♚IS学園の大魔王   作:くぼさちや

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「プロローグ」

                   

 

 その世界で少女は死ななければならなかった。

 “自同律”という社会を狂わす可能性を生まれ持ったからだ。

 彼女一人の犠牲によって世界の全てが救われる。それが人々、ひいては社会の秩序のを守るために最も効率的で確実な道。

 故に多の為に少を切り捨てる。それが神の下した正義だった。

 しかしある少年はこう考えた。

 そんな正義はただの幻に過ぎない。

 それを善しする理屈は、人々にとって都合がいいだけの物語に過ぎない。

 1000のために900を犠牲にし、500のために400を犠牲にする。そして300のために100を犠牲にする。

 しかし犠牲を連綿に繰り返えせば、いずれ救われた命より犠牲にした命の数が上回るようになってしまう。

 ならば選択肢は二つだと思った。

 全てを救うか、全てを失うか。

 誰も犠牲にする必要のない世界を創る。神にそれができないというなら自分がそれを担う。

 たとえ神を滅ぼしてでも。

 そう思った瞬間から、彼は魔王となったのだろう。

 

 

 

 

 

     

「おおおおおおっ!!」

 

 スハラ神神木の疑似異空間内部。

 二枚の鏡を向かい合わせにしたかのように延々と社が続く空間の中に紗伊阿九斗(さいあくと)はいた。

 四方八方から迫る夥しい数のリラダンを相手にマナの制御すらままならないまま、ひたすらに閃光を放ち続ける。

 

「スハラ神の機能の引き継ぎまで、あとどれだけかかる?」

 

「もうすぐだ! 主よ、持ちこたえられるか?」

 

 魔王として覚醒しても肉体は人、限界は近いかった。

 

「命懸けで持ちこたえるさ。ここまで来て、今さら自分の身を心配するなんて方が馬鹿げてるよ」

 

 ピーターハウゼンから伸びたいくつものケーブルが神木から機能を奪い取り、阿久斗はそれを守る形でリラダンと対面している。

 

(ケーブルを一本でも切断されたら全てが終わりだ。一体たりとも近づけさせない!)

 

 魔王としての覚醒を果たし、溢れ出る力をただぶつけるだけの戦い。

 火力で焼き払い、それ掻い潜って阿九斗に肉薄しようものなら、突き出される薙刀の切先に拳を叩きつけ、刃を砕きながら殴りつける。

 

(くそっ! 数に対抗しきれない。力はあっても、僕にそれを扱いきれるだけの技量がないからか────)

 

 力の奔流を止めることができないまま、阿九斗は向かってくる巫女たちを次々に一掃した。

 その後ろで、ピーターハウゼンの声が怒号のように響く。

 

「スハラ神の機能は奪い取った! このまま随時、人々を管理より解放する! これで心置きなくこいつらを吹き飛ばせるぞ!」

 

 そう叫ぶが、阿九斗の返事はなかった。

 すでにその身体からはすさまじい熱を放っている。

 学院上空での戦闘に始まり、リラダンの侵攻からピーターハウゼンを守るだけでも精も根もつきかけ、放ち続けたマナによって左右の手のひらは黒く焼け焦げていた。

 

「急げ主よ! なんとかして力を解放するんだ! 爆発させろ! そうすれば神木をこの疑似異空間ごと吹き飛ばすことができる!」

 

 阿九斗は力を振り絞り、軋む身体に鞭を打って拳を握りしめる。

 

(迷うなよ、決めたはずだ。僕は神を殺すと!)

 

 両手にマナの青白い光が灯り、徐々に密度が上がっていく。やがてそれが最大まで練り上げられると、握り拳の側面を合わせて空間の壁に放った。

 

「ルゥアアァアアァアアアアッ!!」

 

 人とは思えないような狂声。全身から溢れるマナと皮膚が焼け落ちそうなほどの熱。持てる全てのエネルギーを阿九斗は爆散させた。

 

──────ドゴォォォォォォォォッ!!

 

 轟音に大気が揺れ、熱風が空間に広がり、虚空を穿った。しかし、阿九斗が放ったエネルギーは空間に大穴を空けても、吹き飛ばすまでには至らなかった。

 マナとは感情によってコントロールされる。

 神を殺し、人々の都合の良いままに作られた物語を終わらせる。しかし、その後構築される新たな世界に、阿九斗は最後まで不安を拭い切れなかった。

 気持ちは固めたはずだった。それでも本当にこれで正しいのか、そんな思いがふとよぎる。

 その些細な感情のぶれがマナの爆散を僅かに押し止めてしまったのだ。

 

「やはり難しいのか......」

 

 ピーターハウゼンは渋面を浮かべた。先代魔王とともにいくつもの戦場をくぐり抜けたピーターハウゼンの目から見ても、阿九斗の身体は限界を超えていたのだ。

 そして異空間に開いた大穴は、まるで穴の空いた風船のように大気ごと阿九斗達をその外へと吸い寄せていく。

 

「スハラ神の空間が綻び、他世界との境目に穴が空いたか! 主よ! あれに吸い込まれれば世界の外側に放り出されるぞ!」

 

「.........」

 

 やはり、阿九斗からの返事はなかった。力を使い果たし、朦朧とする意識すら今まさに手放そうとしている。

 

(僕はいつもそうだ......口では大層なことを言っても、いざとなったら立ち止まって考えてしまう......)

 

 阿九斗はただ流れるように大穴へと吸い込まれていく。

 

「いかん! このままでは!」

 

 焦りを含んだピーターハウゼンの声も阿九斗には届いていない。

 神を殺し、世の変革を目指した魔王はこの日、その世界から姿を消した。     

 




はじめまして
「こんな今さらw」というご感想も承知の上での初投稿です。
かなりのまったり投稿になると思いますが、お付きあいのほどよろしくお願いします。
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