彼女が見た転校生の生活は…?
「て、転校生ー!いっしょーのお願い!あんたの記事書かせて! やばいんだって…今日締め切りの記事、またボツっちゃって…」
ここは日本中の魔法使いが集うグリモワール学園。霧の魔物と戦う魔法使いを養成するエリート学校だ。学校の校舎のある部屋では、髪の毛を可愛らしくツインテールにした少女が向かいに座っている少年に頼み込んでいた。少女の名前は岸田夏海。小柄で活発そうな外見に違わず学園の報道部の部員だ。
「夏海、毎回一生のお願いって言っているよね…」
「そこをなんとか!」
転校生と呼ばれた少年は苦笑いしながらそう答えた。この変わった名前のあだ名の少年は夏海の親友の一人だ。
生徒全員が魔法使いという都合上、学園には特別な力の持ちは少なくない。その中でも転校生は世界でたた一人の能力を持っていた。
そのまま噂の転校生は名前ではなく転校生という名前になり、学園でも一番の有名人だった。もっとも彼が有名なのはそれだけではないのだが。
ともかく 出会った時から夏海は取材しようとしてそのまま知り合いになり、記事に困ったときは転校生と彼女の中では決定事項であった。
「わかった。僕で良ければ協力するよ」
「ありがとー!転校生、あんた最高よ!」
結局転校生は首を縦にふったのだった。転校生は頼まれごとをすると断れないことで有名であった。
「うーん、できたけどこれだけじゃパンチが弱いなぁ」
夏海は自分の書いた文章を大きな瞳で見ながらきょろきょろと動かした。報道部の部長、遊佐鳴子をうならせる記事は中々ないが、今回は自分でもマンネリを感じていた。悩んだ末、彼女は一つの結論に達した。
「よーし、転校生のことを尾行しつつ、聞いて回ろうかしら!名付けて「噂の転校生の一日!」に決定!」
夏海はそう言って張り切るのだった。もちろん転校生は了承していないのだが、それは特に重要なことではなかった。
次の日、夏海が転校生を尾行していると、リリィクラスの教室で眼鏡をかけた少女が彼に話しかけていた。転校生が話を終えたところを見計らって彼女に話しかける。
「ゆかり、一体何を話していたの?」
「あら、岸田さん。今日の対抗戦でけが人の治療の手伝いをお願いしていたの」
椎名ゆかりは委員長でで保険委員も兼ねている多忙な生徒だ。大人びたお姉さんで発育も良く自他ともに認めるお姉さんと言った感じだ。
「へぇー、あいつ保険委員としての仕事もやってるんだあ」
「本当は多忙だからあんまりお願いするのも悪いんだけどね。でも、転校生君怪我をそのままにしていることもあるから、その都度直すことができるから」
「あいつ顔に似合わず無茶するからねえ」
「顔は関係ないよね」
ゆかりは口に手を当ててそう苦笑した。夏海もクエスト(霧の魔物退治)で何度か組んだことがあるのでよくわかっていた。
闘えないのを補うかのように魔力補給の要として 少年は学園の誰よりもクエストに出ているのだ。おまけに彼は進んで魔物へ向かっていくので、生傷が絶えないのであった。
夏海はお礼を言って教室へ向かうとなぜかそこにも転校生がいた。もうすでに話し終えたようで移動した後だったが、夏海は気にせず先ほど会話していた三人の少女に声をかける。
「ねえねえ、さっきまで転校生と話していなかった?」
「夏海っち、転校生ならもう行っちゃったよ?」
垢ぬけた少女がそう答えた。少女の名前は間宮千佳。一言で言えば恋に恋する少女だ。魔法や勉強よりも青春を送ることに情熱を注ぐ学生らしい学生だ。
「いいのいいの。何話してたの?」
「何ってカラオケだよ、カラオケ。千佳がまた失恋してさあ」
「うっさい律!余計なこと言わないで」
律と呼ばれた少女がからかように言うと、それにし対してムキになる千佳。律は音楽好きの少女で、口癖はロック。この正反対の二人は親友でいつも同じようなやりとりをしているのだ。
「そういうわけなんですよ。先輩誘って嫌なことを忘れようという訳っす」
カチューシャをつけた少女が話に加わってきた。小鳥遊自由。彼女は学生ながらお世話係というメイドも勤めており、メイド服の似合いそうな清楚な外見をしている。外見とは裏腹に今のように変わったしゃべり方(オタクっぽい話し方)をするのが特徴だ。
「自由、転校生が来るって聞いてテンション上がってなかったか?」
「え、それ本当!詳しく聞かせて」
「何言ってんですか!自分お嬢に呼び出されたんで失礼するっす!」
自由は顔を真っ赤にして慌てて出て行ってしまった。ちなみにお嬢とは彼女の主「野薔薇姫」のことである。日本でも三本の指に入るお嬢様である。自由と入れ替わるように二人の女子が入ってくると、少ない男子の視線がこちらに向いてきた。
