救世主になりたい男の顛末   作:愛・茶

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序章~人生ゲーム~

 ―――貴族の祭典。それは―――人身売買場であった。

 

 観客は恐らく全員貴族であろうと思われる。理由の一つとしては服装だった。商店街にいた人たちとは、違う雰囲気。気品に満ち満ちていた。

 

 

 

「それではこれから、オークションを始めさせていただきます。まず初めに―――」

 

 

 

 大きなステージに司会者と思しき人物が姿を現す。身振り手振りを交え、オークションの説明を始める。手の挙手と金額の表示が、購入の意思表示だと。

 

 

「では、商品番号1番―――」

 

 

 この光景は異常だった。大きなステージの端から手錠で繋がれた人間が、戸惑いもなく躊躇いもなく、しかし喜んでもなく中央へと歩んでゆく。

 司会者が合図を出すと、一斉に挙手と金額を述べていく。鬼気迫るものがなく、まるで遊ぶような、金額の提示で自己主張しているような奇妙な空間だった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・腐ってる・・・」

 

 

 

 

 

 しかしこの奇妙さ、異常さに憤りを覚える人物がいた。そのものは歯が軋む程に噛み締め、手から血が出てしまう程に握り拳を作っていた。

 

 

「・・・アキ・・・?」

 

「・・腐ってやがる・・・ッ!!」

 

 

 眉間にしわを寄せ、鬼の形相を思わせるほど怒りを露にしていた。

 

 

 

 ―――――明敏だった。

 

 

 

 もしこの場に葵が居なければ一目散、否、目にも止まらぬ速さでこの異常な光景に飛び込んでいっていただろう。

 

 

 ―――――もし、手を繋いでいなければ。

 

 

 彼の足は。腕は。体は既に臨戦態勢だった。手から伝わる暖かさがなければ、明敏という器は動き出すだろう。目に映る光景を変えるために―――。

 

 

「ここで事件が起きるんでしょう?」

 

 

 努めて明るく、気持ちを涼めるような声音で葵が尋ねた。注意を逸らすためには会話が良いと思ったのだろう。

 

 

「・・・・・ッ・・ああ、けど、・・・俺が事件を・・・起こしそうだッ・・・」

 

 

 淡々と会場は売買を進めていった。近くにこの場を変えようとする者がいることも知らずに。

 

 

「・・・葵、・・・ごめん・・・。気が動転しちまって」

 

「・・・ううん、いいよ。むしろ平気な顔してる方が安心できないわ。」

 

 

 肯定するように、全て受け入れるように言った彼女の眼は、瘴気が無いにもかかわらず、優しげだった。

 

 

 

 ―――――その刹那

 

 

 

 

「てめぇらァーーー!!!動くんじゃねぇぇぇーーーー!!!!!」

 

 

 

 怒号とともにステージの上へ一人の男が現れた。手からは炎の塊を出し、会場全体に投げつけていく。これは何の比喩すらしていない。文字通りだった。

 

 

「いいかッ!!!!動くんじゃねぇ!!一歩でも動いたらぶち殺すぞ!!!!」

 

 

 それはおそらく嘘やはったりではないのだろう。目の前に逃げようとしていた人間が丸焦げになっているのだから。

 

 

「てめぇらみてぇな貴族は、生きる価値はねぇ!!!」

 

 

 恐怖と緊張が会場を包む。しかし炎の塊を振りかざす男の放った言葉が何かに触

れたのだろう。貴族の一人が前に毅然と出てきた。

 

 

「生きる資格だと?ふざけるなッ!我ら貴族はこの国を治めているのだっ!国に貢献しないものこそが死ぬべきなのだッッ!!!」

 

 

 貴族たちはさぞ、大仰に頷いたことだろう。何せ自らが貴族として振る舞える、言わば証明書を振りかざしたのだから。

 だが、それをおかしいと思っている男としては、最低な発言をしているに過ぎなかった。だからこそ、その口を黙らせるために腕を振り上げ、手のひらに炎を出して攻撃を開始した。

 

 

