Fate/Grand Order 私と彼女の物語 作:やまさんMK2
キャスターが迎えに行っていたオルガマリーと合流し、楓とマシュの治療も終えた一行はセイバーがいるという洞窟へと向かっていた。
道中襲い来るスケルトン達は最早敵では無く、出てきた先から軽く撃退、一掃し続けている。
未だ健在らしいアーチャーの襲撃も警戒していたが、やはりキャスターの攻撃で負傷しているのか仕掛けてくる気配はない。
この特異点に来て初と言って良いぐらいに順調な道筋、ではあったが楓には気になる事があった。
「……」
マシュの様子がおかしい。
歩みは遅く、表情は暗い。戦闘中はそうでもなく、キャスターやアストルフォとの連携も様になってきている。
だが、それでもどこか遠慮しているような。積極的に前に出るような事も無く、他二人の邪魔をしないように防御に徹しているのみで攻撃には出ようとしない。
その理由は、誰に言われずとも解っている。
(どう考えても、私のせいだよね)
彼女を庇って、怪我をしてしまった事が原因なのだろうなとは解っていた。
怪我自体はオルガマリーの魔術によって――傷口を塞いだだけだが――治療を終えており、少しばかり痛みはあるが気にはならない。
その行動自体は治療代変わりだとばかりに、オルガマリーにかなり絞られてしまった。
「マスターがサーヴァント庇うなんて、何考えてんの!? マスターが死んだら本末転倒でしょうが!」
と散々言われたが、楓自身はあの行動が間違っているとは思っていない。
付き合い自体はまだまだ短いが、楓にとってマシュはそう簡単に見捨てられるような存在では無くなっているのだから。
むしろ、マスターらしい事も先輩らしい事も何一つ出来ていないのだから、あれぐらいはとすら思ってもいる。
「……マシュ、ちょっと前にも言ったけど、私の怪我の事なら気にしなくていいんだよ?」
治療を終えた後、マシュは物凄い勢いで楓に謝罪した。
深々と頭をさげ、しつこいぐらいに謝罪の言葉を口にし続け、ようやく終わったと思ったら今の有様である。
「怪我したのは私の自業自得みたいなとこもあるんだし、そこまで重く受け止めなくても……」
「いえ、私が不甲斐無いせいで先輩を危険に晒したのですから私のせいです。私は先輩のサーヴァント失格です」
自分で言ってて更に傷ついたのか、どんどん表情を暗くしていくマシュ。
解ってはいたつもりだったが、予想を遥かに超えるレベル重症だった。自分の行動のせい で、彼女にこんな想いをさせてしまったのかと嫌でも思い知らされる。
マシュを庇ったあの行動は間違っていたのだと、当人から言われているような気すらしてくる。
「そ、そんな事無いって! マシュがいなかったら、私は今頃あのオバサンに殺されてただろうし」
「いえ、あの時もキャスターさんが来てくれなければ守り切れませんでした……私のようなサーヴァントなんて……」
「マシュ!」
いない方が良い。そう言おうとしているのを察し、楓は声を張り上げる。
マシュの両肩を掴み、驚いた様子のその顔を睨みつける。
「それ以上言ったら、ホントに怒るよ?」
「で、ですが……」
「ですがも何かも無い! マシュがいてくれて、私は助かってるんだから……そういう事、言わないで」
マシュにそんな事を言われると、自分の今までの行動を全て否定されているようだ。
何よりも、彼女にそこまで言わせてしまった事が悲しく、情けなくて死にたくなる。
「……ごめんなさい、先輩」
「いや、まぁ……私も悪かったし? マシュもそこまで気に病まなくていいから、ね」
「……はい」
何処か暗い表情のままであったが、マシュは楓の言葉に頷いた。
イマイチ納得いきませんと顔に書いてあるが、とりあえずは落ち着いてくれたと思いたい。
「そうそう! マスターも軽い怪我だけで済んだんだし、気持ち切り替えて、次に向けて全力で頑張ればいいんだよ!」
二人の肩を思い切り叩きながら、満面の笑みを浮かべてアストルフォが乱入してくる。
その言葉通り、本人は次に備えて気持ちを完全に切り替えているようだ。
「取り返しがつくなら、次で取り返せばいいのさ! 反省なんて、その後でいいんじゃない?」
「いや、反省は大事だと思うのですが……?」
「ん? それもそっか……まぁ、とりあえず! マシュもうじうじ悩まずに、一緒に頑張ろう!」
まるで悩みなんて無い、というか何も考えてませんと言わんばかりの屈託のない笑み。
同じマスターに仕える仲間同士、一緒にやっていこうと純粋に訴えるかのようなそれを見ていると、少しばかり気持ちが楽になってくる。
確かに、楓も気にするなと言っているし、次こそはアストルフォと共に彼女を守りきれば良いだけの話。
「……はい」
一人で気負う必要もないのだと、教えられた気がした。