「あれ、自由どうしたの?なんか走っていったけど」
「あはは…」
「純、絢香。仕事終わったの?」
鳴海純と皇絢香はそれぞれ雑誌のモデルとスーパーアイドルと学園の誇る芸能人だ。その人気や美貌を鼻にかけることもなく、クラスになじんでいるのだ。
「いや、転校生の話を出したらねー。ちょっと呼び戻してくるわ」
千佳は自由を探しに行った。千佳は友達想いで気立てが良いのだから、そこを押し出せばいくらでも彼氏ができると夏海は思うのだが、それはどうでもよいことだ。
「千佳もさー、あたしと行くにい場所?そうそう、水族館とか?は転校生と言ってるみたいなんだよなー。失恋した時とか」
「へぇー。それは初耳だったわ」
「でも彼氏にはピンと来ないと言ってんだよなー。何回聞いてもそんな感じだし」
「転校生も顔悪くないと思うんだけどね。運動神経良くないけど」
「転校生君クエストでは勇敢なんだけどね」
純はそう呟いた。それを聞き逃す夏海ではない。
「そう言えば純も一番転校生と仲がいい男子生徒って言ったら転校生よね」
「そうだね。一番仲がいい男子は転校生って子は多いんじゃない?」
「転校生君はいろんな人のお手伝いをしてるから。私もクエスト手伝ってもらったし…」
「ちょっと休んでるかどうか心配になるよね」
そうはいったが、夏海も自分の記事のため徹夜に突き合わせたのを思い出したが、そこは気にしないことにした。
「夏海ちゃん、転校生君の記事を書いているの?」
絢香は時々こういったまるでテレパシーのような鋭さを見せるのだ。
「そうね。名付けて転校生の一日!よ」
「あいつも大変だねえ…」
純はそう言って呆れたようにため息をついた。
転校生の姿を求めてストーカー、いやうろうろしていると、三人の少女と一匹の犬が歩いていた。散歩部の三人だ。
「あ、夏海先輩こんにちは!」
「やっほー!夏海ちゃん先輩!」
「こんにちはぁ~!」
こちらに気づいて三人と一匹が挨拶エオしてきた。瑠璃川秋穂、冬樹ノエル、仲月さらはペットのシローと共にさらをリーダーとしていつも三人で散歩しているのだ。
「転校生見なかった?ああ、特に用事があるんじゃないけどね」
「それならさっきまではなしてましたよぉ。およびしましょおかぁ?」
「ううん。それよりも何話してたか聞いてもいい?」
さらは12歳ながら誰よりもこの学園に長くいる生徒で、天真爛漫な性格からみんなのマスコットとして可愛がられているのだ。
「ごはんをいっしょにたべるやくそくをしてましたぁ!」
「へぇー、散歩部の三人で?」
だが、そこから先の言葉は夏海を驚愕させるものだった。
「はい!たつきさんとはるのさんもいっしょなんですよぉ!」
「え、それお姉さん大丈夫なの?」
はるのとは瑠璃川春乃の姉で、瑠璃川秋穂の姉だ。大のシスコンとして有名で、秋穂を一日中ストーカーしていると評判である。特に男子が彼女に近づこうものなら何をされるかわからない。ともに二人は散歩部を見守っていることが多い。
「お姉ちゃん、先輩のこと信頼してますから。この前は一緒にご飯食べたことありますよ」
「前から思ってたけど、転校生すごいわ…」
「お兄さんの人脈すごいからね。お姉ちゃんともよく話してるみたいだし…いま朝比奈さんを呼びに行ってるよ」
「なんだかすごい組み合わせね…」
朝比奈龍季は以前は学園一の不良と呼ばれていた少女だ。人を寄せ付けない性格だが、さらとは仲が良く、最近では散歩部と行動を共にしている所を良く見かけていた。
「夏海ちゃん先輩記事描いているの?」
「うん、転校生のね」
「完成したら見せてね~」
「わかってるわよ」
散歩部に別れを告げると、また夏海は歩き始めた。自分でもいいものが書けそうだと自信を持った。
「そう言えば、あいつと出会ってもう三年にもなるのよね」
夏海は記事を書きながら思い浮かべていた。カメラを亡くした日、暗くなるまで探し続けていた転校生…。気弱だけど、優しく、いざという時は勇敢な…
「アイツ、みんなの力になってるのね…。よおし!あたしも頑張んなきゃ!」
報道部の部長、遊佐鳴子が部室を訪れたとき、夏海は机に突っ伏し寝ていた。記事の下書きを鳴子が取ってみると、笑みを浮かべた。
「転校生の一日。その努力について、か。これは面白くなりそうだ…お疲れ様、夏海」
そう言って鳴子は部室を出て行った。
読んでいただきありがとうございます。
最初は転校生視点で考えていたのですが、夏海視点に変更して転校生の一日を追う形にしました。出せなかった生徒も多かったのでそこが残念ですが、まあそれはそれで。