「ああ、ちょっとな・・・・」
「・・・・不倫?。」
「ばっ!!んなわけあるか!!」
「じゃあどこに?。」
「・・・・・・・・ちょっと」
「ちょっと?。」
「・・・・・う」
「う?。」
「・・・・・・占いに・・・・・」
「いってらっしゃい。」
「軽っ!!・・・何も聞かねぇの?」
「別に?。」
「そ、そっか・・・」
「だって、悩んでいる顔をしてるから。」
「―――っ!!」
「私じゃ役に立てないから・・・いってらっしゃい。」
「・・・・・・・・・・なぁ」
「ん?。」
「やっぱ俺、葵と結婚して良かった・・・」
「ん、私もっ。」
「じゃあ行ってきます!」
「アキ。」
「―――っ、どうした?」
「携帯。」
「あー・・・・・、いいや。すぐ帰ってくるし」
「わかったわ。」
「んじゃ、行ってくる」
―嵐の前の静けさ―
西の街での暴動を止めた明敏は一人で、ある場所へと向かっていた。
決して一度の賞賛で浮かれているわけではない。むしろ不安が渦巻いていた。それは、一つの言葉だった。
――――――思い込みの激しさは、時に救いになります
高見沢が言った言葉。明敏はこの言葉を、正義の味方だと思い込むことが大切だ、というふうに解釈していた。それ以外に有り得ないと思っていた。
しかし彼の答えは不明瞭でもあった。だからこそ、確実でなくとも誰かの、少なくとも平等な意見が欲しかった。
それを叶えてくれる者は一人しか居ない。
「ここなら・・・・・、・・・きっと・・・」
商店街の一角、黒い暗幕で覆われた店。―――占いだった。
店構えは不穏な空気が漂っていた。拒絶とは違う何かが―――。
中は外とは違って、涼しさがあった。
周りを暗幕で覆っていて、足元が見えづらい。奥にはドクロの装飾品で飾られたロウソクが辛うじて、明かりの役割をしているようだった。
「ん?お客かい?じゃあそこに座って手を出して」
中央に小さな椅子、そして机があった。勿論机には暗幕が敷いてある。机の奥に黒いローブを被った人が、目の前の椅子を指差している。
(全体的に文化祭レベルだな・・・・)
そんな思いは打ち消して、素直に椅子へ座る。
「手相を見てもらいてぇ訳じゃないんだ」
「・・・みたいだね。顔相?人相?オーラ?何でもできるけど?」
ローブの下から翡翠色の眼がこちらを見据えた。すべてを飲み込むような、すべてを見透かされているような、そんな瞳だった。
「だったら―――」
明敏は一呼吸おいて、言葉を発する。
「思い込みの激しさ、ってのはどういう意味だ?」
簡略的な質問だった。それは彼自身わかってはいる。質問の仕方を間違えた、とも思っている。だがこれ以外に言葉は見つからなかった。
「・・・・・・・・」
占い師は口を閉ざしていた。言葉を失っているのではなかった。
彼女(声を察るに女であった)は明敏の顔をローブ越しに見る。じっと、観察、というよりは探るように。
「ふむふむ・・・・。・・・・・・なるほどね・・・・」
「何かわかったのか?」
「勿論。アタシは占いの全てを知ってるから、顔を見ればその人がどんな人間なのかわかる」
そう前置きを置いて深呼吸をした。恐らくは頭の中で言葉を整理しているのだろう。それとも何か覚悟が必要なのか、黒いローブを脱いで顔を見せる。
真っ赤な髪を後ろで結んだポニーテール。端正な顔立ちで、明敏と同い年かそれより下か、少なくとも年上には見えないほど若い。そして、見透かされているような、受け入れるような翡翠色の瞳。
「アンタの持ってる力で何ができるか考えてみな」
「『思い込みの激しさ』っていのはそういう意味」
淡々と告げる占い師。
「自分の持ってる力は分かってんだ。ただ、そうじゃなくて――――」
「こればかりは自己解釈だよ」
占い師は遮るように彼の言葉を塞ぐ。
明敏は腑に落ちなかった。自己解釈をしたからこそ、だれかの決定的な一言を欲していたにもかかわらず、またも自己解釈が必要になるとは。
「・・・・・・わかった。もういい、いくらなんだ?」
だからこそ、今度こそ、誰にも相談をせず自己解釈をすることに決めた。
それに、『思い込みの激しさ』というものが自分の力。つまり融解《フィーリング》に関係しているということがわかった。それだけでも収穫と言えるだろう。
椅子から立ち上がり、料金を払おうとした。しかし――――。
「金はいい」
「は?無料ってことか?」
「うん、いいものを見せてもらったし」
半ば疑問を抱きつつも、無料という言葉に素直に従う。
