Fate/Grand Order 私と彼女の物語   作:やまさんMK2

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エタるつもりは、とりあえずありません


第十四話 邪竜百年戦争 オルレアン 9

(たかがガント如きで、よくもまぁここまで執着しますね私も)

 

 邪竜の背に乗り、自嘲気味に魔女は――ジャンヌ・オルタは笑う。

 たった一発。頭に直撃したガント。ほんの少しの、軽く小石をぶつけられた程度の物でしかなかったというのに、酷く執着をしているものだと思う。

 わざわざサーヴァントを召喚し、自軍最強戦力たる邪竜すら引き連れて自ら仕返しに出向くなど、自分でも随分とおかしい真似をしていると感じている。

 

(まぁ、良いでしょう。特に問題があるわけでもありませんし)

 

 自分のこの行動は大勢に影響はない。これだけの戦力を揃えて負ける事などあり得ず、仮にサーヴァント二騎を失ったとしても邪竜の一息で全て消し飛ばせば問題は無い。

 唯一の懸念材料と言えるのはあの忌々しい聖女と竜殺し。どちらも戦力としては現状脅威ではなく、後者に至っては半死半生の状態だと聞く。今までの戦いで、どちらもそこそこ戦えてはいたが……さほど脅威とは言えないレベルだと判断する。ある程度の損害を被る可能性はあるにはあるだろうが、万が一があったとしても、こちらの敗北だけはあり得ない。

 

「まぁ、それでも……念には念を入れましょうか」

 

 ルーラークラスの特権にして、マスターの証たる令呪に魔力を走らせる。

 背中に刻まれた令呪のうち二角。今回召喚した二騎の物を使用し、絶対命令権を行使。

 

「令呪を持って、我が手駒(サーヴァント)に命じます。先行し、あの小娘……敵のマスターを生きたまま私の下に連れてきなさい。生きてさえいれば、手足の一本ぐらい落としても構いません。それと……他の連中は好きにしなさい」

 

 使用された令呪が消失し、邪竜が引き連れるワイバーンの背にいた二騎の姿も消滅。

 目的地へと瞬間移動した事を確認し、未だ視界にすら入らぬ目的地。モリュンソンにいる敵の姿を、あのマスターの少女を思い浮かべる。

 自分の残りカスたる聖女すら、ここまで執着は覚えていない。初めて内から湧き出る子の感情に、身を任せる事に一切の不満も不審も無く、魔女は笑う。

 

「さぁ、勝ち目が無いなら無いなりに足掻いてみせてね? マスターちゃん」

 

 脳裏に楓の怯え、泣き叫ぶ様を思い浮かべながら、竜の魔女は一足早い勝利の美酒に酔いしれるのだった。

 

 

 

 用意された個室で、ジャンヌとゲオルギウスによる解呪を受けていたジークフリードがその気配に気づいたのは、当然の事であった。

 街に近づいてくる異様なまでに巨大で、禍々しい魔力。何度生まれ変わろうとも、決して忘れる事はない。例え英霊として呼ばれる事が無くなり、座からも消え失せようとも記憶に残り続けるであろう生涯のトラウマと言っても過言ではない相手の気配。こればかりは、例えルーラーの感知機能が十全に機能していたとしても、自分の方が早く気付くだろう。

 

「二人とも、不味い事になった」

 

 その言葉に二人の聖者が顔をあげる。

 

「奴が……邪竜が来る!」

 

 そして、ようやく理解する。自分がこの地に呼ばれたのは、かの邪竜ファヴニールへのカウンターとしてなのだと。

 

「邪竜……っ!? これは!?」

 

 ジークフリードの警告と共に、ジャンヌの探知能力にも複数の気配が引っかかった。それも街の中に。

 楓との契約前ならまだしも、今の自分ならば例え霊体化したサーヴァントであっても、少なくても街中に侵入される前に気付けたはず。それなのに気付けなかった。というよりも、急にふっと湧いて出たかのような気配を現れ方。それが令呪による物だろうと確信するのに、時間はそう掛からなかった。