しかし、それでもマシュの心に刺さった棘は易々とは抜ける事は無い。
何が何でも守らなければならない存在を守れなかったのだから。
「ん~……まだ
「そ、そうですか……?」
「アストルフォの言う通りだよ。ホントに私を心配してくれてるって事なのは解るけど、もうちょっと気楽にっていうか……」
マシュがここまで抱え込んでしまったのは自分のせいだと解っているだけに、この状況は辛い。
間違っていないと思っていたあの行動が、逆にマシュを追いつめてしまったとなるとマスター失格ではないか。
せめて、もう少しでもマシュの罪悪感を拭ってあげることは出来ないかと考え……彼女の左手を両手で握りしめる。
「えっ……あの……?」
「いや、その……ほら、管制室でさ? 手を握ってって言われたし、こうするとちょっとは落ち着くかなぁって……」
あははと笑う楓と、優しく握られている自分の左手を交互に見やる。
よく理解できないが、そうしてもらえるだけで不思議と落ち着いてくる。
張り詰めていた緊張の糸が、ほんの少しだが緩んだような、そんな気がした。
「じゃれ合ってる最中に悪いけどな。ぼちぼち、セイバーが陣取ってる洞窟だぞ」
先頭を歩いていたキャスターが声を掛ける。
彼の先導でひたすら歩き続けていた山道。整備された登山道からも外れた、非常に歩きづらい荒れ果てた獣道の先にある洞窟の前に一行は到達していた。
「この洞窟、自然に出来た物なのでしょうか……?」
「洞窟自体はそうでしょうけど、後から人が手を加えたものね。元から、地元の人間がある程度出入りしてたのかしら?」
マシュの疑問にオルガマリーが答える。
二人の視線の先には自然に出来た物とは違う、明らかに何者かが手を加えて整えられた道が奥へと続いていた。
人の出入りはあまり激しいわけでは無いようだが、何らかの目的が無ければこんな事をするはずがない。
「この先は、この街で一番の霊地だからな……この奥には大聖杯。いわば、この地で開催されている聖杯戦争の心臓部みたいなもんがある」
足元の地面に杖を押し付けながら、キャスターは言葉を続ける。
「その大聖杯を守るみてぇに、セイバーが陣取ってるってわけさ。何から守ってんのかは知らねぇけどな」
「よくわかんないけど……とりあえず、セイバーさえ倒しちゃえばいいって事に変わりないんだよね?」
「あぁ。大聖杯自体はどうにかしなくても、セイバーを倒しちまえば聖杯戦争は終わる。そしたら、この狂っちまった儀式も終わんだろ」
そう言い終えて、キャスターは洞窟の入り口から背を向けて自分達が歩いてきた山道へと向き直る。
「という事で、後は任せた」
「……はい?」
「セイバーは任せる。俺はその辺に隠れてる邪魔者片付けっから……よ!」
杖を振るい、山道へと魔術を放つキャスター。それを迎撃するかのように放たれた矢が空中で激突。
相殺し合ったそれを放った相手は、わざわざ言われなくても理解できる。
「アーチャー……っ!?」
姿こそ見せないが、すぐ近くにまで迫っていたアーチャーの存在にマシュは思わず身を硬くする。
遠くから一方的に撃ち込まれる矢の威力は身をもって知っているし、何よりも楓を守り切れなかった原因の一つともいえるのだから。
横目でその様子を見やり、小さくため息をつく。
(やれやれ……さっきのやり取りだけじゃ、完全に吹っ切れはしねぇか)
この様子では、とてもじゃないがアーチャーの相手はさせられない。
ならばと、キャスターは即座にいくつか頭に描いでいた選択肢の一つを選び取る。
「アーチャーの相手は俺がする。お前らは先に行け」
「えっ……一人で? 任せていいの?」
「あぁ。さっさと倒して追いつくからよ。お前らは適当にセイバー弱らせて俺を楽させてくれや」
一歩前に出て、楓達を庇うように立つキャスター。
最早、これ以上は交わす言葉もないと言わんばかりの態度。オルガマリーは楓に目配せして、行動を促した。
ここでアーチャーの相手に時間を取られるよりは、彼に任せてセイバーの下へ行く方が良いのだと。
「……キャスター、お願い! 皆、行こう!」
楓の言葉と共に、キャスターをその場に残して四人は洞窟の中へと駆け込んでいく。
背中越しに聞こえてくるキャスターとアーチャーの攻防による爆発音。それに振り返りそうになるが、楓は堪えて真っ直ぐに走り抜けていく。
マシュを庇った時のように、余計な心配事や厄介事をキャスターに抱え込ませては駄目だと自分に言い聞かせる。
ここは、彼を信じて任せるべきだ。
(それに……)
ちらりとマシュを見やる。
アーチャーの存在を知った時の彼女の様子は、明らかにおかしかった。
執拗に狙われ、楓の負傷の遠因でもある敵性存在なだけにマシュにとっては畏怖の対象となっているのかもしれない。
そんな状態で彼女とアーチャーを戦わせるのは、絶対に不味い。