「死ぬのはてめぇだァァァァァァァーーーー!!!!」

 

 

 放った攻撃は目の前の貴族目掛け一直線に飛んでいく。

 

 

 

 しかし―――。

 

 

 

 

「―――あぶねぇッ!!」

 

 

 横から割り込んできた人影が、貴族を押し倒したために攻撃は失敗に終わった。

 

 

「―――――ッ!!何だてめぇはッ!?」

 

 

 

「―――俺か?」

 

 

 

 押し倒した貴族から離れた人影は、男であった。しかし人間とは異なる様相をしていた。

 人間であろことは分かる。しかし人間の顔に鱗があるだろうか。人間の爪があれほど鋭いだろうか。

 

 

 ―――人間の背中に翼があるだろうか。

 

 

 

 

 

「―――俺は、宮村明敏。」

 

 

 

 そう『融解《メルト・フィーリング》』保持者。肩から指先にかけて、つまり腕に触れたもの。生き物であれば遺伝子レベルで融合する力。誰も幸せにしない力。誰も救わない力。

 

 ―――必要がないと思っていた力。

 

 

 

 

 

 

「この世界を、―――変える男だ!」

 

 

 

 

 

 正義の味方のように。特撮ヒーローの決めゼリフのように。―――救世主のように。

 告げる彼の瞳は、意志と覚悟の光が灯っていた。強く、光り輝いていて誰も寄せ付けない様な強い光だった。

 

 

「世界を変える男だァ?だったら―――」

 

 

「―――お前の言いたいことはわかる。けど、お前のしようとしてることは見過ごせねぇ」

 

 

 ハッ、と男は吐き捨てうんざりした表情で、

 

 

「・・・・そうかよ、てめぇも貴族の味方かよ・・・。」

 

 

 そっと構えを取った。

 

(つまり、邪魔者は消すってことか・・・)

 

 明敏も男の気持ちに応えるように構えを取る。既に力を使っているため、今何に触れたとしても融合することはない。 

 

 

 

 

―――――おい!わしのドラゴンはどこへ行った??

 

 

 

 そんな貴族の嘆きを皮切りに、男は炎の塊を弾き出す。けたたましい轟音が、静まり返った会場に響き渡る。しかし明敏は体をずらしてそれを避ける。

 

(悪ぃな、ちょっと借りるぜ。あんたのドラゴン!)

 

 ドラゴンと融合した明敏には、世界がよく見えていた。特別遅く見えたり、相手の動きの先が見えるといったことはなかった。ただ―――よく見えていた。

 腕が動く瞬間。誰かが息を飲んだ瞬間。小刻みに震える瞬間。相手が襲って来る瞬間。

 

 これは狩られるものが身に付ける『野生の勘』だった。

 

「ハアアァァァァァァァァアアア!!!」

 

 連続で弾き出される炎だが、『野生の勘』が働いている明敏には無意味だった。

 

 

「・・・これが魔法?」

 

 

 多数の炎の塊を何のことなく避けている中、男の掌に描かれている図形が目に入っていた。それは高見沢が口頭で伝えられたものとは違うが、確かに似ていた。

 二重の円。中央に星型。その周りに文字らしきものが並べられていた。相対してはいても、距離があるため確認できるのはこの程度だった。

 

 

「ちっ、どんな魔法使ってんのか知らねぇが。小細工してんじゃねぇぇぇぞ!!!」

 

 

 男は一度大きく腕を後ろに引くと、今までのとは比べ物にならないほどの巨大な炎を創り出した。

 

「そっちが本気だってんなら・・・・!!」

 

 まさに刹那。その場から足に力を込め、蹴り上げる。距離にして数メートルをたった一歩、たった一秒で詰めた。

 

 

 ―――そして相手の懐目掛け、蹴りを浴びせる。

 

 

 

「―――グハッ!」

 

 

 思わぬ攻撃だったのか、足に踏ん張りを利かせてなかったのか、ステージの端まで飛ばされていった。

 

 

「・・・そんなに力入れてねぇんだけどな・・・」

 

 

 驚いていたのはむしろ明敏の方だった。自分の見慣れている動物ではこれ程の力は出なかった。出たとしてもライオンやゴリラ、クマやワニといった明らかに凶暴な動物ぐらいだった。

 

 

「確かに、この世界なら俺は救世主になれるかもしれねぇ」

 

 

 掌を見つめ、自分の可能性への自信を露にしていた。ドラゴンなど想像の生き物がいる世界だ。見たことのない動物や虫は彼を果てしない強さを引き出すのだろう。

 

 

 

 ―――――ふざけんなッッ!!

