Fate/Grand Order 私と彼女の物語 作:やまさんMK2
終章クリア→年末アニメと来てモチベと受信した電波の赴くままに書き散らかしました
こんなのですが、読んでいただけると幸いでございます
追伸:一部修正しました
カルデア中央管制室が爆破される数十分前。
ミーティングルームに集められた世界各国の魔術師。その中からも優秀な、サーヴァントのマスターになりえる資質を持つ若者達が集められていた。
数合わせの為に集められた一般枠も含めて四十八名。それぞれが様々な思惑で集まり、これから告げられる重要任務。その内容に憤慨していた。
カルデア所長、オルガマリー・アニムスフィアの口から告げられたのは確定した人類の滅亡と言う未来。
それを防ぐ為に現在とは異なる時間軸、異なる位相への移動を可能とする
自分達はその為に集められた道具であり、命令には絶対服従なのだと。
「命令に従えないのなら結構! 即刻、カルデアから退去して頂戴! 最も、その場合は関係各所からの正式の依頼をそちらが一方的に断ったという形になるけれど」
魔術師と言うのは色々と面倒くさい。血筋だの、長く続いた歴史等を何よりも重要視する上に例外なくプライドが高い。
オルガマリーもその魔術師であり、この程度の反発がある事は予測していた。それを踏まえ、最も信頼するカルデアの技師でもある魔術師、レフ・ライノールと入念に打ち合わせた。
どうすれば反発を抑え込めるか。いかにこの話を蹴る事が自分達にとっての不利益になるか解らせれば良いのかと。
この場合、魔術協会を初めとした魔術師ならば嫌でも世話になる機関にも正式に協力を要請していた為、こういう脅しじみた方法も取れるという訳だ。
(ホント、魔術師って面倒くさいけど解りやすいわよね)
論理的というか損得勘定で動く者が多いというのも、彼女個人はあまり好ましいと思わないが今回に限っては有り難く感じていた。
同じ魔術師である自分が、基本的な価値観とも言えるその辺りの思考を好きになれないというのも変な話だなと思う。
ともかく、今は計画の遂行こそが最重要。人類の滅亡なんて冗談みたいな未来を変えなければならないのだから。
そう決意を新たにすると共に、それをぶち壊す鼾が聞こえてきた。
「……は?」
見れば最奥の席の隅に座っている赤みがかった茶髪の少女が、人目も憚らず眠りこけているではないか。
手首のツールでデータを確認。一般枠の最後の一人、霧生楓。魔術回路を開いたのはつい最近、マスター適正が認められたから呼ばれただけのただの少女。
特に背負う物も無いからか、日本からという長旅と入館直後にやらされるテストのせいで疲労が溜まっていたのか、いくらか理由は考えられる。
だが、よりにもよってこんな大事な日に、しかも自分が説明してる最中に居眠りを堂々とされるなんて。
「……………」
オルガマリーによる霧生楓の強制退出まで、十秒掛からなかった。
こういう経緯もあって、オルガマリーから見れば楓の印象は最悪なのである。
時は戻り、廃墟の街にて。
「成程ね……そっちの経緯は理解したわ」
マシュから説明を受け、オルガマリーは頷く。
個人的に納得出来ない部分もあったが、とりあえずマシュと楓の二人がここにいる理由は理解できた。
何故と言う疑問は尽きないが、今更になってカルデアで長年行われていたデミ・サーヴァントの実験が成功したのは不幸中の幸いと言うべきだろう。
マスターがよりにもよって世界各国から集めたエリートでは無く一般枠の、居眠りしていたあの少女というのは気に入らないがこの際構わない。
「とりあえず、ロマニが指定したポイントまであと少しなんでしょ? さっさと行くわよ」
彼女の一言で移動を開始する。目的地までの道中、何処からともなく現れてくる骸骨の群れに何度か襲われたが大した脅威では無かった。
まず、同行してくれているキャスターが圧倒的に強いのだ。彼が一発でも魔術を放てば、それで数体以上はまとめて葬れる。
骸骨程度ならばマシュ一人で一掃可能なところにキャスターが加われば、それこそ戦いと言うか蹂躙しているという表現が正しい。
更に、万が一にでも二人が撃ち漏らせば即座にオルガマリーが魔術を行使して援護に入る。まさに完璧な布陣と呼べるのではないか。
(私だけ、何も出来ないけどね……)
楓は、疎外感を感じながらもそんな事を思った。
簡単な魔術すら礼装に頼りきりの彼女がこの面子の中で出来る事は、とりあえず後方に下がって死なないようにするぐらいである。
足を引っ張る事になれば、それこそ申し訳ないのだから。
「……はぁ」
