その真実が今、明らかに!
※鎧衣課長が来た日の次の日までもどります。
ピアティフSide
私は香月副司令に呼び出され昨夜の顛末を聞かされた。
「鎧衣課長が暴力沙汰……ですか。では沙霧真由の背後組織はオルタネイティヴ4は支持する、しかし帝国との関係は嫌う。という訳ですか。」
副司令は私の言葉に応えず俯いていた。
「あのお方のことまで知られているのは危ういですね。やはり接触を待つだけでなく積極的に動いては?」
やはり応じない。
「帝国は我々が帝国を売り00ユニットの技術を手に入れた、と考えているフシがあります。このままでは00ユニットを完成させたとしても評価試験が……」
ガタッ カッカッカッカッ
香月副司令はいきなり立ち上がった。そして棚に向かった。
カタカタカタ……カチャッ
備え付けの金庫を開け何かを取り出した。
カッカッカッカッ コトッ
また席に戻り机の上に置いたそれは………一個のUSBメモリ!?
「それはまさかあの時の!?」
「ええ、沙霧が私の勘弁と引き替えのね。」
「まだ破棄してなかったんですか!? 危険です!00ユニットの全情報がセキュリティもなしのUSBメモリひとつに入っているなど!」
副司令は手のひらでUSBメモリを玩びながら何かを思い出しているようだった。
「そうね。私もなぜ破棄する気になれなかったのかわからなかった。多分、警鐘だったのね。忘れていたことへの。」
「……? 何をでしょう?」
「沙霧の背後組織とやらはなぜこんなUSBメモリひとつに全情報を入れてたの?」
「!?」 そうだ……あまりに迂闊すぎる……。
「それにウチと帝国を切らせたいならコレと引き替えでいいじゃない。鎧衣をおちょくる必要なんてないわ。」
「た……確かに。」 そう、これだけの技術をロクな交渉もなしに……。
「まだあるわね。たとえウチを支持してくれるとしても全情報をタダでくれるなんて親切、あり得るのかしら?」
「そ……それは沙霧真由の命と引き替えかと……いえ、やはり不自然です!」
「そうね。全情報を先に渡しての取り引きなんてありえないわ。
そして沙霧自身よ。どんな組織であれウチに送り込むのにアレはないと思わない?」
ああ! そうだった……私も何かを忘れている!でも……
「……わかりません。いったいどういうことなのでしょうか?」
「沙霧に組織なんてない。全て沙霧ひとりでやったこと。あの娘はニューブレインチャイルド一号なのよ。」
!!! そうだった。でも……
「ありえません!00ユニットの全てをひとりの人間が研究しきるなど!一介の大学生が高温超伝導物質『グレイ・ナイン』の存在や性質など何故知っているんです!?
それに情報は!? 我々、帝国、妨害派全てに食い込んだ恐るべき諜報能力は絶対にひとりでは不可能です!」
副司令は相変わらずUSBメモリを玩びながら言った。
「話は変わるけどあなたには平行世界理論のことは話したわよね?」
「?はい、副司令が嵌められた時何をするつもりだったかの検証時にうかがいました。
白銀武の強化が目的とのことでしたが……。」
薬物増強の様なものではない。精神、肉体、技術、戦士の気迫などが一晩で身についていた。
あの人知を超えた技術も沙霧真由ひとりの力で……?
「でもあれって平行世界のあたしが新理論を発見したことを知らなきゃ出来ない策よねぇ。」
「!? し……白銀武に聞いたのでは……?」
「それにあたしが白銀に平行世界の向こうに新理論を取りに行かせるなんて情報、どこから手に入れたのかしら。あたしの頭の中にすらなかったのにねぇ。」
確かにこんなこと予想なんて出来るはずがない!
