アンリミテッドは無理ゲーすぎる!   作:空也真朋

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第三十七話 お兄ちゃんと私

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 やっと戦闘を終わらせることができました。お兄ちゃんは…………いた!クーデター部隊の人達と逃げずにこっちを注目してます。それじゃ家族の役目を果たしに行きましょうか。

 機体を屈めハッチを開けます。雪ダルマなパイロットスーツを脱いで地面に降り立ち、ゴーグルやヘッドセットを取りました。

 

 うおっ!画面ごしで見てる分にはマシだったんですが、直接見ると世界全てが物質に見えてしまいます。もちろん人間もなのでコミュニケーションがとれません。お薬を懐から取り出して飲もうとしましたが………落としてしまいました。どうやら随分体にキてしまったようですね。

 

 倒れそうになる私をささえ、お薬を拾ってくれる物質ひとつ。お兄ちゃんですね。小さい頃はよくこうやってお薬を飲ませてくれたものです。

 

 

 

 

 「真由、どうして……」

 

 

 お薬が効き始め、やっと人間の世界が戻ってきました。そして目の前のお兄ちゃんは私をささえながら聞いてきました。そんなの、みんなお前のためですよ。

 

 

 鎧衣さんから聞きました。第五推進派の目論見を潰すためにリーダーになったことも、たった一人でクーデター全ての責任を背負い死のうとしていることも。

 

 

 その決意を邪魔せずおとなしく見ていなきゃいけなかったのかもしれません。

 

 

 でもそんな悲しい死に方、どうしても許せませんでした。

 

 

 前世じゃ敵キャラの一人にすぎなかったのに不思議ですね。

 

 

 パパママ、これからあなた達に代わってこのバカメガネを説教します。

 見ていてください。

 

 

 ポコン

 

 

 強化装備に自分の手で一発。

 

 

 「このバカ!こんなやり方で世の中を変えちゃいけないんです!

 どんなに怒っても、どんなに理不尽でも、どんなに苦しくても理想を追い求める心を殺しても頑張らなきゃいけないんです!私を残してこんなことして死のうとか………パパとママに私のことを頼まれたのを忘れたんですか!?」

 

 「真由、それは……………いや、ごめん。お前に……こんなことまでさせてしまって。」

 

 

 バカメガネの目から涙がポロリ。……その涙に免じて許してあげましょうかね。

 

 

 

 

 「あなた、沙霧大尉の妹なの?」

 

 一人のクーデター部隊の女性衛士が進み出て聞いてきました。

 

 「はい、沙霧真由といいます。」

 

 「そう。色々ぶち壊してくれちゃったわね……」

 

 口ではそう言ってもちっとも恨んでいるようには聞こえませんでした。しばらくじっと私を見つめ、そして言いました。

 

 「榊是親を………首相を本当に殺したのは私なんです。」

 

「直江、よせ!」

 

 お兄ちゃんは叫びました。でもその人は黙りません。

 

 「大尉に全て背負わせて終わる約束でしたね。……でも、こんな妹がいるのにそれは身勝手じゃないですか?」

 

 その直江という衛士の言うことによれば、彼女は帝都陥落時に学徒動員された女子高生だったそうです。学校の生徒丸ごと人壁になるためだけ、ロクに訓練も受けず北陸の最前線に送られBETAと戦わされたそうです。

 

 「よく生きていられましたね。生身でBETAと戦ってこうしていられるなんて。」

 

 「私はね。でも友達は………幼い頃からの親友も高校からの親友もダメだったわ。あれからいくつも戦って…………あの時私達が送られた意味も知ったし、誰かが死ぬのにも随分慣れた。衛士にまでなれた。でもね、どうしてもあの日いきなり私達が地獄に送られ、親友を死なせたことへの憎しみは消えなかった。高校生でふたりの親友だった私がいつまでも心の中にいるのよ。」

 

 「だから………クーデターを起こしたんですか?」

 

 「元々は政府への不満屋の集まりだったんだけどね。でも”榊是親に喰らわせることができる”って力を持ってしまったら私達みんな突っ走っちゃったわね。帝都陥落時はみんな私と似たような体験をしてきたからね。そして私がふたりの仇、と榊首相を殺ったわ。」

 

 第五推進派はこんな人達を利用したんですか。本当にクズですね。

 

 「あの戦術機、なんなの?」

 

 直江さんは流星を見ながら聞きました。

 

 「私が設計して作らせた新技術や新素材の検証用の実験戦術機です。名前を流星といいます。」

 

 「そう、あなたが………」

 

 直江さんは眩しそうに流星を見た後、お兄ちゃんに向き合いました。

 

 「大尉。やはりあなたは生きるべきです。罪は全て私が引き受けます。どうか生きてこの娘をささえてやってください。これだけの戦術機を作れるこの娘なら人類の勝利も夢ではないでしょう。」

 

 「やめろ直江!お前は悪くない!」

 

 「悪いですよ。この娘の言うとおり私は……私達はこんなやり方で世の中を変えることも昔の恨みを晴らすこともしちゃいけなかったんです。大尉がこの娘を支えてBETAを殲滅していただけるならそれこそ我々の本望です。」

 「そうです大尉!」

 「俺も刑罰を受けます!」

 「あなたは生きてください!」

 

 クーデター部隊の人達は口々に叫びました。逃げずに留まっていたのは皆、ここで終わらせるつもりだったのでしょう。しかし………お兄ちゃんは反乱のリーダーだし、私も派手に反乱行為をしたしで、銃殺回避は無理ではないでしょうか?

 ふと、神宮寺教官がこちらに一人でやってきました。そしてお兄ちゃんに見事な敬礼で挨拶。

 

 「横浜基地所属の神宮寺まりも軍曹です。此度の一件、収めていただくため参りました。」

 

 他の人達は降りてきませんね。待機や警戒でしょうか。

 神宮寺教官、私を見て言いました。

 

 「まったく君も大変なことをしたな。双方死人が出なかったのが救い………いや、あの空中から一緒にダイブした米軍衛士はダメか?」

 

 「落下の衝撃は機体にほとんどないから無事だと思いますよ?宇宙衝撃吸収素材と対衝撃機能の組み合わせとダイブ時の姿勢コントロールでそういう風にしたんです。あっちの機体も無事じゃないと綺麗なキン肉バスターになりませんから。」

 

 「………キン肉バスター?何だそれは。だが確かに70メートル近く戦術機を抱えて飛び上がって落下したのに何のダメージもないな、君の機体は。まったく色々信じられないことばかりだな。ともかく君の処遇は私が何とかしよう。」

 

 お兄ちゃんが敬礼して神宮寺教官の前に立ちました。

 

 「戦略勉強会を統括した沙霧尚哉大尉です。同胞と妹の処遇、お願いいたします。」

 

 そしてお兄ちゃんと神宮寺教官が話し合うのを見てやれやれ一件落着か………と思ったのは甘かったですね。向こうから阿修羅の如き形相をした月詠中尉とウォーケン少佐が来るのが見えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 義兄と再会をはたしたのもつかの間
 二人の強面襲来!
 どう切り抜ける!?

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