番外章~プロローグ~
『世界は広い』
どこかの誰かがそう言った。
確かにそうだと思う。
何故なら私の住んでいる世界には、『改革者』や『黄丹の化物』が存在しているのだから。
そして私の隣にも彼らのような『化物』がいる。すべてを無に換える神は、私を守る使い魔なのだから。
だから私はその言葉を信じる。自分の身に降りかかっているから。
だから私は彼女と共に生きようと思う。
例えそれが―――――不可能であっても。
私の住んでいる国には、『年頃になった者は旅に出る』という暗黙の決まりがある。
その理由は婚約相手を探す、という裏付けがある。
別段、その決まりに従わないといけないわけではない。ただ従わないと皆の視線にさらされるというだけだ。気にしない者もいるし気にする者もいる。
そしてその旅には同行者をつける決まりになってる。
つまり、使い魔だ。
使い魔と言うくらいだから魔法を使わないといけない。魔法陣を描き、詠唱を行い、召喚をする。しかし世の中というのは良くできている。
召喚には魔力が必要だ。しかし世界には魔法を使えない者もいる。
かくいう私がそうだ。
両親が超能力という、この世界に存在しない力を持っているため魔力を持っていない。
そんな人たちのために召喚儀式はすべて同じ手順で行われる。
同量の魔力。
同語の呪文。
使用者に必要なものは、才能と意志の強さだけなのだ。
そしてそれを可能にする『鍵』を使って召喚儀式を行う。私もそれに則って、召喚獣を呼び出すことに成功した。
知り合いは、ドラゴンやサラマンダーやケルベロスといった如何にも凄そうな魔獣を召喚したらしい。
問題の私なのだが、出てきた召喚獣は魔獣とは思えない人間だった。
黒い長髪を後ろで一つ結びにした長身の女性。服装はスーツらしきものだった。
「ふぁ~、何だい?またこの世界かい?かれこれ二百年ぶりかね」
彼女は自称『不死身』の最強らしい。そして驚くことに彼女、羅美亜《ラミア》も私とは違うものの、この世にはない『異能力』を使うらしい。妙な親近感だった。
「ヒメコ・ジングウジ・・・・・・神宮寺姫娘・・・・へぇ~・・・ふぅ~ん」
何か含みのあるような笑みで羅美亜は私の使い魔となった。
「お父さんは元気かい?」
「元気だけど・・・・って知ってんの?」
「まぁ・・・・・色々とね」
そして私と、自称最強の羅美亜との始まりの幕が上がったのだった。
「お姫様~、アンタ何かしたい事ないかい?」
羅美亜は唐突に私に話をかける。長身のせいか、顔を見るには首を上げなければいけない、だから私は彼女に対して視線を合わせない。
首が疲れるから。
「旅よ―――――――って何、お姫様って?」
「あだ名。あんたの名前は姫娘なんだろ?だからお姫様さね」
意味がわからない。
確かに私の名前は姫娘だけど、そのニックネームをつけられたのは初めてだ。
「それに、御曹司なんじゃないのかい?」
「・・・・・・まぁね」
私の両親は、ジングウジ財閥と言うと皆が驚きと敬意を表するほどの大企業の社長なのだ。
だからと言って両親のスネを囓りながらの生活はしたくない。二人に悪いだろうし、私自身、自立したいという気持ちが強いからだ。
「で、話を戻すけど。行きたいとこ無いのかい?」
「行きたいところでもあるの?」
そう問い返すと、羅美亜は待ってましたと言わんばかりに口を開いた。初めからそれを聞き出したかったのだろう。
「私さぁ、探してる人がいるんだけどねぇ?」
自称不死身の彼女に会いたい人がいるのは驚きだった。・・・てっきり孤独なのかと思ってたのに。
「西の街にいるって噂を聞きつけたんだ。付いて来てくれるかい、お姫様?」
有無を言わさないような口調で羅美亜は私を見下ろす。というより、使い魔なんだから勝手な行動はいけないんだけど・・・・・。
「いいわよ、何もすることがないんだし。好きにすれば?」
「そうかい?済まないねぇ・・・、あんたの旅の邪魔はしないさね。私個人で会いたいからね」
彼女の表情を見る限り、余程の重要人物なのだろうと思う。恋人かな、それとも家族?
