救世主になりたい男の顛末   作:愛・茶

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肆章~平穏~

 西と東の街の中間にある何の変哲もない道。樹木が生え、草が生い茂り、野生動物の鳴き声が響いてきそうな、自然あふれる空間を抜けた先にある道。謂わば街道だ。街と街を繋ぐ道であり、開拓されてはいるが舗装はされていない。その道に四人の人影があった。

 

 

「流石にずっと歩き詰めってのは堪えるな・・・・」

 

 

 独り言のように呟く明敏。

 学ランの前を全開けして腕まくり、金髪に染めているにも関わらず不良感ゼロの男。異能力『融解・結合《メルト・フィーリング》』の持ち主。

 

 

「大丈夫、アキ?少し休憩する?。」

 

「それ完全に俺が言うセリフだろ?」

 

 

 そんな彼の傍を並んで歩く葵。

 白を基調とした服(以前は学校の制服を着ていたのだが、とある事情によりこの世界の服装を着用している)に身を包み、瘴気のない目で明敏を覗き込むように見つめた。

 高見沢陽一によって造られたアンドロイド。正式名称『AOI223922』。

 

 

「そう?でもアキ、きつそう。」

 

「まぁこんな歩くことねぇしな・・・・。

 葵は大丈夫か?無理してねぇでいつでも休んでいいんだぜ?」

 

「ううん、大丈夫。心配してくれてありがとう。」

 

 

 そう返す彼女は、嘘偽りなく平気そうだった。無論、目に瘴気がないからというわけではない。明敏は肩を落とし、猫背になりながら歩くほどに疲弊しているにもかかわらず、葵は何の変哲もなく背筋よく歩いているからだ。これも単に彼女が人間ではないからだろうか。しかし、その思考に明敏は至らないだろう。彼女のことを愛しているが故、信頼しているが故、身を委ねているが故なのだろう。

 

 

「アキ、私が支えてあげる。」

 

 

 葵は疲弊した明敏の腕に自分の腕を組ませた。恐らく少しでも彼の負担を和らげようとしているのだろう。明敏はその行動に頬を緩ませ、少しだけ踏み出す一歩に力が入ったのだった。

 

 そんな微笑ましい光景を他所に、少女は口を開く。

 

 

「ゲンさんって結婚してんの?」

 

 

 赤を基調とした服を身に纏い、赤い髪を後ろで一つ結びにしたポニーテール。兄の復讐劇に身を投じ、その手で大切なものを葬った呪術師ミケ・リベロは、そんな面影を一つも見せないような笑顔で質問を投げかける。

 

 

「ああ。だが、妻はいない」

 

 

 そんな質問に答える錬金術師ゲンゾウ。

 百八十センチを優に超える長身で、体付きの良い肉体を持った男。白髪まじりの髪の毛に、無精ひげ。年相応の外見の彼は、愛犬を殺された復讐心と、自分の造り上げた作品を盗まれた事への憎しみに闘志を燃やし、戦いを繰り広げた。まさについ先程の出来事だ。

 

 

「いないって・・・?」

 

「戦争に巻き込まれてな」

 

「あ・・・・・ごめん」

 

 

 その言葉を聞いたミケは、バツが悪そうに顔を俯け謝罪の言葉を発した。無理もない、誰だって人の死を平気で受け流せるわけがない。謝ることがなかったとしても言い淀んでしまうだろう。

 

 

「気にするな。男たるもの過ぎた事柄は考えないものだ」

 

 

 そう言って気まずそうにしていたミケの頭を軽く撫でる。ゲンゾウ自身も気にしないというよりは、吹っ切れたような、半ば諦めにも近い心境なため、むしろどうでもいいのだ。だが、気を遣わせてしまった事には変わりはない。故に安心させるための行動と言えよう。

 

 

「じゃあ子供は――――ってもしかして・・・・・?」

 

「息子が一人いた。今も生きているかは定かではない。妻が戦死したことは聞かされたが、息子に関しては消息がない」

 

「子供いたんだ・・・・・。どんな子?」

 

「んー・・・・妻によく似ていた。白髪でよく目立つ」

 

「もしかして・・・・・・あれ・・・?」

 

 

