救世主になりたい男の顛末   作:愛・茶

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肆章~仲間~

「これはお金を稼ぐため・・・・・・」

 

 

 私は今、物陰に隠れ、ある人物を待っている。

 勿論――――殺すためだ。

 殺害任務。西の街の王に頼まれた仕事。

 

 改革者。―――――――――ミヤムラアキトを殺害せよ。

 

 理由はわからない。どういう恨みがあって、自分の街を救ってくれた恩人に牙を向けなければいけないのか。私としては連れ戻すだけでいいのではないかと思う。何せ、彼は自称・救世主。助けてくれと頼めば、すぐさま駆けつけてきそうなものだ。

 

 

「まぁあのプライドの高い貴族様には、頼むなんて行為はしないか・・・・」

 

 

 くだらないプライドだ。そんなものは犬にでも食わせてしまえばいい。

 自分の大切なものとプライド。

 誰がどう見て考えても答えなんて一つしかない。

 だが貴族様にもお考えがあってのことなんだろう。

 例えば、醜い憂さ晴らしとか――――。

 

 

「といっても、私は只、任務を終わらせてお金をもらうだけなんだけど」

 

 

 私の職業は貴族の雇われ兵。つまり傭兵だ。

 お金を貰えるならどんな仕事もこなす。どんな依頼も成功させてみせる。身体も売った。魂も。プライドさえも売った。

 私に残されているのは家族だけ――――。

 弟や妹たちの面倒を見ることは、私にとって唯一の至福の時。彼ら、彼女らの喜ぶ顔が、乾ききった私の心を潤してくれる。世界にひとつだけの私の居場所。オアシス。

 だけどそれを保つためには、今、請け負っている仕事を成功させなければならない。

 

 

「ミヤムラアキトを――――殺す」

 

 

 それに私個人にも、恨みがある。

 ジェラードという暴力団が改革者によって壊滅した後のこと。

 その情報を得た他の暴力団が西の街へやってきた。恐らく領土を増やそうとしてのことなんだと思う。勿論街は破壊されて、多くの人が殺された。その中に私の育ての親がいた。もともと両親は死んでいて、親戚である母の姉。叔母に育てられていたんだ。

 西の王は、苦渋の決断で南の街から自警団に助けを求め、事は収まった。たった一人の炎系の魔術師?によって。

 一人の人間がこの騒動を止めたというのに、救世主と名乗っているはずのミヤムラアキトは駆けつけてはくれなかった。復興作業も自警団の活躍のおかげで時間をかけることなく済んだ。その時も救世主は来てくれなかった。

 

 

――――救世主と名乗っておきながら。

 

 

 だから、私はこの仕事が来たとき、少しだけ嬉しかった。

 

 

――――肝心な時に助けてくれない救世主に復讐をする時が来た。

 

 

 私の叔母を。罪のない人たちを救ってくれなかったあいつを殺そう。あの時殺された人たちの無念を背負って。

 これは復讐じゃない。

 逆襲じゃない。

 憂さ晴らしでもない。

 

 

「――――敵討ちだ!!!」

 

 

 体の中の魔力を練る。手の甲に描かれた魔法陣が光る。私は目の前に写った一人の男に向かって地面を蹴る。勢いよく飛び出し距離を縮める。

 接近戦には遠すぎるが、私の魔法の前には距離などゼロに等しい。

 

 

「肉体変化《メタモルフォーゼ》、召喚《サモン》!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明敏は突然発せられた声に驚きつつ、音源を探るために辺りを見渡した。しかし、見つけ出すよりも先に優先させたのは隣にいる葵の避難だった。

 

 

「危ね―――――――――」

 

 

 まさに葵の体を押して緊急の処置を施す瞬間に、明敏の背中目掛けて衝撃が走った。まるで小石を蹴り飛ばすかのようにあっさりと明敏の体が吹き飛び、茂みの中へ突っ込んだ。ガサガサと大いに物音を立てながら吹き飛んでいった。

 それと同時―――――――――

 

 

「あれが改革者・・・・・・?本当にあのジェラードを潰した張本人・・・・?」

 

 

 彼の後に現れた少女は訝しげな表情で呟いた。

 物音に気づいたゲンゾウ、ミケは後ろを振り返り、少女の存在に気づく。

 

