アンリミテッドは無理ゲーすぎる!   作:空也真朋

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第四十四話  ウソ吐き少女のBETA全滅計画

 香月夕呼Side

 

 

 あたしは今『横浜特別少年刑務所』に来ている。横浜基地から数キロ程にある比較的状態のいい廃墟を改修して造らせたものだ。名目こそ未成年の刑務所だが、実際は沙霧真由専用の研究所だ。沙霧の能力を知ってから準備させていたものを、クーデター介入の件でこの名目にしてあいつを隔離している。何しろ日常会話からイタズラまで悪意なく横浜基地を揺るがしかねないので、こうせざるを得ないのだ。

 

 佐渡島から帰還するとすぐ、横浜基地に戻らずこちらに来た。出発する前の帰還したら直ちに結果報告をする、という約束を果たすためだ。あとそこにいる腐れ縁のまりもに伊隅達の死を自分で伝えたい気持ちもあった。

 

 中に入るとまりもが迎えてくれた。四月からの新訓練兵の指導が始まるまでここに常駐してもらい、沙霧の指導を頼んでいる。

 

 「………というわけ。佐渡島ハイヴは潰せたけど、とても作戦成功なんて言えたもんじゃなかったわ。せっかく用意してもらって悪いけど祝杯のシャンパンはしまっておいて……いえ、伊隅達を偲んであんたが飲んでいいわよ」

 

 本当は戦勝報告して今夜はここで祝杯、といきたかったのにこんな結果を言わなきゃならないのは情けない限りだ。

 まさかあのXG-70bをもってしても勝利に届かないとは思わなかった。沙霧の改修設計と新素材の提供で当初よりはるかに強力な荷電量子砲を放つ機体となったのだ。あれでハイヴに入らず潰すことに成功すれば驚くほど短期間にBETA全滅を達成できたはずなのに。もっともハイヴの外壁が想定以上に強固で、中層あたりから撃たねばならなかったようだが。

 

 「私もやめておくわ。それより伊隅、高原、麻倉のご家族への手紙、私に書かせてくれる?任務内容を明かせない嘘だらけの手紙でも、彼女達の一片の真実は伝えたいの。………と、沙霧が待っているわ。あの娘にも報告、お願いね」

 

 真実か……。あのウソ吐き小娘に学ばせたい。まりもの指導で少しはマシになったかしらね。

 

 

 そうして沙霧の部屋へ通された。あたしが到着するなり、あいさつもそこそこに沙霧はPCで佐渡島ハイヴ攻略作戦こと甲21号作戦の結果報告データを熟読した。

 

 「伊隅大尉献身の凄乃皇自爆でからくも勝利……ですか。まさか途中リタイアもせず、原作よりはるかに強力にした凄乃皇をもってしても原作と同じ展開とは!」

 

 「は?途中リタイア?原作?なによそれ」

 

 「い、いえもし私がいなかったらこうなってんじゃないかな~という展開の………いやこの世界はもともとアンリミだからここまでこれないんだっけ?」

 

 「あんた、大丈夫?医務室行こうか?」

 

 この『横浜特別少年刑務所』は沙霧の体調を管理するための医務室もあるのだ。

 

 「いえいえいえ!今はマズイ…………あ~いや、これ!これはすごいですね!こんなバカデカ級BETA!こんなのまでいたんですか!」

 

 帰る前に医務室に放り込んでおくこと決定ね。大抵はこんなにも嘘が下手なくせに、たまにとんでもなく上手くなってあたしを出し抜くから始末が悪い。

 

 「”母艦級”と名付けることに決まったわ。こんなのが出てきたにも関わらず、A-01の損耗が伊隅を除いて二名に抑えられたわ。それ、凄乃皇の火力もあるけど、白銀が完全に包囲された状態からたった一機で退路を作ってくれたお陰らしいわよ。白銀を強化?したあんたにもお礼をいっとくべきかしらね」

 

 「何のことでしょう?全て白銀君の才能のなせる業!私は何一つしてません!

