アンリミテッドは無理ゲーすぎる!   作:空也真朋

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第六十三話 BETA消滅

 

香月夕呼Side

 

 

 沙霧が倒れた。

 その報告を受けたあたしは、すぐ沙霧の運ばれた医務室へと足を運んだ。

 あいつは医者から25まで生きられる可能性は低いと言われていたが、こんなに早く!?

 沙霧は小さな体をベッドに横たえ、点滴を受けていた。

 

 「博士、来てくれたんですか」

 

 力なくも話せる沙霧にほっとした。

 

 「大丈夫?いくら人類の命運を決める決戦前だとしてもあんたには無理させすぎたかしら?」

 

 「いえ、多分流星に乗って反応炉まで飛ばして行ったことでしょう。さすがにBETAの群れを振り切るには並の加速じゃ無理ですし、パイロットスーツで衝撃は殺せても空気圧まではどうにもなりません。今になってどこか壊れたようですね」」

 

 「そう。まぁA-01は無事に送り出せたし、後は任せてゆっくり休みなさい。目を覚ましたらBETAが全滅していたらいいわね」

 

 「……………博士、もし成功したら私はそこにいないでしょう」

 

 「え?」

 

 「私の脳はBETA技術による記憶補器が埋め込まれています。そしてそれはごくわずかにですが、ハイブから発信されるBETA言語を受けています。もし作戦が成功してオリジナルハイブがBETAの自壊命令を発信したら私の脳は多分………」

 

 「さ、沙霧……!」

 

 ふいに沙霧はニッと笑った。

 

 「ウソです。そんなことあるわけないじゃないですか。ちょっと博士をからかっただけです」

 

 そう言って沙霧は得意そうな顔をした。ウソをついた時に見せるバカっぽい顔で。

 

 (―――――ウソをつく時のクセなんて見つけなきゃよかったわね)

 

 たとえ沙霧が死のうとも作戦は止められない。

 『BETAを倒すこと』

 それがあたしの役目だから。

 そのために多くの部下へ死に突き落とすも同然の命令を下してきた。

 赤子に非道なこともした。

 

 「私は大丈夫ですから行って下さい。そしてこの戦いを見届けてください。多分、それが今一番博士がしなきゃいけないことだと思いますから」

 

 「………わかったわ」

 

 あたしは沙霧に背を向け司令室に向かった。

 久しぶりにあの日の罪の重さがのしかかった。

 

 

 

 桜花作戦が始動した。

 フェイズ1。ユーラシア外縁部のハイブへの一斉攻撃。沙霧の話が本当ならオリジナルハイブの母艦級は全てこれに引きつけられてくれるはず。

 

 フェイズ2。オリジナルハイブ周辺に降下した部隊によるハイブ周辺のBETA排除。だがBETAの物量によって苦戦。フェイズ3を早めることを決定。

 

 フェイズ3。ハイブ突入部隊の降下。だがここで、またしても沙霧の言葉通りのことが起きた。ハイブ周辺のレーザー種が先に投下したAL弾を迎撃せず、重金属雲を形成させられなくなったのだ。やむを得ず時限爆破装置付のAL弾のみを使用する。重金属運の形成は一瞬だが、なんとかA-01部隊を突入させることができた。残りの部隊はレーザー種のいない地点に降下させ、周辺部の制圧を指示。

 

 A-01部隊を損耗なしでハイブに送り込めた。後は彼らの奮戦を期待するだけだ。

 

 時間はジリジリ過ぎていく。

 

 世界中の部隊は奮戦するも、やはり巨大な物量に押され、あちこち壊滅したとの報が届いていく。

 

 A-01突入より8時間。オリジナルハイブ周辺の部隊はほぼ壊滅してしまった。さらに、震度計が異常な振動を感知したとの報告。母艦級が来たらしい。これで時間稼ぎは終了だ。

 

 さて、人類の命運は…………

 

 

 

 

 

 「え?」

 

 突然あるオペレーターが奇妙な声をあげた。それに続き、あちこちからも「なんだと!?」「確かか!?」という声があがっている。

 

 「どうした?何が起こっている。状況を報告せよ!」とラダビノット司令は指示。

 

 「は!各地の報告ではBETAが突然戦闘をやめ、停止したそうです!そして次々崩れているそうです!」

 

 「こちらもです!…………いえ、これは世界全てのBETAに起こった現象の様です!」

 

 世界各地の戦況を映すモニターには、全てBETAが崩れていく姿が映されていた。

 

 「博士、これはやはり………」

 

 「ええ、ラダビノット司令。これは間違いなく沙霧の”毒薬”の効果です。A-01はやってくれたようです」

 

 全世界のBETAが次々崩壊していく壮大な奇跡に司令室は静まり返った。

 やがて誰かが歓声を上げた。

 

 「やった!やったぞ。人類は勝ったんだ!」

 

 そして次々喜びに満ちた声が続く!

 

「くそっ、ざまあみやがれ!これが人類の力だ!」

「もう誰もBETAに殺されないですむ!」

 「地球を取り戻したのよ!」

 

 中央作戦司令室だというのに誰も感情を抑えることができず、室内は歓喜一色となった。

 

 ふとラダビノット司令を見ると、彼も目を瞑り涙を滲ませていた。

 

 「BETA全滅………まさか本当にあのたった一粒の毒薬が成し遂げてしまうとは」

 

 その言葉で思い出した。そうだ、沙霧は………?

 

 ふと、オペレーターの一人があたしに駆け寄った。それは沙霧を看ている医師からの伝言だった。

 それを聞いたあたしは一瞬目を瞑り、ラダビノット司令に小声で話しかけた。

 

 「沙霧が………死んだそうです。この場はお任せいたします」

 

 「…………そうか。行ってきたまえ、博士」

 

 ラダビノット司令は静かにあたしの退席を許してくれた。最後にあたしの背中に言葉をかけた。

 

 「彼女は紛れもなく英雄の一人だった。人類を代表し感謝を捧ぐ」

 

 歓声鳴り止まぬ司令室を後にし、医務室へ急いだ。

 

 

 

 

 人類勝利の片隅で沙霧はひっそりと死んだ

 沙霧の死因は脳が破裂したことだそうだ

 医務室は清掃したようだがあちこちに赤い血が飛び散っていた

 沙霧の顔には白い布がかけられていた

 それを取って顔を見るとまるで眠っているよう

 

 あり得ない奇跡で今まで生きてきたこの娘は――――

 

 大いなる奇跡を生んでこの世を去った

 

 何を言えばいいのだろう

 

 沙霧に詫びるのも感謝を言うのも違う気がした

 

 だからたったひとこと

 

 大きくまちがった言葉を

 

 

 「おやすみ、真由」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――その日、地球上全てのBETAは消滅した

              全て土に還った――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 『アンリミテッドで地球上全てのBETAを滅ぼす』の無理ゲークリア!
 やれば出来るもんですねぇ
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