論、死にます。あの時言ったように、異境扉《ゲート》は世界を飲み込むんです』
「異世界に行かなきゃ死んで、貴族を助けなくても死ぬ・・・・。
じゃあもし異世界に来て貴族を助けたあとで別の行動をとったらどうなるんだ?」
『同じですよ。
世界を変える決意をしたあと何もしなかったとしても、ジェラードを潰さなくても、ミケという少女に出会わなくても、呪術と言うモノに出会わなくても、羅美亜という同じ異能力者に出会わなくても、宮村明敏と言う人物が融解・結合《メルト・フィーリング》と言う能力に目覚めることは必然です』
『ただし、羅美亜には一度以上出会いますけどね』
「何だよそれ・・・・そんな・・・ゲームみたいな・・・・」
『正直に言うと、僕と出会わなくても同じです。
しかしその場合は貴方は救世主《ヒーロー》ではなく
――――――独裁者になってますけどね』
「は・・・?独裁者!?
何で俺が?」
『詳しくは話せませんが、有り体に言えばイジメが原因ですね』
「・・・・・・・!!」
『いやはや恐ろしいですよイジメは・・・・・。
何せ標的を狙わず、その関係者を――――――潰すんですから』
「潰すって・・・・・まさか、葵・・・!!?」
『それで半狂乱した貴方が世界を滅ぼしたんですよ』
「・・・・・・・・」
『まぁその辺の詳しい話は後日にでも話しますよ。
今は取り敢えず、その能力について説明しておきましょう』
『融解・結合《メルト・フィーリング》は一言で言えば、「存在を消す力」です。
能力を使う間、貴方は人間と物質の境界線を行き来することができます。なので傷は有ってないようなもの。命も有って無いようなものです。
存在を曖昧にすれば「叶わない事」はありません。その為の結合《フィーリング》ですからね』
「説明を・・・・・何でお前ができるんだ?」
『まぁそう警戒なさらず、それも含めて後日ということで』
「待ち望んでた理由も、か?」
『話が早くて助かります。ではそろそろ・・・・』
「待て、一つ聞いていいか?」
『なんでしょう?』
「独裁者になったっていう世界の俺は・・・・・
・・・・・報われたのか?」
『・・・・・・・・・・・・』
「・・・・・・・・・・・」
『・・・・どうでしょうね』
「・・・・・・・」
『只・・・一つ言えることは』
『誰かを救うことを、誰よりも望んでいましたよ』