むかしあるところに、豊聡耳神子と呼ばれる、それはそれは賢い娘さんがいらっしゃった。娘さんと言っても、まだ成人の儀を迎える前の、ほんの五、六歳の幼い娘さんであった。この娘さんは、本当は娘さんなんて呼ぶのは失礼なくらい高貴な方だったので、以降はただ、神子さまと呼ぶことにする。
神子さまは、とても賢い娘だった。これから語る五、六歳の頃には、すでに人の言葉を聞いて、言葉の裏の真の意味を理解することができた。心を読める天才児であった、などとも言われている。
ある時神子さまは、ある…女性にお使いを頼まれた。偉い人なのにどうしてお使いを頼まれるのかと聞かれると、私は答えることができない。もしかしたら、神子さまみたいに小さい子どもがお使いなんてできるわけない。賢いなんて嘘だ、なんて思った悪い大人の陰謀だったのかもしれない。
お使いの内容はこのようなものだった。
「大陸にある、不老不死の木の実を持ってきなさい。」
まだ幼い子どもには、あまりに難しすぎるお使いである。だいたい、神子さまの住まわれる島国から大陸へ渡るのだって一苦労だ。
それに、これまでも不老不死の木の実を探した人間の記録はあったが、どの人物も見つけることはできなかった。
もちろん神子さまは色んな書物を読んでいたので、そのことを知っていたし、だから「この大人は無理難題を私に押しつけてるんだなぁ…」と、ひどく悲しくなった。
しかし、その悪い大人も偉い人だったので、神子さまは逆らうことができず、涙がこぼれないように必死に歯を食いしばりながら、大陸へ向かう船へと乗り込んだ。それでもやっぱり幼い子ども、船の中で誰にも見られないように、こっそり泣いた。
大陸に着いてから帰国するまでの話は省略。簡単に言えば、色々探したけど、やっぱり見つからなかった。それだけである。でも、一生懸命頑張ったのである。本当に一生懸命に頑張ったのである。それは一瞬見ただけですぐ分かるほどで、高貴な方でいらっしゃるにも関わらず、色々な所で色々な苦労をなさったため、すっかり服は汚れ、上等で丈夫な生地で作られていたのにもかかわらず、ほつれはもう数えることができないほど、ひどいものは数カ所刃物で突き刺されたように生地がすっかり切れてしまって、神子さまの透けるように美しい肌が覗いてしまっているほどだった。
島国に帰る船の中で、神子さまはまた少し泣いた。でも、泣くよりももっと大切なことがあった。木の実を持って帰ることができなかった理由を、なんとしても考え出さなければならなかった。神子さまは健気に考え続けた。
「おや、神子さま。どの面下げて戻って来たのですか。木の実は見つからなかったと聞きましたが。」
「はい。見つけることができませんでした。というのも、木の実を見つけてしまうと、あなたさまが永遠に人間という大変不便な身体でお過ごしにならなければならないからです。
確かに、不老不死というものは少し聞けば良いもののように聞こえます。しかし、人は死んでそこで終わりではありません。その後の暮らしと、人間の暮らしとを比べると、明らかにその後の暮らしの方が良いもののように思われます。
私が木の実を探して持って帰るのは容易いことでした。しかしそうすれば、あなたさまは永遠に人間でなければならぬ。その身の辛いことを想像しますと、涙が溢れ、とてもではありませんが木の実を見つけることなどできなかったのです。」
神子さまのその忠実で賢くて優しい言葉と、本当に泣きはらした後のような目元を見て、悪い大人は納得した。
こうして聡い神子さまは危機を脱したのであった。
めでたしめでたし。
「…これでいいか、布都どの。」
「ああ!これなら太子さまの優しさが溢れていて、賢いことも分かって、おまけに分かりやすい!今忘れられつつある神子さまの偉業を確固たるものとするためにも、こういう文書はやはり必要であろうな!それにしても、屠自古どのは書くことが上手い。我などはどうしても…こう…あれだ、ほら…。」
「言わんでいい。あんたの悪筆はさっきの第一稿見てよーく分かってるから。あれじゃあ何も伝わらん。」
「むー。しかし、話作りは我もなかなかであろう?いかにも実話っぽい!」
「いや…あー、まぁ…どーでもいっか。まあ、悪くはないんじゃないの。よく知らん。」
「これで太子さまの人気がもっともっと上がればいいな!」
「…私は、別に、今のままでも…敵増やしたくないし…」
「なんと!太子さまを支持する者を敵と申すか!何を言う!おぬしやはり裏切り者か!」
「ちっ…違う!私は別にそういうんじゃ」
「じゃあどういうわけなのだ!」
「だっ…だから、私は、その…」
「おぬしなぜ顔を赤くする!いや分かった!やはり何か隠し事をしているのだろう!言わんか!何を隠している!何を!」
「やっ…やめろっ…!私は別にやましいことなど隠してはおらぬっ!」
…神霊廟は今日も平和だなぁ。こんなふうに言い争う二人をこっそり陰で見ながら、私はほのぼのとするのであった。
…うん、屠自古。分かってるよ。あなたの心の声というか欲、全部聞こえてるからね、うん…。
コンセプトは「ロリ神子さま」。幼い神子さまを描きましたが、よく見る「ロリ」とは違う感じに。…さすが神子さま…?