♚IS学園の大魔王   作:くぼさちや

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09話 「楯無の腕試し」

「行きますよ」

 

 阿九斗は金剛力で両腕にエネルギーを集中させて接近する。

 放たれるガトリング砲をかいくぐり拳を振るうと、難なくよけられ再び距離が開いた。

 

「くっ!」

 

 拳を開き、牽制に魔砲を放つがそれも水のシールドに遮られる。

 

「ほら、もたもたしてるとっ!」

 

 楯無はそこから瞬時に加速して距離を詰める。

 突き出された蒼流旋を魔法陣を展開して防ぐがその出力に押されながら、ガトリング砲の追撃をくらった。

 

(────ぐっ、それなら!)

 

 阿九斗は出せるだけのエネルギーをすべて両腕に込めて楯無の蒼流旋を掴む。

 纏った螺旋状の流水がドリルのように手の装甲を削った。

 

「やるじゃない。でも、そこからどうするのかしら」

 

 楯無は一気にスラスターを噴かせて阿九斗を客席のシールドに押し込んだ。

 

「がはっ!」

 

 一瞬、呼吸が止まり、遅れて全身に鈍い痛みが襲ってくる。さらに胸元を突かれたことで絶対防御が発動し大幅にエネルギーが削られた。

 ISの運用において、姿勢維持やブースターの出力は機体のスペックはもとより操縦者の技術にも依存する。ISに乗って間もない阿九斗はそうした点において大きく劣っていた。

 

「こーゆー力比べじゃお姉さんには勝てないぞ♪」

 

「...ええ、確かに勝てそうにありません。ですが一矢報いてみせました」

 

 阿九斗の手から金属片がこぼれ落ちる。見てみると4門すべてのガトリングの砲身が握り潰されたように破損していた。

 

(受け止めた時に...やるじゃない!)

 

 阿九斗は突かれた装甲にマナを集中させて破損を修復する。

 

(なるほど、マナによる修復は可能みたいだ。集中すれば速度も上がるし、わずかだがシールドエネルギーも回復してる)

 

 距離を取る楯無に阿九斗は不敵に笑って見せた。

 

「これであなたに近接戦以外の攻撃手段はなくなりました。ここからが勝負です」

 

 阿九斗は左右に動いて撹乱しながら接近する。それに受けて立った楯無は蒼流旋を横薙ぎに払った。

 武装を一つ破壊したところで阿九斗の不利に変わりはない。拳で戦う阿九斗に対して楯無はランス。リーチの差は依然開いたままだ。

 楯無の攻撃をかわしながら手数で応戦する。

 しかし、かわされることこそ少なくなったがそれ以外の攻撃はすべて蒼流旋に弾かれ、いまだ阿九斗は楯無に有効といえるダメージを与えられずにいた。

 

「あら、もう終わりかしら!」

 

 縦無は蒼流旋の矛先を阿九斗に向け、スラスターから放出したエネルギーを再び取り込む。

 

(─────あれが来る!)

 

 瞬時加速の勢いに乗せて放たれた一突きを阿九斗は紙一重でかわし、そこにカウンターを合わせる。

 拳が砕けんばかりの渾身の一撃が《ミステリアス・レイディ》の装甲を割った。

 

(ぐっ! 狙ってきた...? 間違いない、完全に見切ってる)

 

 距離を取ろうと下がる楯無に阿九斗は食らいつく。

 

(ようやく間合いに入った! ここで仕留められなければもう次はない!)

 

 距離があればランスのリーチに軍配が上がる。しかし間合いの内側に入ってしまえばその長さがかえって邪魔になり、拳の手数が勝る。

 蒼流旋で防ぐ楯無に阿九斗は額に汗をにじませながら猛攻を仕掛ける。

 

(反撃の隙を与えるな! ここで決めろっ!)

 

 楯無のガードを削り取るかのように、前方に向かって狙いもつけずに拳を打ち込む。

 

「はぁああああああああっ!」

 

 金剛力による猛攻を防ぐ一方で楯無は再度、瞬時に速度を上げて距離を離した。

 ガトリングの潰れた蒼流旋を構え直し、体勢を整える。

 

「...その急加速は、あなたのISの機能ですか?」

 

「いいえ、瞬時加速(イグニッションブースト)っていうの。IS運用における加速技術のひとつよ」

 

「つまり僕のISでも同じことができるわけだ」

 

「もちろん♪ でも残念ね、そろそろ終わりよ」

 

(活路があるとすればこれしかない。今見たので癖のようなものは掴んだ)

 

 阿九斗は楯無がそうしていたようにスラスターから放出したエネルギーを再び取り込む。

 

「......ねえ、阿九斗くん。なんだかここ暑くない?」

 

 楯無は構えていた蒼流旋をスロットに収納する。このタイミングで武器をしまうことにどういう意図があるのか阿九斗にはわからなかったが、使うなら今だ。

 一気にエネルギーを放出させ、瞬時加速で楯無に向かって突っ込んだ。

 

「気温じゃなくて、人間の体感温度が」

 

─────ドオオオオンッ!

