※第一話にボーイズラブ要素あり
Act.0 Prologue、Act.1 Partner
【ACT.0
寂しげに――――――。
ただ寂しげに、その音は響き渡る。
今にも泣き出しそうな、そんな音の粒たち。
美しい音色で心を癒す…そんな曲のはずなのに、
彼が奏でるこの曲は……このピアノは…
なぜこんなにも悲しそうな音色を出すのだろう。
なぜこんなにも胸が締め付けられるのだろう。
漆黒のピアノが、
対照的な真っ白の鍵盤が、
その上に優しくのせられた白い指が、
窓から差し込む月明かりに照らされる。
指がゆっくりと鍵盤から離れ、音が止む。
演奏を終えた彼は、そのまま声を発することも無く、
ただ、月の光を眺める。
寂しげに。
ただ、寂しげに。
【Act.1
青白い光が、すやすやと眠りにつく少年の顔を、白い肌を、淡く照らし出す。艶やかな紫色の髪が、光をうけて仄淡く煌く。まだ幼さを残すその顔は、起きている時の冷淡さからは想像もつかない。しかしそれは同時に、彼がまだ十五にも満たない子供であることを思い出させる。
彼はとても冷酷な人物だった。なにより人をカードにすることを楽しんでいた。欲していた。彼は周りから恐れられた。敵からも、味方からも。しかし彼はそんなことはどうでもよかった。彼はとても強く、また、強いもの・自分が楽しめる物にしか興味がなかったのだ。彼が泣いたり、声を荒げて怒ることはあまり無かった。ただ冷徹に、冷やかに、他人を煽り、嘲り、自分の欲望のままに生きる。彼はそういう人だった。
しかし…次元戦争も終わり、いつぶりかという平和が訪れた今、少年は泣いていた。すやすやと眠る少年の頬には、一筋、涙が伝っていた。
少年の傍らには、彼の髪を愛おしそうに撫でるオレンジ色の髪をした青年の姿があった。涙に気がつくと、そっと指でその雫を拭う。そして、彼を見つめながら、再び大切そうに撫でる。愛おしそうに、しかし寂しそうに、悲しそうに。青年は、少年の仕事仲間であり、少年が「仲間」、と認める数少ない人物だった。青年は……デニスは、少年の頬にかかる髪を優しく払うと、ぽつりと呟いた。
「愛してるよ、ユーリ…。」
二人が同じベッドで寝るようになったのは…つまりそういう関係になったのは、いつからだっただろう。戦争が終わる前だっただろうか…、後だっただろうか…。しかし、二人は恋人というわけではない。なぜなら、少年は…ユーリは、デニスに好意を寄せているわけではないからだ。
それならば、なんと表わすべきなのだろうか。愛人?セフレ?どちらかといえば後者か…。ユーリはそう思っていたかもしれない。だが、少なくともデニスはユーリのことを本気で愛していた。ユーリはそれを受け入れたにすぎない。
しかし…デニスは知っていた。ユーリにはもう一人、似た関係の相手がいることを。ユーリ自身に聞いたからだ。そして、ユーリがその人物のことを愛しているわけでもないことを。そして気付いていた。
――――――彼が本当に愛している人物がいることに。