救世主になりたい男の顛末   作:愛・茶

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序章~人生ゲーム~

 太陽がちょうど真上を通過した頃。商店街は盛り上がりを見せ、商いの勢いを弱めることはなかった。

 

 

 

「ふう、思ったより疲れるんだな・・・。」

 

 

 

 背中に乗せた少女を降ろしつつ明敏は生き物のすばらしさを噛み締めていた。到着するのに五分も掛からなかったとはいえ、人を乗せた飛行は初めてであった。

 

 

 

「・・・ごめんなさい。・・・・重かった?」

 

 

「あっ、別にっ、そういうわけじゃねぇよ?ただ、慣れてなかっただけだ。」

 

 

 

 必死の弁解も葵には特に気にしてはいないようだった。強いて言うならば彼女なりのジョークといったところだろう。

 

 目の前に広がる『和風』とは異なる風景。レンガ造りの住宅がそびえ、まるでヨーロッパの街並みを見ているようだった。由緒正しい貴族の街。そう思ったのは明敏だけではないだろう。

 

 葵は何一つ臆することなく、歩を進めようとしていた。

 

 

 

「ちょ、ちょっと待った。どういう所かわかんねぇんだぜ?慎重に―――」

 

 

「大丈夫。まだ時間に余裕が有るから―――」

 

 

 引き止める手を優しく握り返し、まるで子供をあやすような口調。しかし一転して恋人を誘うような甘えた声で言葉を発する。

 

 

 

 

 

「それまで、デ、デート・・・・しよ?」

 

 

 

 

 

 頭が沸騰するとはよく言ったものだ。小首を傾げ、消え入るような。恥ずかしさに耐えながら絞り出すような声で言われれば断る義理など無い。あったとすれば彼は、木っ端微塵にしてでも誘いに乗るだろう。

 

 それは恋人だからというのもあるだろうが、恩人であるといっても嘘にはならない。

 

 

 

 

「・・・あ、あ、ッ良い、良いぜ?ど、どこにい、行きたい?」

 

 

 

 明敏は高鳴る鼓動を耳の奥で聞きながら、葵の手を引いて歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街並みを少女と一緒に歩きながら、しかし挙動不審に辺りを見回す男は、既に能

力を解除しているため普通の人間である。にもかかわらずそれなのは、明敏の女性との付き合いの浅さを物語っていた。

 

 女性に恥をかかせるべきではないと言うが、むしろ葵は恥どころか緊張の糸を張りっぱなしの彼を楽しんでいたり、逆にその糸を緩めてあげようと思っていたりもする。

 

 

「アキ、あれ美味しそう。」

 

 

「・・・あ、ああ。そうだな」

 

 

 上ずった声をあげ、みっともない姿を晒すも彼女には関係ないようだった。むしろその姿も可愛気があると思っている。

 

 

 歩き回ること約二十分―――。

 

 特に何をするでもなく歩き続けていたのだが、事件が起こりそうな気配はなかった。というより事件の『じ』の字もなかった。

 

 そんなものを寄せ付けないと言わんばかりに活気だっていたからだ。

 

 

 

(あるとしても万引き、窃盗ぐらいか・・・。けど、言ってたのは火災だしな)

 

 

 

 目を万引きGメンばりに光らせているのだが、悪党らしき人物は見つけられるのだが、火災と言うのならば話が違ってくる。

 なぜなら商店街には火災の原因、火を使っている場面がない。だとすれば答えが自ずと絞られてくる。

 

 

 

(・・・・家庭災害!?まさか、この家全部見てまわんのか!?)

 

 

 さすがにそんなことができるわけがない。残り三十分程の時間で事件を未然に防ぐことなど、ましてや家庭災害であれば尚更だ。しかしこの可能性以外は考えつかないのは事実。

 

 

「アキ・・・?。」

 

 

 葵が瘴気のない目で覗き込むように様子を伺った。それもそのはず、隣に女性が居るにもかかわらず頭の中は起こるであろう事件の事でいっぱいなのだから。

 

 

「え?あ、ああ、ごめん。もう大丈夫」

(そうだよな。これはデ、、デートなんだからな。楽しまねぇと・・・・)

 

 

「本当に?。」

 

 

 一直線に目だけを見つめ訪ねる。真っ直ぐな眼差しを前にして本音を言わないのは酷である。全てを見据えているのだろうか。本当は全て知っていてのことなのだろうか。

 

 そんな思い込みが明敏を追い込んでいった。

 

 

 

 

「・・・ごめん・・・・・・・大丈夫じゃない」

 

 

 

 

 

 ――――――白状した。自分の犯した罪を告発する犯罪者のように。罪悪感なの

か。それとも謝る気が最初からあったのか。

 

 葵は彼の発言に表情一つ変えず握った手を引いて歩いていった。どこか行きたい場所があるのだろうか。初めて訪れる土地だというのに迷いなど無いように進んでいく。

 