 そんなことよりこのバカデカ、これまで出現を確認されておらず、ハイヴ壊滅寸前に出てきた所からハイヴを守る”切り札”なのかもしれませんね。他のハイヴから大量のBETAを運んできて援軍に来たんでしょうね。

 外壁も頑丈すぎるし、これじゃハイヴを外から潰す策は使えませんね。どんなに不利でも潜らないと」

 

 「それ以前にBETAの総数もよ。事前の最大予想の四倍を超えていたわ。大陸のハイヴはさらに大量と考えられるし、援軍も短時間で来るでしょうからとても防衛線を維持できないわ」

 

 沙霧はそこで黙り込んだ。穴が開くほど戦闘データを眺め、そして言った。

 

 「………博士。私、この戦闘データで計算してわかっちゃいました。人類がBETAに勝つのは不可能です。向こうの生産力が人類側の百倍程度なら質を高めて電撃戦で挑むことができます。けれど、向こうの生産力は何と人類側の………」

 

 「あ~いわないで!それ聞いたらなんか気力とかゴッソリ無くなるような気がする!どれだけ絶望的だろうとやめるワケにはいかないんだから!ともかく00ユニットのハイブへのリーディングは成功したわ。このBETA情報でハイヴの構造やBETAの集積地なんかもわかったし、次こそハイヴ攻略を成功させるわよ!」

 

 「そうですか。まあ、私や博士が生きている間くらいは人類も保つでしょう。その情報で押し返せればそれだけ寿命も延びますしね。」

 

 こいつ………それでも”人類滅亡は確定”って計算しちゃったの?あえて計算しないようしてたけど、あたしも人類の絶望を予感している。どこかのニヒリズムがいうならともかく、こいつが言うなら本当にそう、なのね………………

 ってヤバイ!! 無理にでも立ち直らなきゃなんないのに!なに気力ゴッソリ奪ってんのよ!

 

 「ハァ…、この答えの出ない感じ、00ユニットに悩んでいた頃を思い出すわ。あの時みたいにあんたがパッと答えをくれたらねぇ」

 

 半ば恨みと八つ当たりで沙霧にこんなことを言った。この作戦でわかったBETAの底力と伊隅の喪失。これに耐えて副司令やるとかかなりキツイってのに、『なにやってもムダ』みたいなその態度。この災害小娘、あたしをどこまで落とせば……………

 

 「欲しいんですか?」

 

 「………………は?」

 

 「ありますよ。”BETA全滅計画”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく思考することができなかった。相変わらず言葉に爆弾仕掛ける災害小娘ね!

 

 「確認するけど、その”BETA全滅”ってどういう意味で使ってるの?まさか言葉通りそのままの意味で使ってるってわけじゃないわよね?」

 

 そろそろこいつとの会話は警戒モードで進めないと。

 

 「言葉通りそのままの意味で使っていますよ。この計画が成った暁にはBETAはこの地球上から一匹残らず消滅することでしょう」

 

 「………大きくでたわね。人類がBETAに勝つのは不可能じゃなかったの?」

 

 『ウソです』とかいい腐ったらはっ倒す!このあたしの気分を激しく下げたり上げたり、な所もやっかいなヤツなのよね。

 

「さっき言った”不可能”は物理的に考えて、です。物理の世界じゃ質量の小さいモノが質量の遙かに大きいモノに勝つのは不可能。でも人間の世界じゃとるに足らない小物が偉大な絶対強者を倒す、なんてことは偶あります。

 故に私の考えた”BETA全滅計画”。それは卑怯な小物が絶対強者に挑む伝統的手法………」

 

 沙霧は一度言葉を切り、溜めてこう続けた。

 

 

 「”毒殺”です」

 

 

 

 

 

 

 




 ”白銀君強化計画”以来再び沙霧真由が計画を謀る!
 仕掛ける相手は地球上全てのBETA!?

 人類勝利の鍵となるか?”BETA全滅計画”!!

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