 

「こんな間近に来るまで気付かないなんて……っ!?」

 

 ジークフリードの解呪に全神経を向けていた等、言い訳にならない程の失態。

 彼女が己を叱責するよりも早く、丁度この部屋の真下に位置する正面の入り口が吹き飛ばされた。

 

 

 

 振り下ろされる巨大な刃を、マリーが生み出した水晶の盾が受け止める。その重量を持って、力任せに食い込んだ刃に砕かれながらも、盾は果たすべき役割をこなしている。

 

「----ッ!」

 

 マリーが右手の指に嵌めている薔薇を模した指輪に何かを呟き、それを振るうとサンソンを魔力の爆発が襲った。これが彼女の戦い方かと、思っていた以上に派手な戦法に呆気に取られる楓の前に現れるのは、これもまたマリーが造り出した水晶の馬であった。

 

「乗って!」

「う、うん!」

 

 マリーの手を取り、彼女にしがみつくように馬に跨ると馬は城壁を蹴って街の中へ。

 自分ではサンソンに勝つ事は難しい。いや、九割負けると確信している。サーヴァントとはどこまで行っても一度死した存在。それ故に、自らの死因やそれに連なるモノは弱点となりえる。そして、マリーをギロチンで処刑した人物であるサンソンともなれば、存在そのものが彼女にとって弱点同然と言えるだろう。

 

「とにかく一旦逃げて、皆と……っ!」

「逃がすと思ってるのかい?」

 

 二人を追い、城壁から飛び降りてきたサンソンの刃が振り下ろされる。咄嗟に馬の後ろ足を蹴り上げ、それを受け止めるがバランスを崩して二人は落馬。返す刃で水晶の馬を両断したサンソンは、片腕で身の丈ほどもあるそれを振り上げ。

 

「ちょこまか動けなくしておこうか」

 

 楓の足目掛け、何の躊躇いもなく振り下ろす。少女の足を落とさんとするギロチンの刃。それを阻むのは複数展開された水晶の盾。数を用意する為にサイズも小さく、一つ一つも簡単に砕かれるほどに脆いが、それでも楓がその場を離脱する時間を稼ぐには十分。

 

「マリー……そんなに僕の邪魔をしなくても。君の相手は後で存分にしてあげるんだけどね」

「そう言われても、彼女をやらせるわけにはいかないもの!」

 

 絶えず水晶の盾を生み出し、サンソンの行動を妨害するマリー。得物の大きさ故、攻撃は大振りなのが幸いし、マリーでもどうにか防ぎきれる。だが、それでも何時まで持つかは解らない。決して戦闘が得意ではないマリーにとって、例え防戦であっても一対一の戦いその物が避けるべき状況なのだ。

 

(楓だけでも先に逃がすべき? それとも……っ!)

 

 皆がいる役所までは少しばかり距離があるが、それでも悲鳴混じりの喧騒や派手な破壊音が聞こえてくる。あちらにも敵襲があったのだろう。だとすれば、敵は複数。サンソン以外の敵サーヴァントがこの街に潜んでいる可能性もある。ならば、楓一人を行動させるのは悪手でしか無いだろう。かといって、自分一人で彼女を守りきれるかと言われれば……。

 

「まぁ、いいさ。そんなに僕の相手をしたいというのなっ!?」

 

 水晶の盾を全て砕き、サンソンが凶刃をマリー目掛け振るわれようとした時に一発のガントが彼の顔面に直撃。倒れるまではいかずとも、動きを一瞬止めるには十分。その隙にマリーの水晶が今度は盾ではなく、いくつもの柱のように聳え立ってサンソンの身動きを封印した。

 

「今のうちに!」

「えぇ! ありがとう、楓!」

 

 咄嗟に放ったガントが役に立った。内心でガッツポーズを決めながら、楓はマリーを連れ立って一気に道を駆け抜ける。後はマシュ達と合流すれば、反撃に転じる事も出来る。

 城壁の上から遠目に確認できた巨大な竜。あんなのに襲われればこんな街なんて、一瞬で跡形もなくなるだろう。それに加え、街に忍び込んでいる敵サーヴァントへの撃退も必須。果たして勝てるのかと不安がよぎり……頭を左右に振って、それを無理矢理追い出す。

 

(何時までも弱気でいちゃ駄目だ!)