「どうした、嬢ちゃん? 元気ねぇな」
気がつけばキャスターが隣に立っていた。
オルガマリーと一緒に姿を見せた彼は、彼女がここで召喚したサーヴァントでは無く最初からこの街で呼ばれていたそうだ。
マシュ曰くこの街、年代は2004年の冬木市では聖杯戦争という儀式が執り行われていたのだという。
七人の魔術師がそれぞれ異なる七騎のサーヴァントを召喚。最後の一人になるまで戦い、勝ち残った物には万能の願望機たる聖杯が与えられるという儀式だ。
キャスターはその聖杯戦争の為に呼ばれた一騎で、楓達を襲ったランサーとは別のサーヴァントに襲撃されていたオルガマリーを助け、そのままなし崩し的に行動を共にしていたそうだ。
道中、軽く会話した限りではとても人懐っこいというか、親しみやすい性格をしているなという印象を楓は持っていた。
「いや、私は本格的に何も出来ないなぁって……」
「あぁ、そういや何もしてねぇな」
「今の面子だと私一人だけ役立たずで……なんだか情けないっていうか」
礼装に刻まれた魔術は一度使うと暫く使用不可能。効果も緊急回避以外は使わないよりマシレベルの効力しか得られない。
そして、今はマシュだけでは無くキャスターやオルガマリーまでいるのだから使う必要性を全く感じない。
単にマシュへ魔力を送ってるだけ。一応はマスターという事になっているが、ここまで何も出来ないと情けなさ過ぎて恥ずかしい。
「まぁ、無理もねぇさ。嬢ちゃんは魔術師でも何でもねぇんだろ?」
「はい……ついこの間までどこにでもいる女子高生でした」
「なら無理すんな。自分が今は何も出来ねぇって理解してるだけ上出来ってもんだよ」
一番性質が悪いのは役立たずでは無い。自分は何も出来ないのだと理解せず、無駄にやる気だけ見せて無茶な行動に走る奴なのだとキャスターは続ける。
「でも、なんだかマシュに悪いっていうか……私を守る為に戦ってくれてるのに、見てるだけしか出来ないのって……」
先頭を歩くマシュへ視線を向ける。
戦いが終わるたびに自分に怪我が無いか気遣ってくれるのは嬉しいけれど、その度に彼女への罪悪感が増してくるのだ。
命懸けで守ってくれているのに、自分はそれを見ている事しか出来ないというのが情けなく、そして悔しい。
「ふぅん……ま、合格ってとこか」
「……はい?」
「嬢ちゃんは良いマスターになれるって事さ。少なくとも、俺が知ってる範囲内での話だがな」
人懐っこい笑みを浮かべて、キャスターは楓の肩を叩く。
「そうやって、自分の無力さを理解してるのは良い事だ。令呪も無駄に使おうとしてないしな」
サーヴァントに入れ込みすぎるのもどうかと思うが、盾の嬢ちゃんはまた別かねと呟くキャスター。
生身の人間にサーヴァントの力が宿った変則的な存在なのだから、どこまで行っても所詮は幽霊同然なサーヴァントとはまた別だろう。
「いいか、いつかお前にも何か出来る時は来る。それを待って、それがいつかをちゃんと見極めな」
「いつかって……それまで見てろって事?」
「そういう事だ。見てる事しか出来ないなら、ちゃんと見ててやりな。盾の嬢ちゃんは、お前の為に戦ってくれてんだろ?」
ランサーとの戦いでは、それがちゃんと出来ていたじゃないかとはあえて言わない。
ここまで言えば解ってる筈だとキャスターは確信したし、楓の眼の色を見ればそれは間違いないと思えた。
魔術師として優秀であるかどうかと、マスターとして優秀かどうかはまた別。大抵の魔術師はサーヴァントに対して親身になんてなりはしない。
楓とマシュは出会いからして普通のサーヴァントとマスターのそれとは違っていたようだが、それは些細な事だ。
「フォフォウ」
楓の肩に乗っていたフォウも、キャスターの意見に同意するように喉を鳴らす。
「そっか……それもそうかな」
「先輩? どうかしたのですか?」
キャスターとの会話が気になったのか、マシュが近寄って話しかけてくる。
楓は軽く息を吐いてから、笑顔で応えた。
「別に。マシュには感謝しなきゃねって話してただけ」
「感謝、ですか……?」
「そう。ありがとね、マシュ」
「……特別感謝されるような覚えはないと思いますが、どういたしまして」
頬を少し赤らめるマシュに、楓も笑みで返す。
根本的解決になったかどうかはともかく、少しは気が楽になっただろうとキャスターも鼻を鳴らして思う。
(俺も、たまには良いマスターに引き当ててもらいたいもんだねぇ)
あり得ないぐらい激辛の麻婆豆腐とか食わせようとしないマスターなら、なお良い。
「ちょっとアナタ達! 霊脈まですぐそこなんだから、さっさと来なさいよ!」