(キャスターには、後でお礼言わないと)
それを見抜いていたのだろうか、キャスターがアーチャーの相手を買って出てくれたのはありがたかった。
彼女だけを特別扱いして良いわけはないのだろうが……。
「マスター! そろそろ着くよ!」
アストルフォの声で我に返り、顔をあげればそこは洞窟の最奥。
途方もなく巨大な空洞。小さなビルの三つ四つは入るのではないかと思えるほどの空間の中央に、明らかに何らかの力で造られた小高い山のような物がある。
否、山のように見えるだけだが何かを祭る祭壇にも見えなくもないなと、楓はそんな事を思った。
「な、何よこれ……っ!?」
オルガマリーの驚きを隠せない声に、この空間の異様さに気づけていないのが自分一人だという事も理解した。
マシュとアストルフォも、どこか表情が強張っているように見える。
「あれが大聖杯……とんでもないレベルの魔力炉心じゃない!? なんで、極東の島国にこんなのがあるわけ……!?」
魔術師としての興味と驚愕、人間としての恐怖が入り混じったような声でブツブツ呟くオルガマリーを尻目に、二人のサーヴァントはそれぞれ武器を構えて前に出る。
「マシュ? アストルフォ?」
「マスター、所長と一緒に下がってください。絶対に、私達より前に出ないでください……っ!」
「セイバーがいるって言ってたよね……そろそろ来ると思うよ?」
そんな二人の言葉に反応するかのように。
「ほぉ……サーヴァントが二騎、か」
この空間の主が、ゆっくりとした足取りで祭壇の上に姿を現した。
全身を黒いドレスと甲冑に身を包み、目元を仮面で隠した小柄な少女。
楓ですら敏感に感じ取れるほどのプレッシャーを放つその少女がセイバーだと、その場にいた誰もが一目で理解した。
「あれが、セイバー……っ!?」
楓が直接姿を見た敵性サーヴァントはランサーのみだが、セイバーから感じる威圧感は比べ物にならない程だった。
もし、どちらかと自分一人で戦えと言われれば迷うことなくランサーを選ぶ。勝てる勝てないの問題では無く、そっちの方が絶対にマシだと理性が訴えている。
自分と共にいるマシュやアストルフォとも、レベルが違い過ぎるのではないかとすら思えるほどに。
『とんでもないレベルの魔力だ……皆、気を付けて!』
通信機から聞こえてくるロマニの声もろくに入ってこない。
数メートルはあろう断崖ともいえるような祭壇の上から飛び降り、何事でも無いように着地するセイバー。
優雅ですらある一挙一動。こちらへと叩き付けてくるような殺気さえなければ、見惚れてしまっていたかもしれない。
「……面白いサーヴァントがいるな」
仮面の奥に光る眼が、マシュを捉える。
「あぁ、随分と面白い宝具を持っている。その護り、果たして使いこなせるか試してやろう」
セイバーの右手に漆黒の剣が出現する。
どす黒い闇が刀身から溢れながらも、本来持つ輝きが目に見えるような、美しいとすら思える剣だ。
(あの剣、は……?)
初めて見る筈なのに、何故か見覚えがある。
そんな奇妙な感覚を覚えながらも、マシュは盾を構えて楓達の前へと進み出た。
今度こそ、マスターを守りきらなければならない。今度は自分一人ではなく、アストルフォと共に戦うのだから何とかなる、してみせるのだ。
正直、守りきれる自信は無いが、それでもやらなければならないのだから。
(やらなきゃ……今度こそ、絶対に!)
内心沸きあがる恐怖。マシュは盾に添える自分の左手を、未だ僅かに残る楓の手の温もりを感じて抑え込む。
(見ていてください、先輩!)
その隣、槍を手の中に出現させて構えをとるアストルフォは冷や汗を流しながら、セイバーを見やっている。
マスターを守る事、敵と戦う事、それらに何の不満もない。だが、全身で嫌でも感じてしまうセイバーから放たれる敵意はすさまじい物があった。
対峙するだけで嫌でも理解できる実力差。ハッキリ言って勝ち目はゼロに等しいというかゼロだと確信している。
「キャスター、早く来ないかなぁ」
誰もが思いながらも口にしない本音が漏れる。
アストルフォには、セイバーの剣で斬り殺される自分とマシュの姿がハッキリとイメージ出来ていた。
それでも、この為に自分は呼ばれたのだからやるしかないと腹をくくる。
召喚されたばかりでまだ付き合いは短いが、今回のマスターは第一印象からして悪い印象は持っていないのだから、やる気は十分だ。
「我が名はシャルルマーニュが十二勇士アストルフォ! どこの英霊かは知らないけど、いざ尋常に勝負!」
高らかに己の真名を告げるという非常識っぷりに、オルガマリーが頭を抱えるのは目の前のセイバーに比べれば些細な問題であろう。
大聖杯のある洞窟からいくらか山を降りた位置にある寺。歴史と威厳を感じさせたであろう本殿を初めとした建造物は全て崩れ落ち、見る影もない。