 

 こんな風だから、何時まで経っても駄目なままなのだ。いい加減に少しでも前向きな事を考え、実行してみせろと自分に言い聞かせる。

 とはいえ、すぐに良い考えなど思いつくはずもない。とりあえずマシュ達と合流して、後の事はそれから。目の前の事を一つ一つ片付けていくしかないんだと、何度も何度も脳内で復唱していると、真横に建つ家屋の壁が吹き飛び、衝撃がマリー諸共に襲い掛かる。

 

「「きゃぁあっ!?」」

 

 地面に倒れ、痛みに呻く楓。吹き飛んだ瓦礫と、同じく倒れ伏して呻くマリーを視界の片隅に収め、その奥からゆっくりと迫りくるサンソンの姿を認める。

 

(や、ば……っ!?)

 

 早くマリーと共にこの場を離れなければ。痛みが走る手足に力を込めようとして……壁を吹き飛ばした何者かの影が土煙の中より現れ、楓の腹を踏みつけた。

 

「がっ!?」

「楓! うあぁっ!」

 

 マリーが咄嗟に飛び掛かるも、楓を踏みつけた何者か……全身を漆黒の鎧と靄で包み込んだサーヴァントの腕の一振りであえなく吹き飛ばされ、壁に叩き付けられた。そのまま、彼女を一瞥もせずサーヴァントは楓から足を離し、代わりに首を掴んで持ち上げる。

 

「あっ……う、ぐぁ……っ!?」

 

 片腕で首を掴まれ、宙吊りの体制となる楓。足をばたつかせ、サーヴァントの腕を振り解こうと必死に何度もたたき、指を引きはがさんとするもビクともしない。首を、気道を締められ困難になる呼吸。苦悶の表情を浮かべ、必死にもがく少女に対し、サーヴァントは兜の奥から低い唸り声をあげるだけで、特別な関心を示す様子はなく、無機質に締め落さんとしているようでもあった。

 

(く、るし……っ! 誰か……た、すけ……)

 

 ぼやけていく視界の中で、サーヴァントの周囲に魔力の光が放出され始める。

 それが何らかの魔術行使による転移の兆しだと、楓が知る由もない。光が強まっていく最中、視界の片隅でこちらに駆け寄ってくる一人の、見慣れた少女の姿があった。

 

「マスタァーッ!」

 

 地面が陥没する程に踏み抜き、一気に跳び込んできたマシュの盾が鎧のサーヴァントを殴りつける。派手に地面を転がる敵を油断なく睨みつけながら、マシュは楓のすぐ傍へ着地する。

 

「ご無事ですか、マスター!」

「えほっ、げほっ……な、なんとか。ありがと、マシュ」

 

 その場で膝をつき、息を整える楓。とりあえず目立った怪我も無さそうな様子にホッと胸をなでおろし、横目でふらふらと立ち上がるマリーを見やる。

 

「マリーさんもご無事で」

「えぇ、なんとか……ごめんなさい。私がついていながら」

「いえ、こちらも不意を突かれて……っ!?」

 

 視界の外より、不意に飛び出してきた影……サンソンの一撃を盾で受け止め弾く。

 不安定な体制ながらもどうにか踏ん張り、弾き飛ばしたサンソンの身体は空中でコートを翻し、音もなく着地する。

 

「応援が間に合ってしまったか……やれやれ。我々二騎だけでやれると踏んだマスターがそちらの戦力を侮っていた……いや、僕達の不手際かな」

 