 ゲンゾウが子供の特徴を話している最中、ミケは木陰を指差した。彼は指差す方へ目線を向けると、そこには誰もいなかった。ただの木があるだけだった。

 

 

「誰もいないが?」

 

「え?さっき白髪の子供がいたんだけど・・・・・?」

 

「ワシを喜ばせたい気持ちはわかるが、息子は消息不明なんだ。

 それにもし生きていたとしても父親の顔など知らんだろう」

 

「でも・・・・・・」

 

 

 ミケは自分の指差した木陰をよく調べたが、特に何もなかった。見間違いとも取れるほど一瞬だったのだ。幻覚だったのかもしれない、と自分に言い聞かせた。

 

 

「なんかごめんね、ゲンさん。多分見間違いだったかも」

 

「まぁいい、一時でも息子がいたという喜びを得ただけで満足だ」

 

 

 嘘であったとしても、只の悪戯であったとしても、機嫌を直す為の口実であっても、自分の家族が「この世界で生きている」という現実を味わえただけで心が弾け、踊り、高鳴ったのだ。人間とはそれほどまでに容易く、騙されやすい生き物だな。

 そう思いながら、ゲンゾウは頬を緩ませた。

 

 

「あれ?もしかしてゲンさん・・・・笑ってる?」

 

「ふっ、ワシが笑うのがそんなに珍しいか?」

 

「・・・・いや、そういうわけじゃ・・・・ないけど」

 

 

 ミケは微笑むゲンゾウの横顔を見ながら考えた。今の会話の中に面白いところがあったのだろうか、と。しかし、彼女は知らない。ゲンゾウの過去を。ゲンゾウの考えを。まさに燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや。だが、彼はそれでも良かった。互が互の思惑を知らずとも、考えを知らずとも、あの男は自分の正義を振りかざし、押し付け進むのだから。

 

 

「ミケ、ワシはこの場所が心地いい」

 

 

 名を呼ばれたことが嬉しかったのか、頬を赤らめ驚いたような表情をする。ゲンゾウは構わず言葉を続けた。

 

 

「それは単に、貴様がいるからかもしれんな」

 

「・・・・え・・!?」

 

 

 ゲンゾウはミケを指差した。ミケは恋する乙女のように顔を真っ赤に染め俯いた。しかし彼が悪戯っぽく微笑むと、彼女もその意図に気づいたのか、

 

 

「乙女の純情を踏みにじったなぁ~~!!!」

 

 

 と、不器用な右ストレートが飛んできた。勿論躱せないわけもなく、悠々と躱し、微笑ましく笑った。

 そんな光景を尻目に後ろに視線を一瞬向けた。

 腕を組み、恋人のように歩く二人。お似合いのようにも見えるが、逆に似合いすぎて、一人の人間を見ているようにも見えた。明敏にないものが葵にあって、葵にないものが明敏にあるような、お互いに無いものを補っているような。

 まるで――――

 

 

 明敏に足りないものが具現化したものが葵であるかのような――――、

 

 

 そんな錯覚を感じた。ゲンゾウはすぐに考えすぎだ、と頭からその思考を取り除いた。

 

 

「スキありっ!!」

 

 

 と、ゲンゾウの頬に拳が綺麗に入る。さして威力があったわけではないが、不意をつかれたのは確かだ。故に思考を取り除く前に吹き飛んでいた。

 

 

「おっと・・・・・」

 

「・・・・ミケ」

 

「あ・・・・アハハ・・・・アハハハハハハ・・・・・」

 

 

 両手でまぁまぁ、となだめるような手振りで笑って誤魔化すミケ。しかしゲンゾウは無表情で手を伸ばした。

 

 

「気にするな、ワシとて男だ。そんなヤワではない」

 

「じゃ、じゃあそのアイアンクローをやめて頂けませんか?」

 

「なに、人間そんなにヤワではない」

 

 

 ぎゃあああああ、と叫び声が響いたのは言うまでもない。

 これほど楽しい光景がどれほど続くのだろうか。それだけがゲンゾウの思考を支配していた。

 一年。半年。一ヶ月。一週間。一日。一時間。一分。一秒。

 例えその中の期間であっても可笑しくはない。そんな世界で彼らは生活しているのだから。

 

 異能力者として。

 

 改革者として。

 

 

 救世主として――――。

 

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