あのヒステリーな面が無ければ、あっちの嬢ちゃんも悪くないんだけどなとオルガマリーを見ながらキャスターは思う。
だが、それを口にする事は決してない。
それは何よりも、彼女を傷つける事だろうから。
オルガマリーの指示に従い、マシュは盾を地面に突き立てる。
到達した霊脈のポイント。地面の下を流れるマナへと盾を媒体に介入し、魔法陣が発動。
一瞬だけ青白い光に包まれたかと思えば、盾を中心にしたサークルの展開が完了した。
「カルデアにあった召喚実験場にそっくりです……」
マシュのそんな呟きが聞こえてくるのと、楓の端末に通信コールが響くのは同時であった。
指で端末を操作すれば、立体映像で映し出されるロマニの姿。人の良さを絵に描いたような彼の顔を見ると、なんだか酷く安心出来た。
『無事にサークルを設置出来たんだね。良かった、最後まで伝えられたか心配で』
「ロマニ! 何であなたがその席に座ってるのよ!?」
『って所長!? なんでそこに!?』
「私もマシュや霧生と同じ、偶発的にレイシフトに巻き込まれたみたいね。そんな事よりもね!」
約一名、物凄い剣幕で怒鳴りつけているが。
「ねぇ、マシュ。所長とドクターって、仲悪いの?」
「いえ、そんな事は無いかと。むしろ、ドクターと険悪な関係の人を探す方が難しいです」
つまり、ロマニは本当に人が良いという事なのだろう。
カルデア勤めの長いマシュが言うのだから、間違いない。
「そんな……レフが……?」
『爆発の中心部にいたので……生存は絶望的かと。所長達が生き残っていたのだって奇跡のようなものですし……』
二人の会話に出てくるレフという名前には楓も覚えがある。カルデアに来た時、マシュに次いで出会った中年の男性がそういう名前だったはずだ。
なんだか人の良さそうな笑顔を――良すぎて逆に胡散臭く見えなくも無かったが――浮かべていたが、あの人も死んでしまったのか。
楓からしてみればろくに知らない人だからか、多少のショックを受ける程度でしかない。
だが、マシュやロマニ達は相応に付き合いが長いのだろうから、受けているショックはと てもじゃないが楓が想像できる物では無いだろう。
『僕が指揮を取っているのは、レフ教授他僕より上の階級の者に生存者がいないからです。46名のマスター候補達も全員危篤状態で治療の目途も……』
「っ……だったらコフィンをコールドスリープモードにしなさい! 死ぬよりマシ! 生きていれば後からどうにでも弁明できるわ!」
『りょ、了解! すぐに手配します!』
立体映像のロマニが画面の外にいるであろう生き残った職員に指示を飛ばす。
それを尻目にオルガマリーは「そんな大勢の命なんて背負えないわよ……死なないでよ頼むからぁ……」と小さく涙声で漏らしている。
『手配完了しました。これでなんとか、外部からの応援が来るまでは持たせられるはず……その外部との通信も今は不通ですが』
「そう。とりあえず、呼びかけは続けなさい……さて、次は」
カルデアの方の問題。ここから指示を出せる範囲の物は何とかなっただろう。
その他は帰還してから手を付けるしかない。万が一があっても、ロマニはあれで優秀なのだから任せていいとオルガマリーは思案する。
ならば、次はこちらの問題だ。
「キャスター、改めて色々と確認を取りたいのだけど」
「ん? 何だ、次は俺の番か」
暇そうに瓦礫に腰かけていたキャスターが顔をあげる。
「えぇ。ここなら落ち着いて話も出来るし、なんで低級の使い魔やサーヴァントがウロウロしてるのか説明してくれない?」
『僕からもお願いします。御身がどこの英霊かは存じませんが』
「あぁ、堅苦しい挨拶は結構。手っ取り早く要点だけ話そうや」
ロマニの挨拶を遮るようにキャスターが言う。ついでとばかりに「そういうのは得意だろ、そこの軟弱男」と中々に酷い事を言い放った。
解りやすいほどにショックで表情を歪ませるロマニを無視し、楓が恐る恐る手を上げる。
「あの、一つ質問。サーヴァントって、マスター無しだと実体保てないんだよね?」
「あぁ、その通りだ」
「じゃぁ、キャスターのマスターは? 私とマシュ襲ったオバ……ランサーも、そういえばマスターいなかったみたいだし」
「知らねぇけど……まぁ、生きちゃいねぇだろうな。俺の……俺達の聖杯戦争は、ある日突然変わっちまった」
キャスターにも詳しい事は何も解らない。ある日突然、気がついたらこうなっていたとしか言いようが無かった。
冬木の街は炎に包まれ、人間達は一夜にして消え去り、残ったのは何故かマスターを失ってもなお現界を保ち続けているサーヴァントと、どこからか湧いてきた低級の使い魔のみ。