 整った顔立ちには不釣り合いの獰猛な笑みを浮かべ、サンソンは得物たる剣を持ち上げる。

 その横には、転移がキャンセルされたらしい鎧のサーヴァントが唸り声をあげながら並び立っていた。

 

「だが、君一人増えたところでどうにでもなる」

「一人な訳、無いでしょう」

 

 呆れたような、小馬鹿にするような声と共にサンソンと鎧のサーヴァントの周囲に魔力の弾丸が降り注ぐ。見れば、屋根の上には霊体化を解除したメディアの姿がある。

 容赦なく降り注ぐ魔力の弾丸に対し、遠距離攻撃を一切持たぬサンソンは反撃できない。だが、ここにいる敵は二騎。鎧のサーヴァントが地面を蹴り、壁を蹴ってメディアの立つ屋根の上へ一瞬で到達し、腕を振り上げる。直接戦闘が不得手である彼女には、どうやっても反応できない速度と位置から、確実に彼女を仕留めんとする一撃を放とうとした彼は、横合いから突撃してきた何かによって、地面に逆戻りとあいなった。

 

 

「飛び出し注意だよ~!」

 

 能天気で明るい声と共に、鎧のサーヴァントに突撃を仕掛けた張本人たるアストルフォがヒポグリフに跨ってバイバ~イと手を振って、地面に落下していく鎧を見送る。しかし、サーヴァントは唸りをあげながら体を器用に捻って体制を立て直し、両手足をついて見事な着地をしてみせた。

 

「Aaaaa……」

「えぇ!? 絶対頭から落ちると思ったのにぃ!?」

「あの品の無い唸り声はバーサーカーで間違いないと思うのだけど……随分と芸達者ね」

 

 感心したようなメディアの声を背に、アストルフォはヒポグリフを消して地面に降下。

 

「マスター、遅れてごめん!」

 

 背中越しに楓へウインクし、マシュと共にバーサーカーの相手を買って出るとばかりに愛用の槍を手の中に実体化させる。次々と現れる増援に苛立ち混じりの舌打ちをするサンソン。それを見越したかのように、突如として彼に声が書けられた。

 

「いやはや、注意力無さすぎでしょ。気配遮断スキルを持たないボクらの接近すら見逃すんだしさ」

「……っ!?」

 

 おどけたような、戦場には不釣り合いの声が路地の奥から聞こえてくる。それに反応し、表情を強張らせたサンソンは声のした方へと顔を向ける。

 

「アマデウス……ッ!」

「よぉ、サンソン。久しぶり。何時以来だっけ? まぁ、そんな事どうでもいいか」

 

 怒りに顔を強張らせるサンソンとは対照的に、久しぶりに知人に会ったので挨拶してみた的なそぶりを返すアマデウス。一目見ても穏やかではない、剥き出しの殺意を受けながらも飄々としたまま、視線だけ動かして壁を支えに立ち上がるマリーへ声をかける。

 

「マリーもお疲れ。不慣れな戦闘で活躍する君も中々格好良かったよ」

「全く、見てたのならもうちょっと早く助けにくるべきじゃない? あなた、サーヴァントになってから悪趣味が酷くなってなくて?」

「はっはっはっ! 流石にそれは誤解だ。ボクは自他ともに認める人間の屑で変態だが、死ぬ前も後もリョナは趣味じゃないよ」

 

 中々に酷い内容の、この張り詰めた緊張感と街の外から聞こえ始めた爆音の響く中でするには不釣り合いとしかいえない緩い言葉の応酬。サンソンの、傍から見ているだけでもゾっとするほどの眼光に射抜かれながらも、普段の不真面目な態度を一切崩さないアマデウスは凄いと、今更ながらに楓は思った。

 

「そういうのは、ついさっきまで君と楓の尻を追っかけまわしてたサンソン君の方が好きっぽくない?」

「何の話だか解らないが……とりあえず酷く侮辱されたというのは理解したよ」

「侮辱じゃなくて真実だろ? ついさっきまで女二人の尻追いかけてハァハァしてたのはどこの誰だよ」

 

