白銀武Side
夜にさしかかった頃ハンガーに集合がかかった。火気管制装置のマニュアル調整を各自やらなければならない。オレ達は訓練兵でまだ正規の衛士じゃない。出撃しない可能性もあったが、どうやら天元山に続いての任務となるようだ。他は皆いるが、彩峰だけはいない。外に探しに出ると、訓練場の片隅でぼんやり月を見ている彩峰を見つけた。
「彩峰、集合だ。ハンガーに来い」
「白銀……ちびっ娘どうなったか知っている?」
「夕呼先生が預かっている。あいつは任せておくしかないな。ああ、クーデター事件とは無関係だってさ」
「……そう。まあ、知ってたけど」
「なあ彩峰。お前、真由とは昔からの友達……とは言ってないが、知り合いだったよな。じゃあ、その兄貴とも……」
仲間を疑うようなマネはしたくないが……最近彩峰の挙動が不審だった。やはり事件に関して何か知っていたのかもしれない。
「―――うん、よく知ってる。父さんは尚哉と結婚させたがっていた」
「それって許嫁ってやつ!? じゃ、真由は未来の義妹!?」
「……そうだね。『うざいチビが妹とかイヤ』って思ってたのにあいつとはいつも一緒にいた。私もあいつもウソつき。本当の自分を知られるのがイヤな臆病者同士。似た者同士安心できた」
真由がウソつきで臆病?それは違うぞ。
「真由はウソつきでも臆病でもないぞ、彩峰。詳しくは言えないが、初めて会ったときオレのためにやり合ってくれた。あれは今でも感謝している。それにウソもつかれたことないぞ」
「あいつ、白銀にはウソつかないんだね。それとも白銀、ちびっ娘のウソ見抜けないくらい愚かかも。こっちの方がありえる」
クスクスッと一瞬笑ったが、また暗い表情になった。
「――――ちびっ娘、私と同じになっちゃうのかな」
「彩峰と同じ?」
「私のお父さん、彩峰萩閣。知ってるでしょ?『光州作戦の悲劇』。有名だもんね」
知らねえ!!! 誰それ何それ!? 有名なの!? 知ってなきゃおかしい常識なの!?
「……白銀?」
「あ、ああ、もちろん知ってるぞ! 世界的に有名なヤツだろ? あの人が彩峰のお父さんだなんて、ビックリだなあ!」
「………白銀は外国にいたんだっけね。世界的に有名だったんだ、父さんの悪名。そりゃそうだよね、父さんのせいで司令部は壊滅。BETAは日本に上陸しちゃったんだもんね」
オレのバカバカバカ! 話のニュアンスでいい話じゃないのわからないの!? 脳みそプリンなの!? 今なら豆腐の角に頭ぶつけて死ねる!
後に調べたことによると『光州作戦の悲劇』とは現地住民の避難を優先する大東亜連合軍に帝国派遣軍が協力した。だがその行動が国連軍司令部の陥落につながり、国連軍は大損害を被ってしまう。その時の帝国派遣軍の指揮官が彩峰の親父である彩峰萩閣中将であり、その責により処刑された。娘の彩峰も随分つらい目に遭ったようだ。
最近大東亜連合軍経由から、沙霧尚哉からの手紙が彩峰に送られて来るそうだ。彩峰の挙動不審はこれが原因だったようだ。
オレ達は出撃準備をすべくハンガーに戻った。自分の機体に向かう彩峰にもう一度言った。
「彩峰、真由とずっと友達でいてやってくれ。無論、オレもそのつもりだが、お前も頼むぞ」
「……尚哉はちびっ娘のこと、あちこちに頼んだんだって。でもその人達によると、横浜基地はちびっ娘のこと離そうとしないみたい。それに最近、ちびっ娘のことを調べ回っている人達がいるんだって。それも個人とかじゃなく、大きい組織っぽいのがいくつも」
そう言って彩峰は自分の機体の管制ユニットに入っていった。
「やっと来たのね。こんな緊急事態の時まで自分勝手は困るわ」そう言って委員長が来た。
「委員長、もう自分の準備は終わったのか?」
「当たり前よ。こんな時こそ、出来ることは何でも前倒しにしないとね。あなたも速くしなさい。もういつ命令が来てもおかしくないんだから」
「ああ。それとさっきのことは………」
オレは彩峰を探しに出る前、夕呼先生に言われた通りに、真由は事件に関係ないことを言った。その時は委員長から何の返事ももらえなかった。
「ええ、博士が言うなら本当にそうなんでしょ。私もあの娘を恨んだりしないわ。でも沙霧尚哉は別。いくらあの娘の兄でもやっぱり許せないわ」
そう言って委員長は自分の機体に戻った。それだけを言うために機体を降りたらしい。
正直言えば俺も沙霧尚哉は許せない。政治だの日本がどうこうだのはわからないが、奴のせいで真由も彩峰も委員長も苦しんでいる。でも真由の兄貴だ。 奴と出会ったときオレはどうすれば…………いや、オレ達は訓練部隊だ。クーデター首謀者に出会うような任務なんて来るわけないか。
そして二〇七訓練小隊に出撃命令が出た。
作戦区域は芦ノ湖南東岸一帯。将軍家離城だった塔ヶ島城跡の警備が任務だ。
やっぱり後方警備。事態に関わるなんてできそうもないな。
―――――ふと一瞬、真由にもう会えない気がした。
だが出撃前の不安だと振り払う。
オレ達二〇七訓練小隊は出発した。
大いなる不安がのしかかろうとも
今はただ任務へ向かうだけ
次回、急展開!