その寺の敷地内へと、派手な爆発と共に飛び込んでくるのはアーチャー。
地面を転がりながら、その手に構えた弓から矢を放ち、上空から降り注ぐ魔術の炎を迎撃する。
「ったく、さっさとくたばってくれねぇかね? こちとらお前といつまでも喧嘩してる時間はねぇんだがな」
アーチャーに毒づきながら、崩れ落ちた本殿の屋根の上に降り立つキャスター。
いくらかの因縁がある相手である彼とは、どうせならしっかりと決着をつけたい処であったが、今回ばかりはそういう分けにもいかない。
今頃セイバーとの戦闘に突入している楓達の応援へ、一刻も早く向かわなければならないのだから。
「随分と余裕が無いな、光の御子。いや、こちらとしてはお前との喧嘩を続けても良い気分なのだがね?」
「チッ……くたばりぞこないの癖して、嫌味だけは絶好調かよ」
本当にコイツは気に食わない。
「盾の嬢ちゃんがあの様子だから、自分が急がなくてもどうにでもなるって踏んでんのか?」
「ほぉ……やはり、キサマも気づいてたか?」
ニヤリと嗤うアーチャー。
最初は単に楓を狙っていただけかと思っていたが、真の狙いはマシュだったと気づいたのはビルの上で交戦した時だ。
「テメェがあんだけ派手に動くなんざ、セイバー絡み以外にねぇからな。アイツの真名知ってりゃ、だいたい想像つくっての」
その場から移動せず、執拗にマシュを狙っていたのがどうにも奇妙だった。
マスター狙いなら、絶えず移動して四方八方からの狙撃を繰り返せばよいだけ。その場に留まり、マシュを正面から狙い続ける理由がない。
だいたい、目の前のアーチャーという男は敵を嬲るような趣味では無かったはずだ。
「ランサー見てぇな悪趣味に目覚めたってんなら話は別だが、今までセイバーのボディガード気取ってた奴がああも動けば」
「成程。自分で思っていたよりも、思考が直情になっていたか……キサマにヒントをくれてやってしまうとは」
屋根から飛び降り、キャスターは真正面からアーチャーと睨み合う。
見た目は無傷に見えるが、ビルの屋上で受けたダメージのせいで中身はボロボロなのは一目瞭然。その状態で中々仕留めきれないのだから、本当に忌々しい。
キャスターでは無くランサーとして呼ばれていれば、サクッと秒殺しているところだが。
「そこまで解っているなら、後は言わずとも良いだろう? アイツ等はセイバーには勝てないし、お前もここで討ち死にだ」
アーチャーにしてみれば、マシュを狙ったのはセイバーの天敵になりえるからであるが、単なる気まぐれも入っていたのが事実。
仮に自分が何もせずとも、あの盾の力を解放しようともあの程度のサーヴァントがセイバーに勝てるとは思えない。
「ハッ! 寝言は寝て言えっての! ここで死ぬのはテメェの方だ」
アーチャーの勝ち誇ったような声を鼻で笑い、キャスターは口元に獰猛な笑みを浮かべた。
杖を手の中で回転させ、目の前の忌々しい敵との決着をここでつける為に構えて、ついでとばかりに嫌味ったらしく言葉を紡ぐ。
「それによぉ? この国のことわざにあるそうじゃねぇか。窮鼠猫を噛むってな」
下手に追いつめると、逆にセイバーが痛い目を見るかもしれないぞと。
最初に動いたのはアストルフォだった。
足の速い自分がセイバーを撹乱する役目を担うとマシュに告げると同時に駆け出し、その手に槍を構えてセイバーへと突撃する。
黒衣の騎士は、その場から一歩も動かずに剣を振り上げ、馬鹿正直に突っ込んでくるアストルフォを、無造作に薙ぎ払う。
「うわっとぉ!?」
咄嗟に両ひざを折り、上半身を仰け反らせて横一閃の黒い刃を避ける。
反応が一瞬でも遅ければ上半身と下半身を断っていた一撃。その下を膝で滑るように潜り抜け、お返しとばかりに左足を軸に槍を体ごと振り回す。
「
ついでにと真名までも解放。
その能力を解き放った槍
「成程……シャルルマーニュ十二勇士。イングランドの聖騎士か……」
――事は無く、セイバーは肩越しに剣を後方へ回し、その一撃を簡単に受け止めていた。
「ならば、その槍には当たってやれんな」
そのままの体勢で、力任せにアストルフォの槍を弾き飛ばすセイバー。
思わず槍を手放してしまい、自分までも後方へ吹き飛ばされてしまうが、アストルフォは咄嗟に腰から剣を引き抜き、そのまま投げつける。
鼻で笑う事すらせず、僅かに頭をズラす事で悪足掻きの投擲を避けて、その真の意図に気がついた。
「はぁあああっ!」
勇ましくも初々しい叫びと共に駆けてきたマシュの手に、アストルフォが投げた剣が握りしめられる。
最初から彼女へ武器を渡す為の投擲。最初から打ち合わせていたのか、咄嗟にやってのけたのかは知らないが悪くはない連携だとセイバーは感心する。
だが、悪くはないだけだ。
「甘い」