 そして楓は理解する。何だかんだ普段の態度は崩していないが、アマデウスも内心かなりキレているんだろうなと。自分の事はともかく、普段から仲良くしているマリーを襲い痛めつけようとした事に。

 

「マスター、何時まで呆けてるつもり?」

 

 音もなく、楓の隣にメディアが降り立つ。

 

「残りの面子は街の外へ向かって……もう戦闘が始まってるみたいね。ゲオルギウスとジークフリートは住民の避難を手伝ってるけど、あなたはどうする?」

 

 簡潔に情報だけ伝えて、メディアは口を閉ざした。この内と外を同時に攻め込まれた最悪の状況で、マスターとしてどう動くつもりなのかはお前が決めろと。サーヴァントとして必要以上の口は出す気は無いという事のようだ。あるいは、いい加減この辺で見切りをつける腹積もりもあるのか、と一瞬浮かばなくも無かったが、そんな考えは即座に捨て去った。

 

(しっかりしろ、私!)

 

 両方の頬をパンっと叩き、少しわざとらしく息を大きく吐いて、状況を整理する。

 外にいる敵は、城壁の上から少し見えた巨大な竜。それとワイバーンの群れといったところだろうか。中にいる敵はサーヴァント二騎。この場にいる面子だけでどうにか抑え込めるのか一瞬不安が過って……。

 

『マスター……楓! 聞こえますか!?』

 

 脳内に直接届いたジャンヌの声に、ハッと我に返る。

 念話で街の外にいるジャンヌがこちらに語り掛けてきたのだ。声が遠く、やや聞き取りづらいのは、単純に距離のせいかそれとも自分の魔術的な素養の無さのせいか、恐らく両方だろう。

 

「う、うん! 聞こえる!」

『楓!? っ……返事が無いので、聞こえているという前提で話します!』

 

 どうやら、こっちの声は届いていないようだった。

 

『街の外に、竜の魔女と多数の敵がいますが……こちらは私達でどうにか食い止めます。楓、あなたは、やるべきだと思う事に集中してください。大丈夫、こちらは……っ!?』

 

 そうして、ジャンヌの言葉は聞こえなくなった。念話を止めたのか、中断せざるを得なくなったのか。あちらの状況がとてつもなく不安だが、そんな物を吐き捨てるようにわざとらしく大きく息を吐いた。

 

「私達は……先にこっちを全力で片付ける! その後、街の外で戦ってるジャンヌ達を助けに行く! 皆、それでいい!?」

「はい!」

「オッケー!」

「……良いわ。従ってあげる」

 

 今の自分がやるべき事。と言われても、正直よく解っていなかったりもするのだが、それなら余計な事を考えず、目の前の事を一つ一つ片付ける事に全力を傾ける方がマシのはずだ。あっちもこっちもなんて器用な真似は、どうせ出来ない。駄目なマスターなら、駄目なりに全力を持ってぶつかるだけなのだ。

 

「よぉし! そういう事だから、さっさとやっつけさせてもらうよ!」

 

 バーサーカーに槍を突きつけ、アストルフォが吠える。

 役所でのんびりしている処に奇襲を受けるという、敵の接近に気付かなかった間抜けは自分の不注意。そのせいで、役所に詰めていた兵達に多少の犠牲が出た事も自分のせいではあるだろうが、それはそれで実行犯たるバーサーカーに対し、所謂落とし前を付けさせない事にはどうにも腹の虫が修まらない。

 

「Guuuu……ッ!」

 

 そんなアストルフォの感情を知ってか知らずか、バーサーカーも彼を敵と認識。してはいるのだが、あくまでも狙いは楓という事か。完全に兜に覆われ、表情を窺えないながらも、視界の済で常に楓を捉え、チャンスを虎視眈々と伺っているのは明白だった。