 

「貴様は何者だ?」

 

「アキトがいない・・・・ってことはさっきの物音―――」

 

 

 臨戦態勢を取るゲンゾウには目もくれず、ただ吹き飛んでいった明敏の方向を眺めていた。

 

 

「おい、聞いているのか!!」

 

 

 ゲンゾウの声に気づいたのか、目線だけを向け口を開いた。

 

 

「あんたらって・・・・あの改革者の仲間?」

 

「ああ、そうだ」

 

「そ。まぁ関係ないか・・・・・」

 

 

 少女の瞳には光がなかった。殺意に溺れ、人を殺すことを躊躇しない目付き。決して好きではないが、割り切ったような、諦めかけたような目をしていた。

 ゲンゾウはすぐに理解ができた。この少女には苦難がある。今までいろんな苦難を乗り越え、我慢し、受け止めているのだ。

 

 

「あんたも改革者の味方?」

 

 

 少女は近くにいた瘴気のない目をした葵に話しかける。倒すべき敵か、そうでないかを別けるように。

 

 

「私は味方じゃない。」

 

「―――?」

 

「私はアキの―――妻よ。」

 

 

 一瞬、葵の発言に戸惑いを隠せなかったが、すぐに理解して目標を一つに絞ろうとした時、少女はあることを閃いた。

 

 

―――――――――この妻だと言う女を人質にしよう。

 

 

 化物だとか、怪物だと噂が立つ改革者。まともに戦い勝てる保証はない。ならば、相手の弱点を抑え確実に仕留めるのが一番いいだろう。そう考えた。例えどんな人間であっても、妻を人質に取られれば大人しくする他ないだろう。大切な人間を殺されるかのしれない状況で、無闇に動こうとは思わないはずだ、と。

 葵に向かって手を伸ばす。それは人質に取るための行動。

 

 

 少女は知らない。ミヤムラアキトという化物の本質を―――――――――。

 

 

 彼女の瞳には葵の瘴気のない目が映る。人とは思えない瞳。人とは思えない雰囲気。違和感。少女はそんなことを感じていた。

 

 

 少女は知らない。ジェラードという暴力団が壊滅した本当の理由を―――――――――。

 

 

 類は友を呼ぶ。やはり人間離れしたものは、人とは思えないモノを好きになるのだろう、と。この、人に触れているという実感のない少女を、と。

 

 

 少女は知らない。ミヤムラアキトにとっての如月葵の存在価値を―――――――――。

 

 

「染色体X《クロス・フィーリング》!!!!!」

 

 

 茂みの奥から、激しい光が放たれる。

 と、同時―――――――――。

 

 

 

「葵に、触ってんじゃねぇぇええ!!!!」

 

 

 

 勢いよく飛び出した人影。否、それは人ではなかった。

 

 

「――――ッ!!?」

 

 

 その影は、大きな翼を広げ、丸太のように太い尾を携え、腕には鋼鉄のような鱗、すべてを引き裂く鋭い鉤爪、何もかもを噛み砕く牙。

 

 

 

 まさに―――――――――ドラゴン。

 

 

 右腕を振りかぶり、少女の顔面へと拳を打ち込んだ。手応えはある。しかし、それは人の感触ではない。

 

 

「汚ぇ手で触ってんじゃねぇぞゴルァ・・・・・」

 

 

 それを知ってか知らずか、威嚇するように凄む明敏。彼の拳の先には少女の顔――――ではなく、無数の触手が壁を造っていた。

 

 

「ミヤムラ・・・・・アキト・・・」

 

 

 少女は噛み締めるように名前をつぶやき、明敏の次撃である左アッパーを躱す。

 明敏は葵に下がっているように指示をして、少女を睨みつける。拳を握り締め、怒りを露にする。

 人は追い詰められれば追い詰められるほどに思考が単純になり、怒れば怒るほど視界が狭くなってゆくもの。しかし、明敏は違った。怒れば怒るほど、理性に物事を判断し、思考は回転を速める。それはまさに人ではないかのように――――。

 

 

「テメェは何もんだ?俺を狙うのはともかく――――

 

―――――葵に触れた理由はなんだ!!」

 