「い……いったい……」
「まったくあの時は気分が上がったり下がったり、またでっかく上がったり。撤退から一転大攻勢しなきゃだったりで、すっかり頭が悪くなってたわ。鎧衣との一件で、絶対にスパイにしちゃいけない人間の最底辺をブチ抜く間抜けっぷりを見せられてやっと気がついたわ。
アレはいわばこれから生まれる00ユニットのお姉さんの様なものなのよ。」
「!? 危険ではないのですか?彼女も00ユニットも……。」
「かといって今更彼女の検証をするまで中止、なんて出来ないでしょ?もう期日はあちこちに言っちゃったんだから。」
副司令はおどけたポーズで言いました。確かにそんなことをすれば妨害派のつけ込み放題にさせてしまうし、帝国の怒りも……恐すぎて考えたくないです。
「危険でもこのまま進めるしかありませんか……。」
「大丈夫よ。下手なウソはつくけど性格はなかなかいい娘じゃない。あたし達の代わりに00ユニットの研究を完成させてくれたり、みそっかすの白銀を強くしてあげたり。
うまく教育すりゃ人類の為にもなにかしてくれるでしょ。」
……確かに今の人類には力が必要です。恐怖で退がるより、人類の為にも進むことを考えるべきでしょう。
「わかりました。では話を帝国に戻しますが、組織が存在しないとなるとそれはそれで厄介です。帝国の不信は相当なものです。」
「不信と言うより恐怖ね。沙霧を正体不明、調べても影すら掴ませない高科学組織と置き換えてご覧なさい。」
「………成る程、帝国の皆さんはあれで自重していたんですね。あの程度で抑えてくれているならむしろ感謝すべきなのかもしれません。」
「で、そのナゾ組織とウチがガッチリ水面下で手を組んでいるとしたら?」
「あの噂みたいにHSSTに爆薬いっぱい積んで横浜基地に墜とします。………ハッ、私ったらなんてことを!」
完全に帝国側の思考になっていました。
「い……急いで沙霧真由を帝国に発表して下さ……は出来ないですよね。やっぱり。」
「ええ、沙霧を巡ってさらに険悪になるわね。渡すわけにはいかないんだし。」
「では……どうすれば。」
副司令は天を仰いで1,2分考え、そして
「たしか沙霧が実験戦術機のテストを申請してたわよね?」
「はい、完成したら横浜基地にくれるそうです。」
「相変わらず気前のいい娘ねえ。まずはテストをやって帝国の目をそっちに向けさせましょ。で、欲しがったらそれをやって関係の修復を図る、と。」
「よろしいので?もしとんでもないものだったらさらに恐怖心をあおり、組織の密着ぶりを疑われることになりますが。」
「設計したのは沙霧でも作ったのは河崎重工でしょ?今までのシリーズの発展系と思って間違いないわ。新素材、新エネルギーでも開発できなきゃ限界は変わらないんだし。
……ああ、沙霧が河崎重工と関係を持った時に開発した素材で戦術機への応用研究ってとこか。じゃ、モノになるまでにかなりデータとらなきゃだから交渉材料になるかは微妙ね。」
「どちらにせよ大きな問題はありませんか。では沙霧真由はどう扱いましょう?」
「とりあえずあなたが秘書につきなさい。なるべく外出させず、帝国のヤバイ筋の人とは接触させないようにね。まったく見習いのクセにピアティフが秘書なんて生意気ねえ。」
「了解いたしました。新任務につきます。」
「クソ忙しいけどテストは見なきゃいけないわね。どんなものかわからなきゃ交渉なんて出来ないんだし。」
そしてテスト起動終了後――――
「あいつは00ユニットすらひとりで全て設計したんだったわね。どうして『新素材、新エネルギーなんて簡単には出来ない』なんて常識にとらわれちゃったのかしら。」
香月副司令は肩を落として言いました。
月詠中尉と斯衛三人衆の皆さんがやってきました。四人分の殺気は体に悪いですね。
「ずいぶんいいオモチャをもらったじゃないか。今度はアレと引き替えに帝国の何を奴らに売ったんだ?」
「所詮は女ギツネか!」
「帝国を侮辱した罪、贖わせてやる!」
「おぼえてなさい~!」
もはや疑惑ですらなく確信ですか。
彼女の妹ともいえる00ユニット。彼女はもう少し手のかからない娘に生まれることを願うばかりです。
謎の組織への疑惑!
帝国を惑わす沙霧真由!
真実が明らかになる日は来るのか!?