遊戯王ARC-V 月の光に嘘を隠して   作:月城遊羽

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Act.3 Liar

Act.3 Liar(嘘吐き)

 

 

 

 

 

ユーリに罪悪感がないわけではなかった。少し前なら罪悪感など全く感じなかっただろう。しかし、他人と関わり、接することによって彼は少しずつ変わっていっていた。そう…誰かを想えるほどに。気遣えるほどに。そしてそれは次第に、ユーリを苦しめていった。心の内に秘める想いと、罪悪感で、ユーリは潰されそうになっていた。

 

 

 

月明かりの零れる、いつもの場所。今日もピアノの音が響く。柔らかく幻想的な音が部屋中を包み込む。次第に和音を増やし次々と重なっていくと、それに呼応するかのように指の動きも速くなり、言葉にできない叫びを、感情を内包したかのように高く高く連なっていく。そして一瞬の静寂の後――――…。流れるような旋律と共に指が滑らかに白い鍵盤を滑る。一つ一つの響きが美しく、優しい。いつもの曲だ。そう…いつもの、寂しげな、曲。その指で奏でられたこの曲に込められているのは、自責の念なのかもしれない。あるいは、吐き出すことのできない秘めたる思いだろうか……ユーリは、鍵盤を叩きながらいつも同じことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

僕は、僕の生きたいように生きてきた。立ちふさがるもの、邪魔するものは全て排除してきた。僕が最強であることを証明したい…打ち負かしたい…そう思っていた。「全ての次元の人をカードにする」……そんな夢すら持つほどに。

 

 

いつからだっただろう、こんな風に少しでも人のことを気にして悩むようになったのは。デニスが突然音信不通になって後にカードになったことを聞いた時だっただろうか。

 

 

遊矢や遊矢の仲間たちと「友達」として接するようになって、僕の中で「他人に対する認識」というものが変わったとは自分でも思う。他者を打ち負かしたり、僕の強さを見せつけるのは好きだ。敗者がカードになるのはあたりまえじゃないかと思っていた。でも、遊矢たちに教えられた。負けても、またいつか挑戦して勝てればいいじゃないかと。あのとき遊矢に負けて、僕は初めて敗北を味わった。そして、幾許かの悔しさと、それでも負けたのが遊矢で良かった、という気持ちに包まれながら僕は遊矢に…ズァークに吸収された。こうしてまた4人に戻って、皆とまたデュエルをした今なら、遊矢たちの言うことも理解はできるし納得もしている。それに僕自身、勝ちたいから、楽しみたいからデュエルをしている。それは彼らも同じで、特に悩む必要もなかった。

 

 

 

 

 

 

あれから少しの歳月が経って、その間に遊矢ともあんな関係になって、色々なことが変わっているはずなのに何も変わっていないような…そんな日々が続いている。でも、僕は…僕は、違うんだ。僕が本当に手に入れたいものは手には入らない。そして遊矢やデニスの気持ちも裏切るようなことしかできない。僕は嘘吐きで、僕の放つ「愛している」だとかそんな言葉には何の意味も無くて。ただ自分に与える免罪符のようなもので、「愛していると言葉にして伝えることで彼らは喜ぶでしょ?」と発している無意味で卑劣で思いやりのかけらもない言葉だ。いつか彼らを傷つけることになるだろう。特に遊矢は…。

 

 

どうすれば良かったのか、なんて今言い出しても手遅れなことは明確で、これからどうすることが正解なのかなんてことは僕にはもうわからない。だからせめて遊矢とデニスとこの関係を続けていこう…僕の欲しいものの代わりに。デニスと遊矢が僕を求める限り。僕の本当に欲しいものが手に入らない限り。この曲も…代わり、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

細かい音の粒がピアノから零れ落ちる。小さく…確かに響き渡る音色が部屋を埋め尽くし、外に漏れる。夜の闇の中、淡く照らし出されるピアノと彼は、幻想的な美しさを醸し出している。やがて終盤に差し掛かりだんだんとその音は小さくなっていく。

 

 

 

―――――最後の一音。

 

 

 

指が鍵盤から離れ、膝の上に乗せられる。暫くの静寂。ピアノの音が止んだこの場所には、月の光と、無音で佇むピアノと、ずらりと並ぶ白鍵と黒鍵を意味もなく見つめる少年以外には何もない。椅子を軋ませ立ち上がると、そのまま開け放たれていた窓に歩み寄る。ここはアカデミアの中でも端に位置する立地ゆえに、夜中に窓を開け放ちピアノを弾いていてもアカデミアやその寮にいる者たちには聞こえない。夜が更けるとここに通いピアノを弾いては意味もなく窓の外を見やる。それがユーリの日常になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕が本当に欲しいのは…―――、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄く開いた口からそんな言葉がポロリと漏れ出す。

 

 

その言葉が彼自身の耳に入るや否や、自分の発した言葉に自虐的な笑みを浮かべ、鍵盤の蓋を閉める。支えを外して本体の蓋も閉めると、再び窓に近づく。静かにぱたりと窓を閉め、ユーリは靴音を廊下に響かせながらその空間を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほーんと、不器用だよね。ユーリは。可愛いなあ…本当に愛おしいよ。早く幸せになっちゃえばいいのに。」

 

 

 

 

 

 

 

 

そう呟いた影はオレンジ色の髪を揺らしながらそのまま姿を消した。

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