モンスターハンター 空を翔ける流れ星   作:littlelock

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第三話


第三話

「ユクモ村……ですか?」

 

 朗報と言われて想像もしていなかった村の名前が出てきたため、イルと呼ばれた少女(以下イル)は出された村名をそのまま口に出す。

 

「そ、ユクモ村。 どういう所か聞いた事くらいはあるでしょ?」

 

 受付嬢に問われ、イルはこめかみに指を押し立てながらうろ覚えの記憶を引っ張り出そうとする。

 

「はい。 確か……村の中で湧き出ている温泉で有名な場所……でしたよね?」

 

 イルは自身がなさそうに答えるが、それを聞いた受付嬢は満足そうに口を開く。

 

「そうそう。 他にもその村近辺に生えている良質な木々を使った林業が盛んだったりとか、掘り下げれば特徴的な面がいっぱいあるけど……まぁそれはいいや」

 

 ユクモ村を知っていて安心したのか、ここからが本題と言わんばかりに受付嬢は顔をイルに近づける。 いきなり受付嬢の顔が度アップになったため、イルはそれに押され椅子ごと後ずさった。

 

「でね、実はあなたにその村でやってもらいたい事があるんだ。 あなたが良かったら、その村で移住してくれないかな?」

 

 いつになく真剣な表情(イルが知る限りでは)をしている受付嬢に、イルは言われた事を理解しきれていないのか、困惑を見せながら聞き返す。

 

「えっ……あの、そっそれって……ユクモ村に派遣させるハンターとして私が選ばれたって事ですか?」

 

 大規模なギルドがある街では、ギルドが設立されていても、肝心のハンターがいない村からの要望などで、基礎がしっかりしている経歴が浅いハンターを派遣する事がある。

 新米のハンターである必要はないのだが、出来立てほやほやなハンターの方がベテランのハンター達より新しい地での癖やコツを覚えやすく、慣れさせる事で馴染みきってしまったその狩場と村に居着かせようとするギルドの狙いがあるのだとかないのだか。

 

 そしてこの少女、イルもハンターになってから一年程。 経歴も少なくまだまだ伸び盛りな年頃だが……

 

「でも私……自分で言うのも変な気がしますけど……、こんなんですよ?」

 

 そういってイルはアイテムポーチに入れてあるブーメランを取り出しテーブルに置いた。 

 

 それは先程ランポスの群れでの狩猟にて使用した物である。

 

 しかしそのブーメランは、小型とはいえ肉食のモンスターに備えられている鱗相手に使われたはずなのだが、刃こぼれや血の気がほとんど見受けられない。 狩猟が終わった後の帰り道、片手剣などの武器にするように丹念に手入れをしていたからである。 狩猟の「武器」としてカテゴライズされていないブーメランという「アイテム」をだ。

 

 イルが自分の事をこんなんと卑下したのは、「これだけ一つのアイテムに執着してまともな収入を得られない生粋の変人を、ハンターを必要としている人達に送りつけるつもりなのか?」と言いたいのだろう。

 

 しかし受付嬢は、見せてきた自慢の(本人としては)ブーメランに苦笑を浮かべながらも、そのアイテムを見て安心したとばかりに顔に穏やかさを浮かべる。 その表情にイルは不可解に思いながらも口を開く。

 

「せっかくのお誘いは嬉しいのですが、やっぱり私じゃ―――」

 

「ううん、これを見て確信した。 この件はきっとあなた以外に任せられないってあたしは思う」

 

 自信満々に受付嬢はイルの話を遮って答える。

 

「大丈夫。 ユクモ村にはもうすでに別の専属ハンターがいるから、あっちで何かあったとしても責任を全てあなたに押し付けたりしない。 だからあなたに頼みたいのは村の駐在や護衛とかじゃなくて、それとは別にやってほしい事があるんだ」

 

「やってほしい事って?」

 

 含みのある言い方をする受付嬢に、イルも興味を持ったのか積極的に話を促す。 そんなイルに受付嬢は嬉しがるように答える。

 

「君にねー、新しく考えられた武器の実験者になってほしいんだー」

 

「はー………………はい?」

 

 自分の予想の斜め上の回答がきたのか、イルはしばらくの間があった後も結局疑問の声しか上げられなかった。

 

 そんなイルを見かねたのか、受付嬢は話の内容を語り始める。 

 

「実は今ユクモ村の武器工房の方々がね、新しい武器の構築理論を打ち立ててね、いよいよ実験段階に入ろうとしてるの。 イルには実際に使ってもらって、その感想とかの情報を提供をしてもらうの。 それ自体にも報酬金が払われるらしいからそんな悪い話じゃないと思うよ?」

 

「それって、いわゆる「モニタ」っていう感じですか?」

 

「ん、まぁそんな感じ?」

 

 モニタとは、商品の内容や性能を代表に選ばれた消費者(この場合はハンター)が意見を言う情報提供者の事である。 正式な手続きがあれば給料なども払われる場合もあるし、あわよくばその商品を頂戴(許可があれば)出来たりする事も出来る。 まあそれだけのお金では生活出来ないためほとんどの人が副業くらいにこなすのだが。

 

