Act.4
ある日…まだ日差しが明るい、そんな日中。素良と柚子は修造塾の近くにある河原で並んで座っていた。
「ねえ、柚子。」
「何?」
「柚子って、遊矢のこと、好きなの?」
唐突にそう問いかけてくる素良に柚子は慌てふためく。
「な…、…そりゃあ、友達だし…好きだけど…。」
「じゃなくて、僕が聞きたいのはさ、恋愛感情があるかどうか、ってこと!」
そんなの言わなくてもわかるでしょ、と言うかのように顔をむくれさせる素良に、顔を赤くしながら柚子がまごまごと口を動かす。
「え、いや、その…えっと…。」
煮え切らない態度に、溜息を一つつくと、素良は柚子に向かって言い放つ。
「そんなにノロノロしてるんだったら、さっさと僕が遊矢を貰っちゃうけど。いいよね?」
一瞬の沈黙―――素良の放った言葉を柚子が理解すると同時に、彼女は反射的に叫んでいた。
「―――それはだめ!!!」
「ほら、やっぱり遊矢のこと好きなんじゃん。」
「…っ!」
頬を染める柚子に、「まあ…」と素良は続ける。
「まあ、僕が遊矢のことをそういう対象に見てることは変わらないから、柚子にとって恋敵ってことには変わりないんだけどね。ああ、あと、あいつも…。」
素良が遊矢に恋愛感情を持っていることを柚子は知っていた。しかし、他にもいたなどということは知らなかった。遊矢を好いているのは私たち以外には一人だけ―――ミエルも遊矢のことを好いているが、素良がミエルのことを「あいつ」などと呼ばないことは明白だ。
「あいつ…?遊矢を好きな人がまだいるってこと??」
その問いに、少し困ったように、迷っているように素良が眉根を寄せる。躊躇うかのように黙り込むと、少しして意を決したように口を開いた。
「あーー…えっと、ね。…あいつ、っていうのはね、柚子…。……ユーリのことさ。」
「え…ユーリ?………ユーリって、遊矢のことが好きだったの!?」
「遊矢は今、ユーリと付き合ってるらしいから。遊矢はユーリのこと本気で好きみたいに見えたし、恋人同士がするようなこと、してたし。」
「遊矢が…ユーリと付き合っている…?」
思考がフリーズする。柚子は暫く黙りこむと、「…そう、だったのね…私知らなかった…。」とか細く声を漏らす。
「…あいつには渡さない。あいつが本当に遊矢のこと好きかどうかとか知らないけど…僕は遊矢をあいつには渡したくない。」
素良はユーリが遊矢のことを深く愛しているとは思えなかった。遊矢がいつか彼に傷つけられる時が来るかもしれない…、そう、素良は懸念していた。どれくらいの時間が過ぎていたのだろうか。考え込んでいると、柚子が心配そうな表情で顔を覗き込んでいた。
「素良…?大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ!」
とっさにそう告げると、柚子は「ちょっと怖い顔してたわよ?」と少し苦笑いを零し、
「それじゃあ、素良。私、そろそろ待ち合わせがあるから行かなくちゃ。」
そう言いながら立ち上がり、服についた草を払った。
「ああ、うん、了解っ。またね、柚子!」
そう言って柚子と別れた後、素良は一人アカデミアに向かった。
「ちょっとユーリ!忘れ物だよ!!」
ふいに前方のデニスの部屋からそんな声が聞こえてくる。ちらりと目を向けると、部屋からちょうどユーリが出てきたところだった。「…何?」と返しながら部屋の中に戻るユーリから目を離し、そのままスタスタと部屋の前を通り過ぎようとする。
「――――――。…今日はどうするの?」
かすかにだが、確かに少し隙間を作り開いたままの扉の向こうから、ふとそんな声が聞こえてきて、ぴたりと素良の体が止まる。
「…そうだね。今夜は遊矢と一緒かな。」
そう返すのは、まぎれもない、ユーリの声。奇妙なくらいに淡々と、落ち着き払い、デニスの言葉に応じている。
「明日はこっちに来るから。」
「ん。オーケー。」
素良の耳にその言葉が聞こえた瞬間、素良は反射的に部屋の前から立ち去っていた。今聞こえたことが、何を意味するのか。今夜は、明日は、と、彼らは確かにそう言った。今夜、ユーリは遊矢のところへ行く。明日は、デニスのもとに。つまり…。素良の感じていた不安は見事に的中していたわけだ。確信を得たところで、素良の中に激しい憤りと焦りが生まれる。心を、体を急かすように、足早にアカデミアを駆け抜ける。
「遊矢…っ!」
ただ一人、自分の愛する者を守るために。
その事実を伝えることが、たとえ彼を傷つけ悲しませることであっても。