実質的に聖杯戦争は終結したも同然だと、少なくともキャスターは思ったそうだ。
マスターも無く、街もこのような有様になっては最早まともな形での続行はあり得ないから。
「だが、そんな状態で聖杯戦争を再開したヤツがいた」
それがセイバー。呼び出されるサーヴァントの中でも最優と誉れ高い剣の英霊が、突如として他のサーヴァント達を襲撃したのだ。
結果、キャスターを除く五騎はセイバーの手で打倒される。そして、セイバーが浴びせた泥のような物に飲み込まれて蘇生。
今や、セイバーの手駒として街中に散らばって各々行動しているというのだ。
「じゃぁ、キャスターは聖杯戦争で勝ち残ってるって事になるの?」
「あぁ……まだ負けてないって意味ならそうなる。この街に残ってるのも、俺以外でいえば件のセイバーと、アーチャー……そんでバーサーカーだ」
『ランサー、アサシン、ライダーはすでに?』
「アサシンはお前らが来るちょい前に始末したし、ライダーはそこの銀髪の嬢ちゃん助ける時にやった。ランサーは、そこの二人と会った時にな」
キャスターが挙げていた戦果に、ロマニもオルガマリーも驚きの色を隠せないといった様子だった。
オルガマリーは目の前で見ていたから解らなくもないといった風でもあるが、それでも信じられない物を見たような顔をしている。
「マシュ、キャスターがやった事ってそんなに凄いの?」
「先輩は、サーヴァントの知識もあまり無いのですか?」
「ん~……カルデア来る前に読まされた資料で読んでたけど、大雑把にしか解ってないといいますか」
「成程。では、この際なので簡単にお教えします」
サーヴァントは基本七つのクラスに分けられる。
剣の英霊セイバー。
弓の英霊アーチャー。
槍の英霊ランサー。
騎兵の英霊ライダー。
魔術師の英霊キャスター。
暗殺者の英霊アサシン。
狂戦士の英霊バーサーカー。
それぞれクラスに応じた特徴を持ち、当然ながらそれを活かした戦いを得意とする物である。
例えばアサシンならば敵サーヴァントとの直接戦闘には向かないが、マスターを文字通り暗殺するという事に関しては他クラスを凌駕。
ライダーであれば、基本ステータスは低い事が多いが多彩な宝具や騎乗する生物、乗り物などによって高い機動力を得るといった風に。
「キャスターはその名の通り、魔術師ですので直接戦闘には向いていません。それにセイバー、アーチャー、ランサー……通称、三騎士と呼ばれるクラスには高い対魔力スキルがある場合が殆どです」
つまり魔術が効かない、効きづらいという事。
絶対に勝ち目がないとまでは言わないが、それでも不利である事は変わりない。
ましてや、一対一の直接戦闘ともなればその不利は圧倒的ともなろう。
「何せ、基本的にはテメェの陣地つくって引きこもるクラスだからな」
何時の間にか、二人の傍に立っていたキャスターが会話に加わる。
ロマニ達からの質問はだいたい終わり、今は二人で何やら盛り上がっているので席を外してきたようだ。
「俺みたいに一人で
「そうなんだ……ちなみに、マシュってどのクラスなの?」
そう言えばマシュのクラスを知らない。マスターならば、自分が契約したサーヴァントの基本情報は観るだけで解るそうだが、楓には全く解らない。
オルガマリーには「それはアナタが魔術師としてヘッポコ以下だからよ」と一蹴された。
確かに、魔術師ですら無いのだからヘッポコ以下と言われても確かに言い返せないのだが。
「それは……私にも把握出来ません。この宝具も盾であるという事しか解りませんし」
マシュ本人にも解らないとなれば、それはもうお手上げじゃないだろうか。
「そこはあれだ。マジで嬢ちゃんがきちっとした魔術師なら、解析で来てたと思うぜ?」
「……ですよねぇ」
キャスターの容赦ない指摘に楓は肩を落とす。
いくらマシュが通常のそれとは違うデミ・サーヴァントだからといっても、マスターである楓が融合したサーヴァントの情報を閲覧できないのは問題外だろう。
「それはそれとして、自分のクラスすら解らねぇってのは流石にな。盾が武器ねぇ……とりあえず、
「シールダー、ですか?」
「おう。自分の真名隠すのは大事……って、嬢ちゃん達には当てはまらねぇか」
サーヴァントが各々のクラス名で名乗りをあげるのは、自分の真の名を隠す為だという。
真名が知られれば、そこから生前の死因等を調べ上げられる等で己の弱点が丸裸になるも同然だからである。
キャスターの言う通り、自身に融合した英霊の真名も解らないマシュには当てはまらない事ではあるが。