 

 彼は自分を狙う理由よりも、葵を狙う理由を重要視していた。明敏が狙われる理由は大方予想がついているのだろう。

 

 自分が改革者であるから。 

 救世主を名乗っているから。

 ジェラードを潰したから。

 貴族に加担したから。 

 

 しかし、どんな理由を並べようとも葵を狙う理由は見つからない。否、彼に人質という概念は見つけられないだろう。

 宮村明敏は、人質を取る人間の脅しを聞くほど、悠長な思考を持ち合わせていない。いや寧ろ持ち合わせているからこそ、聞くつもりがないとも言える。

 

 

「あんたがやられてないなら彼女には用はないわ」

 

 

 少女は狙いを定めるように手の平をかざす。手の甲に描かれた魔法陣が輝きを放ち、少女の周りを触手が埋め尽くす。

 

 

「私はミシャル。偽善者《ミヤムラアキト》を抹殺するために来た

 

――――ただの傭兵よ!!!」

 

 

 叫ぶミシャル。明敏に飛び込んでいくと同時、無数の触手が彼目掛けて攻撃を開始する。

 

 

「――――んなもん!!」

 

 

 迫り来る触手を明敏は鉤爪でなぎ払う。しかし、微塵切りにした触手を盾にしていたかのようにミシャルが現れる。

 

 

「肉体変化《メタモルフォーゼ》!!」

 

 

 少女の腕がドリルのように巻き付く触手へ変化する。振りかぶり突き上げるように腕を伸ばした。明敏はそれを躱す。しかし上手く避けきれなかったのか、頬をかすめていた。

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

 睨み合う二人。そして、距離をとったあと明敏が大きな翼を広げ、ミシャルに向かって突進を図る。しかし、彼女はそれを見切っていたのか、触手を使ってまたもや壁を造る。明敏は、同じ手は効かない、と言わんばかりに上空へ飛び上がり、急降下する勢いで蹴りを繰り出す。ミシャルはそれを間一髪で躱す。

 そんな激しい攻防を傍らで見守るミケは、自分にも何かできないかと試行錯誤を練っていた。

 

 

「よせ、これは小童の戦いだ」

 

「でも―――」

 

「あの女はワシらを巻き込むつもりはないんだ。

故に、無理に戦場へ赴く必要はない」

 

「でも―――――!!」

 

 

 ミケは何か言いたげだった。しかし彼女自身、明敏が敗北するなど有り得ない事は重々承知だ。何せミケの占いで出た結果がそれを物語っているから。だが、このまま傍観者で居続け、彼の勝利を分かち合うことが出来るかが不安だった。

 

 

「アタシらは・・・・見守るだけってこと?」

 

「小童は今、不利な状況か?手助けが必要なほど劣勢か?」

 

「それは・・・・・」

 

 

 ゲンゾウにも彼女の心意が理解できる。だが、それ故に明敏にしてやれることがないのも又事実。しかし、それで歯噛みする意味もない。自分は只、傍観する他ない。腹立たしいが、それが現状である。

 

 

「悔しいが―――、苦しいが―――――、辛いが―――――ワシらには小童に何もしてやれん。

 あいつは、一人で戦っているんだからな」

 

「・・・・・・・」

 

 

 強く、噛み千切れんばかりに唇を噛み締めるミケ。仲間だと言ってくれた人を助けてやれない現状。無論ミケには武術の才がない。今、戦場へ足を踏み入れて手助けできるかといえばそうじゃない。むしろ足でまといになり、明敏に迷惑がかかる。それはしたくない。だが、彼には恩がある。

 呪術師であることで忌み嫌われる自分を。親を殺され復讐に燃える自分を。禁忌を犯し復讐の対象になった兄を殺した自分を。心身ともに壊れ、それでもミヤムラアキトという存在に固執してすがりついた自分を。

 

 

 ―――――彼は仲間だと言って受け入れてくれた。

 

 

 恩を返したい。助けてあげたい。あの時の自分のように。手を差し伸べて、眩しい笑顔で、全てを任せられるような背中で。

 

 

「すぅ―――――――――ッ!!!」

 

 

 ミケは大きく息を吸い込み、意を決するように口を開く。

 

 

「アキト!!!アンタ、救世主《ヒーロー》でしょ!!!?

