あなたと過ごす日常~末咲日和~   作:ganmodoki52

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ずるいあなたへ

 

 

 

 それは、突然の出来事だった。

 成人式も終わり、洋榎、由子の2人と記念に飲みに行ったとき、“それ”は突然発表された。

 インターハイチャンピオン、宮永咲の大阪ドミネーターズ加入。しかも、ドミネーターズ史上最高額での加入というのだから、地元大阪のメディアはお祭り騒ぎだ。

 そんな中、向かいの席に座っている洋榎は、面白くなさそうにテレビの画面を眺めていた。

 

「なあ恭子」

「んー?」

「これ、知っとったんか?」

「いや……」

 

 知っていた、と言えたらよかったのだが、私自身、今ここで初めて知った。プロになるだろうとは思っていたし、大学受験を考えてなさそうなのは、勉強を一切していなかったところからわかっていたが、まさか大阪に入るとは思っていなかった。連日ニュースでは、地元である佐久や、姉である宮永照が所属する東京がかなり好条件のオファーを出していると報道していたし。

 

「神戸もオファー出しとったって話やったんやけどな。まあ、敵なら敵でやりがいあるしええけど……」

「洋榎は自分が大阪に入れなかったから、うらやましいのよー」

「そんなんちゃうわ!!」

「まあ、これで大阪は後半戦の最注目株なのよー」

 

 前半戦3位で折り返した大阪が冬の補強でここまでの大物を獲得したとなると、もちろんファンは逆転での優勝を望む。逆に他のチームからしてみれば嫌な相手に獲物をかっさらわれた格好になる。5位につけている神戸からしてもそうなのだろう。

 心配なのは、大阪のファンはとても厳しいことで有名なことだ。活躍してる間は選手を手放しで称賛するのだが、少しでも負けが込み始めると手の平を返すかのように非難や怒号が襲ってくる。過去に様々な名選手が、もう一度戻りたいけど、二度と戻りたくないチームとして大阪を挙げているのがいい例だ。

 ――うまく馴染めるといいんやけど……。

 ドミネーターズに、咲が知っているであろう人物は一昨年の全日本で一緒だった園城寺くらいで、中心選手の藤白七実とか会ったことないだろうし……。

 

「なあ、これっていまだに変わってなかったんやな」

「人間そうそう変わらないのよー。大学でも咲ちゃんの話振ると大抵こうなるのよー」

「由子、苦労してんな……」

「もう流石に慣れたのよー」

「おーい、恭子、そろそろ戻ってきーや」

 

 洋榎に肩をつつかれたので、顔を上げると2人とも呆れたような顔をしている。どうやら5分ほど黙りこくって思考の海に潜ってしまったらしい。楽しい飲みの席で、悪いことをしたなと素直に思う。

 

「とりあえず、今は飲もうや!せっかくこうして3人集まったんやし」

「まあ、せやな」

「それじゃあ、とりあえず」

「「「かんぱーい!!」」」

 

 

 久しぶりに3人で飲んで、大学の話やプロの実情、真剣な話もしたし死ぬほどどうでもいい話も3人で笑いながら話した。高校を卒業して2年、なかなか集まれなかった事が嘘のように、あの時のように笑いあう。それはとても貴重で、温かかった。解散した今も、次の機会が楽しみで勝手に頬が緩む。飲んでいたお酒はすでにだいぶ体を巡り、程よい気持ちよさと眠気を催す。もう帰ったらお風呂は朝にして寝てしまおう。そんなことを考えながら部屋の鍵を開ける。

 ――あれ?なんか電気ついてへん?