 

 

 

 ――――――プルルルルル・・・・・。

 

 

 

 

 瞬間、明敏の携帯が鳴り響く。しかし活気あふれる商店街、響くという表現は適切ではなかったのかもしれない。規則正しい機械音は彼の耳までしか届かなかった。

 

 

 

「葵、ちょっと待った。電話だ」

 

 

 

 引かれていく手を引き止めて、携帯を手にとった。その時、彼女が悔しいような、寂しいような感情を抱いたのは言うまでもない。

 

 

「もしもし」

 

 

『どうも、デート中に申し訳ありません。事件の詳細をお伝えしようかと思いましてね』

 

 

 お邪魔でしたか?とまるで見透かしているのにもかかわらず、質問を投げかける。当たり前だ、と言わんばかりに大丈夫な旨を伝えた。

 

 

『そうですか、今は商店街ですよね?

 でしたら、その辺に貴族が集まっている祭典があるはずですので』

 

 

「そこで事件が起こるのか?」

 

 

『流石にすべてを伝えると、未来が変わってしまいますから。ご了承頂きたい。それともう一つ、周りの文字、分かります?』

 

 

 いつものように嘘か本当か判らない口調だった。相変わらずだと思いながら、携帯を耳から離し注意を外へ向ける。

 

 この場所へ来て少しの間歩いて回っていた。その度にここは韓国か、インドかと思うような文字が商店街を飾っていた。その度に明敏は言語の違いを疑っていた。

 英語は通じるのか、中学英語でも通用するのか。いざとなれば絵を書くという方法もあったが、肝心な紙を手に入れる術さえ通じなければ、最早飢え死にだろうと。

 

 

 

「・・・わからねぇよ」

 

 

『では、今からある魔法の術式を教えますので、なんでもいいので書き記してください。恐らく葵くんなら生徒手帳ぐらい持っているでしょう』

 

 

 そう言う高見沢の言葉は優しげだったが、しかし怪しくもあった。

 

 

 隣にいた葵に訊ねると持っていることがわかった。彼女は頭にクエスチョンマークを浮かべながら胸ポケットから生徒手帳とシャープペンシルを取り出し手渡した。学校の規則で常備させられていたらしい。

 

 

『それでは口頭で、正確に言いますので書き留めてください。そんなに難しいことではありません。書き留めるだけですから』

 

 

 それでは、と話を切り出す。明敏は数字を使用した正確な術式を耳で聞いて書き

留めていく。図形ではあったが、努めて正確に記していく。

 

 

(魔法で言葉も操れんのか・・・)

 

 

 

 

 

 

 

「―――――ッ!!」

 

 

 

 

 頭の中で何かが引っかかるのを感じていた。

 

 ――言葉を操る。周辺の言語。文字の違い。高見沢は術式を使って明敏や葵の言語でも不自由なく会話をできるようにしようとしている。しかし、不自然だ。

 

 

 

(言葉を操らなきゃいけないなら、なぜ俺たちがここにいるんだ?)

 

 

 頭がフル回転させながらもペンを握る手は止まる気配がない。

 

 

 

(もっと言えば、どうして葵はあの宿にいた老人と会話できたんだ?いや俺も・・・)

 

 

 

 そう、確かに会話をしていた。怒りをぶつけていた。もしかすると、否、もしかしなくてもと思ったが気付くのが遅かったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――既に書き終えてしまっていた。

 

 

 

 

『終了です。きちんと正確に書けましたか?ではそれを生徒手帳にでも挟んでおいてください。そうすれば、たちまち―――』

 

 

 

「おい・・・。この術式はなんだ?」

 

 

 警戒するような、ドスの効いた声音で尋ねた。もしこれが攻撃するような魔法であったら、と最悪な状況を想定しながら。

 

 

 

『え?何とは?それは所謂『翻訳こ○にゃく』的な―――――』

 

 

「じゃぁ何で俺と葵は宿にいた老人と会話できたんだ?―――どうせ見てたんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

『はぁ、勘が鋭いというか。そのまま自然な流れに身を任せていれば、こちらとしては楽なんですけど・・・・』

 

 

 

 

 言葉とは裏腹に、気づくのが遅かったような口振りだった。気づいたことが嬉しいような。掴み取れない霞がかった思考に明敏は警戒心を緩められなかった。

 

 一体どんな術式なのか。書いた絵を見たところで何もわからない。ただ円の中に星とも三角形ともとれる図形が描かれているだけだった。

 

 

 

『心配は要りません。貴方たちに直接危害を加える類のものではありません』

 

「じゃあ・・・間接的に・・か?」

 

 

 

『疑り深いですね。大丈夫ですよ、

 いつか貴方達の役に立つはずです。少なくとも――――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――――貴方には』

 

 

 

 

 

 最後に放った言葉は確かに、嘘ではなく。―――真実味を帯びていた。

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