何回目かわからない携帯のアラーム音で、やっと目が覚める。枕元に置いてあるそれを覗くと、最初に設定した7時半のアラームからは20分ほど後のアラーム音みたいだ。休みでもちゃんと起きれるように5分おきに設定してるので、4回ほど完全に無視していたことがよくわかる。
もう少し自分の力でちゃんと起きれるようにならなきゃ……。そう思ってからもう2年くらい経つけど、この有様なのは気にしちゃいけない。うん。気にしない。
寝転がって固くなった身体を思いっきり伸びをしてほぐす。肺に溜まった空気が思い切り外に放出される。そして、冬特有の冷え切った部屋の空気を吸い込む。さて、そろそろ準備しなきゃ遅刻しちゃう。
着替えながら外を見ると、日なんてとっくに登っていて、外がキラキラ光っている。
――恭子さんは今、何してるかな。
昨夜遅くまで電話をしていた愛しい恋人のことが頭に浮かんでくる。今日は、恭子さんは成人式で、4時起きだって言ってたから、とっくに起きて、着付けとかしているんだろうなぁ。
恭子さんの振袖姿は見たくてたまらないのだが、本人から「恥ずかしいから写真なんか送らんからな!」と言われているので、他の誰かに頼むか、自分で見に行くしかないのだが、前者はバレたらしばらく口きいてくれなくなりそうだし、後者は今からの予定を考えると難しい。今度個人的に着てもらうには手間がかかり過ぎるし……。まあ、今度恭子さんのお母さんに見せてもらえばいいか。
着替えを済ませ、パンを咥えながら今日の予定を確認し直す。と言っても、家まで迎えが来るとか来ないとか言われたからどうすればいいかもよくわかってないんだよね……。
ピコン
パンを食べきったころに、件の人物から連絡が入る。どうやらもうすぐ到着するらしい。ちょっとそわそわしながら、準備に不備がないか確認する。うん、大丈夫。
ピンポーン
チャイムがなり、出る前に一度大きく深呼吸をする。
――大丈夫、いつも通り、いつも通り。よし、いける!
思いっきりドアを開け、今日、私が倒さなければならないその人と対峙する。
「どうも咲ちゃん、久しぶりや、なぁ」
「お久しぶりですね、……園城寺さん」
大阪ドミネーターズの若きエースが、関西人特有の愛想の良い笑みを浮かべ佇んでいた。
「すいません、わざわざ家まで迎えに来てもらっちゃって」
「ええって、ええって、これもチームからの指示やし、うちも暇やったしな」
園城寺さんが運転する車の助手席に座り、大阪へと向かう。あ、今ちょうど高速に乗った。
「でも、成人式だったんじゃないんですか?今日」
「いやぁ、うちらは昨日やで~」
へえ、どこもかしこも今日やるのかと思ってた。もし、昨日だったら、私も恭子さんに会えたのに。到着するまで、まだ時間があるから、世間話に花を咲かせるしかない。じゃあ、あの話でもしようかな。ちょうど、聞きたかったしね。
「そういえば、お姉ちゃんと、どうなんですか?」
「ぶふっ!?ななななんやねん突然!!」
「前見てください!危ないですから!!」
「咲ちゃんが変なこと言うからやろ!?」
そう、この園城寺さんは私の姉である宮永照と付き合っている。
私がそれを知ったのは昨年の夏、インターハイの会場でだった。
「え?ごめんお姉ちゃん、もう1回言って」
「だから、園城寺さんと付き合ってる」
「そ、そういう事なんや、よろしくな、えっと、咲ちゃん」
インターハイの解説に来ていたお姉ちゃんに、大切な話があるからと高そうなお店の個室に呼び出されたと思ったら、そこに園城寺さんもいて、突然そう切り出された時、驚いたのはいい思い出だ。
馴れ初めとか、いろいろ話を聞く中で、2人がお互いを大切に思ってるのが伝わってきたから、私は認めるしかないなぁってなって、その場は解散したんだけど、それ以来なかなか会えなかったから、こっそり気になってた、なんて。
「で、どうなんですか?」
「まあ、それなりに、な……」
そう言った園城寺さんの顔が頬から耳までが真っ赤になっているのを見ると、かわいいなぁなんて思いが湧いてくる。大阪の人ってなんでこんなにからかいがいがあるんだろう?今度真瀬さん辺りに聞いてみようかな。きっと上手いからかい方を教えてくれそう。
高速に乗ってしばらく、機嫌を悪くしたのか園城寺さんが黙りこくってしまった。もともと、あまり頻繁に連絡をしていたわけではないので、こうなった時の園城寺さんとの距離の測り方がわからない。早々と謝っちゃった方がいいかな?それとも、何か場を和ます言葉を言った方がいいのだろうか。
「なあ、咲ちゃん」
沈黙が10分ほど続いた後、園城寺さんの声音を落としたその呼びかけが、車内の空気を更に引き締める。
