救世主になりたい男の顛末   作:愛・茶

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番外章~生まれ~

自分の生まれは、理解しているつもりだった。

どこで生まれ、どこで育ち、何をして、何をされてきたのか。

全て理解し、受け止め、受け入れているはずだった。その上で、今まで生きていたつもりだった。

だが、深く生い茂った森を抜け、山の頂上から覗く景色に、自分の高鳴る鼓動を抑えられなかった。

 

「阿・・・・亜、・・・・」

 

自分の過去とは縁を切ったつもりだった。それら全てを受け入れて、受け止めて、理解した上で、そらは過去のものだ、と割り切ったはずだった。

だが、いざ目の前にすると、込み上げるものは凄まじかった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「其ハ、・・・残スマジ」

 

震える声を他所に、自らの腕に課せられた『鎖』を握り、過去への『鎖《因縁》』を断とうと、この身を投げ出そうとしたとき、

 

「!?」

 

自分の耳が音のする方、つまり、真後ろへ傾いた。

聞き覚えのあるバチバチと弾けるような音。生き物の本能から、逃げの一途を抱く危険を感知する音。

 

――――――雷音だ。

 

だが、自分はそれが何を意味するか分かっていた。

 

「・・・・」

 

歯噛みしつつも、自分の置かれた状況を理解しているのだ、この足は目の前の『過去』に縋り付くためのものではない、『今』を生き抜くためのもの。『今』に縋り付くためのものなのだ、そう意識すると、自然、足は雷音の元へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

救助信号を出してから数分、ローズは私の目の前に舞い降りるように現れた。土埃を上げることなく、優雅に着地をして見せた。さすが獣人というべきか。

 

「危険信号、安否確認」

 

救助信号と言っても、稲妻を天高く打ち上げるだけなのだが、それをいち早く察知し、駆けつけてくれた彼女にはお礼をしよう。

 

「・・・頭部ヘノ愛撫、疑問解答求」

 

「ん?ありがとう、って意味」

 

「理解不能、詳細求ム」

 

彼女の髪の毛は、手入れされていないのか、ゴワゴワしていて硬い、おまけにすごく痛んでいて、枝毛が多かった。

 

「ううん、駆けつけてくれてありがとう」

 

「救助当然、我生キ甲斐」

 

そこまで言ってくれるとは、何処かの誰かさんとは大違いだ。

まぁ、彼女を呼んだのは、私のやりたいことが終わったからなのだ。所持金の半分をユーロに替え、買い物も済ませた。後は羅美亜を探すのみとなったのだ。

そこで、二手に分かれたのを集合させ、安全性を考慮して探そうとしたのだ。

 

「ちょっと・・・自分勝手すぎたけど・・・。

でも、ちゃんと買ってきたよ、プレゼント?」

 

「!!」

 

ローズは今にも犬のように尻尾を振り回さんが如く私に詰め寄ってきた。そんなにご褒美が欲しかったんだ。

 

「はいはい、分かったからそんなにくっつかないで」

 

「報酬、報酬」

 

焦る彼女を制しつつ、私は買ったプレゼントを見せる。

お店の人に綺麗に包装してもらったから、開けるまで何が入ってるのか分からない。

 

「小包、・・・小物?」

 

「ふふん、なんだと思う?」

 

彼女の驚く顔は見ものだ。私達からすれば喜ぶ者も多いだろう、だが、相手はニャルタ族だ。

人間だとしても、半分は猫なのだ、そのプレゼントにどんな反応を示してくれるのやら。

 

「・・・小音、・・・軽量、・・・危険反応無シ」

 

ローズは小さな箱を、振ったり眺めたり、指でつつき安全を確かめていた。

ふふ、そんなに警戒しなくても中は普通の物だって。

 

「・・・直径三cm弱、・・・個数・・・複数、形状」

 

「あーあー!!ダメだって!開ける前に中身当てちゃうなんて!」

 

危ない危ない、彼女の高性能な耳を持ってすれば中身を見らずに確認することも出来るだろう、だが、それではプレゼントの意味がない。

 

「心、高揚、我挙動不審?」

 

そっか、プレゼントをもらって嬉しかっのか。それなら、男冥利に尽きるな。いや、この場合は女冥利か。

 

「大丈夫よ、その箱には何も仕掛けなんてないから。ささ、早く開けて見て?」

 

「御意」

 

ローズはそう言って頷くと、箱の包装に手を掛ける。私からの物だからか、丁寧に剥がしていく。飾り付けのリボンを指で摘み、ゆっくりと解いていく。ゆっくりと、ゆっくりと。ゆっく――――――

 

「そんなに慎重にしなくていいから・・・」

 

