「私は今、とても不機嫌です。
それは何故でしょう?」
「自分が活躍してないから?」
「生理痛」
「欲求不満かい?」
「性交渉不足」
「手当たり次第に男を貪りたいと?」
「性二貪欲」
「違うよ!人を性欲の塊みたいに言わないで!!」
「ふん、肉の塊を二つもぶら下げてるって言うのにかい?」
「魔乳」
「こ、これはママ譲りなの!!」
妙なところで息を合わせるんだから・・・この二人は。
私だって、この胸があっていいことなんてないんだから・・・肩とか凝るし、重いし・・・。
「―――って、そう言うこと言いたいんじゃなくて!!」
ローズの一件が終わってから数日後。
彼女は以前と変わらず、羅美亜と軽口を言いあっていた。口喧嘩だっていつものように交わされていた。
私としては、ローズが変わってしまうんじゃないかと心配したが、それは考えすぎだったみたいだ。ましてや、以前よりも楽しそうに、何か吹っ切れたように毎日を過ごしているようにも見えたりする。
だからこそ、私はいつものように過ごす彼女らに、いつものように自分の目の前に正座させ、お説教を始めていたのだ。
「いつも言ってるでしよ?喧嘩するのは構わないから、するなら外でやってって?」
優しく、丁寧に、子供に言い聞かせるかの如く彼女らに問う。
この私の話を何パーセント理解しているか、聞いているかは分からないが――――――
「天井をぶち破るような事になるんだから、ってさ?」
「あんな所に天井があるのが悪いのさね」
「破壊要因、羅美亜」
「言い訳しない!!」
全く・・・何度この会話を繰り返しただろうか。私の口が凝り固まって、説教以外の言葉が出なくなるほどに、口を酸っぱくして何度も言っているのに彼女らはそれを聞こうともしない。いや、聞いているのだろうが、それを受け止めて次に繋げていないのだろう。
まったく・・・これじゃ小さい子供を相手にしているみたいだよ。
「お願いだから、これ以上迷惑掛けないでね?」
「御意」
「そうさねぇ・・・これくらいにしないと姫娘が可哀想だからねぇ」
本当に分かったんだろうか。いや、信じなきゃいけないんだけど、どうも二の舞を踏みそうなんだよね。何せ、これで十回めだし・・・。
「そういえばさ?
羅美亜は仕事どうしたの?」
最近では、滅多に姿を消さなくなっている。彼女なりの事情があり、それを私に教えてくれることはないと分かっているが、一応、一応聞いておこう。
「今、何か失礼なこと思わなかったかい・・・?」
「え!?う、ううん!別に?」
羅美亜には心を読む力は無いはず。きっと偶然だよね?
「うー・・・ん仕事ねぇ・・・」
彼女は自分の顎に手を当て、わざとらしく考えを巡らせる。
まさか、この後に及んで仕事放棄だろうか。私より断然年上なくせして、ロクな大人じゃないな・・・。
「まぁ、あんたに話しておくのも悪くないかもしれないねぇ・・・」
「え・・・?」
何だか雲行きが怪しい。先ほどまでわざとらしく話を逸らそうとしていた顔が、一転して真剣な眼差しへと変わった。
私は、その変わりように思わず息を飲む。
何を言い出すのだろう。もしかして、真剣な顔してくだらないことを言い出すのではないだろうか。
それなら良い―――良くない!
「『改革者』の話を知ってるかい?」
「改革者・・・って、あの西の街にいる有名人・・・だよね?」
彼と羅美亜との間に一体どういう関係性があるのだろうか。
元恋人だろうか?
仇か何かなのだろうか?