「アンタさぁ、黒い球体を使う『異能力者』を知ってるかい?」
外へ出ようとした足が止まる。なぜならこの世界で、否、この世に二人しか知らない言葉を占い師が発していたのだから。
「・・・・何で、異能力を知ってんだ?」
「アタシは顔を見ただけでどういう人間かわかるって言ったろ?」
占い師は悪戯っぽい笑みを浮かべて、明敏を見据えた。
「アンタの中には人に言えない、魔法じゃない力があることも」
「・・・・お前・・・・何もんだ?」
明敏は警戒を強めた。もしかすると高見沢の仲間かも知れない。いくら救世主になるための協力をしているとは言え、何者なのかは依然謎なのだから。
「アタシはただの占い師。
アンタが魔法じゃない力を持ってることしか知らないから警戒は無意味なんだけど?」
「けどお前は、さっき言ったよな?異能力者って」
警戒をする明敏とは反対に、占い師は冷静に、自分の自己解釈を告げる。
「うん、言ったよ?アタシの両親を殺した人間が、その『異能力者』だったの。
仇を討つために、世の中の魔法を探したけど黒い球体を使う力なんて見つからなかった。だから、きっと魔法じゃない何かだと思ったの」
まるで自分の生い立ちを打ち明けるような口調で、淡々と語った。明敏は話を聞きながらも頭では回転を怠らなかった。
以前ある主人にもらった魔道書に書いてあった文を思い出す。
――魔法にはいくつか種類がある。一つは属性魔法。一つは召喚魔法。一つは状態変化魔法。
彼女の言う黒い球体を使う人物は魔法使いではない。まず黒い球体が何なのかわからない時点で当てはめられない。自然、明敏と同じ異能力者に繋がる。
「だから―――」
そう告げた占い師が、いきなり立ち上がる。
掌をかざすと、そこに炎が立ち上がる。警戒を解いていない明敏は、突然の状況に身構える。そして同時に体中を確認する。
「アンタをここで始末する!!!」
占い師はかざした手を大仰に広げる。瞬間―――。
――――――ボォォォォォオオォオッッ
商店街の一角にけたたましい程の豪炎が立ち上った。その中から一つの人影が飛び出した。
――明敏だ。
「なんだアイツ!!どこにも魔法陣がなかった・・・・・・!!!」
その声は轟音でかき消された。
民衆はその轟音に目を向けた。騒ぎ立てる者もいれば、驚きのあまり動けないでいる者もいた。
「アンタに恨みはないけど、怒りはある」
豪炎の中から人影が見えた。ゆっくりとそれは近づいてくる。明敏は体についた煤を落としながら辺りを見渡す。
(何かいねぇのか?虫でも小動物でもなんでも――)
しかし何もいない。運がいいのか悪いのか、人っ子一人いなかった。といっても人に触れられない彼にとって、人っ子一人いないのはただ犠牲者が出なくて済む、そんな思いを解消するだけだった。
「・・・・くそっ・・・・!こんなもんでも触れるよりはいいか・・・」
近くにあった金属の棒を手にとった。なぜそんなものがあるのかは疑問だが、隣に無人の武器屋があることを踏まえると自ずと答えが出た。
「アタシは呪術師のミケ。十年前の復讐、させてもらうよ」
そう告げたミケという少女は豪炎の中から現れる。身にまとった黒いローブは先ほどの炎で燃えてなくなっている。
そして露わになったのは、赤を基調とした服、恐らく火に耐性のある服なのだろうと思える。
手からは炎を出している。赤というには明るすぎて、青というには鮮やかすぎて、紫というには安易すぎる。怨念の色。そういえば納得がいく色をしていた。
「呪術師・・・・?魔法とは違うのか?」
「魔法・・・・?」
眉間にシワを寄せる。何か逆鱗に触れたのだろう。
「あんなのと一緒にするな!!」
ミケが叫んだ後、一気に声を落としてドスを効かせた。女性が出せるものなのかと言わんばかりに。
「・・・・・・質が違う」
更に怒りを表すミケが腕をひとふりする。すると、腕の動きに合わせるように、炎が明敏に向かって伸びる。そう、生き物のように―――
「―――っ!!」
明敏はそれを右に避ける。しかし、彼の後ろにあった店に火が掠る。
「あっ!やべぇ、これじゃあ火事になっちまう!」
とはいうものの避けなければ火ダルマになるのは彼の方なのである。
「さぁ、見せな!?アンタの黒い球体の力を―――!!」
ミケはそんなことはお構いなしと、腕を振るう。彼女の炎はそれに従うように蠢く、生き物のように。
(くっ―――、これじゃ相手の思うツボじゃねぇかっ!!)