「ギ、御意」

 

そして、彼女は包装を剥がし、中の箱も開け、中身を見て目を丸くした。

私は顔が綻ぶのを抑えられなかった。

中身はと言うと、何の変哲もないヘアピンだ。水色と黄緑の二つがセットになったもの。つまり計四つのヘアピンなのだ。

 

「??用途不明、名称不明、詳細求ム」

 

「そっか、ローズは知らないんだ・・・、それね?ヘアピンって言って、髪の毛を留めるものなの」

 

私は説明をしつつ、ヘアピンを彼女の髪に留めていく。

真っ赤な髪の毛に青色のヘアピンは良く映える。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「うん!よく似合うよ!」

 

「・・・」

 

ローズは『髪を留める』という感覚が気持ち悪いのか、ヘアピンを取ろうと手を伸ばす。だが、そのヘアピンは貰い物だ、と思い出したのか取るのを躊躇った。とても可愛らしい光景だった。

 

「大丈夫よ、ローズ?とても似合ってるから、外しちゃダメよ?」

 

「っ!?、・・・・」

 

外すとは思っていない。何しろ彼女にプレゼントしたのは私なのだ。別段、自惚れているわけではないが、面白いので敢えて外すことを躊躇うように念を押しておこう。

そう言われたローズは、目線をヘアピンから外さず、かと言って手を伸ばすでもなく、じっと眺めていた。

 

「もしかして、そのヘアピンは嫌?」

 

「・・・否ッ、我歓喜」

 

気持ちは嬉しいが・・・。

彼女の顔はまさにそう言っているような表情だった。

こうして見ると、目つきは悪いが、女の子なんだなと思える。

髪はボサボサで、肌は荒れていて、私なんかより筋肉もあって、服装だって女の子っぽくないし、極めつけに足なんて裸足なのだ、女性らしい部分を見出すのは至難の技だろう。余程の物好きか、女性以上に目利きの効く者ぐらいだろうか。だが、そんな彼女でも、ヘアピン一つでこれ程可愛らしくなれるのだ、服装や髪型を変えれば、ローズの中に眠る『女性』の部分が出てくるかもしれない。

 

「ねぇ、ローズ?もう少しオシャレして見ない?」

 

「御洒落?」

 

「そ、オシャレ。髪型変えたり、そのヘアピンもそうだけど、服装なんかも可愛くしてさ?」

 

私はこの時、考えていた。

彼女にどんな服装をさせてあげようか、どんな髪型が似合うだろうか、どんな化粧をしようか、などイメージを膨らませていた。

 

「もっと女性らしくなって――――」

 

きっと彼女の今の服装は、機動性なんかを考慮したものなんだろう。

髪の毛もハサミで切らずに、ただの鋭利な刃物で切り揃えたに違いない。

彼女にメイクやトリートメントという概念もないのかもしれない。

肌も自然体と言えば聞こえがいいが、それはつまり『何もしていない』ということに他ならない。

だから、彼女は原石なのだ。

磨き方次第では、宝石にも石ころにもなるのだ。これを逃す手はな―――

 

 

 

「――――――嫌だっ!!!」

 

 

 

私はこの時、放たれた拒絶が自分に向けられ、なおかつ、それ以上の介入を許さず、追及も、興味さえも許されない、そんな殺意にも似た感情も、私に向けているのだと理解した。

 

「ロ・・・ローズ・・・?」

 

「・・・・ッ!!!」

 

「待って!!」

 

私の声かけも耳に入らず、ローズは瞬く間に手の届かない、彼方遠くへと消えていった。

 

 

 

 




この小説を読んでくださっている読者様方に、お詫びをせねばなりません。
この度は申し訳ありませんでした。

登場人物である、ニャルタ族の『ローズ』ですが、一つ前の話数での挿絵では、彼女の左目には傷は無く、この話数には傷があります。

正しくは、左目に傷があります。
本文にはそれに触れている部分もなく、困惑してしまわれたと思いますし、その落ち度等は著者である私の責任でもあります。

大変申し訳ありませんでした。

次回からはその辺にも気を配り、しっかりと書いていこうと思っています。

何しろ、この作品を思いついたのは二年前ですからねwww
明敏編は頭から尻まで完全に頭の中で構成できていましたので、迷うことなく駆け抜けられましたが、今は羅美亜編です。
結末はできていて、その登場人物、生い立ち、物語への関連性、時系列、その他諸々は頭の中にあっても、途中の話が出来ていない状態なんです。。。

その穴を埋めるのは、明敏編以上に過酷なんです・・・(´;ω;`)

まぁ、末永く見守って頂けるとありがたいです。
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