救世主になりたい男の顛末   作:愛・茶

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「・・・何だい?」

「・・・・・・・・ん・・・・ん・・・」

「そうかい、もう――――――」

「ん・・・・・そこにいるのかい?」

「じゃあ私も行こうかね――――――ん?」

「・・・・・・・・」

「当たり前さね、私の望みを知ってるだろう?」

「・・・・・・・・」

「大丈夫さね、もう十分に絆は深めた」

「四百年生きて、これ程人生に満足を覚えたのは初めてさね」

「ん?――――――支障?」

「知らないね、止めたきゃ勝手に止めな?」


「もう、どっちも死ねないんだから・・・・」

「・・・・・・・・」

「残念だったね・・・・・・伝えなけりゃ、未来が変わったかもね?」


「・・・・・・・・・・」


「わかってるじゃないか、これが宿命だって――――――」



参章~起点~

 西の街。王室。

 初見であっても、そこが王室であることが分かるほどの造り。そして触れることを躊躇ってしまうような骨董品の数々。

 貴族の部屋。まさにそれだった。

 

 

「君を呼んだ理由はわかっているかね?」

 

 

 高そうな服装に、高そうな椅子。何をとっても桁違いの金額がしそうな物に囲まれながら口を開いたのは、西の街の王様である。

 

 

「はい、もちろんです」

 

 

 それとは対照的に、如何にも安価であろう防具を装備している女性が王の前で膝をつき、顔を上げずに答える。

 誰が見てもこの二人の関係は主従であることが伺える。おそらく何か仕事の依頼でもしているのだろう。

 

 

「僕は今、非常に腹が立っているんだ。理由はわかるよね?」

 

「はい、分かっております」

 

「まったく・・・・今すぐにでも僕の手で始末してやりたいよ・・・・!!」

 

 

 額に血管が浮き出るほどに憤慨している王は、目の前の女性に一枚の封筒を雑に放り投げる。

 

 

「ほら、前金だよ。報酬は仕事の後だ」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

 封筒を手に取った女性は不満そうな顔をする。思った以上に少なかったのだろう。しかし前金だと割り切ったのか、一礼をして受け取った。

 王は引き出しから一枚の紙を取り出し、女性に見せた。どうやら写真付きの資料のようだった。そこに写っていたのは――――――

 

 

「改革者――――――」

 

「わかってると思うけど、一応情報は渡しておくよ。

 普段はこんなことはしないからね?人違いされるとこっちのメンツが危ういんだから」

 

 

「・・・・・分かりました」

 

 

 メンツを気にするくらいなら、こんな事をしなければいいだろうに。そう口をついて出そうなのを堪え、了承の言葉を発する。

 依頼内容は把握している。

 改革者である『ミヤムラアキト』の殺害。

 しかし、その理由がわからない。救世主と呼ばれる彼を何故殺さねばならないのか。確かに、噂では化物じみた人間だと言っていたが別段殺すほどの事をしているわけではない。勿論、化物じみているだけあって、何時こちらに牙を向いてくるかわからない。それ故の殺害。

 しかし、王のあの憤慨っぷりは、彼に恨みがあるように見える。一体彼が何をしたのか。それを伺い知るにはこの女性では地位が低すぎるだろう。

 

 

「いつまでここに居る気なの?」

 

「・・・・では、失礼します」

 

 

 女性は急ぎ足で王室を後にする。手にした改革者の資料に軽く目を通す。そこにはミヤムラアキトの行動内容が記されていた。

 

 貴族の救出。

 食料の無料提供。

 ジェラードの壊滅。

 街の騒動の鎮静。

 

 あくまでも彼は善行を行っている。捉え方は様々だが、これを悪行を働く悪人だと捉えるのは難しいだろう。

 

 

「一体王様は何が気に食わないんだろう・・・・?」

 

 

 女性はため息混じりに言葉が漏れる。だが疑問を抱えたまま仕事はできない、と気持ちを切り替え、東の街への道のりを急いだ。

 そう、ミヤムラアキトの居る場所へ――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲンさん?」

 

「唐突に何だ、その呼び方は?」

 

「あだ名だよ」

 

 

 赤を基調とした服を身に纏い、赤い髪を後ろで一つ結びにしたポニーテール。ミケ・リベロは隣にいたゲンゾウに話しかけた。それは何気ない会話。

 シュトロームとの一件が終了した明敏達は、西の街へ向かって歩を進めていた。道中の宿にて一休みしているのが今の現状である。

 

 

「そんなものはいらん、普通に呼べばいいだろう」

 

「え~でもでも、アタシらもう遠慮するような仲じゃないし」

 

「親しき仲に礼儀あり、だ」

 

 

 無邪気な笑顔を見せるミケ。それを拒否するように首を振るゲンゾウ。しかし、彼自身あだ名を悪く思っているわけではない。寧ろ信頼の証とも思っている。だがそれは、ゲンゾウという男の中にある過去を思い出させる材料になってしまうのだ。

 

 

 

 そう、あれはまだゲンゾウが『鍛冶屋』であった頃の話――――――。

 

 

 

 

 

 ワシには妻がいた。

 一人息子もいた。

 家族の仲は悪くはなかった。

 喧嘩をすることもあったが、仲直りは早かった。といってもオシドリ夫婦というほど仲がいいわけではない。

 所謂、普通の家庭といったところだった。

 ワシは十分満足しているし、妻も不満はない。だが、妻はワシの仕事を気に入ってはいなかった。

 

 

「ゲンさん!貴方またそんなものを造って!!