 彼らと背中合わせになる形で向かい合うアマデウスとサンソンも、似たような状況であった。

 

「よぉし、あっちでアストルフォが格好良く啖呵を切ったところでボクも続こう。本来なら勘弁願いたいところだが、特別にボクの尻を追いかける事を許そうじゃないか」

「誰が……っ!」

 

 アマデウスの挑発にのり、大剣を振るうサンソン。その行動に対し、アマデウスの奏でる音が魔術となり、サンソンの動きを的確に妨害。大したダメージは与えられないが、そんな事はどうでも良いし、別に一対一で倒す事なんかに拘るような誇り高い戦士でもない。

 

「がぅっ!?」

 

 サンソンの腹部に抉り込むようにして撃ち込まれた魔力の弾丸。アマデウスの数歩後方、無造作に右手を持ち上げたメディアが、隙ありとばかりに撃ち込んだものだ。

 

「あれ? もしかして、こっちを手伝ってくれるのかい? 君はあっちに行くと思ったんだけど」

 

 本音を言えば、マリーが来るのかなと思っていたりしたのだが。なんてアマデウスの心の声なんて知った事かと、メディアは淡々とした言葉と共に魔術を展開していく。

 

「弱い方から先に片付ける方が合理的でしょ?」

 

 メディアとて、戦闘がそこまで得手という訳ではないがバーサーカーの身のこなしを見れば、あちらの方がサンソンより数段格上の英霊である事は理解できる。正直、マシュとアストルフォだけでは厳しく、この場にいる全員でかかった方が確実だ。かといって、サンソンをアマデウスだけで抑えきれる筈もない。ならばと、適当にマシュ達に支援魔術によるバフをかけた上でこちらに回る事にした。

 

「そういう事なら頼らせてもらおう。マリー、君はマシュ達の手伝いを頼む。流石に君じゃ相手が悪すぎる」

「…………そう、ね。解ったわ」

 

 少し不満気に、自分を納得させるように言葉を吐き出して、マリーは背を向ける。当然ながらというべきか、彼女に執着するサンソンはそれを追おうとするも、すぐ様に二人のキャスターがそれを妨害する。

 

「ぐっ……邪魔をっ!」

「生憎。君の邪魔をするのがボク達の役目でね。そのまま倒されてくれると、ボクとしては嬉しいんだけど」

 

 

 

 

 バーサーカーは強敵だと、その熾烈な攻撃を盾で必死に受け止めながらマシュは実感する。武器を持たず徒手空拳で襲い来るバーサーカー。その拳を幾度となく受け止める度に、盾を支える細腕が悲鳴をあげる。いくら鎧で全身を覆っているとはいえ、拳のみでこの盾を打ち破らんとする一撃は鋭く、速い。

 

「でぇりゃぁあああ!」

 

 マシュを狙うバーサーカーの横っ面目掛けて、アストルフォの槍が突き出される。その刺突を難なく躱し、そこを狙って振るわれるマシュの盾すら見事に躱して見せたバーサーカーの両手が二人の頭を掴み、力任せに地面へと叩き付ける。

 

「Uaaaa……ッ!」

 

 二人を地面に押し倒し、すぐ様にバーサーカーは顔を上げて楓へと狙いを定める。マスターたる竜の魔女により命じられた役目を果たさんと、地面を蹴って楓を取り押さえんとする。だが、それは突如としてせり上がる水晶の壁により防がれた。

 

「Gaa!」

 

 その程度がどうしたと、一秒持たずに粉砕してみせたバーサーカーは壁の向こう。楓を守るようにその前に立つマリーなど眼前を飛び回る羽虫のように叩き潰さんと拳を振り上げて―――地面と空がひっくり返った。

 

「足元注意だよ!」

 