 確かにまともに収入が入らない今の状況なら、イルのポリシーに反しない限りで実験に参加すれば好条件に聞こえなくもないが、気になる事がいくつか。

 

「それってユクモ村じゃなきゃ出来ないんですか? 武器だけここに送ってもらって、情報を手紙で送るとか」

 

 さすがに引っ越ししてまでモニタを受けるのは悩むため、妥協策を出してみたのだが……、

 

「いや、向う側が文面とかじゃなくてこっちで直接確かめたりしながら調整していきたいって言ってて、あなたには申し訳ないけど……。 あ、下宿先はあるから大丈夫だよ?」

 

 イルが移住に抵抗があるのかと感じたのか、受付嬢が焦ったように答える。

 

 どうやら向うでなければ駄目らしい。 かと言ってイルは別にドンドルマでなければ受けたくないという訳ではないので、次の質問に移る。

 

「その実験って何人位が参加するんですか? モニタという事はそれなりの参加者がいますよね?」

 

 イルは次に人的関係を聞いた。 情けないかもしれないが、嫌な人と当たってまで遠くで小遣い稼ぎをしたくなかったのだろう。

 

 それに対して受付嬢は今度は妙に申し訳ないような顔をして答えた。

 

「……誘ったのは君だけだよ」

 

「……えっ」

 

 イルは疑問の声しか上げられなかった。 イルにしか勧誘していないという事は、参加者はイルだけという事になる。 実験というには余りに数が少なすぎる。 それだとまるで島流しのようだ。 

 

 そんなイルの反応を予想していたのか受付嬢は居心地悪いというように目を背け、言い訳するように呟く。

 

「……言ったでしょ? イルしか任せられないって」

 

 自分にしか任せられない。 言われて悪い気はしなかったが、それよりもイルはどこか胡散臭さを感じたのか次の質問は警戒を込めて聞く。

 

「怪しい仕事じゃないですよね?」

 

「全然! 全く! 正式な勧誘だよ!!」

 

 そこだけは確実とばかりに声高を上げる。 安全と分かったからなのかイルは次の質問は警戒を緩めて答える。

 

「というか何でユクモ村じゃなきゃ駄目なんですか? ドンドルマの工房で開発したりとか、たくさんのハンター達をここの訓練所でテストさせた方が実験が捗ると思いますよ?」

 

 このドンドルマは大きな武器工房があり、日々新たな武器を開発するために研究が進められている。 武器を作成する技術はかなりの物だ。

 

 そしてここに集まるハンター達もかなりの強者揃いで、狩猟経験も豊富だ。 ここならかなりのデータを集める事ができる筈なのに。

 

 しかし受付嬢は、今度はしかめっ面を浮かべながら答える。

 

「実はね、ちょっと前にユクモ村の工房の亭主が手紙と武器の設計図をドンドルマのギルドに送ってきたの。 こんなの考えたんだが実装してみないかって」

 

「はぁ、それで?」

 

「なかなか興味をすする内容だったみたいだけどね、無理って言っちゃったんだ。 おそらく扱える者は少ないだろうし、それを育てる時間も経費もかかるって」

 

 それが参加者がいない理由なのだろうか?

 

「そしたら向う先が良く思わなかったのか、だったらこっちで開発を進めるって言い出して。 それで開発費と腕に覚えがありそうなハンターを寄こしてくれって言い出したの」

 

 そのハンターとして選ばれたのがどうやらイルらしい。 名誉な事なのかもしれないが、それ以上に少女には気になった部分があった。

 

 ―――扱える者が少ない―――

 

(どんな武器なんだ。 もしかして……)

 

 頭になぜか不気味にうごめく何かがちらつく。 イルは急に不安が押し寄せて、怖気ついたように声をだした。  

 

「……あ、あの、私そんなにハンターになってから短くて、あの、そっそんな化け物みたいな武器扱えないかと……」

 

 何を想像したのかオロオロとし始めたイル。 そんな少女に受付嬢は笑みを浮かべ、イルの頭をなでながら口を開く。

 

「え、あぁー大丈夫大丈夫、別に恐ろしい武器って訳じゃないの。 扱えないっていうのは経験上そういう武器を使った事がないって話」

 

「え、それじゃあ尚更私じゃ使いこなせないんじゃ」

 

 イルは自分がこの件に携わるのに相応しくないのではと感じてきた。 自分は基礎がしっかりしているとは自信をもって答えられないし、ミスも結構してしまう。 あまつさえハンターとして重要な武器もほとんど扱った事がないという始末だ。

 

 誇れるとしたらただ一つ―――

 

「ううん、きっとこのドンドルマ中だとあなたしか扱えない。 少なくとも私はそう思っている」

 

「……さっきから気になっていたんですが、何で私なんですか」

 

 私の誇れる事は―――

 

「その武器はね、あるアイテムの技術を多大に使用されているらしいの」

 

「アイテム?」

 

「それはね―――」

 

 ブーメランを扱う事しか―――

 

 

 

「ブーメランを応用された武器なんだって!」

 

 

 

「……え!?」

 

 何度目か分からない驚いた反応。

 

 ―――これがきっと、彼女のハンター生活のプロローグ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




つづく

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