手甲でマシュが振り下ろした剣を受け止め、自身の内側に蠢く魔力を放出。
まるで爆発のような衝撃が無防備なマシュを襲い、悲鳴と共に吹き飛ばして地面に叩き付ける。
槍を回収し、再度突撃してきたアストルフォの攻撃もついでとばかりに捌き、その背中を蹴り飛ばした。
「うわっ!?」
頭から地面に倒れるアストルフォの背中へ、セイバーは淡々と振り上げた刃を突き立てんとし、それは二人の間に滑り込んだマシュの盾に防がれる。
甲高い激突音が洞窟内に響き渡り、その一撃を受け止めたマシュの表情が苦悶に歪む。
「っぅ!?」
体格はさほど変わらないのに、盾の上から襲い掛かる衝撃の重さはアーチャーの矢を遥かに上回る。
アーチャーの矢がライフルの弾だとしたら、セイバーの剣撃は戦車砲だ。少しでも気を抜けば、両腕どころか上半身ごと消し飛ばされるのではと思う程の剣撃。
黒く染まった刃が目にも止まらぬ速さで何度も振り下ろされ、盾に打ち付けられる度にマシュの口から短い悲鳴が漏れる。
「っ……ぁあっ!」
これならアーチャーの矢に耐え続けていた方がまだマシだとすら思えるほどの剣撃。
自分を支える両足からは秒単位で力が抜けていき、今にも膝から崩れ落ちそうになるのを無理矢理に抑え込む。
「どうした? 少しは前に出ようとしないのか?」
「くっ……」
セイバーの侮るような言葉に、悔しさを覚えながらもマシュに切り返す術は無い。
実際、力量が違い過ぎる。マシュもカルデアでの戦闘訓練は受けてはいたが、そんな物など目の前の黒騎士から見れば児戯に等しいだろう。
隙を見つけて攻撃に転じようにも、そんな隙は無い。一撃の重さが凄まじく、防御に意識を集中させねば一刀の元に斬り殺されると直感的に理解出来たからだ。
故に、攻撃を行うのはマシュではない。
「ちょっと肩借りるよ!」
声がするよりも早く、マシュの右肩を踏み台にして跳躍したアストルフォが彼女に貸していた剣をセイバー目掛けて突き降ろす。
躊躇いなくセイバーの頭頂部目掛けて突き出される細身の剣。やはり、それは最小限の、僅かに頭の位置をズラすだけの行為で当然のように回避される。
だが、それでほんの僅かにセイバーの意識がマシュから逸れ、彼女が攻撃に転じる好機が生まれた。
「っ! はぁあっ!」
盾を振り上げ、鍔迫り合いのように押し合っていた剣を撥ね退け、セイバーの腹部目掛けて回し蹴りを決める。
黒い甲冑の上からではさほどダメージは期待出来ないだろうが、その体勢を崩すには十分。
立て続けにアストルフォが横薙ぎに剣を振るい、セイバーの目元を覆う仮面に細身の刀身を叩き付けた。
「っ!?」
仮面越しとはいえ、顔面に刃を受けたセイバーは短めながらも初めて悲鳴をあげる。
忌々し気に口元を歪め、足に力を入れて体勢を整えるが、更にアストルフォは攻撃を繋げてきた。
「
何時の間にか持ち替えていた宝具たる槍。その効力からして、とりあえず当てさえすれば良いという敵対者からみれば厄介極まりないであろう獲物の刺突。
セイバーも、アストルフォが自らの真名をバラすという一瞬我が耳を疑ってしまった行為が無ければ、槍を手甲や鎧で受け止める事もしただろう。
だが、この槍の前では体に当たる、鎧で受け止めるという行為自体が命取りだとセイバーは知っていた。というより、真名をバラしてくれたお陰で察する事が出来た。
つまりは避けるか、剣で捌くの二択を強いられる。
「チッ!」
舌打ちと共に、セイバーは剣で捌く事を選択。
剣で刺突の軌道を逸らし、そのままアストルフォの体を切り裂かんと一期に踏み込む。
セイバーから見て、脅威度が高い方を手早く片付けようという判断自体は正しいだろう。
「へっへーん!」
アストルフォのしてやったりという笑みに、己の直感が悪寒を告げる。
槍を手放すと共に、その体を覆うように腰に下げていた魔笛が巨大化して、槍の上を滑ってきたセイバーの剣を受け止める。
宝具が一つだけとは限らない。そんな知識が、何故か脳裏に響いた。
「
至近距離から放たれるのは爆発のような音波。
元々はスケルトンのような低級使い魔を一掃する為の物故、サーヴァント相手にはさほど効果は望めない。
しかし、それでもこの笛は宝具であり、至近距離から放たれる爆音を浴びたセイバーの聴覚を短時間潰すには十分である。
「ぐぅ!?」
思わず仰け反り、アストルフォから飛び退いて、音波を受けて若干の混乱に陥った頭を抱える。
この隙が戦いにおいて致命的な間になると、言われずともにセイバーは理解しており。
「っ! たぁあああああっ!」
当然のように、マシュにもこの隙を見逃す手はないと理解出来ていた。
盾を水平に構え、殴りつけるようにセイバーの顔面に叩き込む。その懐へ飛び込んだ勢いと、全体重を乗せた一撃が黒騎士の体を宙へ吹き飛ばした。