 後頭部から思いっきり地面に叩き付けられ、一瞬意識を手放しながらも立ち上がったアストルフォの槍。触れれば転倒(トラップ・オブ・アルガリア)が、バーサーカーの足先に触れ、その名の通り転倒させてみせたのだ。正確に言えば、バーサーカーの膝から下が霊体化している。無論、バーサーカーの意思ではなく、アストルフォの宝具たる触れれば転倒(トラップ・オブ・アルガリア)による強制的な物。殺傷力はほぼ無い槍ではあるが、槍が触れた相手を強制的に転倒させるというその効果は、非常に有用である。それをサーヴァントに用いれば膝から下を強制的に霊体化させるという、直接的なダメージを与えるよりも厄介な状態に陥らせてしまえるのだ。

 

「やぁああっ!」

 

 そうして、強制的に転倒させられて宙に浮く形となったバーサーカーの横っ腹を、マシュの細身の体からは想像もつかない程の勢いで振り回わされた盾が豪快に叩き付け、文字通り吹っ飛ばす。受け身なども当然とれず、されるがままに吹き飛んでいったバーサーカーはレンガ造りの住居の壁を粉砕し、そのまま反対側の壁からも飛び出していった。これで少しは時間が稼げる筈。となれば、全員でサンソンを一騎に仕留めに掛かるべきかと楓が一瞬迷ったのを察知したのか、即座にメディアの声が飛んでくる。

 

「マスター。こっちは私達だけで十分よ。バーサーカーを確実に仕留めなさい」

「っ……解った! そっちお願い!」

 

 メディアの言葉に一瞬詰まりながらも、楓は力強く返答して、マシュ達と共にバーサーカーを追う。その様子を見やり、メディアはほんの少しだけ満足げに鼻を鳴らす。

 

「全く……ちょっとは見所出てきたと思ったらこれだものね」

「おや? なんだかんだと入れ込んでるねぇ。やはり、君も弟子は可愛いって事かな?」

「あら? 何の事かしら?」

 

 アマデウスの揶揄うような言葉を無視するその声は、一切の感情を読ませない物だった。

 

 

 

 壁の崩れた住居をマシュ達より一息遅く走り抜けた楓の視界に飛び込むのは、様々な店が点在する街のメインストリートであろう大通りの中央で唸り声を立てながらこちらを睨むバーサーカーであった。見た目だけではダメージはさほど見受けられず、アストルフォの槍で霊体化させられた足も今は回復している。

 

「Aaaaaaa……ッ!」

 

 そして、違っているのは全身を覆ってる靄が完全になくなって、その身を包む漆黒の鎧の全容が明らかになった事と、右手に一本の剣が握られている事だ。あの靄が、剣に姿を変えたのか。そういうスキルか、もしかして宝具なのだろうか。どっちにしろ、今まで素手だった強敵が武器を持ったのだから相当に厄介に違いないと、楓は怖気が走るのを感じた。

 

(ガントは……使えるようになるまでもうちょっとかかる。なら、あとは……)

 

 どういう命令なら上手く使えるのか、未だによく理解できない令呪も含め、脳内で今自分がマシュ達に行える支援の方法はないかと、必死に頭を巡らせる。

 その一方で、正面にバーサーカーを見据えるマシュは奇妙な感覚に囚われていた。

 

(あのサーヴァント……どこかで、見覚え、が……?)

 

 そんな筈はない。冬木で出会った英霊達にあんな姿の者はおらず、それ以前に出会った英霊といえば、自分に力を与えてくれた真明不明の彼のみ。もしや、あのバーサーカーは彼と関わりのある者なのだろうか。マシュの視線に気づいたのか、バーサーカーもあらためて彼女の姿を見やり、静かに首を傾げた。

 

「……Gya………had……?」

「……え?」

「Uaaaaaaaa!」

 

 ほんの一瞬、バーサーカーの狂化が掻き消えたかのような冷静で穏やかな声が聞こえたようなと思った刹那に、狂戦士は吠えて剣を振り上げる。マシュはギリギリ反応を間に合わせ、その斬撃を盾で受け止める。甲高い激突音が、街中に響き渡った。

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