 

 楯無が指を鳴らすと爆発音とともに阿九斗の周囲が熱風に包まれる。

 

「うおっ!」

 

 加速中に姿勢が崩れ、アリーナの地面を削りながら動きを停止した。

 

「今のは...水蒸気爆発か......!」

 

「あら、よくわかったわね」

 

 なにをかくそう阿九斗が《銀の福音》を仕留めたのがこの水蒸気爆発だ。

 いつの間にか楯無を覆っていた水のヴェールは消えていて、辺りには霧が立ち込めている。

 

「...そして霧は隙間から、装甲の中まで入り込む」

 

「っ!」

 

 阿九斗は最大出力で魔砲を地面に叩き込む。その爆風で霧を払い、さらに高度を上げた。

 

(油断した。まさかあの水にそんな使い方があったなんて)

 

 その上、爆発の規模の割には威力が高すぎる。どうやらただの水ではない。

 体内のマナを消費しながら装甲が修復されていくが、回復が間に合っておらず、恐らく次に同じ攻撃を受ければ確実にエネルギーが尽きる。

 

「お姉さん言わなかったっけ? そろそろ終わりだって♪」

 

「なにを...」

 

 この高さまでなら霧は届かない。幸い攻撃範囲はある程度限られているようだった。にも関わらず楯無は勝利を確信するかのような表情で阿九斗を見上げている。

 

「覚えてる? 私と勝負する前のこと」

 

 阿九斗は記憶を探る。

 アリーナについたら突然背後から楯無が現れ、この腕試しを仕掛けてきた。

 

(そのとき、水面に映った会長の分身が水に戻って─────)

 

「その水は......僕の身体に!」

 

「正解よ。阿九斗くん」

 

 己の失策を知ったときには時すでに遅し。

 

「《ミステリアス・レイディ》、霧纏いの淑女を意味するこの機体は水を自在に操ることができるの」

 

 阿九斗のISスーツから霧が立ち込める。楯無の指が鳴った。

 

清き情熱!(クリアパッション)

 

 勝敗の決した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

「は~い、今日の反省!」

 

「......ISを装着していないからと甘く見たことですか?」

 

 真っ逆さまに地面に落ちたせいで、阿九斗は全身泥だらけだ。

 爆発が霧によるものだと判断してとっさに高度を上げたはいいものの、まんまと楯無の手のひらの上で転がされる結果になってしまった。

 それまで散々速度が足りない、パワーが足りないと言っておきながらそれ以前の問題だったのだから遇の音も出ない。

 

「他にもあるわよ」

 

 扇子の先を阿九斗の目元に向ける。

 

「阿九斗くん、試合の途中にときどき敬語が抜けてたでしょ」

 

「...はい、すみませんでした」

 

 どうも阿九斗には真に迫ると敬語が抜け落ちる癖があった。故意にしていることではないものの謝るしかない。

 

「年長者を敬う気持ちを忘れないことね」

 

 戦う前から負けていた、今回の反省はその一点に尽いきる。しかし阿九斗は戦っているときに気づいたことがあった。

 

「一つ、気になったことがあります」

 

「あら、なにかしら?」

 

「織斑先生が会長にプログラムを任せたのは《ミステリアス・レイディ》のコンセプトが僕の戦い方と酷似しているからですか?」

 

 阿九斗がマナを拳に宿して戦うように楯無は水を武器に纏わせ、マナを用いた魔法陣で防御するように水を用いてシールドを張る。楯無の操る攻防自在の水はまさに阿九斗にとってのマナそのものだった。

 このプログラムの人選が千冬によるものなら、ただの偶然ということはないだろう。

 

「ええ、その通りよ」

 

 楯無はタブレットを操作して自らの機体データを表示させる。

 

「私の機体は、ほとんどのパーツにナノマシンで構成した水を使用しているの。攻撃や防御はもちろん、その用途は多種多様」

 