背中から落下し、地面を滑るように転がっていくセイバー。マシュは盾を降ろし、緊張の糸が切れたかのように息を吐く。
「はぁ……」
「マシュ! 今の一撃、ナイスだったよ!」
「えっ……あ、ありがとうございます」
横合いから抱き着いてくるアストルフォに、呆気にとられながらも笑みで返す。
「アストルフォさんがいなかったら、一方的にやられていただけでした。ありがとうございます」
「いやいや。ボクも、マシュがいなかったらとっくにやられてただろうしね。お互い様だよ」
実際、一対一ではここまでやれなかっただろうと思う。
それだけ、セイバーとの実力差は開いているのだ。
「マシュ! アストルフォ! 二人とも凄い!」
思わず、楓も二人へ労いの言葉を掛ける。
最初は圧されていたが、連携でセイバーを追いつめて顔面に一撃叩き込んだ。楓から見て、十分すぎる程の結果だった。
アストルフォが宝具を連発したせいで魔力を持っていかれたのか、全身に疲労感があるがそれも気にならない。
このまま行けば倒せるんじゃないか。そんな淡い期待すら抱いてしまう程の光景を、見せてもらえたのだから。
「油断しないで! セイバーのサーヴァントがその程度で倒せる筈がないわ!」
オルガマリーの声で緩んでいた緊張の糸が一気に張り詰める。
最優と言われるセイバーのクラスたる英霊が、この程度で終わるはずがない。あまりにも順調に行き過ぎたせいもあって、気を緩めてしまった。
視線を向けると、そこにはゆっくりと体を起こす黒衣の騎士の姿があった。
「……正直、お前達を見くびりすぎていたな。この一撃は、己への戒めとしておこう」
マシュの一撃で亀裂が走り、使い物にならなくなった仮面を外して投げ捨てる。
その下に隠されていた金色の、明確な敵意を込めた瞳が楓達を捉えた。
「暫くここに詰めていたから……いや、それは言い訳か。おかげで目が覚めた思いだ」
額から流れ出た血を指で拭い、傷口を魔力をもちいた自己修復で塞ぐ。
その口には、思わぬ敵の登場に対して興奮を隠しきれないといったような、獰猛な笑みが浮かんでいた。
漆黒の剣を腰だめに構え、敵を射殺さんばかりの鋭い視線を向ける。
「返礼だ。受け取れ」
直後、今まで感じたことのない悪寒がそこにいた全員を貫いた。
セイバーの全身から溢れ出した魔力が剣へと収束。その膨大な力に、大気が、洞窟全体が震えているようだ。
「宝具……っ!? あなた達! 早く逃げなさい!」
オルガマリーの言う通り、一刻も早く逃げなければならない。だが、マシュとアストルフォにはそれが不可能だと即座に理解出来た。
あれから逃げるには、この洞窟では狭すぎる。それに、下手に避けようとすると狙いを楓とオルガマリーに向けられかねないのだから。
いや、この洞窟の中にいる限りはあの二人にも間違いなく被害が行く。
「卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め……っ!」
大気の震えが、洞窟全体の振動が激しくなる。
あと数秒もし無いうちに、セイバーの宝具たる漆黒の剣。その真の力が解き放たれる。
「アストルフォさん! マスター達をお願いします!」
頭で考えるよりも早く、マシュが盾を正面に構え、地面に突き立てる。
自分の後方にいる楓とオルガマリーを庇うようにセイバーの前に立ち、アストルフォも反射的に二人の元へ駆け寄り、力任せに地面へと押し倒す。
オルガマリーの抗議の声。マシュの名を叫ぶ楓の悲鳴のような声。そのどちらも遮るように、黒騎士の口が己の剣の真の名を紡いだ。
「
とても静かな、呟くようなセイバーの声が、不気味なぐらいに響き渡った。
全身を駆け抜ける痛みに悶えながら、楓は体を起こす。
アストルフォに押し倒された以外にも、何かとてつもない力に全身を殴りつけられたような感覚に襲われた気がする。
気絶でもしていたのだろうか。ぼんやりとする頭を押さえて、ゆっくりと記憶を思い返していく。
「っ……そうだ、マシュ!? アストルフォ!?」
セイバーの宝具。それから自分達を守る為に盾を構えたマシュと、地面に押し倒したアストルフォの姿が脳裏に浮かぶ。
微かに聞こえる小さな呻き声に視線を向けると、うつ伏せに倒れたアストルフォがそこにいた。
「アストルフォ! 大丈夫!?」
「うっ……な、なんとか……」
「ちょっと……退いてくれないかしら……? いたた……っ!?」
白いマントは埃に塗れ、所々が破けて肌に擦り傷も見られるがアストルフォは無事のようだ。
その下、押し倒されていたオルガマリーも全身を痛めたようだが、その程度で済んでいる。
「っていうか何よ……エクスカリバー? って事はあのセイバーって……」
セイバーが紡いだ宝具の名を聞いて、オルガマリーはその正体に行きついたようだ。
とても青白い顔をしてブツブツと何かを呟いている。どうやら、セイバーの正体はかなり凄い英霊らしい。
