救世主になりたい男の顛末   作:愛・茶

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参章~起点~

 あれから数ヶ月が経った。

 西と北の戦争も休戦を迎え、世界は落ち着きを見せていた。しかし、相も変わらず東は治安が優れないままだった。そう言ってしまうと街が廃れていると想像してしまうが、実際はそうじゃない。家の一部が崩壊し、銃弾が飛び交うような無法地帯ではなく、表側にはガラの悪い連中がチラホラと見え隠れする程度。その実、裏では違法な取引が行われている。

 それが今の東の街の現状。昔も変わらずの状況。民間人に手を出すものはごく僅か。これを平和と言えるかはその人次第と言えよう。

 無論、ワシは平和と言えなんだが事件が起きない事に異論は無い。ミケランジェロ改め、ミケとの生活にも慣れが生じた。忠犬と一言で表すには勿体無いほどに優秀な犬。吠えることはなく、かと言って大人しいわけでもない。まるで王に仕える騎士にも似た風格を備えた犬。『飼いやすい』という言葉はミケに失礼だろう。むしろ、『生活に不自由しない』が正解だろう。

 ワシが仕事中の際は、主人の命令を待つかのように待機し、それ以外の時は、いつでも万全の状態でいられるように三歩後ろをついて歩く。決して誰に恥じることもないような、非の打ち所のない犬だ。そんなミケにワシは少しばかり愛着というものを感じていた。それは飼い犬としてではなく、一つの命、生物としての愛着だろう。

 

 

「ミケ、今更だがワシはお前を気に入っている。

 簡単に離れてくれるな?」

 

「・・・・・・・・」

 

 

 ミケは簡単には吠えなかった。だが、その瞳には揺るぎない肯定の意思が垣間見えた気がした。ワシは不意に頬が緩んだ。こんな気持ちを抱いたのは久しぶりだ。

 

『絶対的な信頼』

 

 すべてを任せても大丈夫だ、と心の底から思っている証。ワシにはすでに大切なものを失っている。そのことに後悔しかないこの心に勇気をくれるような、後押ししてくれるような眼差し。それだけで胸がいっぱいになった。

 もしかするとこれはワシの第二の人生なのかもしれない。

 そんな青臭い期待が、子供のような無邪気な考えが、ワシを前へと歩かせるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 年甲斐も無く、趣味が物造りというのは如何なものだろう。だが、止められないのも事実。

 店が暇なときはこうして武器を生成することが楽しみだ。とはいえ、戦争もない今の時期、客などいるわけがない。故に生成にかける時間が多くなっている。だが、楽しいものには変わりない。

 先程完成した武器。『クレイモア改』。

 見た目、重量をクレイモアそのままの大剣にし、使用方法を刺剣にした作品。この武器は『突く』事で相手に殺傷攻撃を与えられる。こう聞けば、使えない鉄くずかもしれない。言わばそれは欠点だ。が、そんな鉄くずでも利点はある。それは魔術師が魔力を込めると魔剣になるということ。魔力伝導率にある。通常武器にもそれはあるのだが、ワシの造り上げたクレイモアは伝導率が十倍なのだ。最早、自分の手足のように魔力を伝達することができるというわけだ。使い主しだいで最強の武器になりうる。だがしかし、ワシはこの武器を売るつもりはない。只の趣味なんだからな。

 

 

―――――――――チリンチリン。

 

 ワシの独りよがりを打ち消すように店の扉に備え付けてあったベルが音を鳴らす。

 作業をやめ、店のカウンターへと足を運んだ。

 

 

「・・・・まさかこんなところに武器屋があるなんてねェ」

 

 

 店に来たのは騎士とは思えない男だった。服装はよくあるような服。謂わば普通の客だった。

 男は店の中にある武具をひとしきり眺めたあと、

 

 

「・・・・・・・ふ~ん」

 

 

 壁に立てかけてあったある武器を視界に入れた。

 

 

「お客さん、それは売りものではない」

 

 

 そう、ワシの趣味で造り上げた『クレイモア改』だ。

 

 

「売り物じゃないのに、こんなところに置いてるんだ?」

 

「置く場所がなかったからな、気にするな」

 

 

 男はクレイモアを再度眺めると、徐ろに手を伸ばした。

 

 

「そいつに触るな!!」

 

 

 荒げた声に反応するようにミケがこちらに視線を向けた。男は何か含みのある視線でワシを睨みつけた。嘲笑うかのような笑みを浮かべながら、降伏したかのように両手を挙げる。

 

 

「これはすまない。あんたにとって大事なものなんだね」

 

「そういうわけではないが・・・・・ともかくそれは売り物じゃない」

 

 

 魔法伝導率の高い武器が世に出回ってしまってはいけない。必ずそれを魔術師が奪いに来るだろう。そうなればなし崩し的に戦争へ発展するだろう。何としてもそれだけは避けなければならない。

 

 

「僕さぁ、実はある組織に入っていてさ?それが壊滅させられたんだよね」

 

 

 だからさ、と男は話を続けた。

 

 

「今、即戦力ってやつが必要なわけ。武器が欲しいんだよ?」

 

 

 交渉だろうと予想し、身構えた。頭の中で金額を予想する。最も安く、かつ、こちらに利益が生むような武器を弾き出す。だが、それがいけなかったのだろう。男の動きを予測できなかった。

 

 

「こういう武器とかさぁ!!!」

 

 

 男は壁に立て掛けてあったクレイモアを手に取り振り抜いた。

 

 

「―――っく!!」

 

 

 店内に暴風が吹き乱れ、何もかもが破壊された。強風のせいで目が開けられない。ダメだ。この間に持ち去られてしまう。そうなってしまっては世界が狂ってしまう。ワシはどうしようもないことを分かっていながらも、自然、口が動いていた。

 

 

「ミケ!!!」

 

「―――――ワンッ!!」

 

 

 無我夢中で叫んでいた。恐らくミケは男に対して敵意を向け襲いかかったのだろう。少しばかり強風が弱まっていった。ワシはうっすらと瞼を開け敵を確認した。やはりミケは優秀だ。男の腕に噛み付き致命傷を与えた。

 

 

 ――――――などと言えるほど現実は甘くはなかった。

 

 

 強風は止み、目の前にはミケが力なく横たわり、赤い水たまりを作っていた。体の中心には何かが貫通したような穴が空いていて、臓器と思しきものが見え隠れしていた。

 

 

「―――――――――」

 

 

 ワシはその場で膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ知ってるか、あの噂?」

 

「あぁ、知ってる知ってる。自称ヒーロー語ってる奴だろ?」

 

 

 あの悲劇の後、ワシは店をミケごと焼き払った。弔いの意味も込めて。

 

 

「何でも貴族の回しもんだって噂だぜ?」

 

「貴族もよく見つけたもんだよな、あんなバケモン」

 

 

 悲しみはあった。悔しさもあった。だが、それ以上に憎しみが大きかった。

 もしあの時、ワシがあんな行動をしなければよかったと。何故ミケを使ってしまったのだろうと。だが、それは既に後の祭り。どう悔やもうと怨もうと意味はない。

 

 

「何か魔法じゃない力持ってんだろ?」

 

「ああ、らしいな」

 

「バケモンなのに救世主《ヒーロー》なのかよ?」

 

 

 故に、ワシは今できることを成し遂げる。そして同時にこの無念を晴らそう。

 

 

 

―――――――――復讐になるのかもしれんがな。

 

 

 

「ふっ・・・・・・救世主・・・・か・・・・」

 

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