炎の動きに合わせるように体を動かし、それを躱す。しかし明敏の動きが鈍い。それもそのはず、彼は能力を使っていないのだから。
「さぁ!さぁ!!さぁぁ!!!」
彼女は明敏を挑発していた。
何故なら、自分が占いで見た彼の力は凄まじいものだったからだ。
内に秘めている『何か』は、十年前に家族を殺した人間と同じようにドス黒い物―――ではなく。
白く、真っ白く、透き通るほどに白く―――薄かった。
(・・・・だとしても・・・・、アンタに何かあることには変わりないし)
一層大きく腕を振るい、炎を操る。ムチのようにしなって明敏に攻撃をする。
「―――きたっ!!!」
しかし、彼は計ったように地面を蹴り上げ、ミケの懐に飛び込む。
「―――っ!!」
明敏は手に持った棒で肩に突きを当てる。ミケはいきなりの激痛に顔を歪めた。
(流石に、女に暴力振った。なんて言わねぇよな)
ほぼ捨て身に近い攻撃。下手をすれば腕に当たって能力が発動しかねない。しかし彼には勝算がある。それは中学時代に、よく絡まれたせいで鍛えられているからだ。
「俺は、武器での戦いは得意でな」
触れられないハンデを負っている彼は、能力を使うことなく戦うには一つしかない。
―――手を使わず、触れずに倒す。
それが明敏が行き着いた答えだった。
「・・・・あくまでも、力は使わないと・・・?」
ダメージを受けた肩を抑えながら、誰に言うでもなく呟いた。
ミケは自分自身の力では勝てないと分かっていた。幾ら十年間、魔術や呪術を学んだとは言え、戦闘に事かいては素人に近い。
明敏が武器の扱いに手馴れているのと同じように、ミケも呪術だけは人一倍得意であった。つまり、体術はからっきしだという意味でもあった。
「何か勘違いしてんじゃねぇか?俺はお前の言う黒い球体は使わねぇ」
誰に言うでもなく呟いた言葉が聞こえていたのか、はたまた何かを弁解しようとしているのか。明敏は手の内を見せるようにそう言った。
「・・・じゃぁアンタの力を見せてよ」
「・・・いや・・・・それは・・・」
渋るのも仕方のないことだ。彼の周りには生き物がいないのだから。力を見せろと言われても、発動条件が整っていない。人に触れればいいかもしれないが、明敏自身それを拒んでいる。
「だったら―――」
ミケが呪術である炎を出す仕草をしたその時―――――。
「ミヤムラアキトォォォォォオォォオォオォオ!!!」
どこかの誰かが、そう叫んでいた。まるで殺気溢れる口調で。
「―――――っ?」
明敏は声をした方へ目線を向ける。そこには明らかにガラの悪そうな男が六人、街の真ん中をこちらに向かって歩いてくる。
「よくもオレらの仲間をヤってくれたなぁぁぁあ!!!」
明らかな敵対心、そして殺意。
明敏はミケの前に立ち、相手を迎え撃つ。強く金属の棒を握りしめて。
「殴りこみじゃぁぁぁぁぁああぁあああ!!!!」
鬼気迫る勢い。男たちはそれぞれ風、水、火、土、氷、雷の魔法を発動させながら走り込んでいた。
―続く―
「おや?葵君一人ですか・・・・」
「一眠りしている間に一体何が・・・・?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「なるほど・・・これは伝えないと」
――――――プルルルルル
『もしもし。』
「どうも、葵君ですか?」
『アキならいないわ。』
「ええ知ってます」
「彼は占い師の所ですよね?」
『知ってるなら聞かないで。』
「彼の身が危なくなるといっても?」
『―――っ!。』
「ですから、明敏君に携帯を渡しに行ってください」
「場所は私が教えますから―――」
『やけに真剣ね。』
「当たり前です。今彼のいる場所には、生き物がいないんですから」
「私としてもまだ明敏君には死んで欲しくはありませんから」
『わかったわ。場所を教えて。』
「今、宿にいるんですよね?だとすれば彼の場所は――――――」
―嵐の前の静けさⅡ―