「……じゃぁ、キャスターの真名って何……あだっ!」
杖で叩かれた。
「バーカ。その辺を調べんのもマスターの役割だ。そんぐらい自分で当ててみな」
「……肝に銘じます」
調子に乗って甘え過ぎたかと、叩かれた頭を摩りながら反省。
やはりというか、自分が一人前のマスターになるにはまだまだ道のりは遠そうだ。
「まぁ、カルデアってとこに帰ってからでもいいから俺の真名当ててみな。所謂宿題ってやつだ」
「せ、せめてヒントください……いきなりノーヒントは辛いです」
「ったく、しゃーねぇな。俺はキャスター以外にもランサーやライダーのクラスで呼ばれる場合があるとだけ教えてやる」
「……なんか、難易度あがった感が」
「悪いね。俺はこう見えても有名人なんでな」
つまり、これ以上のヒントは真名に即時繋がるので出せませんと言う事らしい。
有名だというのもヒントなら、帰ってから図書館で歴史とか神話関係の本漁ればすぐに解るのだろうか。
あまりそっち方面に詳しくない楓でも、パッと浮かぶ有名処だけで二十人以上であったが。
「帰ったら、その辺の講義も必要かしらね……全く」
『所長。楓ちゃんの面倒見る気満々ですね』
「成り行きとはいえ、カルデア所属のマスターになったんだもの。つまり私の部下! なら、半端な知識のままでいられたら困るのよ!」
完全にロックオンされた。歴史の成績が悪い楓にとっては、無事に帰ってからも地獄が続く事が確定してしまった。
いや、普通の女子高生にサーヴァントの知識を最初から求める方が間違ってませんかと嘆きたい。
間違っているからこそ今から教えますという事ですか、そうですか。
「ふふ……歴史の成績よくなる魔術とか、ありません?」
「「「『ありません』」」」
「……………ですよねー」
思ってたより魔術使えないな、と魔術師に聞かれたら激怒されそうな事を思ってしまったのは内緒である。
「フォーウ……」
楓のそんな考えを見抜いたのか、呆れたようにため息をつくフォウ。
まさか謎の小動物にまで呆れられる日がこようとは、今朝の楓には想像もつかなかった事である。
「まぁ、その為にも無事に帰らないと……霧生」
「はい?」
「これからあなたには、サーヴァントを召喚してもらいます」
「……はいぃ?」
オルガマリーからの突然の無茶ぶりであった。
サーヴァントを召喚。いや、私にはマシュがいるじゃないか何を言っているのかと楓は思う。
キャスターだっているし、それにマスター一人で複数のサーヴァントと契約と言うのは出来るのだろうか。
そんな楓の疑問に答えるようにマシュも声を荒げていた。
「ちょ、ちょっと待ってください! サーヴァントはその維持に膨大な魔力消費をマスターに要求します。私はまだ魔力消費は少なくて済みますが……他の英霊を召喚すると先輩の体にかかる負担も」
「あ……やっぱり、不味いの?」
「はい。最悪の場合、先輩は魔力の枯渇で……その……」
「干からびで死ぬかもな」
「うぇっ!?」
サーヴァントとマスターは基本二人一組、というのはそういう理由なのかと背中に走る寒気と共に楓は実感する。
そんな事をさらっとやれと要求してきたオルガマリー。貴女は悪魔か。
「大丈夫よ、その辺の事もちゃんと考えて対処済みだから」
だが、そんな不安は次の言葉であっさりと解消された。
「マシュは気づいてるでしょうけど、このサークルはカルデアの召喚実験場と同じ物を再現した空間よ。つまり、カルデアの召喚システムと直結してる」
『爆破によって、カルデアの施設の八割は壊滅したけど発電設備も召喚システムも無事。召喚システムは電力を魔力に変換させられるから……』
「先輩が消費する分の魔力を、カルデアで補う……と?」
『そういう事。幸い、電力は有り余ってるからね……仮に楓ちゃんが100を超えるサーヴァントと契約しても、その維持を賄える魔力は代価出来る』
ただし、戦闘における魔力消費。特に宝具の使用に関してはマスターとなる楓への負担は避けられないとの事であった。
それでもサーヴァントの維持に使う魔力は実質考えなくて良いと言うのは、とても大きい。
キャスターもそんな事が出来るのかと、感心したかのように声を漏らしている。
「でも、なんでサーヴァント召喚しないといけないんです? 私じゃ無くて所長が呼べばいいんじゃ……」
「っ……私が呼べたらやってるわよ」
「はい?」
忌々しげに吐き捨てられた言葉に、楓は意味が解らず首をかしげる。
『楓ちゃんは知らなくても無理ないけど……所長、マスター適正が無いんだよ』
「……適正が、無い?」
つまり、サーヴァントのマスターにはなれないと言う事なのだろうか。