「どうして、うちなん?咲ちゃんなら、どこからもオファー来とったやろ?」
「まあ、そうなんですけど……」
今日、私は大阪ドミネーターズとの入団交渉に臨むために彼女と大阪に向かっている。そもそもこれは、私からお願いしたものだ。確かに、高校生との交渉が解禁になった年明け以降、たくさんのチームからオファーがあった。地元の佐久もそうだし、お姉ちゃんのいる東京からもだ。でも、私はそのすべてを断って、大阪にいる園城寺さんに連絡を取った。
それは、恭子さんとの約束を果たすため。
あの時、恭子さんに貰ったプレゼントは、今もしっかりキーケースの中にしまわれている。
恭子さんと一緒に生活するには、恭子さんの大学がある大阪、あるいはその周辺のチームに入るしかない。私自身、プロになるからにはもちろんトップで争いたいから、そうなると候補は大阪か神戸の2つしかなくて、そうなるとやっぱり大阪が第1候補になるわけで……。
「……きっと咲ちゃんにもいろいろ事情があると思う。けど、咲ちゃんみたいな有名選手がチームに、しかも逆オファーで、となるとあまりよく思わない人たちも出てくる。あんまりうちのチームを悪く言いたくはないけど、うちには気が強くてプライドが高いやつがいっぱいいる。もしかしたらいろんなことされるかもしれん。でも、プロになるってことはそれに耐えるってことや。その覚悟はできとるか?」
なかなか返事を紡ぐことが出来ない私を悟ってか、園城寺さんは少し厳しい事を、私を試すようなことをあえて言ってくる。その顔は、先ほどまでの優しくて、からかいがいのある大阪人の園城寺怜から、大阪ドミネーターズで1年目からエースとして活躍する、競技者園城寺怜に変わっている。
「もっかい聞くで。咲ちゃんは、どうして、いい待遇を約束してくれている佐久や東京じゃなく、わざわざ大阪を選んだん?」
園城寺さんの気迫に、適当な答えでは許さないというような視線に、私の覚悟はどんどん砕かれていく。このまま車内から逃げ出してしまいたい。いや、高速じゃなければ止めてもらって逃げ出していたと思う。それほど、園城寺さんは真剣だった。
「私は、私の当たり前を守るために、私の一番大切な人と生活を共にするために大阪を選びました。でも、これは別に大阪じゃなくてもいいんです。それでも、私はそれに1番近い大阪を選んだんです。……ごめんなさい、こんなんじゃダメですね。今からプロに入る若輩者が、自分以外の何かを守れるほど、プロは甘くないですよね」
何かを言わなければいけない。そう思って絞り出した言葉は弱々しくて、答えた相手にも、本当に届けたい相手にもきっと届かない。
「ふっ、ふふ、あははは!」
そんなネガティブな思考は横から聞こえてきた笑い声によってかき消された。
「すまんすまん、ついおもろくてな。まあ、確かに難しいとは思うで?うちかてまだ、自分の分だけで精一杯。と、言うか今の麻雀界でそれが出来るのはグランドマスターとか、照さんとかほんの一握りだけや。なら、咲ちゃんもそこを目指せばええやん。頂上にいる人間にしか無理なら、頂上まで登ってしまえ。ただ、うちらはそれを黙って見てるほど甘くはない。だって、そこはうちらのゴールでもあるからな」
笑われたことがショックだった。けど、その後付いてきた言葉は、私をプロの世界の一員と認めてくれていて。
「ありっ、がとう、ございます……」
目からは勝手に涙が零れてきて、止めよう、止めなきゃって思っているのに、零れてしまって。
「まあ、本人がそんなに弱気なら無理かもしれんなぁ?」
「そんなこと、ないですっ」
「なら、全力でかかってき!咲!!」
お姉ちゃん、本当にいい人を選んだね。数年前の、恭子さんを知らない頃の私だったら惚れてたよ。この人だったら、安心。
「はいっ、怜さん!」
車は大阪への道を進んでいく。新たな決意と覚悟と友情を乗っけて。
「ところで咲ちゃん、その、相手って誰なん?」
「秘密ですー」
「えー、お義姉ちゃんに教えてくれてもええやん~」
「だ、誰がお義姉ちゃんですか!?」
「いやまあ、いずれそうなるんやし?なあ、教えてや~」
「だから前見てくださいって!!危ないですから!!」
と言うわけで、園城寺怜登場です。
個人的に照怜が好きなんです怜竜派の皆さん許してください怜竜も好きです。
また、大阪のプロチームの名前に、咲二次創作界でちょくちょく見かけたドミネーターズと言う名前を使わせて頂いております。公式、ではないと思うので、ダメな場合は一声かけて頂ければ、すぐに変更致します。
テスト前最後の投稿となりそうです。続きはテスト後。
また、この話はハーメルンのみの公開になりそうです。ストーリーで追う人にしかいらない気がしますからね……。
ではまた次回!