 解説をしつつ楯無は肩を寄せ、抱きしめるようにして阿九斗の腕を取った。

 

「冗談でもそういうことはやめませんか?」

 

「もう、照れちゃって♪」

 

 阿九斗は腕に当たる感触に顔を赤くしながら離れようとするが、楯無がそれを許さない。

 こうして特別強化プログラムの一日目が終了した。

 

 

 

 

 

 

 楯無がアリーナを後にすると、外で千冬が壁にもたれて待っていた。

 

「本気でなかったとはいえ、お前を相手に戦いらしい戦いができたのだから大したものか」

 

 楯無から受け取った模擬戦の映像をその場で確認する。

 実装した絶対防御や各リミッターは束の調整通りに機能している。これなら授業で使用しても問題ないだろう。

 

「潜在能力は特筆すべきものがあると思います。相手の動きへの適応力が高く、反応も申し分ありません。私の瞬時加速に対してカウンターを合わせ、さらにその瞬時加速を体得し、実践してきました」

 

 楯無は機体の破損箇所と阿九斗が握り潰した蒼流旋のデータを追加で送る。

 射撃戦闘や移動技術などは素人同然でも、これだけの機転、判断力、そして相手の攻撃にも臆することなく向かっていける度胸を楯無は高く評価していた。

 

「たしかに、奴は相当高いポテンシャルを秘めているようだ」

 

 とはいえ、これまで阿九斗が経験したIS戦闘は2回、アリーナでの一件を入れても起動経験は3回しかない。いかに才能があろうとも初心者には違いないのだ。

 

「ふん、油断したな。お前とて偉そうなことを言えた義理ではない」

 

 楯無は苦笑して返す。

 正直、ここまでの損壊は予想外だった。

 蒼流旋を破壊した時点でそれなりに阿九斗の実力を測り直したつもりだったが、たったの数回見ただけで瞬時加速を見切り、カウンターで装甲を砕いてみせた。

 

(《ミステリアス・レイディ》は仕様上、装甲の金属部分が極端に少ない。にも関わらず阿九斗くんはその装甲に当ててきた。相手の動きを正確に見切って狙わない限り無理だわ)

 

 仮に見切っていたとしても、そう簡単にできる芸当ではない。戦い慣れた様子こそ感じられなかったが、ビギナーズラックでは片付かないほどの結果を阿九斗は出して見せた。

 

(甘く見ていたのは私のほうだったかなぁ...)

 

 絶対防御があるとはいえ、楯無を相手に阿九斗は装甲のない場所への攻撃をためらったのだ。

 指導する相手にいたわれてしまっては指導者としての立場がない。

 

「これも魔王になるべくして生まれてきた者の力なのか。さて、担当の礼というわけではないが、お前にひとついいものを見せてやろう」

 

 端末の上で千冬の指がスライドする。 

 楯無に送られてきたそこには、通常ではありえないほどの数値がたたき出されていた。

 

「これは...! 紗伊阿九斗くんのISの適正値ですか?」

 

「数値的に、もはや適正とは言えんがな。こうなると同化していると言っていい。そしてやつの戦闘方法上、それだけには一切の制限を設けていない」

 

「...ISのエネルギーをコントロールして戦うスタイル、ですか?」

 

 楯無はナノマシンを媒介にISのエネルギーを伝達した水を操っている。それと同様に阿九斗もなんらかの装置でエネルギーを制御可能なものに変換しているのではないかと楯無は考えていた。

 

「そうだ。やつはこの同化に等しい適正率を活かした、発展型の強力なイメージインターフェースを利用してエネルギーを直接操作している」

 

「そんな単純な方法で......」

 

 イメージインターフェイスとは、ISを搭乗者のイメージで操作するためのシステムだ。本来は加速、旋回や武器の呼び出しに用いられる場合がほとんどで、楯無の《ミステリアス・レイディ》ようにナノマシンによってパーツの大半までコントロールできる機体は希だ。

 しかしパーツですらないエネルギーを意識だけで直接コントロールするなど聞いたことがない。

 

「......規格外ですね」

 

「ああ、まったく大した化物だ」

 

 その言葉に楯無の顔が引きつる。

 千冬の口から『化物』という単語が出るとは思いもしなかった。しかしそれだけのものを阿九斗は持っている。

 楯無は再度、渡されたデータに視線を落とす。

 

(〝Sランクオーバー〟過去にほとんど例がないほどの高いIS適正値。もしこれが事実なら─────)

 

 




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ではまた次回~
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