魔術師として優秀なのだろうとは、素人目に見てもハッキリ解ったのだが、それなのにマスターにはなれないというのか。
あからさまに苛々した表情を浮かべているので、これ以上は踏み込まない方が良さそうだと理解する。
「とにかく! 私達はカルデアに帰る前に、この特異点の調査を行わないといけないの。手ぶらで帰ったら、協会のお偉方に対する言い訳にも支障が出るわ」
『偶発的なレイシフトとはいえ、特異点化の原因の調査解明及び可能ならばそれの排除は当初の計画通りだからね』
突如滅亡が確定した人類の未来。それの原因を探る為に、特異点の調査を行うのは確かにカルデアの目的である。
早い話、楓達にはこのまま強行軍で調査を行ってもらおうという方向で話がまとまっていたようだ。
「今のあなたは私の部下なんだからね。拒否権は無いわよ」
「はい……そうですよね」
新入社員が、会社の社長に逆らえる訳もないのである。
「話を戻すわ。今後の調査を行うにも、他の使い魔やサーヴァントに襲われる可能性は高い……戦力は少しでも多い方が良いでしょ?」
そう言いながら、オルガマリーはキャスターを見やり、彼は頷く事で返した。
「あぁ……お前らが言う特異点とやらの原因調査なら、まず間違いなくセイバーとアーチャーは相手にしないとならねぇだろうな」
「セイバーとアーチャー……バーサーカーは? まだ生き残っているのでしょう?」
「アイツは無視でいい。理由は知らんが陣取ってる街外れの森にさえ近づかなきゃ、手は出してこねぇよ」
それでも、今後の目的の為に戦力の増強は行うべきだとキャスターの言葉が告げていた。
彼ほどの実力があっても、残るセイバーとアーチャーは強敵だと言う事か。
「ほら、さっさと召喚の準備に入りなさい。詠唱なら私が教えてあげるから」
オルガマリーに促され、サークルの中心部へ移動する。
そこで召喚の方法を教えてもらう楓の姿を見やりながら、マシュは小さく息を吐いた。
確かに戦力の増強は必要だ。成り行きとはいえ力を貸してくれているキャスターがいるとはいえ、今のままでは、特に自分の力不足が否めない。
(私がもっと戦えれば、先輩に負担を掛ける事も無いのでしょうか)
デミ・サーヴァントになった時は正直戸惑ったが、自分と契約したマスターが楓である事を知った時は正直嬉しかった。
カルデアの廊下で――おそらく入館時に強制される戦闘シミュレーションでの脳への負担のせい――眠っていた処を見た時は流石にちょっと驚いたが、それ以上の何かが沸きあがったのを鮮明に覚えている。
彼女からはカルデアを訪れた他のマスター候補生のような、他者への敵意やその類の感情を一切感じなかった。何も背負う物も無い、普通の人だからだろうか、マシュには解らない。
交わした言葉も多く無く、一緒にいた時間も特異点にレイシフトしてからを含めても三時間少々。だが、とても楽しく充実した時間だったと思う。
(もっと、貴女の役に立てれば良いのに)
彼女のサーヴァントになった事を抜きにしても、その力になれるのだと思うと何でも出来る気がしてくる。
街のあちこちから湧いて出てくる骸骨程度なら自分一人でも実際になんとかなった。だが、サーヴァント相手だとそうはいかないというのが現実。
ランサー相手には結局推し負けていたし、楓が支えてくれなければ、キャスターが助けてくれなければ間違いなく死んでいただろう。
今後待ち受けている敵サーヴァント相手には、今の自分は足手纏いにしかならないのではないかと思うと、楓に対して申し訳ない。
(せめて、宝具が使えるようになれば)
デミ・サーヴァントになった直後から手元にあった盾が、自分と融合した英霊の持つ宝具なのだろうとは思うがどうやって発動させればいいのかが解らない。
宝具の真名解放が出来れば、ランサー相手にもまだマシに立ち回れたのではないか。楓の役にもっと立てるのではないか。何故発動できないのかと自分を責めたくなる。
今の自分は、間違いなくデミ・サーヴァント失格だ。自分と融合し、消滅した英霊に顔向けできない。
一体どうすれば宝具を使えるようになるのか、知るにはやはりサーヴァントの先輩に聞くのが一番だろうか。
「あの、キャスターさん」
「あん? 何か用か?」
「宝具とは、どうやれば使えるようになるのでしょうか?」
まさかそんな質問が来るとは思っていなかったのか、キャスターは一瞬呆気にとられた表情を浮かべて、少しばかり困った風に首をかしげる。
「どうすればと言われても、宝具なんて使えて当たり前の代物だからな。使えるようになる方法なんざ、教えようがない」