もし彼女の自称が本当なら、恋人はありえないか。
「私の欲望を叶えてくれる人だからさ・・・・・・・」
哀愁に満ちたその表情に、彼女の人間らしさを感じた。
私は羅美亜の探し人を求めて、西の街を目指した。もはやどっちが主人と使い魔かわからないなぁ・・・・。
けどその道中、気になるものがあった。
それは北の街だ。
この世界は東西南北に大きな街がある。名前が無い理由には、街を独占しないようにするということらしい。詳しい事情はよくわかっていない。
街ごとに王がいて、そこを統べていてそれぞれ特色がある。
東の街は、治安が悪い。
西の街は、貴族が多い。
南の街は、王様が自警団。
北の街は、温厚。
という具合に特徴が様々だ。
そして今現在、北の街は西の街と休戦中にあるため街全体が静まり返っている。まるで死刑宣告を受けた死刑囚のように。
「・・・・・すごい有様だね」
「そうかい?私ァ肌寒いけどねぇ」
「会話が成り立ってないんだけど・・・・」
「そうかい?私ァ肌寒いけどねぇ」
「二回も言わなくていいってば・・・・」
相変わらずなのか、羅美亜は薄ら笑みを浮かべながら口を開く。彼女の調子が掴めないのは、わざとなのか、それとも元の性格なのか。
「ねぇ、羅美亜は戦争ってどう思う?」
「馬鹿だねぇ、今聴くことかい?」
確かに、戦争が起こった地域でそのワードを出すのは法律で禁止されているわけではないが、不謹慎だ。
「・・・・・ごめん」
「そうさね、私ァあまり気にしないね。意味ないから」
「・・・・どういうこと?」
「戦争は良くないってことは誰でも知ってるだろう?」
「うん、利益はあるんだろうけど被害の方が大きいからね」
「百害あって一利なし、まさにその通り―――――」
羅美亜は流石、亀の甲よりなんとやら、知識は豊富だった。きっと長い間、戦争なんて見飽きてるのだろう。
しかし経験豊富であっても、全てを経験しているわけではなかったようだ。
「――――私を殺せないんだからねぇ」
「殺せない・・・・・って・・・?」
「言わなかったかい、私ァ不死身だって?」
「言われたけど・・・・・・本当なの?」
「知りたいかい?」
彼女の含みのある笑みは、ある意味恐怖だった。何を考えているのかが分からないというのが、どれほど不安かが理解できる。・・・・今更だけど。
「・・・・・・・・」
「疑うなら、あんたの『超能力』で私の心臓を撃ち抜いてみな?」
羅美亜は自分の胸を指差してそういった。まるで全て分かっているように。
撃ち抜く。
確かに彼女はそう言った。私の超能力であれば撃ち抜くことはできる。私の持つ『電撃』ならば、出来る。
しかし、一度も見せたことのない能力を何故彼女は知っているのだろう。
「どうして知ってるの?」
「何が?」
知らばっくれるような口振り、やはり彼女は何かを知っているようだった。
「どうして私の『超能力』を知ってるの?」
「亀の甲より年の功、っていうだろう?そういう事さね」
やはり何かを隠しているようだった。誰かから聞いたのだろうか、それとも調べたのだろうか。だとすれば一体どうやって?