 だったら、そんな奴一瞬で蹴散らしなさいよ!!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 それは、応援の言葉だった。

 今できること。手を貸せない自分に、最小限、ではなく最大限にできること。 頼られることはないけれど。

 手を差し伸べられないけれど。

 すべてを任せられない背中だけれど。

 

 

「アンタがどんなバケモンでもさ!!!アタシらがいるじゃん!!!」

 

 

 頼りなくて、決して役に立たないのかもしれない。足でまといかも知れない。強くもないし、まともに拳をふるえない。だけれど、ミケには彼の事がわかる。

 占い師だから。

 どんな過去があるかわわからない。そこまで詳しく把握できるほど彼女の占いは完璧ではない。完璧ではないけれど、明敏を励ますことができるくらいには、占うことができる。

 いや、彼女には占いの結果など関係ないのだろう。

 

 

 

「だって―――――――――仲間でしょ!!?」

 

 

 

 街道に響き渡るミケの叫び声。それを一部始終耳に入れた明敏の表情は窺い知れない。だが、彼の頬に何かが伝い落ちた事は言うまでもない。

 

 

「ああ・・・・・、わかってらぁ!!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 気合を入れるように大声で返答する明敏。

 彼にそんな言葉を発してくれた人物がいただろうか。

 かっこいいと言われることはあった。漫画の主人公みたいと言われたこともあった。無論、化物だと。怪物だと。近寄るなと。顔を見せるなと。汚れる、気持ち悪い、死ねと言われることもあった。むしろ、そちらの方が圧倒的だが。

 虐められることが多かった。酷い嫌がらせも、数えるのが面倒になるほどあった。うんざりするし、本当に自殺しようか悩んだ時もあった。

 それを一人の少女の存在のおかげで乗り越えて今に至るが、誰も明敏を人間とは思わなかった。半ば諦めもあった為か、本人も気に留めることはなかった。

 ミケの言葉を聞くまでは―――――――――。

 

 

「どうして元に戻ったの?」

 

 

 明敏は能力を解除し、普段の彼の姿へと戻った。今この状況でのそれは自殺行為に等しい。しかし、明敏は構うことなく口を開く。

 

 

「覚悟しろよ?俺がバケモンって言われる理由を今、見せてやっからよ!!」

 

 

 大仰に顔を上げる。そこには吹っ切れたような、輝かしくも、華やかな笑顔が浮かんでいた。微笑ましく笑う彼の顔は、どこか―――――――――

 

 

―――――――――主人公《ヒーロー》の余裕が感じられた。

 

 

「では見せてください!!貴方が救世主《ヒーロー》であるところを―――――」

 

 

 その場にいた全員が、その声に反応した。ゲンゾウの横の横。ミケの隣。正確には葵の隣から発せられた声。聞き覚えのある明敏、葵は咄嗟に振り返る。しかし、葵は振り返ることができなかった。何故なら―――――

 

 

「―――――葵ッ!!!」

 

 

 明敏に向かって、戦場に向かって近づいてきていた。否、飛んできていた。

 

 

「え・・・・・?」

 

 

 宙を飛ぶ少女。その顔には驚きと、疑問と、戸惑いがあった。

 そう、不清潔な頭髪に不釣合いなほど綺麗に着こなしたスーツ。本当か嘘か分からないような口調。そんな男が葵の腕を掴み投げ飛ばしたのだ。

 

 

「高見沢・・・・テメェ・・・っ!」

 

 

 明敏は勿論、中に飛ばされた葵を助けに向かった。状況を掴めないミケ、ゲンゾウは、隣に佇む男に対して警戒を強めていた。

 

 

「アンタ・・・・誰なの・・・?」

 

「少なくとも、小童の味方ではなさそうだな」

 

 

 高見沢陽一は不敵に微笑みながら、口を軽々しく開く。その言葉は白々しくも薄っぺらく、真実味がありながら、信憑性がありながら、どこかでっち上げたようだった。

 

 

「私は彼を完璧な救世主にさせた立役者であり、謂わば育ての親であり―――――」

 

 

 

 

「―――――生みの親です」

 

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