「そう、ですか……」
キャスターの返答に、マシュは肩を落とす。
使えて当たり前の物が使えないなんて、自分は本当に駄目なデミ・サーヴァントだと表情が一気に曇る。
その落胆ぶりは見ていて可愛そうになってくるが、ここで甘く接しては彼女の為にはならないだろう。
「一つ言えるのは、使えないなら問題があるのはお前さんの方だ。サーヴァントと宝具は同じものだからな……サーヴァントになった時点で使えるようになってるはずだ」
真名が解らないだとか、マシュの抱えている問題は一切関係ない。
要するに彼女が、無意識にリミッターを掛けているようなものなのだから。
「何かのきっかけさえあれば、使えるようになるかもしれんな」
そのきっかけが一体何なのかまでは知らんがなと、キャスターは言い残して楓達の方へと歩いて行く。
あちらの準備も終わったらしく、サークルの中心に立つ楓が戸惑いつつ行う詠唱に反応して膨大な魔力が放出されている。つまり、サーヴァント召喚が始まったのだ。
きっと、そのサーヴァントも問題なく宝具を使えるのだろう。ますます、自分は役に立たない存在になるかもしれない。
それでも、楓は自分を傍に置いてくれるだろうか。自分は彼女を守れるのだろうか。
言いようのない不安を抱えたまま、マシュも楓の下へと足を進める。
「……抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
丁度詠唱も終わったところだった。
サークル中心点からは魔力と共に光が溢れ、それと共に一騎のサーヴァントの姿がゆっくりと現れる。
光が収まると共に確認できるようになった姿。ピンク色の長髪を三つ編みに結えた、白マントを羽織る美少女であった。
「ん? キミがボクのマスター? ボクの名前はアストルフォ! クラスはライダー、よろしく!」
「アストルフォ……?」
「むぅ……マスター? もしかして、ボクの事知らなかったりする?」
「……ごめん。名前とか初耳です」
「ガーン! ボクって、そんなにマイナーな英霊だったのか……」
楓の反応に解りやすいリアクションで返すライダーのサーヴァント。
アストルフォといえば、シャルルマーニュ十二勇士の一人ではあるが、原典となると古典の類であり知らない人は存在すら知らないだろう。
楓のように、歴史や神話に疎い人物であれば特にだ。
「あ……なんか、ごめん」
「別に良いけどね。これから知ってもらえればいいんだし。じゃ、改めてよろしくマスター!」
「あ……うん。よろしく」
あっさりと機嫌を直し、握手を求めてくるアストルフォ。半ば気圧されるように応じた楓の手は勢いよく振り回される。
僅かなやり取りであったが、傍から見て呼び出したサーヴァントがどういう性格なのかは誰が見ても明らかであった。
一言で言えば能天気。伝承からして理性が蒸発してるとまで言われている英霊なのだから、ある意味当然といえばそうなのかもしれない。
「あれ? ボクの他にもサーヴァントと契約してたの? じゃぁ、仲間だね! よろしく!」
「あ……こ、こちらこそよろしくお願いします」
「俺は別に嬢ちゃんのサーヴァントってわけじゃねぇんだが。まぁ、目的が同じって意味なら一緒に行動した方が得だわな」
仮契約って事でよろしく頼むわと本人は気楽に言うが、本格的に協力体制を取ってくれるのは有り難い。
ともかく、これで三騎のサーヴァントがこちらについてくれた。戦力としては十分だろう。
その分、楓に掛かるマスターとしての責任も重たくはなるのだが。
「ライダー……か。本音を言えばランサーが良かったけれど」
『所長。こればっかりは運ですから、楓ちゃんを責めるのは』
「責めてるわけじゃないわ。単なる愚痴……ライダーなら前衛も任せたっていいだろうし」
オルガマリーが見据えているのはセイバー戦。アーチャー相手ならどうにかなるかもしれないが、セイバーともなると前衛がマシュ一人というのは不安要素が大きすぎる。
故に近接戦闘で力を発揮するランサーや、機動力で相手をかく乱する事が可能なライダーを期待していたのだが、見事にライダーを引き当てた楓は運が良い。
アストルフォ自体、特に武勇に優れた逸話を持たない英霊なのは不安要素だが、数多の宝具を持ち得るライダーであればどうにでもなるだろう。
「霧生、ご苦労さま。とりあえず、戦力的にはこれでなんとかなるわ」
「あ、はい。どうも……」
「これで後はセイバーとアーチャーの真名が解れば文句なしなんだけど……キャスター、あなたは知らないの?」
「……アーチャーの方は見当もつかんが、セイバーの方なら解る。アイツの宝具を一度でも見れば、誰だってその真名に行きつくだろうしな」
