目撃情報をもとに辿り着いたのは、東の街にある山を越えた麓にある建物だった。
怪しげな雰囲気を醸し出しており、容易に近づけないほどだった。
「でも、ここにローズがいるのよね・・・?」
そう思うことで、少しだけ気が楽になる。この先には見知った者がいると思えば、留まる足も動くというものだ。
私は、気合いを入れるべく自分の両頬を軽めに叩く。力を入れすぎたようで、頬がヒリヒリと痛む。だが、そのくらいでいい、そのくらいの方が気持ちも固まるはずだ。
「よしっ!行こう!」
怪しげな建物の中へ、私は一歩踏み入れた。
自分の目を、自分の耳を、自分の五感全てを疑った。
「クリスなんだろ?・・・よかった、生きていたのか・・・」
同族であるニャルタ族がこんな場所にいるわけがない。いたとしてもそれは幻想に過ぎない。いるわけがないのだ。だが、そんな心中を嘲笑うかのように自分の体は動いていた。
「――――ッ!!タクス!!」
母親に会えた子供のように、飼い主に会えた子犬のように、無様に、失態を晒すように、警戒心を解くように、目の前のニャルタ族に飛びついた。
タクス・サーヴェロ。
自分の唯一の知り合いにして、唯一の恋人でもある。体も、心も全て許し、将来を誓い合った自分の伴侶だ。
愛おしく、寂しげに、貪るように、タクスの胸の中にうずくまるように抱きついた。匂いを確かめるように、過去を思い出すように、甘えるようにすがりつく。
自分でもみっともないと思っている。だが、体は正直なもので、意識は離れたいと思っていても、体はそれをしなかった。
「クリス・・・・」
そんな囁くような声に溺れるように、浸るように彼を強く抱きしめた。
「ロ・・・・ズ・・・?」
怪しげな扉を潜った先には、盛大にパーティが開けるほど広い空間があった。さすがにテーブルやイスはなかったが、見知った人物と、見知らぬ人物が抱き合っていた。
――――――ローズだ。
まるで愛し合うように抱きつく二人の空間には、誰も立ち入れない雰囲気があった。
何故だろう、彼女に恋人がいてもおかしくはないはずなのに、それを認めたくない私がいる。この目に映る光景を夢であって欲しいと願う私がいる。
心が痛い?
何故そう思うのだろう。
彼女が、ローズが好きだから?名も知らない人に取られてしまったと感じているから?
勿論、私はローズのことは好きだ。その気持ちがどうであれ、好きなことには変わりない。
だが、『取られる』と言う感覚はおかしいのではないか?
もし、仮に私が男であったならば、その感情は間違っていない。むしろ、自分の素直な気持ちが表に出たのだ、と歓喜こそすれ、怒りも覚えるだろう。だが、私は女性であり、ローズも女性だ。
同性の恋愛に批判を持つことはないが、自分がその立場であると言う認識はない。何故なら、私は健全に男性が好きであるからだ。
だとすれば、この胸を突き刺すような痛みはなんなのだ?
「ローズ・・・?なに、してるの・・・?」
恐る恐る話しかけた。
目の前の現実が真実でないことを祈りながら、しかしそれが真実であって、自分の整理の付かない心を落ち着かせたかった。
「――――!!?」
どうして驚いているの?
どうして嫌なものを見られたみたいに視線を逸らすの?
どうして「この人は私の恋人で」って言って私の心を落ち着かせてくれないの?
何か私に隠しているの?
何か後ろめたいことがあるの?
ねぇ、答えてよ。
何か言ってよ。
どうしてそんな男の近くにいるの?
どうしてそんな人に抱きついているの?
教えてよ。・・・ねぇ?
この辺りを書いていて姫娘と同じ気分になった・・・
NYR大っ嫌い・゜・(ノД`)・゜・