 

 

 

 ステージの端。先ほど吹き飛ばした方から鬼気とした男が立ち上がっていた。手には炎がパチパチと弾けるような音を立て、明敏を殺意の篭もった眼差しで睨んでいた。

 

「―――ッ!」

 

 

「救世主とか名乗ってんなら!!!!」

 

 

 男は腕に炎を纏わせ、走り出す。ただ、明敏へと一直線に。

 

 

 

「なんで、んなことしてんだァ!!!!」

 

 

 飛び上がった男はそのまま重力に任せて拳を振り下ろそうとする。しかし今の明敏にはその動きは見えていた。だからこそ避けるのは容易かった。

 

 

 

「・・・・・・・・っ・・・・」

 

 

 

 

 ―――――しかし迷っていた。

 

 

 

 自分のしていること。男のしようとしていること。何をしているのか。男はここにいる貴族たちは悪だといっていた。確かに人身売買をただの買い物と同じ感覚で行っていた。

 

 

 

――――――国に貢献しないものこそが死ぬべきなのだッッ!!!

 

 

 

 あの場での、あの空気の中での発言はもはや真実に近い。咄嗟に出た台詞。どちらが正義で、どちらが悪かは一目瞭然だ。だが、貴族を助けなければ崩壊するのは国だ。

 

(くそっ!一発目から難しい問題をだしやがって・・・・・っ!!)

 

 ―――選択。それは人生の選択肢。ここで試されている。どちらを選んだとしても正義。助けるという意味では変わらない。

 

 

 ―――男に加勢して囚われている奴隷達を助ける。

 

 

 

 ―――貴族に加勢して男を捕まえる。

 

 

 

(・・・・ッ・・・・仕方ねぇ・・・!!)

 

 

 

 明敏は振り下ろされる拳を間一髪で避け――――――

 

 

 

 

 

 ――――――懐に拳を捩じ込んだ。

 

 

「っぐ、カハッ―――!!!」

 

 

 そして勢いを殺さずそのまま地面に叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~よくやってくれた!平民の分際だが褒めてつかわす」

 

 事件は収まった。後に街の自警団と呼ばれる人たちが冷静に対処し鎮静の一歩をたどった。

 会場で暴れた男は自警団の一人だったらしい。人一倍正義感の強い奴だそうだ。

 

「なにか褒美をやろう。どうだ?何が欲しい?女か?奴隷か?金か?」

 

 下衆な笑顔を浮かべた貴族は明敏に近づき耳打ちする。内心では全力で殴ってやりたい衝動を抑えつつ笑顔で対応する彼は、能力を解除して人間の姿に戻っていた。

 

 

「・・・・そうですね。じゃあ――――――」

 

 少し逡巡するふりをして、既に決めていた言葉を発した。

 

 

 

 

 

「―――この事件を解決したのは、宮村明敏だ。と他の貴族たちにお伝えください」

 

 

 

 

 

 ―――――そう言ってこの場を去った。

 

 

 

 

 

 

 それはほんの数分前―――。

 

 

『どうも、明敏君。流石、貴方はいい選択をしました』

 

 事件後。自警団の来る少し前、高見沢からの開口一番は明敏の不安を一息で吹き飛ばした。

 不安―――。自らの行いを悔いていた。本来ならば人身売買を止めるべきだったのではないかと。

 

 

「・・・・そうは思えねぇけどな」

 

『いえいえ、貴方はいい選択をしました。

 もしあの時貴族を敵に回した場合―――』

 