 それが何を意味するかわかってるんですか!?」

 

「無論だ。承知の上で造っている」

 

「金属を扱うなら、もっと有意義になるものを造ればいいじゃないですか!」

 

 

「今の時代、これが一番儲かるんだ。

 家族を養うためだ、許せ・・・・」

 

 

「許せ・・・って・・・・・そんな、人を殺す道具で稼いだお金で・・・・・」

 

 

 妻の言い分はわかっていた。誰もそんな金で悠長に生きたいとは思っていない。だが、仕方ないことだ。

 人は生きる為に動く。動いた金で生きる。

 そんなものは常識であり、誰もが理解していることだ。妻もそれを理解している。だが彼女は理解しても納得はしてくれなかった。

 

 

「ゲンさん・・・・・私は、もう・・・・耐えられません」

 

 

 唐突な通知。

 

 

「暫く・・・・実家に、帰らせていただきます」

 

 

 気づいたときには、目の前にあった幸せは、消えてなくなっていた。

 誰が悪いかなんて百も承知。反論の余地なし。

 引き止めることも出来たのだろう。

 放り投げることもできたのだろう。

 辞めることもできたはずだ。

 しかし、ワシの口をついて出た言葉は――――――

 

 

「男には、譲れないものがある」

 

 

 我ながら馬鹿げた返答だと思う。

 そのせいで大切なものを失ったのだから。

 

 

 ワシは当時、東の街で仕事をしていた。出身もそこで、出会いもそこだった。妻は北の街出身で、出稼ぎで来ていたらしい。そしてワシらはであった。

 いや、そんな馴れ初めはどうでもいい。問題は当時の世界の流れや動きに対して知識が疎かったということだ。

 もし、ワシに知識があって、世界の動きに敏感であったならば、妻を失うことはなかっただろう。

 

 後悔先に立たず。

 

 まさにそれだ。

 

 もし、やり直せるのならば運命は変わっていたのだろうか。ワシの生活も変わっていたのだろうか。世界の運命も変わっていたのだろうか。

 ワシは戦争は好きではない。しかし、人は争いを好んで行う。気持ちはわからなくもない。

 無駄な話し合いを省いて武力で敵を制圧する。

 効率よく、かつ、効果的な方法だ。だが非生産的な方法でもある。これは別段、妻を失ったことへの恨み、ではない。無論、憎しみがないといえば嘘になる。が、それ故に否定的なことを言っているわけではない。

 戦争は犠牲が大きく、利益が少ない。しかし、それは市民側の意見だ。政府側としては、利益の方が大きいのかもしれない。情報に疎いワシには窺い知れない領域だ。

 今日も相変わらずに、戦争を有利に進めるための『促進剤』を造り続けるのだ。それで犠牲者が増えるとわかっていても――――――。

 

 

 

 

 ある日。

 ワシは自分の構えた店で武器の手入れをしていた。客足は多くないが、近隣の者はがよく出入りしていた。

 主に日用品(包丁や鋏といった類)の手入れを頼まれる。無論、断る理由もない。扱うのは刃物に違いはないのだから。

 

 

「今日もゲンゾウさんだけみたいだね?」

 

「いつもこんな感じだ」

 

「下世話な話、儲かってるの?」

 

 

 この店の光景を見れば誰でもそう思うだろう。かく言うワシも客観的に見れば赤字続きの閉店寸前の店にしか見えない。

 

 

「心配はいらん。今、西と北で戦争をしているからな。

 物資を売ればそれなりに儲かる」

 

「それって・・・・闇ルート・・・ってこと?」

 

「いいや、違う。正式な商売だ」

 

 

 この世界には武器に重量制限や、様々な規制が施されている。勿論それは戦争で使う武器のみだが。

 その規制を破って武器を売買するのが闇ルートだが、ワシはそれらすべての基準を守った上で売買している。違法ではない。

 

 

「そうかぁ・・・よかった。

 ゲンゾウさんがいなくなったら寂しいからねぇ」

 

 

 近所付きあいは大切だ。ワシ自身この関係を無くしたくはない。

 

 

「そうそう、そういえば最近うちの近所に野良犬がいるんだけどさ」

 

「唐突な話題変換だな・・・・」

 

 

「ゲンゾウさん、寂しくない?」

 

「言いたい意味はわかる。無論ワシも人間だ。

 寂しくないと言えば嘘になるだろうな」

 

 

 妻もいない。子もいない。親もいない。まさにワシは孤独だ。だがそれでどうこうする気もない。一時期再婚を考えたが、それは考えで留まった。理由はわからないが。

 

 

「だったら犬を飼ってみたら?」

 

「その犬を飼って癒されるとは思えんが?

