白銀武Side
オレはいま隣に悠陽様の格好をした冥夜を乗せ、吹雪で全力疾走をしている。クーデター首謀者の沙霧尚哉、つまり真由の兄貴に追われているためだ。さっきまでビビリまくり、ただひたすらに逃げることしか考えられなかったオレもクールダウン。状況を色々考えられるようになった。それにしてもパニくっていても森の木々や岩なんかを的確に避けて全力疾走できるとか凄すぎだぞ、オレ?
まあ、自分に驚いても始まらない。隣で全力疾走にキツそうに耐えている冥夜に話かけた。
「なあ冥夜。」
「なんだタケル。」
「もう少し行ったら止まっていいか?」
「………ほう、沙霧尚哉はどうするつもりだ?」
「あいつと話したいと思っている。真由や彩峰の気持ち、おやじさんを亡くした委員長のことも聞いてもらいたい。で、それら諸々やらかした件でをみんなに代わってぶん殴る!」
「あきれた男だな。それらを切り捨てる覚悟もなしに決起したと思うか?」
「それでも……だ!」
「それにそれは明らかな命令不服従だ。私たちはまだ訓練生の身。ゆえに抗命罪で死刑、とまではいかないであろうが衛士の道が閉ざされることは十分考えられる。天元山での命令不服従も合わせれば確実であろう。」
「……………悪い。お前まで巻き込んじまうな。真由たちのためにやることで冥夜を犠牲にするなんて間違っているよな。忘れてくれ。」
「いや、いいぞ。」
「え?」
思わず振り向くと、冥夜の不敵な笑顔がそこにあった。
「天元山で私はタケルに我が儘を言ってしまった。だがタケルは見事、私の我が儘に応えてくれた。今度は私の番であろう。その思い、心の向くままにやるがよい。
それに私ももう一度沙霧の兄と話したい。まだ間に合うかもしれん。」
あれか。前に天元山で噴火が予想されたため、地元住民の避難任務をオレ達訓練小隊は受けた。その時現地を動かず居座り続けようとする婆さんに出会った。息子二人を亡くし、婆さんも死を覚悟していたのだろう。本来なら強制的に退去させねばならないところを、冥夜はあくまで婆さんの意思を尊重してその場を守ろうとした。
流れてくる溶岩に対し、天狗岩という岸壁の頂上にあるでっかい岩をブッた斬って溶岩を止めることにした。そのため岩のある場所よりはるか上空へ跳び上がり、正確にある一点に長刀を当てねばならないというとんでもない技に挑戦しなければならなくなった。結果としてオレは見事それをやりとげ、しかも墜ちてくる岩からも退避できた。
いつのころか集中すりゃ大抵のことはできるようになっちまったんだよな。
「………いいんだな?衛士になれなくても。」
「衛士の道を諦めてもやる価値のあることだと確信している。やろう、タケル。皆の想い、その身に宿し行くがよい。そしてまた二人でおおいに皆にあやまろうではないか。」
オレ達は顔を見合わせ笑った。どこまでも青臭い事が好きな、そんな生き方しかできない者同士だな。だがそれでいい。クーデタ-の首謀者が真由の兄貴なら、軍のやり方ではなくオレ達のやり方が正しいと思うのだから。
「よし、できるだけ他のやつらの目の届かないところまでいくぞ! そしたら……え?」
後背カメラで真由の兄貴の機体の様子を見たとき異変が見えた。ヤツの機体のその後ろ、銀色の大型の戦術機がぐんぐん近づいてくる。オレも真由の兄貴も全力疾走してるのに!
「まさか! あれは流星? 誰が乗っているんだ!?」
真由の兄貴の不知火は素早く横に移動、同時に長刀を抜き流星に振り下ろした!
だが流星もまた、すでにビーム長刀を抜いていた!
振り下ろす長刀と振り上げるビーム長刀がぶつかり合う!
だがあっけなくビーム長刀が真由の兄貴の長刀を断ち、さらに機体の上半身を斬り上げた!
ガシャァァァァ!
沙霧尚哉の機体はバランスを崩し転倒した。
そして流星は止まる。こちらを追おうとはせずに―――
その光景がだんだん小さくなっていき、やがて消えた。吹雪のスピードを緩めていく。
そうしてしばらく進めた後、止めた。
「タケル?どうなったのだ。流星とは横浜にあるアレか?」
「ああ、アレが来て真由の兄貴の不知火をブッた斬った。いったい誰が乗っているんだ?」
オレはひどく混乱しているが、なんとか冥夜に答えることができた。
「止めて大丈夫なのか? 流星はどうした。」
「…………追ってこないな。ヤツの目的は真由の兄貴らしい。」
まさか……とは思う。あいつが戦術機に乗れるはずがない。おそらく別の何か……沙霧尚哉を狙うやつはそれなりにいるだろう。だがどうしても真由の顔がちらついてしまう。答えは……やはり真由の兄貴がどうなったかを見るしかないだろうな。
しばらくオレ達はその場に留まり、追ってくる者がいないかを待ち続けた。夜の闇の中に響く戦場の銃撃音はまだ続いている。だが誰も来そうにない。
銃撃音はだんだん少なく、まばらになっていった。ということは戦闘可能な戦術機が少なくなってきた、ということか。戻るか否か………迷うオレは冥夜に話かけることも忘れ、作戦命令に縛られ動けずにいた。
やがて銃撃音がふいに途絶えた。いや、パラッ……パラッと微かに聞こえる気がする。どういうことだ?一機だけで射撃などあり得ないハズだが………。
戦闘は終わったのか? みんなは……委員長、彩峰、たま、美琴は無事なのか?まりもちゃんは……?こっちにクーデター軍が来ないということは制圧したのか?あの流星に乗っているやつはいったい……。
「………戻っていいか?真由の兄貴がどうなったのか確認したい。」
「………そうだな。戦況も知るべきであろう。」
オレ達は元来た道を戻ることにした。冥夜にも網膜投影をかけ、メインカメラで周囲を見れるようにした。慎重に周りを警戒し、現場へと向かう。近づいても銃声は聞こえないが、その代わりにブオォォォ!と特大の戦術機の機動音が聞こえてきた。
「………なん……だと?」
「面妖な! 何故あのようなことが可能なのだ!?」
現場に戻ったとき、オレは……オレ達は信じられないものを見た。
「バッ……バカな! あれはキン肉バスター!?」
戦術機では不可能なハズのあの必殺技が!
それは夜の闇が見せた幻なのか!?