嫌なところを見られてしまった。
彼女に無様な姿を見せてしまった。
守るなどと言っておきながら、この醜態はなんだ。
情けない、そう思っているのに、まだ、私の身体は言うことを聞かずタクスを抱きしめたままだった。
弁明しなければ。
言い訳にしか聞こえないかもしれないが、それでも言わないよりはいい。このまま言わずに終わるよりはいいのだから。
「!!」
だが、何と言えばいいのだろう。どう言葉を選んでも、結局は傷付けることになる。もはや、その領域にまでなっているのだ。
「クリス・・・あの人は一体」
「喋らないで!!!」
私の行動は間違っているのかもしれない。大切な人の大切な者に手を上げるなど、あってはならないのかもしれない。
自分の価値観なんて他人は知る由もないことだ。
私の目に映る光景が、醜いものであったとしても、それを他人が美しいものに見えているかもしれない。また、その逆も然り。
それ故に、私には酷く見えるこの光景も、ローズにとっては酷く楽しいものかもしれないのだ。だが、それでも、そうであったとしても、彼女を抱く男が、彼女を幸せにできるとは思えない。
小太りで中年の男性が、下衆な笑顔を見せる男が、人の身体を玩具としか思わない手付きが、ローズを幸せにできるとは到底思えない。
そう考えた時、私は両の手を目の前で組み、その手に電撃を集中させ、バチバチと空を弾く音が鳴り響かせていた。
そして弓を引くように腕を引き、狙いを定める。直撃させなくてもいい。ただ、脅しをかけるだけでいいのだ。
あんな男に、私のローズは渡せない!!
激情がそうさせたのか、矢を射るように指を離す。躊躇いもなく、引け目も感じず、ただ、想いを解き放つように矢を放った。
――――雷撃の矢。
姫娘の放った雷撃は、1mもの余裕を残して、私達の右側を通り過ぎていった。それだけで、否、それ故に雷撃の通った右腕が酷く痙攣している程度で済んだのだ。
私自身、電気系統には詳しくないが、彼女の放った一撃に込められた意思がどれ程の大きさかよく分かった。
姫娘は本気だ。
彼女の込める一撃は『殺す』目的で放っている。
私かもしれない。
彼かもしれない。
どちらにせよ、彼女が本気であることには変わりないのだ。
身構える私と、矢を射るように腕を引く姫娘。
私は、どうすればいいのだろう。
ローズに当てるつもりは毛頭無い。それに、誰かをこの手で殺めるつもりもない。だが、ローズが、想い人に対する態度をやめない限り私は、私の手は止まらないだろう。
「答えて!!ローズは、そんな人の事が好きなの!!?」
真偽が知りたい。
心の底から彼女が愛しているのであれば、それ以上は只の『大きなお世話』だ。
それだけは避けたい。私は、ローズを困らせたいわけじゃないのだから。
「その人の事が!!そんな人が好きなの!?」
信じられない。
――――――信じたくない。
出来ることなら、全て悪い夢で、本当はこんな事なんて無かったと思いたい。だが、それも彼女の返答次第だ。
「・・・・」
何か言いたいのか、それとも言いたくても言えないのかは分からないが、ローズが言葉を選んでいることはよく分かった。
「いや・・・イヤイヤイヤイヤッ!!!」
だが、それでも私は聞きたくなかった。答えをわかっているからこそ、聞きたくない答えが飛び出してくるとわかっているから、私は攻撃の意思をやめなかった。
「聞きたくない!聞きたくない!・・・だがら、そいつから離れて!!ローズ!!」
矢の照準を一点に絞る。
狙うは、大切な人の大切な人。
それが、どんなに醜かろうとも、酷い光景であっても、私は自分自身の感情で矢を放つ。
例え、それが間違いであったとしても。
「ッ!!!」
私は動いていた。
体は自分の意思とは関係なしに動いていた。正確には、何も打開策すら浮かばなかったにも関わらず、無意識に動いていたのだ。
一直線、姫娘のいる元へ走り出していた。
何のため?
何をしに?
そんなことは決まっている。
「姫娘!!」
彼女を止めるために。
タクスを守るために。
過去に縋るために。
なくしたくない、失いたくない。思い出したくもない過去だが、それでも、自分の歩んできた道であり、その結果の未来なのだ。
「させない!!」
護るべき相手に立ち向かい、大切な人を守る。
頭の中に浮かぶ矛盾に目眩がしそうになる。だが、それでも私は『過去の鎖』を握りしめ、護るべき相手に牙を向いた。
ローズは攻撃をしかけてきた。
腕についている鎖の先、宿屋の床を呆気なく突き破るほどの鉄球。そんなものが、直撃しようものなら、命がいくつあっても足りないだろう。
だが、それは覚悟の上だ。元より、私がローズに適うとも思っていないのだ。ならば、全力で闘っても意味がない。それでも、私は、自分の正義に従って、彼女の幸せのために、今、立ち向かう。
「ローズ、ごめん!!」
私は今、どんな顔をしているのだろう。
怒っているのだろうか。
泣いているのだろうか。
それとも――――――
自分の左手に意識を集中させ、雷を創る。私の父はこの技を使っていたと聞いたことがある。
つまり、父直伝――――――
「雷の槍《ライトニングランス》!!」
左腕に集約された電撃は、手首を軸に槍の形状を成した。
ローズの一撃に勝るとは思えないが、皮膚に当たれば即死であろう。何せ、致死量を遥かに超えた『30A』なのだから。
「ッ!!」
ローズは唇を噛みしめる。
この状況に嘆いての行動なのだろう。戦いたくもない相手に牙を向き、手を上げるのだから。
私も同じだ。
好きな相手に嫌な思いをさせるのだ、心中穏やかではいられない。だが、こうしなければいけないのだ、いくら私でも心を鬼にする他ない。
彼女が近づいてくる。腕についている鎖を握りしめ、その先の鉄球をこちらに向けて投げつける。動きは遅かった。彼女なりに傷付けまいとしての判断なのだろう。そして、自分だけ傷付けばそれでいいと思っているのかもしれない。
だから、私はそれに従うように鉄球を華麗に躱し、左腕に宿る電撃の槍を標的に向けて構える。
「当たれーーー!!!」
もちろん、外れるとは思っていない。いくら身体能力が私より高くても、彼女には及ばないのだから
目の前のローズよりも劣るはずなのだから――――――
「――――ッ!!まさか!!」
今頃気付いたらしい、その男は、目を丸くして防御の体制へと移ろうとする。だが、私の父譲りのこの技は――――
「直前で、――――加速する!!」
光一閃。
私の左腕は、男の懐へ飛んで行った。
ちなみに姫娘の必殺技の名前は
『雷撃の矢《ライトニングアロー》』です。
両親の血を受け継いでいるので、放たれた矢は一度だけ方向を変えることができます。