楓にしてみれば、エクスカリバーはゲーム等でチラホラ見かける武器の名前といった印象なのだが。
ともかくオルガマリーが無事な事に胸を撫で下ろし、楓はすぐにマシュの姿を探し求める。
「マシュ……マシュ!?」
立ち上がり、彼女がいた方向へと駆けていく。
土煙で視界が悪く、数メートル先もろくに見えない事も気にせず、マシュの姿を探す。
何度名前を呼んでも反応がない事。最後に見た、セイバーの宝具から自分達を守る為に立ちはだかった姿に不安を覚え、それを振り払うように。
「マシュ! 返事して!」
脳裏に浮かぶ最悪の予感から目を逸らすように、泣き叫ぶような声で名を呼び続ける。
やがて、煙の中に見覚えのある小柄な少女のシルエットを見つけて、楓の顔に浮かぶのは笑顔。
数歩近づけば、探し求めていた少女の姿だとようやくはっきりと確認できた。
「マシュ!」
「せ……んぱい……」
こちらを振り向き、弱弱しい笑みを浮かべると同時に崩れ落ちるマシュの姿に、楓から笑顔が消えた。
「マシュ……? マシュッ!?」
悲鳴をあげ、マシュの体を抱き起こす。
真正面からセイバーの宝具を受け止めたダメージは、彼女の華奢な体を容赦なく痛めつけていた。
その身を守る鎧の一部は砕け、その下に隠れていた白い肌に刻まれた大小様々な傷が、彼女の受けたダメージを物語っていた。
礼装に刻まれた応急処置の魔術を発動させるが、それもマシュの浮かべる苦しげな表情を和らげるには至らない。
「先輩……お怪我、は……?」
「私の事は良いから! 所長に治療してもらわないと……っ!」
楓を襲うのは恐怖と無力感。
吹けば消えそうな程に弱り切ったマシュ。ろくな治癒魔術も使えない自分の無力さが、心の底から忌々しい。
こんな何もできない自分を先輩と、マスターと呼んでくれる少女への申し訳ない。
「いえ……まだ、です。まだ……っ!」
自分を抱えて行こうとする楓を制し、盾を支えにして無理矢理立ち上がる。
ほんの少し動いただけでも全身を駆け抜けていく激痛に耐え、未だ戦意の消えぬ目で正面を睨みつける。
「マスター……下がっていてください……っ! セイバーが、またすぐに……」
「ま、待って! そんな体で!」
楓の言葉がマシュに届くよりも早く、煙を吹き飛ばすほどの疾走と共にセイバーの一撃が振り下ろされる。
盾で受け止めるが、その衝撃は今のマシュで耐えきれるような生易しい物では無い。
「あぐっ……ぁっ! あああっ!」
両腕がへし折れたのではないかとすら思える程の激痛。自分の体重を支える事すら難しい両足は、今にも潰れてしまいそうだ。
本来なら今の一撃で倒れても可笑しくはないが、気力のみでマシュはそれを耐えていた。
「ぐっ……ぅ」
「ほぅ、私の宝具に耐えるとは……やはり、面白いサーヴァントだ」
それだけに惜しいなと、どこか哀れみすら感じられる瞳でセイバーはマシュを見つめる。
一秒ごとに全身を襲う苦痛に歪む表情。今にも挫けそうな意思を必死に奮い立たせていると一目でわかる表情。
自身のすぐ後ろにいるマスターの少女を、何が何でも守ろうとする意志がそこにあった。
「だが、それだけだ。キサマの意思に、その盾は応えんようだ」
「ぁぅ……っ」
盾を押し込む剣に、力を籠める。
ほんの少し力を入れて押し込むだけで、小さく悲鳴をあげてマシュの足は震える。
「くぁ……ぁぁっ!」
手足から秒単位で力が抜けていく。全身を絶え間なく襲う感じた事もない激痛に意識が途切れそうになりながらも、マシュは盾を離さない。
諦めれば苦しみからも、痛みからも解放される。この耐えがたい地獄も終わるのだと誘惑に誘われるが、それを振り払って正面のセイバーを睨みつける。
マシュの頭に浮かぶのは、自分の不甲斐無さ故に怪我を負わさせてしまった楓の姿。
(私が……やら、なきゃ……今度、こそ……)
薄れていく意識を必死に繋ぎ止める。
ここで自分が押し切られれば、すぐ後ろにいる楓にセイバーの刃が向けられるのだから。
自分が耐えれば耐えるだけ、時間は稼げる。アストルフォが回復して、セイバーを打倒してくれるかもしれない。
楓達が一度撤退し、新たにサーヴァントを召喚するという事も可能だろう。自分なんかよりも遥かに役に立つ英霊を引き当て、セイバーを次こそ倒してくれる。
その為なら、楓を生かす為ならどのような苦痛にも耐えてみせよう。
(せん、ぱ……い……)
今度こそ、ちゃんと守りきれただろうか。
あの時、自分の傍に最後までいてくれた事への感謝の気持ちと、最後にもう一度だけ、手を握って欲しかった。
闇の中へと沈んでいく意識の中、恐らく人生最後となる思考でそんな事を思う。
「終わりだ」
無情なセイバーの一言と共に、更に剣が押し込まれる。
