「はぁ……」
大学内にあるカフェのテラス席から外を眺め、ため息を1つつく。最近、考え事のせいか自然とため息が零れてくる。1人で解決できないのなら誰かに相談すればいいのだが、相談するようなものじゃ無い気がしてしまって相談できずにいる。
あー、空が綺麗やな……。あの空飛べたら気持ちええやろなー。
考え事を放棄して現実逃避をするのも最近のお決まりになってしまっていた。
「何現実逃避してるのよー」
その声と共に後ろからバシッと肩を叩かれ、現実逃避の世界から帰ってくる。驚いて振り向くと高校時代からの親友である真瀬由子が立っていた。
「そろそろ昼休みが終わるのよー。なんも食べてへんみたいやけど大丈夫なん?」
その一言で全てが現実へと押し戻される。今ここにある現実は、昼休みが終わること、私がまだ昼食を取っていないこと、そして咲への誕生日プレゼントを前日にしてまだ決められていないという事だった。
「今年もこの季節が来たと思うと嬉しいような悲しいような……。相変わらず恭子はこういうの苦手なのよー」
運よくどちらも3限目が無かった為、お昼にありつくことは出来た。お気に入りのおすすめ定食を手に席に戻ると、由子はニコニコ笑いながらそう言ってくる。
決して、苦手なわけではない。ただ、咲は人から何かを贈られることに慣れてないし、どうしても遠慮してしまう。昔のことがあったからだろうか、人の好意をうまく受け取れないのだ。その咲に、どんなものを渡せば素直に受け取ってくれるか、考えていたらこうなってしまっても仕方ないと思う。
「それはわかるけど、もう前日なのよー。決まらなきゃ渡せないのよー」
由子の言葉に力なく頷く。人には1回目より2回目の方が楽という人が多いが、これに関して私は2回、3回と数が増えれば増えるほど何をあげればいいのかわからなくなる。
これでも今までは頑張ったのだ。物だと絶対受け取らないからと考えて、一昨年は一緒に行こうとUSJのチケットを、昨年は少し贅沢した夕食を一緒に食べに行った。けど、さすがに今年は何か形に残るものを贈りたい。そう思ってずっと考えてきたのに、出てきた案はありふれたもので、もっと、私にしか贈れないような“特別”が欲しかった。
「……プレゼントなんて贈った人の自己満足なのよー……。誰もが贈った人の特別を求める。自己欲求の塊で醜いものなのよー。だから、自分が、“末原恭子”として咲ちゃんに渡したいものを渡せばいいのよー」
由子はそう言うと食器を戻しに立ってしまった。
――私が、咲に渡したいもの――
そう単純に言われると更にわからなくなってしまった。
「それで、何にしたんですか?」
「え゛」
誕生日当日は平日という事もあって、土曜日になった約束。私は当日でも良かった、と言うより当日が良かったのだが、咲本人にそう言われてしまっては仕方ない。そして朝1で大阪からやって来て言われた一言がこれである。そりゃ動揺もするわ。
「ふふっ、冗談ですよ。まあ、真瀬さんから聞いてますから。『悩んでたみたいだからとりあえず受け取ってあげてくれ』って」
由子も本当にお節介やな……。まあ、空気が和んだ気もするからそれは嬉しいけど。
なるべく渡さないで済むならその方が嬉しい……。何を言ってるんだと言われるかもしれないが、それほど今回は自信が無い。
「まあ、悩んだは悩んだけど、今の方がええ?出来れば遅ければ遅いほど……」
「そう言って渡さない気なのも知ってますから早い方がいいかなって」
なんでバレてるんだろう……。私の心はそんなに読みやすいのか。
「恭子さんのことで私がわからない所があると思う方が間違いなんですよ……」
それだけあなたの事を私は見てるって事です、と言う彼女の顔は何度見ても慣れないくらい綺麗で、しばらく目を離すことが出来なかった。
「だから、プレゼントとか苦手ですけど、恭子さんからなら例え何だったとしても嬉しいですよ」
そう言われたら渡さない訳にはいかないじゃないか。
「まったく、ずるいわ……」
「今更ですか?私はずるいです。そのずるさで恭子さんと付き合えたんですから」
「笑わへん?」
「笑いません」
「本当に笑わへん?」
「だから笑いませんってば」
「ん……。じゃあ……」
私は隠していた“それ”を取り出し、咲に差し出す。
丁寧にラッピングしてある“それ”を開くと、ちょっと古臭い鍵が入っていた。
「鍵、ですか?」
「うん……」
「これ、恭子の部屋のですよね?」
「うん……」
やっぱりすぐバレてしまった。渡したのは私の家の鍵。これを渡す意図もバレてたりするのだろうか。そうなるとこれから話すことはとても恥ずかしい。
「由子に、“末原恭子”として咲に渡したいものを渡せばいいって言われた時、元々何を渡したらいいかわからんかったのが、さらにわからんくなった。それで気づいた。そんなもん考えてたこと無さすぎて私には無理やって。だから、もし私が欲しいものを考えたら、私が欲しかったのは『咲と共に過ごす時間』やった。おかしいな。今でも充分幸せなのに、もっともっと欲しくなる。私は咲の特別になりたい。だから、どれだけ醜くても、咲が横にいてくれたらそれでいいなって思った。だから、この鍵で咲の未来を予約しようと思う。咲が卒業したら、一緒に暮してほしい」
お見合い番組の告白シーンみたいに頭を下げ、右手を差し出す。
ぐちゃぐちゃな頭の中を必死に整理して紡ぎ出した言葉は結局めちゃくちゃで、なんともカッコ悪い感じになってしまった。けど、これも私らしい気がする。
「ふふっ、あはははっ」
「な、笑わん言うたやん!?」
目の前から聞こえてきた笑い声におもわず顔を上げてしまう。咲はそうでしたね、なんて言うと1つ咳払いをして真剣な顔をする。
「私が言うつもりだったのに取られちゃちました。私でよければ、恭子さんの傍に居させて下さい」
そう言って笑った彼女をギュッと抱きしめた。
すべての始まりのお話、読んで頂きありがとうございます。
これから、徐々に増えていく彼女たちの生活を一緒に見守ってくれたらと思います。