 玄関からリビングを覗くとどうやら電気が点いている。出るときに切り忘れたかな?いやいや、そしたら実家に帰っていた2日前から点きっぱなしになっていたことになる。それは電気代を考えると非常にヤバい。

 

「あ、恭子さん!おかえりなさいっ」

 

 するとリビングからいるはずの無い―愛しい人―が、ぱたぱたと姿を現した。やっぱり調子に乗って飲み過ぎてしまったか、幻が見えている。

 

「寒かったでしょう?中温かくなってますから、早く入りましょ?」

 

 咲が私に向かって柔らかく微笑む。うん、これは夢やな!咲がこんなに愛想いいわけないし、ここにいるわけもない。ならばいい夢見てもいいだろう。

 靴を脱ぎ捨て、彼女の決してふくよかではない胸に飛び込み、体全身で咲の熱を感じる。

 

「ちょっ、どうしたんですか突然!?」

 

 ――少し強張ったな、緊張せんでもええのに。夢の中くらい、思い通りにさせてや。

 無い胸に顔をうずめて、思いっきり息を吸い込む。なんか変態みたいな気もするが、夢だしいいじゃないか。現実でこんなこと、恥ずかしくて死んでしまう。

 

「恭子さんっ、それ、恥ずかしいからっ」

「うーん、やっぱりちょっと固いよなぁ」

「……もしかしてケンカ売ってます?」

 

 あれ、口に出てたか。口に出したつもりはなかったんやで?

 

「でも、落ち着くし、一番好きや……」

 

 今度はあえて、しっかりと口に出す。あー恥ずかし。絶対現実じゃ言わん。でも、いつかは夢じゃなくて、ちゃんと咲の前で、目を見て言えるようになりたいな。そうなれる私にこれからなる。今日、そう決めたから。

 

 

 私に抱きついたまま、恭子さんは眠ってしまった。今はリビングで、私の膝の上で気持ち良さそうな顔をしている。かなりお酒を飲んでたみたいだから仕方ないか。

 入団会見を終えて、怜さんにここまで送ってもらって、恭子さんが帰ってくるのを待っていた。こんなこと勝手にしたら怒るかな?なんて思ったりもしたけど、そんなこと考えられる状態じゃなかったみたい。

 恭子さん、私の決断、どう思ったかな。何も相談しなかったこと、怒ってないといいけど……。でも、相談したらしたで「自分の将来なんやから、自分で決めな」なんて言うような気もする。好きな人との関わり方って、どうしても慎重になって、大胆に踏み込めなくて。難しい。

 だから、恭子さんが帰ってきて突然抱き着いてきたときは心臓が飛び出るかと思うくらいの衝撃だった。いや、抱き合うのが初めてなわけではない。私の誕生日の時も、年末の時も、とても嬉しくて。けど、今日は、さっきのは、何かあったわけでもないのに“あの”、普段は私と絶対にスキンシップを取りたがらない恭子さんが抱き着いてきたわけで。逆に緊張してしまった。

 ……まあ、確かに、私には胸は無いかもしれないけど。恭子さんは、あった方が好きなのかな……。ま、まあ、まだ成長するだろうし、うん、大丈夫。

 

「成長しなかったからって捨てたら許しませんからね」

 

 寝ていて、だらしなくなっている頬をつまんで引っ張る。あ、柔らかい。むにむにとしていてもまったく起きる気配がないので、しばらくむにむにしていることにした。

 

「ねえ、恭子さん」

 

 返事はない。

 

「ずるくないですか?自分だけ、言いたいこと言って、寝ちゃうなんて」

 

 そう、恭子さんはいつだってずるい。あの夏の日からずっとそう。私はいつも翻弄されてばっかり。だから、今だけは、反撃をするんだ。

 これから、ここで私たちの生活が始まる。今日をスタートにしてしまおう。明日あるはずの学校なんてどうでもいい。どうせもう帰れないしね。

 スタートのしるしとして、これを受け取ってください。

 

 ゆっくりと、ばれないように、唇と唇を重ねる。

 私にとっての初めてをあなたに捧げます。

 でも、あなたは寝ているから、気付けかない。これから先、もう初めてじゃないですよって言って、あなたを困らす、ほんのちょっとの反撃、効果がありますように。

 ああ、もう恥ずかしい。恭子さんをベッドに運んでしまおう。……もう一緒に寝ちゃおうかな。ああ、明日の恭子さんの反応が楽しみだなぁ。

 私もいい夢が見られますように。

 

 




1月も終わりますね。だんだんと作品への愛情が強くなってきていて、キャラへの愛も強くなるばかりです。もう少し投稿間隔を短くしたいものです。
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