 そこでひと呼吸置いた高見沢は、次に発する言葉を極めて冷淡に答えた。

 

 

 

 

 

『―――――デッドエンド、でした』

 

 

「―――――ッ!!?」

 

 

 

『ちなみに死因は銃殺。犯人は自警団です』

 

 

 

 戦慄が走る。たかだか助ける相手を変えるだけで生死を分ける羽目になるとは。

 明敏は深呼吸を一つして冷静を保った。

 

 

「銃殺ってのは?魔法か?」

 

 

『何を言ってるんですか?銃ぐらいありますよ。

 言ったでしょう?剣と魔法の――、と』

 

 

 からかう様な口ぶりで、言葉を交わす。

 

 

『まぁ、とにかく今日選んだ選択は間違っていなかったということです』

 

「それは・・・・・試練に合格したってことか?」

 

 もはや明敏にはそう思うしかなかった。自分の選んだ選択は生き残る道ではあったが心のモヤは晴れる気配がないからだ。

 

 

 

『試練?どういうことですか?』

 

 

 

 

『だってそうだろ?あの状況でなら俺は、あの男に加勢したかもしれねぇ。けどそれじゃあデッドエンドだろ?

 世界を変えたいなら非情な選択をしなきゃいけねぇって、言わせたかったんじゃねぇのか?』

 

 

 

 

 

『・・・・・・・・・す、すごい考えをお持ちですね』

 

 

 高見沢はからかうことをせず、驚いていた。まるで予想を遥か斜め方向に超えていたかのように。

 

 

「違うのか?」

 

 

『・・・ええ。考えは素晴らしく悪党ですけど』

 

 

 ですが、と前置きをして話を再開する。

 

『今回の事件は、貴方の存在を世の中に知らしめる為のものです』

 

 

『つまり―――』

 

 

 彼曰く、この行動は腐った世界を変えるものがいることを知らしめる必要があると言う。

 もし世界を変えたいのなら、直接国の王に殴り込みをして独裁政権を築き上げれば、自分好みの世界を創ることができる。

 

 ―――しかし、独裁政権は反感を生み易い。

 

 貴族たちは金でモノを言わす人間が多いため、力で制した人間には従順に従うが。平民たちは金でモノを言わさず、力、もしくは話し合いで解決を行う。

 

「要するに、貴族に味方するってことか?」

 

『察しがいいですね。貴族の交流は広いですからね、こちらには得しかありません』

 

「けど、それじゃ――――」

 

 

『――――民衆の味方をするのは、今は得策ではありません。ですのでそれはまた今度ということで』

 

 

 まるで強引に話を切り上げるように、明敏の言葉を遮った。それ以上の意見や反論を許さないがごとく。

 

 

『それでは、事件解決後。何もお咎め無しなのであれば、そのまま去っても構いませんが。が、もし貴族の一人にお礼を言われた場合――――』

 

 

 

 

 

『――――必ず宮村明敏という存在を広めるように言ってください』

 

 

 

 

 

 

 ―――――それが貴方の救世主への第一歩です。

 

 

 

 

 そう言って通話は終了した。ツーツーと規則的な機械音が耳に響く。

 

 しかし明敏はやるせない気持ちが心の中に渦巻いていた。




「『俺は、宮村明敏。この世界を変える男だ。』」

「・・・ど、どうした?葵?」

「あのセリフはアキが考えたの?」

「・・・・・・ま、、まあな」

「・・・いい決めゼリフ。」

「そ、そうか?素直に嬉しいよ・・・」

「あの一瞬で考えたとは思えないくらいに。」
「―――ブフッ!!!」

「まるで・・・・ずっと前から考えてたような―――」

「なななななな何言ってんだコンニャロー!!」

「そういえば。」

「・・・・ッ。なんだよ・・・」

「中学の時、公園で―――」
「葵ちゃんマジ天使!!好きです愛してますッッ!!!!!」



「・・・クスッ・・・。ありがとうっ。」






―如月葵の意地悪―
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