自分は何をしているのだろう。
過去と決別し、受け入れているはずの自分は、何をしているのだ。
ヒメコに言われた一言が気に食わなかったのか?核心を突かれ、忌々しい記憶が蘇ったのか?
それこそ過去に縋っているのではないか。決別したわりに色濃く残っているではないか。
「・・・・情ケ無イ」
どうでもいいことで感情を荒げ、取り乱し、関係を崩すなんて、どうかしている。
それに、今現在も過去に縋っている自分もどうかしている。
目の前の建物に入ろうとする自分は、過去を断つどころか、むしろ自分から過去を振り返っているではないか。
忌々しい。
屈辱だ。
なのに、進む歩は止まらない。確実に一歩一歩、建物に近づいている。腕にある鎖を握りしめ、過去を断ち切るーー否、縋っている。
「・・・・面目ナイ」
その謝罪は誰に向けたものなのだ?
ヒメコか?
断ち切る決意をしたあの頃の自分にか?
それとも――――
「・・・・!」
答えなど、とっくに決まっているはずだ。悩むなど不毛。どう考えたところで、答えは一つに絞れるほど、自分は自惚れてなどいないのだ。
今はただ、自分の気を鎮めるために動こう。
――――それが最良の選択なのだから。
どれくらいこの街を走り回っただろう。もはや、知らない場所はないに等しいほど、同じところを探している。
「・・・はぁ・・・はぁ、どこにいるの・・・?」
私には特殊な嗅覚もなければ、気配を察知する第六感もない。
それに、この辺りには物騒な人達が大勢いる。あまり長居もできない。せめて、羅美亜がいればもっと探しやすいはずなのに。肝心の本人は何処かへ消えてしまった。
私はローズに言ってはいけない事を口走ってしまったのだろうか。彼女に限って「これはただのお遊びでした」で済むとは思えない。何か、彼女の何かを奮いたてる、もしくは傷付ける言葉をかけてしまったとしか思えない。可能なら、今すぐにでも謝りたい。傷つけたのなら謝りたい。
だが、それは今叶わぬ願いだろう。本人のいない所で謝ったところで無意味なのだから。
「・・・はぁ・・はぁ・・・」
これ以上捜索しても、それこそ無意味かもしれない。闇雲に探して疲れるより、目撃情報を頼りにして行こう。
「どうして・・・それを、先に思いつかなかったんだろ・・・」
それこそ時間と労力の無駄だった。
さて、目撃情報を頼りにするのはいいが、誰に聞けばいいだろう。
この街でむやみやたらに尋ねるのは得策とは言えない。何をされるかわかったものではないからだ。
では、店の店主に聞くのはどうだろうか。いや、これこそ無駄だ。確かにこの街には露店が幾つかあるが、どれも屋根があり、完全に空が見えない造りになっている。
ローズは、私の元から遠く『飛んで』行ったのだ。例え見たとしても、自分の店の目の前で彼女が『着地』しなければ見ることはできない。例え見れたのだとしても、彼女の動きを果たして捉えることが出来るのかも問題となる。
「はぁ・・・、どっちにしても楽に見つけられないのかぁ・・・」
私はため息を一つ付いて肩を落とす。だが、クヨクヨしている暇はない、大きく息を吸い、気持ちを強く持つ。
視界の端に捉えていた男性集団の方へ視線を移す。いかにも危なそうな人相をした人達が道の真ん中で談笑していた。
「気は進まないけどね・・・」
私はその集団へと歩を進めた。もし万が一のことがあった場合、今の私には守ってくれる人はいない。だがら、事前の構えが必要だ。
私は両手を組み、力の流れを意識する。電流は確か・・・そんなに強くなくていいはず。
「あの・・・すみません」
「あん?俺らに何か用か?」
恐る恐る近づいては逆に気圧されてしまうから、あえて堂々とした立ち振る舞いで近づいてみたが、やはり近くで見てもいい人そうには見えなかった。
「えっと、この辺りでニャルタ族の女の子を見ませんでしたか?」
「ニャルタ族?さぁ、知らねぇな?」
「けどよ、そんなことより――――」
やっぱりそう来た。
きっと彼らは「君可愛いね?これから俺らといい事しねぇ?」とか言ってくるのだろう。
それは困る。決して乙女がどうとか、ナンパがどうとかではない、今、私には時間が無いのだ。早くローズを探して仲直りがしたいのだ、こんな事に時間を割いている暇はない。少々手荒だが、追い払うとしよう。
「先に伝えておきますが、私は電気を扱う能力があるんです。電圧は1200v、電流は50A、抵抗は0Ωまで変動することができるんです。なので人を殺めるのは容易いんです」
「は・・・?いや、そうじゃなくて――――」
「おい、何だこのアマ?かわいい顔してるだけあって、電圧もカワイイもんじゃねぇ~か。トラックのバッテリ並みかよ」
ゲラゲラと下品に笑う男は、やはり知性のかけらもなかったようだ。1200vと聞いて笑っているなんて、基本教養からやり直した方が良さそうだ。
「バカ!なに喧嘩売ってんだ、女相手に――――」
「オレも電気系統の魔法使うけどよ?この嬢ちゃんみてぇに弱かねぇぜ?」
「バカにしていられるのも今の内です。後悔しても知りませんからね!」
「のぞむところだコノヤロっ!!」
「なんでそうなんだぁよぉお!!」
聞き覚えのある雷音がした。
それもそのはず、あれは救難信号の音だ。いや、正確には、救難信号を出す者の雷と同じ周波数、というだけのことだ。とはいっても、音を聞いたのは二回だけだが、自分にとってその回数は充分なのだ。
「・・・・」
助けに行きたいとは思うが、今はそんなことをやっている暇はない。否、出来るのだが、そうしてしまうと自分自身に逃げたことになる。
過去への柵を乗り越えねばならない。因縁であるこの腕の鎖を断ち切らねばならない。
そのためならば、自分は悪魔にだろうと、鬼にでもなろう。軽蔑されようとも、侮蔑されようとも、嫌われようとも構わない。
「過去ヲ、断チ切ル」
覚悟は決まっている。覚悟は出来ている。
勇気も、恐れも、悲しみも、全てを受け入れる体制は整っているのだ。
迷いも無い。ただ、目的を達するのみ。それだけに全力を注ぐのだ。
「そこにいるのは・・・まさか・・・!?」
しまった。侵入をしたことがバレてしまった。だが、それでもいい。ここを破壊するのに無駄な時間を省ける。
自分は、声のする方へ視線を向け、敵であることを示すように睨みつけた。
「・・・・!!」
自分は軽率だった。
覚悟を決めていたにもかかわらず、頭の中が真っ白になったのだから。
こんな事は想定外だった。否、考えつくことも充分にあり得たはずなのに、それをしなかった自分は、覚悟が足りなかったのかもしれない。
完全にこの時点で、自分は敗北した。
「・・・クリスか・・・?クリスなのか?!あの・・・・クリスティーナ・ハヴァンなのか!!?」
この収容所。
イーストキャンプに、同族である――――――
――――ニャルタ族が居たのだ。
挿絵描くの忘れてた(´∀`*)