どちらにせよ、羅美亜にとって重要人物なのは変わらないだろう。
「私ァその有名人に会いたいのさね・・・」
「どう・・・して?」
いつもならその質問は軽く流されて、結局結論を教えてもらえず、私がモヤモヤして終わるはずなのに、今の彼女ならば何を質問しようと答えが返ってくる気がした。
「・・・自由になりたいのさね、この能力《呪縛》から」
「羅美亜・・・」
羅美亜の能力『破戒神《マギノ・ブレイク》』は、触れたものを無に換える力だ。だが、そのせいで自分の寿命さえも無に換えられているらしい。故に、彼女は不死身の体になっているのだそうだ。
証拠はない。
確証もない。
だが、彼女の言うことを信じなくて何が主人と使い魔だ。だからこそ、私は彼女の言うことに疑いを持つことはない。
「私の言いたい意味が分かるかい?」
「・・・・」
羅美亜が真剣な表情で訴えかけてくる。
覚悟したような、決意に満ちた表情。
この時、もしかしたら、私は本能的に分かっていたのかもしれない。あるいは、彼女の言葉の真意を見抜いていたのかもしれない。
羅美亜が、『自分の能力から解放』され、自由になる、と言う意味が。
だが――――――
「全然・・・・分からないよ」
私は理性的にそう答えていた。
分かった上で、理解した上で、私は否定することを選んだ。
「羅美亜が言いたいことなんて・・・分からないよ」
自分で言っているのに、罪悪感が拭えないのは何故だろう。
自分の口で言っているのに、尻窄みするのは何故だろう。
自分の頭で考え、理解し、その上で出した答えなのに、苦しいのは何故だろう。
堂々巡りに頭を悩ませ、彼女の目を見れないでいる。
「そうかい?まぁ、端的に言えば――――」
この後に発せられる言葉は分かっていた。冗談じゃなく、話をそらすための言い訳でもなく、彼女の心からの本音だと言うことが。
羅美亜は言うだろう。
臆面もなく、躊躇なく、誰に気遣うことなく、ストレートに、私の思う彼女の言葉を、一字一句狂うことなく放つだろう。
「――――死にたいのさね」
死にたい、と――――――
別に、驚きはしなかった。何せその事柄は、自分でも分かっていたことなのだから。予想を一片の狂いもなく的中したのだから。
『改革者《ミヤムラアキト》』に会い、自分の能力から解放されたい。それは、死ぬことなんだろう。つまり改革者には、羅美亜を殺す力が存在するのだろう。
全てを無に換える能力に対抗するほどの能力者。その人物に一目だけでも会ってみたい好奇心がある。だが、同時に、羅美亜には絶対に会わせたくない、と言うわがままもあった。
「それで・・・羅美亜は、その人に今すぐ会いたいの?」
答えなんて分かり切っていた。彼女がこの質問をされて、否定するなんて思っていない。むしろ、肯定以外の答えなんて持ち合わせていないだろう。だけど私の心は、嘘でもいいから否定して欲しいと願っていた。
そんなことは決して無いと分かっているのに。
「そうさねぇ・・・、姫娘とは、ここで、お別れさね」
「・・・・・」
その言葉が、何よりの答えだった。
きっと、彼女は仕事をしに行くのだろう。人生最後の、自分の命に『終止符《ピリオド》』を打つために。
「そっか・・・」
自分の声音が落ちているのが手に取るようにわかる。
「・・・分かったよ、羅美亜・・・」
歯も食いしばれない、悔しさなんて以ての外だ。
――――脱力感。
私の体を支配しているこの感情。それが、私を諦めへと誘う。
「すまないね・・・」
「ううん、いいよ・・・仕事だもんね」
「ホントに、すまない・・・」
「いいって・・・しつこいと嫌われるよ・・・?」
「それもそうさね・・・それじゃ」
最後に手を振り、立ち去ろうとする羅美亜。
何も手に付かない。
だが、この体に反するように視界が霞むのは何故だろう。
雫が一滴、零れ落ちるのを感じた時、ようやく自分が泣いているのだと気づいた。
違う。
これは脱力感じゃない。
――――悲しいんだ。
「姫娘・・・・?」
何も言わない事に疑問を持ったのか、こちらに振り返るのが霞んだ視界から伺えた。
私は、私から零れ落ちる涙を止めることができなかった。
ダメだ・・・・。止まらない。。。
言葉が溢れてくる。
「・・・イヤだ」
「姫・・・娘?」
「そんなの、嫌だよ!」
こんなのはただのワガママだ。
こんなのは羅美亜が困るだけだ。いけない。すぐにでも辞めなくては。
「行って欲しくない!行かないで!!」
ダメ。
彼女が決意した事柄を、私のワガママで踏みにじるのはよくない。
本人がそうしたいと願っていることを、たった一人のワガママで台無しになんて――――――。
「羅美亜・・・・!」
「・・・・っ!?」
ついにやってしまった。
覚悟を決めて突き進む彼女を、私のワガママで足止めさせてしまった。
――――――抱きついちゃいけない。
――――――早く離れないと。
――――――羅美亜の邪魔しちゃいけない。
だが、私の体は、思うようには動いてくれなかった。離れようと思えば思うほど、その腕は強く、離すまいとして、彼女を抱きしめていた。
「嫌だ・・・イヤだよ・・・離れたくない・・・!行っちゃヤダよ・・・・」
「・・・・」
私は自然、彼女の胸に顔をうずめた。
――――柔らかい。
――――暖かい。
これが、全てを無に換える能力を持った女性なのだろうか。いや、違う。これは私に軽口を叩き、私を困らせ、時々姿を眩ませ、だけど、私に愛想を尽かさない、私の大事な、大事な使い魔だ。
「羅美亜・・・は、私の・・・・使い魔・・・なんだからぁ・・・!!」
行かないで欲しい。
そばにいて欲しい。
――――――死んで欲しくない。
羅美亜は使い魔なんだから、私のそばにいるのは当たり前なの。
絶対離さないんだからぁ!!