考えても答えは出ないだろう。羅美亜自身答える気もないのだろう。いくら問い詰めても、はぐらかすのだから。であれば私が知る必要はないのだろう。
そう思うことにした。
「わかった・・・・・何も聞かないわ」
「そうかい?あんたがそう言うならいいけど」
「じゃあ、一つ聞かせて。
はぐらかし無しで」
「何だい?」
「羅美亜の会いたい人ってどんな人?」
「そうさね・・・・・
頭の回転が早く、どんなものでも真っ白に『変える』人」
「全くもって人相が浮かばないんだけど・・・・・」
その説明だけで理解できるのは羅美亜本人だけだろう。それに『真っ白に変える』と言うのが魔法だとすれば役に立つのかが疑問だ。
「その人って本当に居るの?」
「勿論さね。
彼は私と同じで―――死なないんだからねぇ」
不死身という意味だろうか。
しかし不死身な人間が世の中に二人も居ていいのだろうか。
羅美亜の望みを叶えてくれる人物。目には目を、と言う意味では不死身には不死身を、で当たっているのかもしれない。
西の街へ到着した。
貴族の街なだけあって、上品な建物ばかりだ。商店街も活気があって賑やかだ。私の居た北の街より騒がしかった。ちなみに戦争が起こる前の話だ。
「ここに羅美亜の探し人がいるんだよね?」
「情報によれば、この街にいるはずなんだけどねぇ」
羅美亜は浮かない顔をしていた。もしかするとこの街にはいないのだろうか。まるで、期待していた贈り物とは違うものを貰ったかのように落胆していた。
表情にはあまり表していないが、雰囲気でそう思った。
「世の中は複雑だねぇ・・・・・・」
「探せば見つかるかもよ?」
励ましの意味を込めてそう言ったが、彼女は無意味だ、というように渋々了承した。
羅美亜にとってその人物は余程の者なのだろう。彼女を見ているだけでそう感じ取れる。
「まぁいいさね。ここにいなければ別の街に行けばいいんだからねェ」
そう言って羅美亜は引き返すように街を出ようとした。
しかし通行人に肩がぶつかった。
「ってぇなぁ・・・・・どこ見て歩いてんだァ!?」
通行人はガラが悪かった。
これでは一悶着ありそうだった。
「おいテメェ、人にぶつかっといて謝りもなしかゴルァ!!」
羅美亜は我関せずと言わんばかりに歩みを止めなかった。眼中に無いように。
「おいっ、聞いてんのかこのアマァ!?」
ガラの悪いの通行人が羅美亜の肩に手を乗せて注意を惹こうとした。
その直後―――
「――――――っ!!!」
私は自分の目を疑った。
視力はいいほうだ。一般的な視力を持ち合わせていて、精神状態も至って普通だ。
幻聴、幻覚なんて見たことも聞いたこともない。至ってシンプルな人間だ。
だが、見た光景はあまりにも逸脱していて自分の精神状態をも疑った。何故なら――――――
「う、・・・・・・腕がァァァ!!!!」
そう、通行人の腕が肘から先が綺麗さっぱり消えていたのだ。
肘から血が流れていないところを見ると、切断、ではない。
――――――消えた。
――――――なくなった。
――――――無になった。
「止めときな」
羅美亜は振り向きざまにそう言い放つ。
「あんたじゃ、―――――――――私ァ殺せないよ」
彼女の目には殺意や、邪念が無かった。
只、消した。
それだけだった。
「私ァ『破壊神《マギノ・ブレイク》』保持者。
全てを無に換える者、だからねぇ」
名乗るように羅美亜は言葉を紡いだ。
私に言っているようにも、ガラの悪い通行人に言ってるようにも、ましてや自分に言い聞かせるようにも見える。
「お姫様」
「――――――え?」
目の前の光景に唖然としていた私は、彼女の言葉で我に返る。
「行くよ、旅は長いんだからねぇ」
私は彼女の後についていった。
不思議とあの光景を見ても恐怖を感じなかった。目の前で人の腕が消え去ったというのに。
そういう面では私は普通ではないのかもしれない。
とは言っても、私の父は右腕がない。そのせいで見慣れているのかもしれない。
羅美亜。
自称不死身の最強。
あながちそれは、事実なのだと実感させられた。
彼女には寿命が『無い』のかもしれない。そう思った。