限界をとっくに超えていたマシュがそれに屈するのは必然。されるがままに押し倒され、セイバーに斬り裂かれるまでもなくそのまま力尽きるだけ。
だが、そんな事は無いとばかりにマシュの背中に、盾を支える両手に触れる感触があった。
「ぁ……?」
崩壊したカルデアの管制室で、瀕死の自分の手を取ってくれた時と同じ感触。
楓が倒れそうな自分の体を支え、手を握ってくれているのだと理解するのに、一秒と掛からなかった。
「先輩……な、んで……?」
問われても解らない。ただ、目の前で苦しんでいるマシュの為に何か出来る事は無いかと思って、無我夢中でやっているだけだ。
キャスターからは見ているだけしかできないなら見ていてやれと言われたが、マシュが一人で苦しんでいるのを見ているだけなど、出来るわけがない。
具体的に何ができるか、礼装での支援以外でも何かと考えているうちに、咄嗟に体が動いた。
「今更、キサマ程度の魔術師が来て何になる」
セイバーの言う通り、楓が出てきたところで何か出来るわけでも無い。
むしろ、纏めて潰すだけだと言わんばかりに剣が押し込まれる。
「っぁ!」
マシュを支える腕に、身体全体に激痛が走る。
これがサーヴァントの攻撃の重さ。これほどの激痛に、マシュは耐えていたのかと楓は思い知って……余計に引けなくなった。
全身に力を込めて、マシュの体を支える。
「マシュ……私に出来る事なんて、こんなのがせいぜいだし、逆に迷惑かけてるかもだけど」
自分とマシュの体を密着させ、今も倒れまいとする後輩を文字通りの意味で支える。
そうして、ようやく自覚した。自分が彼女に対して出来る事。マスターとして彼女を支援する以外にしてあげられる事を。
とっくにやっていた筈なのに、状況に怯え、戸惑っていたせいで気がつけなかった事に。
「マシュの事、絶対に一人にはさせないから」
管制室で、瀕死の彼女に寄り添うと決めた時と同じ事だ。
マシュの隣にいる。例えマスターとして、魔術師として役に立たなくても、それで彼女の支えになれるなら。
単なる自己満足かもしれない。我が侭を言っていると自覚もある。
それでもマシュが受け入れてくれるなら、どんなに危険な状況でも彼女の傍で、隣で共に立っていたい。
「私は、何があってもマシュの隣にいるから。マシュも……私の傍にいてくれる?」
「先輩……っ!」
すぐ隣で、そう言って微笑んでくれる彼女の存在に心が熱くなる。
楓の手が、盾を支えるマシュの手に添えられる。誰が何と言おうと、隣に居続けるという決意の顕れ。
付き合いの長さなど関係なく、私は貴女を受け入れると言ってくれたような気がした。
それだけで、マシュを苦しめていたあらゆる要素が消し飛んでいく。
「私も……絶対に、先輩の傍を離れません! だから!」
何があっても、貴女を最後まで守り抜きます。
その心に応えるかの如く、マシュの持つ盾が青白い光を放ち始めた。
「なっ! まさか……っ!?」」
セイバーが初めて目に見える形で動揺する。
マシュの持つ盾に興味を示していたようだったから、その事を関係があるのだろうかと思うが今はそんな事はどうでも良い。
どういう理屈かは解らないが、この盾が宝具としての力をついに発揮しようとしているのだから。
「……ならば」
剣を頭上に掲げ、刀身にセイバーの膨大な魔力が集中する。
二発目の宝具。マシュと楓を諸共に消し飛ばさんとする確固たる意志を持って放たれんとする漆黒の聖剣。
「その力、本物かどうか確かめてやろう!
地面が砕け、全てを飲み込んで滅ぼす為だけの暴力が解き放たれる。
マシュと楓が構える盾に直撃するまで一秒と無い。眼前に迫りくる圧倒的な死への誘いに対し、二人の表情に恐怖の色はない。
ずっと隣にいると決めた相手と共に立っているのだ。恐怖を全く感じないと言えば嘘だが、それ以上に互いへの感情が上回っている。
マシュが隣にいてくれるのなら、どんな恐怖でも耐えてみせる。
楓が隣にいてくれるのなら、どんな敵にも立ち向かえる。
「私が絶対に……貴女を守ります! 先輩!」
その言葉と共に、盾に秘められた力が解放された。
青白い魔力を帯びた光が巨大な壁。まさに城壁とも呼べるそれを造り出し、二人を飲み込まんとするセイバーの一撃を完全に受け止めているのだ。
魔力の城壁を、盾から展開される護りに亀裂の一つも走らせる事も出来ずに止められ、弾かれる漆黒の聖剣。
「っ! うぅぁあああああああああっ!」
マシュの叫びに、絶対に楓を守り抜くという意思に応えるように魔力の城壁はその輝きを増していく。
その輝きが闇に染まった剣撃を上回り、反射させる。
「なぁーーーーーッ!?」
勝利を呼ぶはずの剣撃が、その持ち主を完全に飲み込んでいった。
エクスカリバーは知っていてもアーサー王は知らない人って結構いると思うんです
楓はそういう人という事です