「・・・・」
「・・・・ッ・・・うっ・・・ヒック・・・ら、羅美亜ぁ・・・」
「姫娘・・・?」
泣きじゃくる私に、羅美亜は冷静に、諭すように話し始めた。
「この世界の昔の文献に、こう言う言葉があるのさね」
今更、昔のことを言われても、私のこの感情は止まらないのに。
「『人はいつ死ぬと思う?』ってのがあってねぇ?」
「・・・・?」
「ピストルで心臓を撃たれた時や、不治の病に侵された時じゃないのさ」
どちらも、即死するほどの事なのに、それで人が死なないとはどう言うことだろう。羅美亜は、いったい何を言いたい――――
「『人が死ぬのは、
人に、忘れられた時だ』って」
「!!」
――――――人に忘れられた時。
誰にも認知されず、誰の記憶にも残らない。それこそが本当に死だと。
不死身である羅美亜にとって、誰かとこうして交流することは、一種の生き甲斐。人間性なのだろうか。だとすれば、彼女が死ぬ決意をわざわざ私に伝えたのは――――
「・・・・・」
「・・・・姫娘?」
私は、ゆっくりと、名残惜しむように彼女から離れる。本当は、もっと一緒にいたかった。抱きしめていたかった。この身で感じていたかった。だけど、それはもう無意味だとわかったから。
「大丈夫だから・・・」
「・・・・」
「・・・絶対に忘れない・・・・この世界が消えない限り・・・
羅美亜を――――殺させはしない」
改めて、私は、涙で濡れた顔のまま羅美亜を見た。
彼女は凛々しく、悠々と私を見下ろしていた。悲しさはあれど、それを態度で示そうとはしなかった。それは、泣く私に対する、最初で最後の遠慮なのかもしれない。
「だって、羅美亜は
――――――不死身だもんね」
「あ~あ、私ァどうやら、安安と死ねないようだねぇ・・・」
羅美亜は、嬉しそうに、楽しそうにハニカミながら呟くように言葉を漏らした。その表情に、私は又も涙が溢れてそうになった。だが、それをぐっと堪え、再度羅美亜を見る。
泣くそぶりは無い。だが、それ以上に、嬉しそうなのは拭えないようだった。
「まったく・・・これだからお姫様は・・・・世間知らずだから困るのさね」
「・・・ふふっ、そうかもね」
羅美亜には、もはや悲しむという思いはないのだろう。楽しげで、嬉しそうに笑う彼女を見ると、自然、こちらも笑顔になる。
一体、羅美亜は何回、何十回、何百回、何千回、人の死を見届けて来たのだろう。その内の、何回位が気持ちのいい『死』だったのだろう。
――――自分の手を汚さずに殺した回数は?
――――――一番呆気なく殺した回数は?
幾万もの過ごした時間で、彼女は楽しいと思った時はあるのだろうか。
その中で、私と過ごした時間はどのくらい楽しかったのだろう。
疑問を並べれば尽きることはないが、ただ一つ言える事がある。
今の彼女の顔は、今まで見てきた表情の中でも、一際綺麗だった。
「ねぇ、一つだけ教えて・・・?」
私は唐突に、羅美亜へ質問を投げかけた。それは、誰が聞いても同じ答えしか返ってこないであろう質問。しかし、私はそれを聞かざるを得なかった。
何故なら―――――――
「羅美亜が生きて来た人生の中で、どの時間が楽しかった?」
「そりゃあ勿論、今さね。
神宮寺姫娘と過ごした時間が――――――一番楽しかった」
「そっか・・・」
嘘でもいい。
気を遣った発言であってもいい。
楽しかった記憶が――――
歩んできた人生の中で、私と言う存在が、彼女の中で、一番であるならば。
例え偽りであっても――――
只の譲歩だったとしても。
私はそれだけで満足できるから。
「今まで、ありがとう
私の、――――――大切な親友」
だだっ広い草原を、たった一人の女性が歩いていく。
手持ちは無い。
護衛も無い。
只あるのは、蟠りの無い澄み切った心だけ。
黒い装束に身を包んだその女性は、『悪』を連想させるには充分なほど。だがしかし、その女性はただ一つの目的を果たすために、その歩を止めることはなかった。
「ローズ、ちゃんと約束、守んなよ・・・」
女性の呟きは、澄み切った青空に掻き消され、空へと消えた。
そして、虚無を喰らう神の話は、たった二人の人物によって語り継がれ、のちに伝説となった。
これにて羅美亜編終了です。
まぁ、最後に後日談的なものを書いて、本当に終了です。
今まで読んでくださってありがとうございます。
読みにくかったり、内容が分かりにくい点もあったと思います。
ですが、ここまで走り抜けたので
「まぁ、いいかなwww」
的な諦めで切り抜けようかな・・・・いや、ご指摘いただければ直す所存ですのでどうぞ意見など言って頂ければ嬉しいです!!
さて、物語も半分を切りました!
・・・って、まだ続くのかよヾ(・∀・;)オイオイ
まぁフラグをだいぶ回収してますのでねww
はやく解決しないことには、モヤモヤが募ってしまいますのでねwww
もう少しお付き合いしていただけると幸いです。
それではまた(^o^)/
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