オルガマリーの方を向かず、サークルの外……遠くに見えるビルの群れへ視線を向けたままキャスターは目を細める。
彼の目に映るのはビルの群れ。それ以外の何かが見えるわけでもないが、英霊としての感が告げているのだ。
その視線の先に、何かがいると。
「なら、セイバーの真名だけでも教えて……って聞いてるの!?」
「……ヤベェ」
「は? 何が?」
「先手を取られた! さっさと逃げるぞ!」
キャスターが叫んだ直後、空から降り注いだ何かがサークルを爆炎に包み込んだ。
「ふん……キャスターめ。よくもまぁ、私に気づいたものだ。こんな雑なやり方では当然かもしれんがね」
高層ビルの屋上。
地上数十メートルはあろうそこに立つは、弓を携えた褐色肌の男性であった。
鷹を思わせる鋭い視線が捉えるは先ほど放った矢の着弾点。炎と煙で詳細は確認できないが、牽制として撃ち込んだあれで仕留めたとは欠片も思わない。
他の者達ならともかく、あのキャスターがこの程度で倒れるならばとっくに打ち取れている。
「ほぅ……やはり無事。しかも無傷と来たか」
男性、アーチャーのサーヴァントはそのクラス特性故に持つ視力によって、今いるビルの屋上からでも正確に地上の様子を見て取れる。
一本の橋で繋がる隣町までは流石に見通せないが、それでもこのビル街全土ならば十分に。
その視力を持って、煙の中から飛び出してくるキャスター達を正確に捉えていた。一緒に行動している人間すらも無傷と言うのは、流石に予想外であった。
「む……? サーヴァントが一騎増えているな……なるほど、あの妙な空間は召喚の為だったか」
監視を始めた時にはキャスターとあの盾持ちの二騎しかいなかったサーヴァントに、三騎目のピンク髪が増えている。
一見して真名はおろかクラスすら判別できないが、その程度はサーヴァント同士の戦いではよくある事。
戦力を増やしてしまったのは失策だったかもしれないが、現状一番警戒すべきアーチャーのクラスで無いであろう事はすぐに見抜けた。
同じアーチャーなら、このような雑な――キャスターにすら撃つ前に気づかれる――狙撃で、こちらの場所を特定できない筈がない。
「どれ、もう一発……脅かしてやるか」
左手で弓を構え、右手の中に生成するのは矢……では無く一振りの剣。
それを弓の弦に添え、形状を作り変える。剣としての最低限の形を残してはいるが、それはまさに矢であった。
弦を軽く引き絞り、矢を放つ。
「この程度、防いでみせろよ?」
風を切り裂く轟音と共に放たれ、飛んでいく矢。まるでミサイルか何かの如き速度で目標へと向かう様は、血に飢えた獣のよう。
狙いは白服の少女。あの一行の中で最も弱き存在であろう彼女を容赦なく貫かんとする一撃であったが、やはりそれが着弾する事は無かった。
盾持ちのサーヴァントによって防がれたアレは明後日の方向へと飛んでいき、そのまま消滅する。
単なる脅かしで放った一撃故、防がれるのは当然。防げないのならここで死なせてやるのが慈悲。そう思って放ったが、アーチャーにとっては予想外の事も重なっていた。
「……あの盾は」
最初は単なる盾だと思っていたが、よくよく見ればそういう訳でも無いようだ。
キャスター以外は適当にやれば良い。疲弊したところを街を彷徨っている骸骨共に襲われ、それで終いの連中だと思っていたが見込み違いだった。
あの盾のサーヴァントは、確実に仕留めなければならない。あれは、セイバーの天敵となりえる存在だ。
「やれやれ……好きでやっている事とはいえ、こうも仕事が増えるとはな」
口の端を釣りあげ、嗤う。
何かと目障りなキャスターの相手は自分がしなければならないと思いながらも面倒ではあったが、盾のサーヴァントの相手もするとなると面白くなってくる。
こちらの攻撃に対する反応は悪く無かったが、アーチャーから見ればまだまだ甘い。事情は分からないが、己の力もろくに発揮できていないようだ。
あれが未熟なままで終わるのか、その力の一旦でも発揮するのか、これからの戦いでどう転ぶのだろうかと思うと気分が高揚する。
別にサディスティックな趣向も無ければ戦いを特別好むわけでも無いが、どうにも心が躍って仕方がない。
「さて、力を見せてみろ。盾持ちの少女よ」
お前達の目指す場所は、あの橋の向こうだぞ。
年末アニメ及びTYPE-MOONエースVOL11に掲載されていた読み切り漫画を参考にお送りいたしました
今後も少しずつ仲間サーヴァントは増える予定ですが、メインはあくまで楓とマシュの二人でお送りする予定です