 それに野良犬だろ?人に懐くのか?」

 

「それが意外にも人懐っこいんだよ」

 

 

 だとすれば飼い主がいたのではないか。もしくは逃げ出したか。どちらにせよ飼うとなると店を構えている時間を犬に費やさなければいけなくなる。それは御免だ。

 

 

「ならば貴様が飼ってはどうだ?」

 

「僕はダメだよ。家内が動物苦手だし」

 

 

「ならば放っておけ」

 

「ゲンゾウさん・・・・」

 

 

 呆れたようにうな垂れている。

 しかしワシにどうしろと言うのだろう。飼えとでも言うのだろうか。こちらとしても生き物を飼うことに反対をしているわけではない。寧ろ人生経験としていいと思う。しかし、犬のせいでワシの仕事に支障を来すのは頂けない。

 

 

「そのねだる様な顔はなんだ・・・・・?」

 

「いや、別に・・・・・・・」

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

「・・・・はぁ・・・・貴重な人生経験の一つだ。

 ・・・・・・いいだろう」

 

「おっ、流石ゲンゾウさん!」

 

 

 犬のようにはしゃいでいるいい年をした中年男。みっともない。男たるもの常に構えておらねばならぬというのに。

 

 

「取り敢えず、善は急げ、だ。その野良犬が居る場所へ案内しろ」

 

「オッケー、すぐ近くだから」

 

 

 そう言ってワシは中年男についていった。

 街の少し外れた場所に一つの宿所があった。お世辞にも人の住める場所とは言えないほどに廃墟と化していた。そこに野良犬が住み着いているのだそうだ。犬からしてみれば雨風を防げる場所は貴重だろう。辺りを見渡しても人の気配はない。餌には困るだろうが野生化してしまえば、ここは最高の拠点といえよう。あくまで動物にとっての話だ。

 

 

「・・・・・・・」

 

「おーい!ミケランジェロー!?」

 

 

「??」

 

「ミケランジェローー!!?」

 

 

「待て、それは犬の名か?」

 

「うん。僕がつけたんだ」

 

 

 彼の思考回路を疑いたいところだが今はよそう。聞いたところで何となく、と返答が来そうだ。

 中年男が犬の名前を呼び続ける。静かな場所なだけに声が響いている。犬の聴覚は人より優れているはずだ。大声で叫ばずとも反応はするはず。もしかするとこの名には聞き覚えがないのだろうか。その可能性は否めない。

 かれこれ五分はたっただろう時間に宿所に変化があった。

 

 

「あっ!」

 

「ん?」

 

 

 宿所の扉からゆっくりと姿を現した。そう犬だ。

 野良犬にしては細すぎない体型。勝手な偏見だが、野良といえば餌にありつけず、肋骨が浮き出るほどにやせ細った印象だ。だが、この犬(名をミケランジェロというらしい)は理想的な体型をしていた。やせ型ではなく、かと言って肥満型ではない。程よく肉付きのある体。風格があるのか凛々しさを醸し出していた。元飼い犬ならば、飼い主は誇り高い騎士だろう。そんな印象を受けるような犬だった。

 

 

「ゲンゾウさん、ほら見てこいつがミケランジェロだよ。

 人懐っこいでしょ?」

 

 

 中年男が手を出すと、近づいていき撫でられるのを良しとしていた。その最中でさえ凛とした態度だった。決して撫でられることに満足しているのではなく、撫でることに満足する人の顔を見て満足するような、そんな忠誠心が見て取れた。

 

 

「・・・・・・・・・・・案外、名前負けしているわけではないようだな」

 

「ん?何?」

 

 

「いいや、何でもない。

 気に入った。飼ってもいい」

 

「ホントに!?」

 

「ああ」

 

 

 この落ち着き様。忠誠心。凛々しさ。何かを悟っているような、そんな風格。犬の知能は(個体差はあるものの)二、三歳だというのに頭も良さそうだ。それでいて気取っていない立ち振る舞い。まさに忠犬の鑑と言えよう。

 

 

「しかし、ミケランジェロという名は些か長い」

 

 

 今だ撫でられているのにも関わらず、微動だにせず中年男を見ていた。が、ワシが話し始めると理解しているかのようにこちらに視線を向けた。

 

 

「略すってこと?」

 

「もしくは改名だな」

 

 

 数秒考えた後、その回答はあっさりと閃いた。何の因果か、それは舌の上を滑るように出て、歌うように軽やかに発した。

 

 

 

「・・・・ミケ―――というのはどうだ」

 

 

 

 賛同の声と共に、ミケランジェロ改めミケは高らかに吠えた。 

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